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第3章:魔人襲来
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森の中に人影があった。真っ赤な髪と日焼けした肌、そして全身を黒一色で包んだ11か12歳ぐらいの、その少年の瞳は金色に輝き、縦長の瞳孔が蛇のような印象を与えた。少年の手は血に塗れ、口元は真っ赤な血化粧をしている。やがて彼は何かを見つけたかのように、歩み始めた。その背後に広がるのは夥しい死骸の山であった。あたり一面に広がる血臭と死臭はすでにこの森に生命体がいないことを示していた。
「一体何があったんだ?」
エデンの西方にあるアーカイアの森に入った、虎の耳と尻尾を持った男と銀髪で長い耳を持った女のダークエルフの使徒がそう呟く。森の中は彼らが知るものとは違う、異界のような静寂が漂っていた。
「奥まで行ってみよう」
先日、森の魔獣が大移動して近隣の村々に雪崩込んだ。その原因を彼らは調べにきていたのだ。辺りを警戒しながらゆっくりと進むと、虎人が漂ってくる。血の匂いに気がついた。
「ダメだ、止まれミリエル。これ以上行ったらなんかヤバそうだ」
「どう言うこと、ハリマ?」
「この先から血の匂いがプンプンしやがる。多分半端ない数の死体があるんじゃねぇかな。ちょっと待ってな。今確認してみる」
そう言ってハリマが目を細める。目の前に氷のレンズを作り、森の奥に焦点を合わせた。
「これは…」
ハリマが唖然とする。
「一体何があったの?」
「とりあえずこれを見てくれ」
訝しみながらもミリエルがレンズを覗き込むと、そこには獣の死体がうず高く積もられていた。そして彼女は見た。その中で《食事》をしている少年を。それが急に顔を上げると、ミリエルたちに顔を向けた。獲物を見つけたことを喜んでいるかのように、その血だらけの口を横に大きく広げて笑う。口にしていたものを地面に落として、ミリエルとハリマに向かって歩き出した。
「見つかった!」
「なんだと!?こっから数百メートルは離れている上に、気配だって消してたんだぞ!」
「でもこっちに向かってきてるわ!」
それを聞いたハリマは驚いた。索敵能力に優れた自分たちよりも遥かに上の存在である。また、魔獣を数百頭も単独で殺したと思われる化け物だ。つまり魔物、しかも魔人である可能性が高い。ハリマは大きく深呼吸をする。
「ミリエル、一旦引くぞ。おそらく奴は魔人だ、それもかなりヤバい奴だ。俺たちだけじゃ分が悪い」
「そうね。あと2、3人使徒を集めたほうがいいわね」
「ああ、幸いウィルとマリアが戻ってきているらしい。彼らに助力を仰ごう。行くぞ!」
2人は森から急いで脱出しようと走り出した。だがそれは既に遅かった。一瞬にしてその魔人は彼らに追いついたのだ。
「ねえ、どこ行くの?」
「くそ!」
「嘘!」
敵を視認したと同時にハリマが全身に雷を巻きつけ、殴りかかった。
「ミリエル走れ!俺がこいつを食い止める!」
それを聞くや否や、ハリマの思惑を瞬時に理解する。目の前にいる魔人は、彼女達の想像を遥かに凌ぐ化け物だった。それを他の使徒達に伝える必要があった。心の中に悲しみが広がる。恐らくもう愛するハリマには会うことがないだろう。
それほどまでに絶望的な力の差が、彼らとその少年の前にあったのだ。ミリエルは再び走り始めた。ハリマが作ってくれた時間を無駄にしないために。後ろを振り返らないように、前だけをまっすぐに見据えて。今生の別れとなるであろう彼らには、言葉を交わす時間すらなかった。
「来やがれ化け物!」
ハリマは不敵に笑ってそう吠えた。
「虎の獣人は初めてだな。おじさんは美味しいのかな?」
少年の口が横に大きく裂けた。そして、その背中から禍々しい翼が生えた。
『こりゃぁ、死ぬかも知んねえな。頼んだぜミリエル』
そう考えつつ、自分の最愛の女性の横顔を思い浮かべる。彼女が目の前の化け物に追いつかれるかどうかは、自分がどこまで食い下がれるかにかかっていた。素早く動けるように準備して、どんな攻撃が来てもいいように全身を雷で覆って構える。
「行くよ」
と微笑みながら言う少年は一瞬にして消えた。そしていつの間にかハリマの横に立ち、右腕に噛み付いた。
「————————————!」
猛烈な痛みがハリマの右側から伝わる。そちらを見ると、食いちぎられた腕とそれをむしゃむしゃと食べている少年がいた。
「うん、やっぱり人の方が美味しいや。このパチパチしたのがいいアクセントになってるよ」
ニッコリと笑ってハリマに向かってサムズアップしてくる少年を見て、ハリマの背筋が凍った。
「それじゃあ、内臓はどんな味かなぁ?おじさん、食べていい?」
「…この化け物がぁ!」
ハリマは少年に幾重もの雷を放った。
