35 / 273
第3章:魔人襲来
無神術
しおりを挟む
黒髪の少年が緑髪の男と組手をしていた。彼らはすでに長い時間の鍛錬を行なって降り、それぞれ汗だくになっていた。やがて男が少年を投げ飛ばすと、腕を締めて関節技をかけた。
「いてててっ、ギブ、ギブ!」
そう言って少年が地面をタップする。男はニヤリと笑って技を解除した。
「これで俺の記念すべき900勝目だな。まだまだだなジン」
「うぅ、また負けた…」
ジンは頭を垂れて、下を向きながら悔しそうに言った。
「攻撃の時と避ける時にまたいつもの癖が出てたぞ。まったく治んねえな、その癖。もっと意識してやれよ。そのせいで攻撃も防御も単調になってんだよ」
それを聞いてジンも言葉に詰まる。最近はあまりやらなくなったが、まだたまに右側から攻める、あるいは避ける、という癖がなかなか抜けなかった。彼がエデンに来てからすでに3年近く経っていた。再び戦えるようになってから毎日一回行うようになった組手も、ついには900戦である。
エデンに来て最初の試練で、見事再び闘気を操れるようになったジンは渓谷を走破したのち、本格的な修行を開始した。ウィルから体術を、マリアから知識を学び、以前よりも身体的、精神的に成長していた。120センチほどだった身長もすくすくと伸びて、150センチ半ばまで伸びていた。
「それじゃあ、今日の午前のトレーニングはここまでだ。昼飯食ったら今度はマリアの授業だな」
「やだなぁ。あんまり勉強得意じゃないんだよね。やっぱり体を動かす方が性に合ってるよ」
「まあそう言うなって。最近マリアが言ってたぞ、ジンもようやく法術の癖がわかって来て、やられる前に動けるようになって来たって」
「そうかなぁ。でもマリアの特訓って怖いんだよね。この前も避けきれなくて火傷したし」
「まあな。あいつは加減ってもんを知らねえからな。俺よりよっぽど脳筋ゴリラだぜ」
「確かに」
2人して声に出して笑っていると、
「ふーん、一体誰の話をしているのかね」
ウィルとジンはその声を聞いて背筋が凍る。ギギギとなるように、ゆっくりと振り返ると、青筋を立てたマリアがニッコリと笑っていた。
「マ、マリア!いや、いかにお前が強くて、美しいかについて話していたんだよな、ジン?」
「いや、ウィルがマリアのことを脳筋ゴリラって言うから、俺は仕方なく話に合わせていただけで…」
「あっ、テメェずりいぞジン!」
「ウィルが変なこと言うからだろ。俺はマリアのことはいつも綺麗ですごくかっこいいと思っているのに…」
「いや、お前だって笑ってただろ!」
2人して醜い争いを繰り広げる。それを見ていたマリアはニッコリと笑い続けたまま、
「ウィル、後で話があるから、飯食ったらちょっと裏庭まで来な。それとジン、今日は私のすごくかっこいいところをたっぷり見せてやるから、覚悟しておきな」
昼食後、裏庭に連れて行かれたウィルの悲鳴が聞こえると、すっきりした顔でマリアが出て来た。ボロボロになったウィルを片手で掴んでズルズル引き摺っている。どう見ても190センチほどの巨体を片手で引き摺るその様はゴリラと称するのにふさわしい。ウィルの方は完全に意識を失い、ところどころに焦げ目がついていた。どうやらマリアに炙られたらしい。ジンの口元が引き攣った。
「さてと、それじゃあ始めるよジン」
「お、お手柔らかにお願いします…」
その後夕食まで、マリアによる猛烈な扱きを受けたジンは心身ともに疲れてテーブルに突っ伏していた。
「まだまだ修行が足りないねぇ。たかだか5時間でそんなに疲れてちゃ、これから戦っていけないよ、ねぇウィル?」
「ああ、特にお前の場合は体の強度が直で関わってくるんだろ。この程度で根をあげてちゃ、世話ねえぞ」
「…そんなことわかってるよ。でも痛いものは痛いし、疲れるのだってしょうがないじゃん」
