World End

nao

文字の大きさ
4 / 273
第1章:物語の始まり

日常2

しおりを挟む
 3人が家路に着いてしばらく歩いたところで、突然角から飛び出してきた男がジンにぶつかってきた。尻餅をついた彼が顔を上げると、そこには軍服を着て帯剣している大柄で無骨な男がいた。二メートル近い身長に、戦傷を隠すためか右目に黒い眼帯をつけている。

「何すんだよ!」

 ジンが声を荒げる。

「すまんな坊主。少々急ぎの用があったんでな。坊主たちはこの辺りに全身黒ずくめの男を見かけなかったか?身長は大体160センチ程で、白髪で細身の男なのだが」

 ジンの黒髪、黒目を見て眉を少し顰めたがすぐに表情を元に戻して、手を差し伸べて尋ねてきたので、ジンはその手を払いのけて、訝しげに睨みつける。

「見てないよ。それに騎士がこんな場所に何の用だよ」

「いや、見てないなら構わん。それより坊主たちはこの辺りの住人か?」

「ああ」

「先日から街で人喰い事件が発生しているんだ。すでに何人もの人間が死んでいる。それで魔人による事件である可能性が示唆されていてな」

「それが黒ずくめの男なの?」

「さあな。ただそれを受けて先日ナディア様から神託がなされた。それによるとそのうちこの辺りでひどいことが起きるらしい。いまの内に逃げた方がいいぞ。それじゃあ俺はその男を探さないといかんのでここで失礼する」

 スラムの外の人間はたとえジンたちのように子供であっても、ゴミを見るような目を向けてくる。それなのにジンたちにも妙に礼儀正しい男は、軽く頭をさげるとさっさと行ってしまった。それを見ていたザックが不思議そうな顔を浮かべた。

「なんなんだあいつ?スラムの奥から出てきたよな。誰かに会いにきたのか?あとナディアって誰だっけ?」

 彼が何者であるかはジンにもレイにもよくわからなかった。少なくとも彼が腰に据えていた剣が王国騎士のそれであったことから、ただの一兵卒ではないことだけはわかった。

「いや知らないよ。それにナディア様っていや、キールにいる5人の使徒のうちの1人じゃん。なんで知らないんだよ」

 レイはザックの質問が当たり前すぎて呆れた。 

 この世界には現在確認されているだけで、20人の使徒がいるとされている。彼らは等しく強大な能力を持ち、国の最高戦力とされていた。中でもこの国の王国騎士団、近衛師団、法術師団を預かる3人の団長は、何れも使徒であった。

「つーか、相変わらずお前の髪と目って外の奴らには嫌われてんだな」

 ザックが気楽に言う。外の人間はどうやら彼の容姿を不快に思うらしい。初めはなぜかはわからなかったがその傾向は表通りの人間や、貧しさから家を追われスラムに新しく住み着くことになった者たちによく見られるものだった。

 ひどい時には「この悪魔め」と言いながら、石を投げつけてくる者もいるほどだ。以前、その中の一人の子供にジンが問い詰めたところ、どうやら悪神オルフェの容姿が黒髪黒目であるらしく、フィリア教徒にとって、その特徴を持つ人間は悪神に使えるものという認識があったのだ。そんなことを思い出してジンは少し不快な気分になったが、気を取り直して再び歩き出した。3人が家の前に着くとドアの前には鬼のような形相のナギが待ち構えていたのはいうまでもない。

「いってらっしゃ~い」

 にこやかに言うザックの笑顔を尻目に、うなだれたジンはトボトボと姉の前に歩を進めた。

 夕食時、ジンはテーブルの前で目を赤くして真っ赤に腫れたお尻をさすっていた。ナギからのきついお仕置きを受けた後、ミシェルに土下座して謝らされたのだが先ほどの件のせいで未だに気まずい。ジンが彼女の方にチラチラと目を向けると、偶然視線があった。しかしすぐに彼女が視線をそらして知らんぷりしてきたので、ジンはがっくりと項垂れてしまった。

 彼にとってそれはナギのお仕置きの次に辛いことである。ここで姉に怒られことの方が辛いと思うあたり、ザックがジンのことを『シスコン』と称するのは的を射ていると言える。そしてそんな彼をザックがからかいながら、食卓に並べられた豪華なうさぎの入ったスープを4人は味わっていった。ジンには罰としてあまり肉が入っていなかった。

 次の日、ジンたち3人はいつものように空き地で朝から修行をしていた。ジンの武器は二本の短剣を模した木剣であった。一方で相対しているザックの武器は彼のその体程もある大剣型の木剣である。二人はしばらく見合った後、互いに一気に距離を詰めた。それは彼らぐらいの子供の出せるスピードの限界を超えている。身体強化の術を使っていたからだ。身体強化は体内にある闘気と呼ばれるエネルギーを体に循環させることで可能になる技である。コツさえつかめば誰でもできる、自然の力を用いる法術とは違う技術である。

「おらっ!」

 交錯する中で武器が軽い分素早く動くことができるジンは双剣を巧みに扱い、ザックを攻め立てていった。

「ふん!」

 それに対しザックは大剣を駆使して、左右からくる双剣を剣の腹で強く弾く。却って逆襲とばかりに剣を弾かれバランスを崩し、右に重心が流れたジンへ上段からの斬りかかる。

「だらっ!」

 上から来た大剣を、双剣を交差させることでガードする。ザックの攻撃は非常に重く、徐々に膝が地面に近づいていく。このままでは身動きが取れなくなると考えたジンは、腕に回していた強化のためのエネルギーを少し減らし、一瞬でそれを足に流して、全力で地面を蹴った。

