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第2章:魔物との遭遇
戦いの始まり
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「さてと…」
目の前でジンを見下している魔獣を睨む。足が震える。周囲に素早く目を向けると、森の中にいるはずなのになぜか開けている。木々が全くと言っていいほど植わっていない。もしかしたらというよりおそらく、以前にこの森の主がここで暴れたのだろう。逃げるとしたら、自分の後ろにある、ピッピたちが入っていった小さい洞穴しかないだろう。
そのことからも自分の命が風前の灯であることがわかる。10匹のゴブリンの群れの中を突っ切った時も、最初にこの主の領域の中に入り込んでしまった時も、ここまでの恐怖はなかった。その強さを明確に理解してしまったことが、彼から戦闘意欲を根こそぎ奪い去っていた。
『こんなのに勝てるわけがない』
ジンは口の中で小さく舌打ちする。今は目の前の化け物の一挙手一投足に集中しなければならない。一瞬でも動きの起こりを見逃せば、それはすなわちジンの死を意味していた。
ジンにとって非常に長く感じられたその睨み合いは、主が右腕を動かしたことで終わった。
『あの素振りが来る!』
前に受けた凶悪な攻撃を彼は覚えていた。急いで地べたに伏せて、なんとかその腕を避ける。頭の上を、ゴゥ、という強風が流れる。ジンはすぐに起き上がると腰に下げていた二本のサバイバルナイフを抜き放つ。そして体の前に構えて相手の出方を見る。
主は腕を避けられたことで驚いたのか、その掌を閉じたり開けたりして眺めている。そしてジンにとってゾッとするような醜悪な笑みを見せたあと今度は握りこぶしを作った両手を、彼の頭上に振り下ろしてきた。そのあまりのスピードにヒュッと空気の切れる音がする。
ジンはそれを思いっきり右足に力を入れて後ろに飛ぶ。ギリギリのところでその拳を避けるが、それは地面を思いっきり殴りつけ、轟くような衝撃音がなる。そしてその勢いで地面がえぐれ、そこにあった石や岩がジンにめがけて飛んでくる。避けている最中で体を動かせないジンの体に、その礫が幾片もぶち当たる。
「ぐは!!」
石つぶてが当たったところから血が噴き出す。特にひどいのはあばらに当たったものだ。上半身を少し動かしただけでも痛むのは、どうやら肋骨が折れているためのようだ。右肩や左太もも、額にかすったものは大した傷ではない。だが彼にとって致命的な問題なのは、額の傷から溢れた血が、目に流れ落ちてくることであった。
しかしこれを拭おうとして一瞬でも目線を切らしたらその瞬間自分は死んでいるだろう。片目を閉じて対処するにも遠近感が計れないのは、この相手の前では自殺行為だ。ふと自分が先ほどまでいた場所を見てみると2メートルほどの円形のクレーターができていた。
「ふざけすぎだろ…」
それを見てジンの口元にヒクついた笑みがこぼれる。この攻撃は相手にとっておそらく児戯にも等しい行為だ。はっきり言って一向に勝てるイメージがわかない。仮に自分が神術を使えたとしても叶う気がしない。
『ウィルなら、マリアなら勝てるかな。なんか二人なら勝てそうな気がする』
二人を思い出し、そんな他愛ないことを考える。
目の前の相手に再度集中しようとする。やはりこの主は攻撃した後に相手が血を流していたら観察する癖があるようだ。
『まったく悪趣味にもほどがあるよ』
そしてジンがキッと睨み付けると再度胸を叩き、今度は左腕を横薙ぎに振ってきた。目に血の流れ込むジンはそれをくぐり避けるが、バランスを崩して、前に身を投げ出すように転んでしまう。
『まずい!』「発動!」
すかさずそう言った瞬間にジンの背中に、何かが落ちてきた。そして思いっきり何度も攻撃された後それが持ち上げられ、ようやく上を向くことができたジンは、それが足であることがわかった。魔獣が体重任せに何度も踏みつけてきていたのだ。それでも壊れなかった結界を見て、指輪をくれたティファにジンは心から感謝する。これがなければ少なくとも3回は死んでいる。