ジンがぼそぼそと文句を言う。
「馬鹿野郎、男がグチグチ言ってんじゃねぇよ。痛いのは我慢、疲れたら根性!」
「そうそう、どんなにあんたの体調が悪くても、相手は待ってくれないんだからね。でも痛い時はちゃんと言いなよ?変な怪我していたら困るからね」
「…うん」
渋々頷いたジンを見て、
「かぁー、相変わらずお前はジンに甘いんだよ。本当の男はな、痛いと思っても我慢するもんなんだよ!」
「なに言ってんだい!あんたそれで前にジンが骨折していたのに気がつかなかったじゃないか!」
「あ、あれは、その、偶然気づかなかっただけだろうが!」
「それじゃあ、あたしが気づかなかったら、どうなってたと思ってるんだ!」
「…それは、その、お前が気づいたんだからいいじゃねぇか!」
「あんたは馬鹿かい!いや、馬鹿だったね。この脳筋ゴリラ!」
「なんだと、この垂れ乳!」
「なんだと!」
「なんだよ!」
お互いに睨み合いを続ける2人を余所に、ジンは部屋に戻って寝ることにした。
『『表出ろ!』』
食堂から聞こえて来た声に耳を傾けていると、徐々に眠くなって来たのでベッドに潜り込んだ。そしてすぐに寝息を立て始めた。
翌朝彼が起きると、家の前にはウィルが木の檻に入れられて白目をむいて倒れていた。朝食はマリアが見た目は普通の激辛料理を作ってしまったので、ジンは自分の分も含めて、ウィルの檻の前に置いておいた。そして自分はこっそりとパンをくすねて食べた。しばらくしてウィルの叫び声が聞こえて来たが、無視することにした。
「今日はジンの力について確認してみたいと思っている」
朝食後、尻を気にしているウィルがジンにそう言った。
「どういうこと?いつもみたいに力を強くすればいいの?」
「いや、ラグナはお前に無神術が使えるって言ったんだろ?それで何ができるのかと思ってよ」
ラグナに与えられた力は無神術と呼ばれる、無属性の神術である。ジンの知っている範囲では、無神術は《じゅーりょく》という力を扱うことができるという。ティターニアの昇降機に使われていたのが無神術だった。
「どうして急に?」
「急にっつうか、前からマリアに言われてたんだよ。そろそろ本格的に神術について教えるべきじゃないかってな」
「まあいいや、教えてくれるなら。確か無神術って《じゅーりょく》とかいう力が使えるんだよね。でもそれってなんなの?」
「重力か、なんて言やあいいかな。物にかかる重さって感じかな。それが軽いと浮くし、重いと沈む」
「ふーん、じゃあ無神術って、それを操ればいいってことだよね」
「多分な。でも他にもなんかあるかもしれねえ」
「どういうこと?」
「今までに無神術に適性があったっていう使徒はほとんどいなかったらしい。だからいまいちどういう術かわかってねえんだよ」
「ラグナは教えてくれなかったの?それにほとんどってことは少しはいたってことでしょ。その人たちはどうなったの?」
「ラグナの野郎にはこっちからじゃ一切コンタクトできねえからな。それと無神術の使い手は数百年前にあった戦争で死んだっていう話だ。ティファニア様でさえどんな術なのかほとんど知らねえらしい。少なくとも重力が扱えるっていうことと、それを用いてなんかすげえ技があったらしいぐらいしかわかってねえ」
「それじゃあ全く意味ないじゃん!」
「だーから確かめるって言ってるんじゃねえか」
「わかんないのにどうやって発動すればいいんだよ!」
「知るか!なんかこう…なんか…イメージしてやるんだよ!」
「意味がわからないよ、ウィルは法術とか神術とかはどうやってるの?」
「フィーリングだ!気合いでやるんだよ!」
「もっと意味がわからないよ!」
ぎゃあぎゃあと2人でしばらく騒ぎ合っていると、呆れた顔してマリアがやってきた。
「あんたら何してんだい?」
「いや、ウィルが…」