「あはっ!少し遊んでくれるのかな?」
そう言って笑いながら容易く雷を避け続ける少年は、足取りも軽やかに徐々にハリマに近づいて行った。
しばらくの間、雷による轟音が森の中を鳴り響いた。しかしそれも20分ほどで止んでしまった。猛スピードで森の中を駆け抜けたミリエルはそのまま走り続けた。
ようやく彼女があらかじめ逸れた場合の集合場所に着いた時には日は沈み、夜の帷が落ちていた。1日待ってもハリマは一向に現れなかった。彼女は腹を決めて、ウィルとマリアが住むガラリア平原へと歩き始めた。
「一体何があったんだ?」
エデンの西方にあるアーカイアの森に入った、虎の耳と尻尾を持った男と銀髪で長い耳を持った女のダークエルフの使徒がそう呟く。森の中は彼らが知るものとは違う、異界のような静寂が漂っていた。
「奥まで行ってみよう」
先日、森の魔獣が大移動して近隣の村々に雪崩込んだ。その原因を彼らは調べにきていたのだ。辺りを警戒しながらゆっくりと進むと、虎人が漂ってくる。血の匂いに気がついた。
「ダメだ、止まれミリエル。これ以上行ったらなんかヤバそうだ」
「どう言うこと、ハリマ?」
「この先から血の匂いがプンプンしやがる。多分半端ない数の死体があるんじゃねぇかな。ちょっと待ってな。今確認してみる」
そう言ってハリマが目を細める。目の前に氷のレンズを作り、森の奥に焦点を合わせた。
「これは…」
ハリマが唖然とする。
「一体何があったの?」
「とりあえずこれを見てくれ」
訝しみながらもミリエルがレンズを覗き込むと、そこには獣の死体がうず高く積もられていた。そして彼女は見た。その中で《食事》をしている少年を。それが急に顔を上げると、ミリエルたちに顔を向けた。獲物を見つけたことを喜んでいるかのように、その血だらけの口を横に大きく広げて笑う。口にしていたものを地面に落として、ミリエルとハリマに向かって歩き出した。
「見つかった!」
「なんだと!?こっから数百メートルは離れている上に、気配だって消してたんだぞ!」
「でもこっちに向かってきてるわ!」
それを聞いたハリマは驚いた。索敵能力に優れた自分たちよりも遥かに上の存在である。また、魔獣を数百頭も単独で殺したと思われる化け物だ。つまり魔物、しかも魔人である可能性が高い。ハリマは大きく深呼吸をする。
「ミリエル、一旦引くぞ。おそらく奴は魔人だ、それもかなりヤバい奴だ。俺たちだけじゃ分が悪い」
「そうね。あと2、3人使徒を集めたほうがいいわね」
「ああ、幸いウィルとマリアが戻ってきているらしい。彼らに助力を仰ごう。行くぞ!」
2人は森から急いで脱出しようと走り出した。だがそれは既に遅かった。一瞬にしてその魔人は彼らに追いついたのだ。
「ねえ、どこ行くの?」
「くそ!」
「嘘!」
敵を視認したと同時にハリマが全身に雷を巻きつけ、殴りかかった。
「ミリエル走れ!俺がこいつを食い止める!」
それを聞くや否や、ハリマの思惑を瞬時に理解する。目の前にいる魔人は、彼女達の想像を遥かに凌ぐ化け物だった。それを他の使徒達に伝える必要があった。心の中に悲しみが広がる。恐らくもう愛するハリマには会うことがないだろう。
それほどまでに絶望的な力の差が、彼らとその少年の前にあったのだ。ミリエルは再び走り始めた。ハリマが作ってくれた時間を無駄にしないために。後ろを振り返らないように、前だけをまっすぐに見据えて。今生の別れとなるであろう彼らには、言葉を交わす時間すらなかった。
「来やがれ化け物!」
ハリマは不敵に笑ってそう吠えた。
「虎の獣人は初めてだな。おじさんは美味しいのかな?」
少年の口が横に大きく裂けた。そして、その背中から禍々しい翼が生えた。
『こりゃぁ、死ぬかも知んねえな。頼んだぜミリエル』
そう考えつつ、自分の最愛の女性の横顔を思い浮かべる。彼女が目の前の化け物に追いつかれるかどうかは、自分がどこまで食い下がれるかにかかっていた。素早く動けるように準備して、どんな攻撃が来てもいいように全身を雷で覆って構える。
「行くよ」
と微笑みながら言う少年は一瞬にして消えた。そしていつの間にかハリマの横に立ち、右腕に噛み付いた。
「————————————!」
猛烈な痛みがハリマの右側から伝わる。そちらを見ると、食いちぎられた腕とそれをむしゃむしゃと食べている少年がいた。
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ようやく彼女があらかじめ逸れた場合の集合場所に着いた時には日は沈み、夜の帷が落ちていた。1日待ってもハリマは一向に現れなかった。彼女は腹を決めて、ウィルとマリアが住むガラリア平原へと歩き始めた。
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