World End

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第3章:魔人襲来

合流2

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「はっ、はっ、はっ」

 ジンはティファニアが作り出した森の中をものすごいスピードで駆け抜ける。数百メートル先にある砦が徐々に近づくにつれ付近に夥しく広がる戦闘の残滓を目の当たりにする。マリアの無事は確信しているがそれでもやはり不安は拭きれなかった。

 門の前には魔獣たちが群がっており、とてもではないが正面突破は無理そうだった。そこでジンは壁に最も近い木に駆け上り、一気に天辺まで登る。それから彼は木を蹴って10メートル先にある壁に向かって跳躍する。脚力を限界までに強化したことにより彼はなんとか壁に張り付くことができた。そこから短剣を用いて器用に100メートルはある壁を登っていき、あっという間に城壁通路までたどり着く。だが警戒中の兵士が思わず驚き、彼に弓を放ってきた。

「うわぁぁぁ!?」

すんでのところでジンはそれを躱す。頰を薄皮一枚切り裂いたその矢はジンが跳躍に利用した木にスコンと小気味良い音を立てて突き立った。

「待って!俺だよ、ジンだよ!」

「お、驚かせるなよ…魔獣かと思ったじゃねえか」

 そう言って来たのは普段は門番を務めているはずの蜥蜴人のウルガだった。どうやら通路の警邏していたらしい。その顔はいつもの自信に溢れた表情とは異なり、緊張感に満ち満ちていた。

「ごめんごめん、ちょっと急いでてさ。ねえウルガ、マリアがどこにいるか知らないかな?」

「マリアか?マリアなら兵舎の方にいると思うぜ。多分将軍たちと一緒なはずだ」

「わかったありがとう、行ってみるよ!」

「おう、あっ、上に気いつけろよ。俺たちであらかたぶっ殺したが、空から来るやつはまだまだいるからな」

「うん、そっちも気をつけて!」

「おうよ、ってちょっと待て、おい!」

 ウルガの抑止を聞かず、ジンはそのまま100メートル程下にある地面に向かって飛び降りた。そして着地すると同時に兵舎に向かって走り始めた。

「おいおい、マジかよ…」

 目の前で起こったことに呆然としつつも、ウルガは少し冷静になれた気がした。この街には自分の理解の範疇を超えた存在が三人もいるのだ。きっとこの苦境も彼らがなんとかしてくれるだろうと。

「うし!そんじゃあ見回りを続けますかね」

彼の表情は先ほどよりも柔らかくなっていた。


 10分もしないうちに、ジンは兵舎の前まで到着した。入り口前に立っていた門番に軽く挨拶を交わし、建物の中に入った。

 彼の目の前の床には傷病人が老若男女関係なく横たわり、その周囲を医者や看護師、それと動けるものたちが走り回り介抱していた。

「あ、アルマおじさん!ごめん、ちょっと良いかな?」

 目の前を見知った男が通り過ぎようとしたのでジンは声をかける。初めてこの街に来た時にケルバを食べさせてくれた狸、もとい猫人のアルマだった。

「なんだ今忙し…ってジンじゃないか!無事だったのか!?どっか怪我はしてねえか?」

 彼は荒い呼吸をしながらそんな風に心配そうに聞いてきた。

「うん大丈夫。特にどこも怪我してないよ」

「そんなこと言ってもお前、服に血がついてるじゃねえか!」

「え?ああこれは俺の血じゃないよ。さっき魔獣が襲ってきたからそれの返り血だ」

「ほ、本当か?それなら良いんだがよ。いつも一緒のやつらはどうした?一緒に来たのか?」

「いや、ティファニア様のところにいると思う。だからまだ街の外なんじゃないかな」

「そうか。そんで、わざわざ呼び止めたってことは俺に何か聞きたいことがあったんじゃないか?」

「ああ、うん。おじさんはマリアがどこにいるか分かる?」

「おお、知ってるぜ…」

アルマは簡単にマリアがいるであろう司令室への道順をジンに伝える。

「ありがとう!」

 ジンはアルマに礼を言うと司令室のある方へと駆けて行った。

 中から様々な声が聞こえてくる部屋まで辿り着き、ドアの前に立つ兵士に声をかける。ジンを見た彼はドアをノックして中に入りドアを閉める。だがすぐに入室の許可を得たのか、ドアを再び開けてジンに部屋の中に入るように促した。

「よく来たなジン」

 入室した彼が軽く頭を下げるとその部屋にいた者たちが一斉にジンの方を目を向けて来た。疎ましいその視線に晒されていると、重苦しい空気が漂う部屋の奥から狼人のヴォルク将軍が声をかけてくる。

「久しぶり、ヴォルクおじさん」

 2年ほど前、ジンがエデンに来てしばらく立った頃、マリアとウィルに連れられて、ヴォルクに会いに行ったことがあった。その時はよく大声で笑う豪放磊落で、温和な印象の人物であったが、現在目の前にいる彼はまるで別人のようである。鋭い眼は理知的な光を灯すとともに、どことなく荒々しい色を見せている。また彼のうちに秘められている殺気が強烈すぎて抑え込めないのか、彼と目があったジンを怯ませた。