「いや、ジンが…」
2人同時に話そうとして互いに睨み合う。
「まあ大体のことは遠くからでも聞こえたからね。ウィル、この子は今まで法術が使えなかったんだ。いきなり発展的な内容を教えようとしたところで無理に決まっているだろう?」
「ぐ、む、確かにそうだな」
ウィルが押し黙るとマリアがジンに顔を向けた。
「ジン、ウィルの説明は下手だけどね、まずはイメージすることが大事っていうのは正しいことなんだよ。そうだね、無神術が重力を操るっていうなら、例えば物を軽くしたり重くしたりするっていうイメージを練るところから始めるといいと思うよ。明確なイメージが出来たら、今度はそれを直接何かにぶつける感じでやってごらん。それで何か反応があれば、その感覚を忘れないようにひたすらに訓練するんだ」
「うん、わかった。やってみる。ウィルもこれくらいわかりやすく説明してくれればいいのに」
「馬鹿野郎、大抵のことは気合いがあればなんとか出来るんだよ」
腕を組んで踏ん反り返りながらそう言うウィルの頭をマリアが叩く。
「馬鹿なこと言ってんじゃ無いよ。神術みたいな高度な技が気合いでどうこうなる人間がいるわけないだろ!」
ウィルは言い返そうと口を開けたが、マリアの鋭い視線に怯んだらしい。静かに口を閉ざした。
ジンは物体を軽くすると言うイメージを頭に思い浮かべた。
『物を軽くするイメージ、イメージ…』
だが全く思い浮かばなかった。
「マリア、全然イメージができない…」
「うーん、そうだ!それじゃあちょっと待ってて」
そう言ってマリアは家の中に戻ると羽ペンを持って来て、それを地面においた。
「まずは実際の物を見てイメージしてごらん」
「うん、わかった!」
ジンは今度は羽ペンが浮かび上がるイメージを始めた。
「多分できたよ、マリア!」
「そうかい、それじゃあ今度はそれを実際にやってみよう。そうだね、何か合言葉みたいなのを決めようか。言葉にすればより明確なイメージが作れるからね」
「それって、『水弾』とか『土璧』とかってこと?」
「そうそれ。言葉と思考は密接に関わっているからね。頭の中にあるアイディアを事象として表現するためのスイッチを作るってことさ」
「わかった!それじゃあ、どうしようかな…」
「そうだねぇ…」
2人してウンウン唸っていると、それまでジンとマリアに放置されて縮こまっていたウィルが
「簡単に『浮かべ』とか『落ちろ』でいいんじゃねえか?まずは重力をコントロールする練習なわけだし」
と言って来た。
「まあ最初のところはそれでやってみようか」
「うん、わかった」
ジンは再度頭の中で空中に浮かび上がる羽ペンをイメージする。そして具体的な形になったところで、両手を前に突き出して力一杯叫んだ。
「浮かべ!」
しかし、羽ペンは全く動きもしなかった。
それから2時間、ジンは何度も何度も、イメージしては叫び、イメージしては叫び続けた。何かしらのポーズが必要なのではと思って、それを考えるのに時間を使ったり、せっかくかっこいいと思ったものをウィルに馬鹿にされ、あろうことかマリアにまで笑われたりと散々な目にあった。ついには集中しすぎて、頭が痛くなって来た。いつの間にか夕暮れ時になっていた。
「ジン、今日はこれぐらいにしよう」
ウィルが声をかけてくる。
「え、でも俺まだ全くできてないよ?」
「こればっかりは一朝一夕でできるもんじゃないからさ。しょうがないよジン、また明日頑張ろ?」
マリアまでジンを止めようとして来た。
「で、でもコツもなんか掴めて来た気がするし、もう少しだけお願い!」
「嘘つけ、全く動かねえじゃねえか」
ウィルが呆れ顔で言ってくる。
「う、あと少し、あと少しだけお願い!」
「仕方ねえなぁ。そんじゃあ30分だけだぞ。マリアみといてくれ、飯作ってくる」
「はいはい。そんじゃあお願いね」