「おわっ!?」

 その勢いに押され、ザックの上半身が浮く。その隙を狙ってジンが相手に詰め寄り、胴に剣を叩き込もうとする。しかしザックはそれを読んでおり、バランスを崩した状態で、どうにか足を蹴り上げてジンの攻撃を防ごうとする。しかし胴への攻撃はフェイントであった。

 上半身を前のめりにすることで詰め寄る振りをして、その足が当たる前に右に飛び避ける。そしてすかさず右側から相手の体に双剣を向かわせる。ザックは完全に体勢が崩れておりその攻撃を防げない。しかし当たるか当たらないかという直前で、

「『土壁』!」

 という叫びとともにジンは大きくその剣を弾かれた。今度こそ本当にバランスを崩し尻餅をついたジンは恨めしげにザックを見上げる。彼の前には土を操り作られた壁があった。

「おいっ、法術は使わないっていう約束だろ!」

「悪い悪い。つい使っちまった。まあいいじゃねえか、レイだってやってるし」

「よくねえよ!俺は身体強化だけしか使えないのに、身体強化だけていうルール無視されたら勝てねえよ。今は剣術の修行なんだから法剣術の練習は後でレイとしてくれよ。それにレイは身体強化が苦手だからその代わりに法術使ってるんだよ。しかもレイは法術のコントロールがうまいからいいけど、お前法術のコントロール苦手だから危ないんだよ。前にお前のせいで腕折れたんだぞ!」

 ジンは法術のどの属性にも適性がないらしく、法術を全く使えない。彼のような存在は『加護無し』と蔑まれる対象であった。これももしかしたら他者から不気味に思われる理由の一つかもしれない。フィリアの加護を与えられた人間は、どれかの属性に必ず適性があるのだ。

 しかし彼はどれも使えない。ナギの弟でなければ、オルフェの使いとして早々に殺されていたかもしれない。その代わり彼はそれを補うほどに、闘気の扱いに長けていた。法術が使えないからこそその訓練を人一倍しており、現在では術が使えない不利をカバーしていた。特に自分の体の一部に気を集中させるという芸当をできる者はなかなかいないのだが、そのことをジンたちは知らなかった。

 ジンはひとしきり文句を言った後で、ぶつくさ言っているザックを放置して今度はレイと対決することにした。レイはレイピア型の木剣を持って構えている。彼は身体強化が苦手であるが法術を織り交ぜつつ、とにかく正確で緻密な攻撃を加えてくる。その法術は正直に言ってザックと比べると格が違う。

 ザックは重く、速い攻撃をしてくるが、隙がかなりある。しかしレイは法術で水を空気中から作り出し、遠距離から攻撃してくる上に、剣においてはカウンター型である。剣を交える時は基本的に隙を狙うか、時間を稼ぎ法術を放つ準備をしてくる。そのため一瞬の隙を見せると、剣か水弾が飛んでくるのだ。ジンはいつも通り、的を定められないように高速で動き回りながら、接近戦を挑むことにした。

「『水弾』!」

 レイが水球を飛ばしてくる。それはジンの頭の上を通ろうとしている。これはフェイクだと彼は瞬時に判断する。以前にも同じような攻撃があり、その時も的外れだと思ったら水球が突然形を崩してジンの頭に降りかかり眼を潰されたことがあったのだ。そこで彼は足に力を入れて右側に横飛びする。しかし着地しかけた瞬間にジンの顔に水弾が飛んできた。レイが彼の動きを読んで先手を打っていたのだ。

 避けられないと感じたジンは左手の剣一本で顔をかばいながら、右手の剣をレイに向かって投げつけた。ジンは体を後方に吹き飛ばされる。一方で水弾を飛ばした直後でそちらに意識が向いていたレイは、慌ててしゃがんでそれをなんとか避けようとした。そのせいで一瞬視線がジンから外れてしまう。そのすきに態勢を立て直したジンは、5メートルほどあった距離を一気に縮める。

 しかし攻撃しようとした瞬間に後ろに飛ぶことを余儀なくされる。レイはジンが近づいてきたら発動するように、罠としてスパイクのついた水壁を自分の周りに張っていたのだ。そしてジンが攻めあぐねている間にレイは呼吸を整え、集中力を取り戻し再度水弾を作り始める。そこでジンは再度距離を取り、相手の攻撃に備えた。そしてレイの水弾が3つ完成し水壁を解除した瞬間に一気に突っ込んだ。高速でジグザグに走り、一つ目の水弾を避ける。

 だが避けたことでできた隙を狙ってレイが2つ目の水弾を放ってくる。それを予想していたジンは剣を使ってそれを弾き、さらに近づこうとする。しかしそれを許そうとしないレイは最後の水弾を放つが、ジンはそれをギリギリで避けながら再度、左手に残っていた剣をレイの胴体に投げつける。それを避けるためにとっさに目線を動かしたレイが直ぐにジンに目を戻したが、その一瞬の間にジンは後ろに回っており首に腕を絡めて軽くしめてきた。それを受けてレイは降参した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

処理中です...