「マリアのことを聞きに来たのか?」

「う、うん。マリアは今どこにいるの?無事なの?」

「彼女なら隣の部屋で少し休んでいる。さっきからずっと戦いっぱなしだったからな。ただ疲れているだけだ」

 それを聞いてようやくジンは人心地ついた。すると緊張がほどけたためか、ガクンと膝から力が抜けて、そのまま床に倒れるように座り込み深いため息をついた。

「ここまでご苦労だった。話は大体ティファニア様から聞いている。お前も少し休め」

そんなジンを見て少し険が取れたのか、穏やかな声でジンに話しかけて来た。

「うん、ありがとう。でもその前に今どういう状況なのか聞いても良い?」

「お前が休んでから話そうかと思っていたんだが、まあ良いだろう」

そう言ってヴォルクはざっとした説明をジンにした。

「…というわけだ。ただまあ、俺を含め三人の使徒がここにいるんだ。そんなに時間はかけずに終わるとは思う。問題はそれまでにどれだけ犠牲者が出るかというところだが、まあとにかく今は休め。マリアのいる部屋にまだ空いているベッドがあるからそれを使え。ひどく疲れているように見えるぞ」

 ジンはそう言われてようやく自分の体が悲鳴をあげていることに気がついた。3体のキマイラを倒し、そこから全力で駆け巡ったのだ。疲れていない方が不思議である。気を抜けば今にも意識を失いそうだった。

「わかった。それじゃあ少し休ませてもらうよ、また後でね」

「ああ、その時はしっかり働いてもらうぞ」

そんなことを言ってくるヴォルクに背を向けてよろよろとジンは部屋の外に出た。

         ~~~~~~~~~~~

「本当にあんな子供が使えるんですかい?」

「当然だろう?ウィルとマリアが仕込んでるやつだぞ。あいつはまだまだガキだが結構強い。もしかしたらお前よりつ実力は上かもしれんぞ?」

 そうヴォルクに話しかけて来た彼の副官に対して、ヴォルクは笑いながら言った。

         ~~~~~~~~~~~

 重い足取りの彼が案内された部屋に入るとマリアがいびきをかきながら眠っていた。よっぽど疲れが溜まっているのだろう。ジンが中に入ったことに気づいた様子は全くなかった。それを見て安心した彼はよろよろと歩きながらなんとかベッドに倒れこむ。どっと疲労が訪れた彼はあっという間に深い眠りについた。


 ズズン、ズズンと遠くの方から鳴り響く音でジンが目を覚ますと辺りは夜の帳が降りていた。淡いろうそくの炎が部屋の中を照らしている。途端に意識が覚醒し、慌ててマリアの眠っていたベッドに目を向けるとすでにもぬけの殻であった。

「どこに行ったんだろう?」

と小さくジンが呟くと、ドアが開きマリアが部屋の中に入って来た。その手にはサンドウィッチがいくつか握られている。どうやら食料を取りに行っていたらしい。

「おや、起きたのかいジン」

 そう話しかけて来たマリアには一切怪我のようなものは見られなかった。

「うん、マリアも大丈夫だった?ヴォルクおじさんがマリアは凄い疲れてるって言ってたけど」

「ああ結構寝たからね、もう大丈夫さ。あんたこそどうなんだい?怪我はしてないかい?」

「俺の方も大丈夫。とにかく合流できてよかったよ」

「そうだね。それよりほら、お腹空いているだろ?調理場を借りてサンドウィッチ作ってきたよ」

 差し出されたそれを受け取るとジンは齧り付き、あっという間に食べ終えた。

「それで俺はどんぐらい寝てたの?それと今はどんな状況なの?」

「かれこれ7、8時間ってとこかね、今は真夜中だよ。そんでティファニア様の部隊が今攻撃しまくってるところさね。全体の半分はもう削り切れたところさ」

 ジンの疑問に対してマリアが答える。どうやらこの遠くから聞こえる攻撃音はティファニアたちによるものらしい。

「あんたは朝までゆっくり休みな。まあ五月蝿くて寝れないかもしれないけどね。明日の朝からあんたには活躍してもらうよ。」

「うん、わかった。マリアは今からどうするの?」

「あたしはティファニア様のお手伝いさ。まだ本調子じゃないけど、できることはしなきゃね」

「そっか。あっ、ウィルは?もう来てるんじゃないの?」

「ああ、あのバカかい。あいつならティファニア様と合流したは良いがそのまま傷口が開いたらしくて今寝込んでるよ。全くあれほど動くなって言ったのに」

「ウィルは大丈夫なの?」

「まあ死にゃしないよ、丈夫だけが取り柄のバカだからね。だからそんな不安そうな顔はしないでおくれ」

「…うん」

「とにかく今はお休み。明日に備えてたっぷり英気を養っておきなよ」

「わかった、ねえマリア」

 ベッドに横たわりながらジンが声をかける。

「なんだい?」

「その…マリアは大丈夫だよね?」

「当ったり前だろ。あたしは強いんだよ?あんなやつらはコテンパンにのしちまうさ」

 そう言ってマリアは笑いながら、右の二の腕に力こぶを作り、そこを左手でそれをパンパンと叩いた。そうして彼女は部屋から出て行った。
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