だが結局それから二週間、何の進展もなかった。
「いてててっ、ギブ、ギブ!」
そう言って少年が地面をタップする。男はニヤリと笑って技を解除した。
「これで俺の記念すべき900勝目だな。まだまだだなジン」
「うぅ、また負けた…」
ジンは頭を垂れて、下を向きながら悔しそうに言った。
「攻撃の時と避ける時にまたいつもの癖が出てたぞ。まったく治んねえな、その癖。もっと意識してやれよ。そのせいで攻撃も防御も単調になってんだよ」
それを聞いてジンも言葉に詰まる。最近はあまりやらなくなったが、まだたまに右側から攻める、あるいは避ける、という癖がなかなか抜けなかった。彼がエデンに来てからすでに3年近く経っていた。再び戦えるようになってから毎日一回行うようになった組手も、ついには900戦である。
エデンに来て最初の試練で、見事再び闘気を操れるようになったジンは渓谷を走破したのち、本格的な修行を開始した。ウィルから体術を、マリアから知識を学び、以前よりも身体的、精神的に成長していた。120センチほどだった身長もすくすくと伸びて、150センチ半ばまで伸びていた。
「それじゃあ、今日の午前のトレーニングはここまでだ。昼飯食ったら今度はマリアの授業だな」
「やだなぁ。あんまり勉強得意じゃないんだよね。やっぱり体を動かす方が性に合ってるよ」
「まあそう言うなって。最近マリアが言ってたぞ、ジンもようやく法術の癖がわかって来て、やられる前に動けるようになって来たって」
「そうかなぁ。でもマリアの特訓って怖いんだよね。この前も避けきれなくて火傷したし」
「まあな。あいつは加減ってもんを知らねえからな。俺よりよっぽど脳筋ゴリラだぜ」
「確かに」
2人して声に出して笑っていると、
「ふーん、一体誰の話をしているのかね」
ウィルとジンはその声を聞いて背筋が凍る。ギギギとなるように、ゆっくりと振り返ると、青筋を立てたマリアがニッコリと笑っていた。
「マ、マリア!いや、いかにお前が強くて、美しいかについて話していたんだよな、ジン?」
「いや、ウィルがマリアのことを脳筋ゴリラって言うから、俺は仕方なく話に合わせていただけで…」
「あっ、テメェずりいぞジン!」
「ウィルが変なこと言うからだろ。俺はマリアのことはいつも綺麗ですごくかっこいいと思っているのに…」
「いや、お前だって笑ってただろ!」
2人して醜い争いを繰り広げる。それを見ていたマリアはニッコリと笑い続けたまま、
「ウィル、後で話があるから、飯食ったらちょっと裏庭まで来な。それとジン、今日は私のすごくかっこいいところをたっぷり見せてやるから、覚悟しておきな」
昼食後、裏庭に連れて行かれたウィルの悲鳴が聞こえると、すっきりした顔でマリアが出て来た。ボロボロになったウィルを片手で掴んでズルズル引き摺っている。どう見ても190センチほどの巨体を片手で引き摺るその様はゴリラと称するのにふさわしい。ウィルの方は完全に意識を失い、ところどころに焦げ目がついていた。どうやらマリアに炙られたらしい。ジンの口元が引き攣った。
「さてと、それじゃあ始めるよジン」
「お、お手柔らかにお願いします…」
その後夕食まで、マリアによる猛烈な扱きを受けたジンは心身ともに疲れてテーブルに突っ伏していた。
「まだまだ修行が足りないねぇ。たかだか5時間でそんなに疲れてちゃ、これから戦っていけないよ、ねぇウィル?」
「ああ、特にお前の場合は体の強度が直で関わってくるんだろ。この程度で根をあげてちゃ、世話ねえぞ」
「…そんなことわかってるよ。でも痛いものは痛いし、疲れるのだってしょうがないじゃん」
ジンがぼそぼそと文句を言う。
「馬鹿野郎、男がグチグチ言ってんじゃねぇよ。痛いのは我慢、疲れたら根性!」