主は自分の足を持ち上げ、ジンを見て不思議そうな顔をする。いつもならここまで攻撃すれば、大抵の相手は死んでしまうからだろう。そんなすっとぼけた表情がジンをさらに苛立たせる。そしてその気持ちはだんだん彼の心から絶望的なまでの恐怖心を奪っていった。
『一撃だけでいい。絶対こいつに一発入れてやる』
そう思ったジンはかつてないほど集中する。あのゴブリン達に殺されかけた時よりも。初めて主にあって殺されかけた時よりも。そして先ほどまで主を注視していた時よりも。圧倒的なまでのその注意力が彼の恐怖心を完全に抑え込み、生死をかけたこの場においてジンに不思議な全能感を与えた。彼は無意識のうちに、ラグナによって制限されていた力の一部を解放することに成功したのである。
『なんだかゴブリンを倒した時みたいに体が軽い。これならいける気がする』
そう思ったジンは、いまだ油断している森の主に向かってナイフを構える。それに気づいたコングは歯をむき出し、ジンを両手でつかみかかってきた。その動きをじっくり見たジンは、その攻撃をあえて前に進みでることでかわす。リーチが長い分、また相手をなめてかかっていた分だけ主の反応は遅れた。そしてジンは飛び上がって、その主の右目に思いっきりナイフを叩き込んだ。
「———————————————————————————————————————————!」
巨大な怪物の悲鳴が周囲に轟く。ジンはすぐさま、刺さったままのナイフを利用して、体を振り子のように動かして傷口をさらにえぐる。そうしているうちに主が顔に手を伸ばして、ジンを掴み外そうとしてきた。それを振り子の動きで流れるままにナイフを引き抜いて飛び降りて躱す。そしてまた一旦距離を離し、ジンは相手を観察する。
傷つけられたことで逆上して暴れだすかもしれない。そんな状況で迂闊に近寄ればたやすく潰されるだろう。冷静に、感覚的に状況を判断する。まだ幼いながらもジンはどうすれば生きられるかを知っていた。姉の時にとっさに逃げたように、ゴブリンの時に闘気を発動したように、生き延びるための意志が彼を突き動かしていた。
そうして観察していてジンはいぶかしんだ。傷をつける前より、化け物はより冷静になったのだ。先ほどまでふざけていたように表情から、感情が消え、残った左目が冷たく光る。その顔を見てジンは直感した。これから来る攻撃は冗談抜きの本気の攻撃であると。
目の前でジンを見下している魔獣を睨む。足が震える。周囲に素早く目を向けると、森の中にいるはずなのになぜか開けている。木々が全くと言っていいほど植わっていない。もしかしたらというよりおそらく、以前にこの森の主がここで暴れたのだろう。逃げるとしたら、自分の後ろにある、ピッピたちが入っていった小さい洞穴しかないだろう。
そのことからも自分の命が風前の灯であることがわかる。10匹のゴブリンの群れの中を突っ切った時も、最初にこの主の領域の中に入り込んでしまった時も、ここまでの恐怖はなかった。その強さを明確に理解してしまったことが、彼から戦闘意欲を根こそぎ奪い去っていた。
『こんなのに勝てるわけがない』
ジンは口の中で小さく舌打ちする。今は目の前の化け物の一挙手一投足に集中しなければならない。一瞬でも動きの起こりを見逃せば、それはすなわちジンの死を意味していた。
ジンにとって非常に長く感じられたその睨み合いは、主が右腕を動かしたことで終わった。
『あの素振りが来る!』
前に受けた凶悪な攻撃を彼は覚えていた。急いで地べたに伏せて、なんとかその腕を避ける。頭の上を、ゴゥ、という強風が流れる。ジンはすぐに起き上がると腰に下げていた二本のサバイバルナイフを抜き放つ。そして体の前に構えて相手の出方を見る。
主は腕を避けられたことで驚いたのか、その掌を閉じたり開けたりして眺めている。そしてジンにとってゾッとするような醜悪な笑みを見せたあと今度は握りこぶしを作った両手を、彼の頭上に振り下ろしてきた。そのあまりのスピードにヒュッと空気の切れる音がする。
ジンはそれを思いっきり右足に力を入れて後ろに飛ぶ。ギリギリのところでその拳を避けるが、それは地面を思いっきり殴りつけ、轟くような衝撃音がなる。そしてその勢いで地面がえぐれ、そこにあった石や岩がジンにめがけて飛んでくる。避けている最中で体を動かせないジンの体に、その礫が幾片もぶち当たる。
