World End

nao

文字の大きさ
33 / 273
第2章:魔物との遭遇

エピローグ

しおりを挟む
 夢を見ていた。黄金色に輝く草原の上に懐かしい顔ぶれが並んでいた。彼らの表情はとても穏やかだった。その顔からはいつものような悲しみや憎しみ、苦しみがなかった。ジンは彼らに近寄ろうとするが足が動かない。そして徐々に彼らは離れていくことに気がつき、何度も声を上げて呼ぼうとしたが声は出なかった。しかしジンは理解できた。彼らがジンを応援しにきてくれたことを。そして彼らからのエールがジンには聞こえたような気がした。夢であることはわかっている。すでに彼らの命は失われている。だがジンは少し救われた気がした。

 目がさめると、そこは薄暗い家の中のベッドの上だった。壁は土でできており、天井は低く、ジンでも手を伸ばせば届きそうなほどだ。ゆっくり起きあがると、身体中に激痛が走った。特に脇腹と左腕がひどく傷んだ。

「あ、ジンー」

「ぐっ」

ピッピが顔面に体当たりをして来る。

「よかった、本当に良かった。おいら心配したんだぜ。傷治したのに起きねえんだもん。死んでんのかと思って、危うく土に埋めるところだったぜ」

にこやかにそう告げて来るピッピをとりあえず鷲掴むと、いつものように思いっきり揺さぶってやった。ピッピがまた嘔吐したが今度は体がうまくいかなかったため、顔に思いっきり浴びた。

「む?起きたか小僧。怪我の具合はどうじゃ?」

ピッピの声を聞いたのか別室から見事な白ひげとハゲ頭のドワーフが入ってきた。

「あなたは一体?」

「む。わしか、わしは鍛治師のトーリというものじゃ。お前さん、わしの家の前でよくもまあ暴れてくれたのぉ」

「ご、ごめんなさい」

「まあ良い。あの化け物にはわしも困っておったからのぉ。してお前さん怪我の具合はどうじゃ?」

「えっと、まだ体は痛むけど耐えられないほどじゃないです」

「ふむ、まあわしの剣を使ったんじゃ、当然じゃろう」

「それはどういうことですか?」

「なに、お前さんの封術具はな…」

「ジンの封術具はこのトーリ爺さんが造ったんだぜ。すげーよな。この爺さん一応これでもティターニアでは名工で知られてるんだよ。王家御用達ってやつだな」

「ぐ、む。まあそういうことじ」

「それは、ありがとうございました。おかげでなんとか生き残れました」

「うむ。あとお前さんの持っていたナイフもじゃな…」

「あ、あとお前さんが持ってたナイフもトーリ爺さんが打ったんだってよ。世界って狭いよなー。ウギャ!」

「……」

トーリの無骨な両手がピッピを掴むと、無言で振り回した。

「なんでぇ…」

「お前は、人のしゃべっている時ぐらい静かにせぇ」

ピッピはぐったりしながら「ごめんよぉ」と頷いた。

「それからのぉ、おい、早く入ってこい」

そう言って入り口を見ると、おずおずと罰が悪そうにトカゲ顔の少年が入ってきた。

「その、助けてもらってありがとうよ。それと、その、この前は悪かった」

ぼそりとそう呟き、深く頭をさげる。

「こやつはな…」

「こいつはな、森でパナケイアって薬草を探してたんだってよ」

ピッピはトーリを遮って言う。トーリに目に怪しい光がさすが、ピッピはそれに気づいていない。

「その、俺のばあちゃんが体調崩しててよ。どうしてもそいつが必要だったから…」

肩身の狭そうにポツリポツリと言う彼の話によると、どうやら両親は人間に殺されており、唯一の肉親である祖母も、先日病のために倒れたと言う。そのために万病に効くとされているパナケイアを取りにきたらしい。だがいつもなら縄張りでないはずのところにゴブリンが住み着いていたらしく、追われていたそうだ。

「俺、父ちゃん達が死んでから、どうしても人間が許せなくてよ。だからこの前、お前に止められた時にカッとなっちまって。わけがわからなくってよ。だからこの前は本当にすまなかった。謝って済む話じゃねぇのはわかってるけどよ」

じっと話を聞いていたジンは一つ深くため息をつく。

「お前の事情はわかった。確かにお前のせいで死にかけた。だから俺はお前を許す気は無い。でもお前が謝らなきゃいけないのは俺だけじゃないだろ」

「っ、ああ。今度ラルフにも謝るつもりだ」

「そうしてくれ。これでこの話は終わりだ」

「わかった。本当にすまなかった」

そう言ってレックスは再び頭を下げた。

「一つだけ聞いてもいいか」

「え、ああ」

「あの時、氷の壁を出してくれたのはお前か?」

「ああ、そうだ。俺がやった」

「そうか、ありがとう。お前のおかげで死なずに済んだ」

それを聞いてレックスは目を丸くした。

「お、俺が役に立ったなら、良かったよ」

「ほい、じゃあ話はそれぐらいにしてレックス、ちょいと食事の準備をしてくれんかのぉ。鍋に作っておるから取ってきておくれ。この坊主も腹が空いておるじゃろ。何せまる3日なにも食べておらんのじゃからのぉ。」