「そうそう、どんなにあんたの体調が悪くても、相手は待ってくれないんだからね。でも痛い時はちゃんと言いなよ?変な怪我していたら困るからね」
「…うん」
渋々頷いたジンを見て、
「かぁー、相変わらずお前はジンに甘いんだよ。本当の男はな、痛いと思っても我慢するもんなんだよ!」
「なに言ってんだい!あんたそれで前にジンが骨折していたのに気がつかなかったじゃないか!」
「あ、あれは、その、偶然気づかなかっただけだろうが!」
「それじゃあ、あたしが気づかなかったら、どうなってたと思ってるんだ!」
「…それは、その、お前が気づいたんだからいいじゃねぇか!」
「あんたは馬鹿かい!いや、馬鹿だったね。この脳筋ゴリラ!」
「なんだと、この垂れ乳!」
「なんだと!」
「なんだよ!」
お互いに睨み合いを続ける2人を余所に、ジンは部屋に戻って寝ることにした。
『『表出ろ!』』
食堂から聞こえて来た声に耳を傾けていると、徐々に眠くなって来たのでベッドに潜り込んだ。そしてすぐに寝息を立て始めた。
翌朝彼が起きると、家の前にはウィルが木の檻に入れられて白目をむいて倒れていた。朝食はマリアが見た目は普通の激辛料理を作ってしまったので、ジンは自分の分も含めて、ウィルの檻の前に置いておいた。そして自分はこっそりとパンをくすねて食べた。しばらくしてウィルの叫び声が聞こえて来たが、無視することにした。
「今日はジンの力について確認してみたいと思っている」
朝食後、尻を気にしているウィルがジンにそう言った。
「どういうこと?いつもみたいに力を強くすればいいの?」
「いや、ラグナはお前に無神術が使えるって言ったんだろ?それで何ができるのかと思ってよ」
ラグナに与えられた力は無神術と呼ばれる、無属性の神術である。ジンの知っている範囲では、無神術は《じゅーりょく》という力を扱うことができるという。ティターニアの昇降機に使われていたのが無神術だった。
「どうして急に?」
「急にっつうか、前からマリアに言われてたんだよ。そろそろ本格的に神術について教えるべきじゃないかってな」
「まあいいや、教えてくれるなら。確か無神術って《じゅーりょく》とかいう力が使えるんだよね。でもそれってなんなの?」
「重力か、なんて言やあいいかな。物にかかる重さって感じかな。それが軽いと浮くし、重いと沈む」
「ふーん、じゃあ無神術って、それを操ればいいってことだよね」
「多分な。でも他にもなんかあるかもしれねえ」
「どういうこと?」
「今までに無神術に適性があったっていう使徒はほとんどいなかったらしい。だからいまいちどういう術かわかってねえんだよ」
「ラグナは教えてくれなかったの?それにほとんどってことは少しはいたってことでしょ。その人たちはどうなったの?」
「ラグナの野郎にはこっちからじゃ一切コンタクトできねえからな。それと無神術の使い手は数百年前にあった戦争で死んだっていう話だ。ティファニア様でさえどんな術なのかほとんど知らねえらしい。少なくとも重力が扱えるっていうことと、それを用いてなんかすげえ技があったらしいぐらいしかわかってねえ」
「それじゃあ全く意味ないじゃん!」
「だーから確かめるって言ってるんじゃねえか」
「わかんないのにどうやって発動すればいいんだよ!」
「知るか!なんかこう…なんか…イメージしてやるんだよ!」
「意味がわからないよ、ウィルは法術とか神術とかはどうやってるの?」
「フィーリングだ!気合いでやるんだよ!」
「もっと意味がわからないよ!」
ぎゃあぎゃあと2人でしばらく騒ぎ合っていると、呆れた顔してマリアがやってきた。
「あんたら何してんだい?」
「いや、ウィルが…」
「いや、ジンが…」
2人同時に話そうとして互いに睨み合う。
「まあ大体のことは遠くからでも聞こえたからね。ウィル、この子は今まで法術が使えなかったんだ。いきなり発展的な内容を教えようとしたところで無理に決まっているだろう?」