「ぐは!!」
石つぶてが当たったところから血が噴き出す。特にひどいのはあばらに当たったものだ。上半身を少し動かしただけでも痛むのは、どうやら肋骨が折れているためのようだ。右肩や左太もも、額にかすったものは大した傷ではない。だが彼にとって致命的な問題なのは、額の傷から溢れた血が、目に流れ落ちてくることであった。
しかしこれを拭おうとして一瞬でも目線を切らしたらその瞬間自分は死んでいるだろう。片目を閉じて対処するにも遠近感が計れないのは、この相手の前では自殺行為だ。ふと自分が先ほどまでいた場所を見てみると2メートルほどの円形のクレーターができていた。
「ふざけすぎだろ…」
それを見てジンの口元にヒクついた笑みがこぼれる。この攻撃は相手にとっておそらく児戯にも等しい行為だ。はっきり言って一向に勝てるイメージがわかない。仮に自分が神術を使えたとしても叶う気がしない。
『ウィルなら、マリアなら勝てるかな。なんか二人なら勝てそうな気がする』
二人を思い出し、そんな他愛ないことを考える。
目の前の相手に再度集中しようとする。やはりこの主は攻撃した後に相手が血を流していたら観察する癖があるようだ。
『まったく悪趣味にもほどがあるよ』
そしてジンがキッと睨み付けると再度胸を叩き、今度は左腕を横薙ぎに振ってきた。目に血の流れ込むジンはそれをくぐり避けるが、バランスを崩して、前に身を投げ出すように転んでしまう。
『まずい!』「発動!」
すかさずそう言った瞬間にジンの背中に、何かが落ちてきた。そして思いっきり何度も攻撃された後それが持ち上げられ、ようやく上を向くことができたジンは、それが足であることがわかった。魔獣が体重任せに何度も踏みつけてきていたのだ。それでも壊れなかった結界を見て、指輪をくれたティファにジンは心から感謝する。これがなければ少なくとも3回は死んでいる。
主は自分の足を持ち上げ、ジンを見て不思議そうな顔をする。いつもならここまで攻撃すれば、大抵の相手は死んでしまうからだろう。そんなすっとぼけた表情がジンをさらに苛立たせる。そしてその気持ちはだんだん彼の心から絶望的なまでの恐怖心を奪っていった。
『一撃だけでいい。絶対こいつに一発入れてやる』
そう思ったジンはかつてないほど集中する。あのゴブリン達に殺されかけた時よりも。初めて主にあって殺されかけた時よりも。そして先ほどまで主を注視していた時よりも。圧倒的なまでのその注意力が彼の恐怖心を完全に抑え込み、生死をかけたこの場においてジンに不思議な全能感を与えた。彼は無意識のうちに、ラグナによって制限されていた力の一部を解放することに成功したのである。
『なんだかゴブリンを倒した時みたいに体が軽い。これならいける気がする』
そう思ったジンは、いまだ油断している森の主に向かってナイフを構える。それに気づいたコングは歯をむき出し、ジンを両手でつかみかかってきた。その動きをじっくり見たジンは、その攻撃をあえて前に進みでることでかわす。リーチが長い分、また相手をなめてかかっていた分だけ主の反応は遅れた。そしてジンは飛び上がって、その主の右目に思いっきりナイフを叩き込んだ。
「———————————————————————————————————————————!」
巨大な怪物の悲鳴が周囲に轟く。ジンはすぐさま、刺さったままのナイフを利用して、体を振り子のように動かして傷口をさらにえぐる。そうしているうちに主が顔に手を伸ばして、ジンを掴み外そうとしてきた。それを振り子の動きで流れるままにナイフを引き抜いて飛び降りて躱す。そしてまた一旦距離を離し、ジンは相手を観察する。
傷つけられたことで逆上して暴れだすかもしれない。そんな状況で迂闊に近寄ればたやすく潰されるだろう。冷静に、感覚的に状況を判断する。まだ幼いながらもジンはどうすれば生きられるかを知っていた。姉の時にとっさに逃げたように、ゴブリンの時に闘気を発動したように、生き延びるための意志が彼を突き動かしていた。
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