トーリの提案を聞いてジンはひどく腹が空いていることに気づいた。そしてテーブルに並べられた料理を、ジンは貪るように食い尽くした。

「それで、お主はこのあとどうするつもりかね?」

食後、トーリが尋ねてきた。

「とりあえず、このまま海を目指します。それがウィルと約束したことですから」

「ふむ、海まではお前さんの足じゃと、ここから10日ぐらいじゃな。しかしウィルのやつもとんでもない試練を与えおったのぉ」

トーリもウィルとマリアの知り合いであることを食事中に、ジンは教えてもらった。現在彼らが使っている武具は彼が造ったものらしい。

「それじゃあ、武器が必要じゃな。どれ、何かお主に見合うものはあったかのぉ」

そう言って立ち上がると、食堂を出て行った。そしていくつかの武器を持って戻ってきた。

「この中から、お主が気に入ったものを選びなさい。色々持ってきたんでな。もし気に入ったものがなかったら、遠慮なく言いなさい」

彼はジンの目の前に様々な武器を並べた。短槍や、短剣など彼のサイズに合う物である。

「それから防具ものぉ」

そう言って持ってきた皮の胸当てをジンに渡した。

「ありがとうございます。でも俺お金が…」

「よいよい、ラグナ様の使徒ならば、我らはお手伝いするのが道理じゃて。気にせんでよい」

「わかりました。それじゃあ遠慮なく…」

そう言って彼はおもむろに2振りの短剣を手にした。柄頭に紫色の宝玉がついた、つい先日使っていたナイフよりも、少しだけ分厚く、長い物である。

「これにしようかな」

「ほう、それにするのかい」

「ええ、なんとなく気になって」

「ふむ、実はな、その剣の宝玉はな、お主が倒した森の主の体の魔核なのじゃよ」

魔核とは魔物や魔獣の胸部にある、いわば心臓のようなものである。封術具の媒介にはこれが用いられる。

「剣に選ばれたのかもしれんのぉ。それじゃあそいつはお主のものじゃ。何か銘をつけてやろうか?」

「はい、お願いします」

「ふむ、それでは月並みじゃが、サルトゥスとレクスでどうじゃ?古代語で『森』と『王』という意味じゃ。その剣にぴったりじゃろ?」

「はい!それじゃあこの剣は今からサルトゥスとレクスです」

ジンはその場で軽く素振りをした。

「ほっほっほ、その武具に入れる術はどうするかね?」

「そうか、これ封術具なんだ。…うーん、それって今決めないとダメですか?」

「いやいや、そんなことはないぞ。ゆっくり時間をかけるとええ。どうするか決めたら、誰かにやってもらうといい」

「わかりました!」

そして新たに手に入れた剣を鞘にしまい、ベルトに掛けた。

「それで、お前さんたちはどうするのかね?」

トーリはピッピとレックスに目を向ける。

「もちろんおいらはジンと一緒に行くさ。こいつはおいらみたいな頼りになる奴がいないと危なっかしいからな。」

得意そうに言うそんな彼に拳を突き出す。

「ああ、よろしく頼む、ピッピ」

「任せとけ!」

そう言って小さな相棒はジンの拳に自分の拳をぶつけた。

「俺はばあちゃんのためにパナケイアを見つけなきゃなんねえ。それが終わり次第町に帰ろうと思います」

「ふむ、それならもう少しここで過ごすといい。少し離れたところじゃが、確か見た覚えがある」

「本当ですか!ありがとうございます!」

 翌日、まだ痛みは少し残っているものの、不自由なく動けるようになったのでジンは出発することにした。

「それじゃあ、今までありがとうございました」

「構わんよ。それより残りの道中気をつけるんじゃぞ。それと剣は大事に使えよ?簡単に折ったりしようものならお主の頭をかち割るからのぉ」

笑顔で言ってきたが、トーリの目は笑ってはいなかった。ジンの背筋に汗が一筋流れ落ちた。

「それじゃあ、ジン、本当にありがとう。助けてくれたこと絶対に忘れねぇよ。またバジットに来てくれたら、もしよかったら声をかけてくれ。そん時はたっぷりお礼するからよ」

「ああ、その時はよろしく。それじゃあピッピ、行こうか!」

「おうよ!」

 そうして2人は駆け出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...