「ぐ、む、確かにそうだな」
ウィルが押し黙るとマリアがジンに顔を向けた。
「ジン、ウィルの説明は下手だけどね、まずはイメージすることが大事っていうのは正しいことなんだよ。そうだね、無神術が重力を操るっていうなら、例えば物を軽くしたり重くしたりするっていうイメージを練るところから始めるといいと思うよ。明確なイメージが出来たら、今度はそれを直接何かにぶつける感じでやってごらん。それで何か反応があれば、その感覚を忘れないようにひたすらに訓練するんだ」
「うん、わかった。やってみる。ウィルもこれくらいわかりやすく説明してくれればいいのに」
「馬鹿野郎、大抵のことは気合いがあればなんとか出来るんだよ」
腕を組んで踏ん反り返りながらそう言うウィルの頭をマリアが叩く。
「馬鹿なこと言ってんじゃ無いよ。神術みたいな高度な技が気合いでどうこうなる人間がいるわけないだろ!」
ウィルは言い返そうと口を開けたが、マリアの鋭い視線に怯んだらしい。静かに口を閉ざした。
ジンは物体を軽くすると言うイメージを頭に思い浮かべた。
『物を軽くするイメージ、イメージ…』
だが全く思い浮かばなかった。
「マリア、全然イメージができない…」
「うーん、そうだ!それじゃあちょっと待ってて」
そう言ってマリアは家の中に戻ると羽ペンを持って来て、それを地面においた。
「まずは実際の物を見てイメージしてごらん」
「うん、わかった!」
ジンは今度は羽ペンが浮かび上がるイメージを始めた。
「多分できたよ、マリア!」
「そうかい、それじゃあ今度はそれを実際にやってみよう。そうだね、何か合言葉みたいなのを決めようか。言葉にすればより明確なイメージが作れるからね」
「それって、『水弾』とか『土璧』とかってこと?」
「そうそれ。言葉と思考は密接に関わっているからね。頭の中にあるアイディアを事象として表現するためのスイッチを作るってことさ」
「わかった!それじゃあ、どうしようかな…」
「そうだねぇ…」
2人してウンウン唸っていると、それまでジンとマリアに放置されて縮こまっていたウィルが
「簡単に『浮かべ』とか『落ちろ』でいいんじゃねえか?まずは重力をコントロールする練習なわけだし」
と言って来た。
「まあ最初のところはそれでやってみようか」
「うん、わかった」
ジンは再度頭の中で空中に浮かび上がる羽ペンをイメージする。そして具体的な形になったところで、両手を前に突き出して力一杯叫んだ。
「浮かべ!」
しかし、羽ペンは全く動きもしなかった。
それから2時間、ジンは何度も何度も、イメージしては叫び、イメージしては叫び続けた。何かしらのポーズが必要なのではと思って、それを考えるのに時間を使ったり、せっかくかっこいいと思ったものをウィルに馬鹿にされ、あろうことかマリアにまで笑われたりと散々な目にあった。ついには集中しすぎて、頭が痛くなって来た。いつの間にか夕暮れ時になっていた。
「ジン、今日はこれぐらいにしよう」
ウィルが声をかけてくる。
「え、でも俺まだ全くできてないよ?」
「こればっかりは一朝一夕でできるもんじゃないからさ。しょうがないよジン、また明日頑張ろ?」
マリアまでジンを止めようとして来た。
「で、でもコツもなんか掴めて来た気がするし、もう少しだけお願い!」
「嘘つけ、全く動かねえじゃねえか」
ウィルが呆れ顔で言ってくる。
「う、あと少し、あと少しだけお願い!」
「仕方ねえなぁ。そんじゃあ30分だけだぞ。マリアみといてくれ、飯作ってくる」
「はいはい。そんじゃあお願いね」
だが結局それから二週間、何の進展もなかった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる