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第3章:魔人襲来
魔3
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「う…あ…」
光のない目がジンを見据える。それはかつて彼が見たものとそっくりだった。過去の記憶が脳裏を強くよぎる。ジンは思わず地面に跪くと嘔吐した。
「ぐ、げぇぇぇ!」
そんな彼の前にレヴィが立つ。
「うわっ、汚いなぁ、お姉さんにゲロがついたらどうしてくれるんだよ?」
そう言いながら彼はミリエルの髪を掴んで持ち上げる。そして光を失った瞳に指を入れて、目玉をほじくり出した。
「これこれ、これが美味しいんだよね」
手のひらに二つの目玉が転がる。それを一つ口の中に放り込むと、飴玉を舐めるように口の中で転がした。
「あとは君にあげるよ」
レヴィがジンの目の前にミリエルを落とす。パシャりと音を立てて、ジンの吐いた吐瀉物の中に彼女は沈んだ。それを見てジンはまた嘔吐した。今度は彼女をその吐瀉物で覆うように。
「あはは、汚ったないなぁ」
その様を嘲笑うレヴィはぐるりとウィルの方に目を向けた。
「それで、そろそろ始められそうかな父さん?」
たった一撃。胸への一撃だけで彼は立ち上がることも辛いほどのダメージを与えられた。
「はっ、いつでも来いよクソガキ!」
痛む体で目一杯虚勢を張って吠える。ミリエルが嬲られ、殺されている間になんとか水法術で自分の治療は完了していた。だが体の芯に響く鈍い痛みと、恐怖は消えることはなかった。それでも、ジンだけでも救わなければ、生かさなければならない。そうしなければ今までの生活は全て無為になってしまう。彼はマリアの生きた証でもあるのに。
必死で立ち上がった父親を見てレヴィは口元を歪めて嗤った。
「あはは、それじゃあ行かせてもらうよ。すぐに死んじゃダメだよ?」
地面を蹴った力で地盤が揺れる。一瞬にしてウィルの目の前にたどり着いていた。だがウィルはそれを予測していた。その攻撃に合わせるように、相手が動く動作を見せた瞬間にもう、剣を振り下ろしていたのだ。
「うらぁぁぁぁ!!」
「うわっ!」
その斬撃は確かにレヴィに届いた。ザシュッという音ともに血が辺りに飛び散る。
「痛っ!」
レヴィは痛みに顔が歪む。それを見てウィルの顔に希望の色が宿った。攻撃次第では相手を傷つけることができるのだ。決して倒せない相手ではないということだ。
「おいおい、どうしたんだよレヴィ、攻撃当たってんぜ?」
ウィルは不敵に笑う。
「むっ、まあ今のは褒めてあげるよ。でもこれで終わりだ。父さんにはもう僕を傷つけることはできないよ」
「はっ、言ってろ!」
ウィルは足に闘気を充実させて地面を蹴った。高速で接近する彼をレヴィはのんびりと眺めていた。
「遅いよ」
そして突っ込んできたウィルの横に立つと左腕に拳を叩き込んだ。肉を叩く音とボキッという音が響き、ウィルの苦渋に満ちた声が辺りに広がった。
「あらら、折れちゃったの?脆いなぁ」
呆れたようにいうレヴィからウィルは慌てて距離を取る。患部を見ると、強烈な一撃によって骨どころか肉ごと潰されている。砕けた骨が肉から飛び出している。ウィルは痛みに脂汗をかいた。その状態でなんとか右腕一本で大剣を構える。
「あはは、いいね、まだ諦めてないんだ。そうこなくっちゃ!」
レヴィが再びウィルに接近する。コンマ数秒の間違いが命取りとなる、そんな極限の状況下でウィルの視界は却って開けていた。目を強化して、高速に動くレヴィの線を捉えた。
『笑えるぜ、目を凝らしても線しか追えないのかよ…』
そんなことをぼんやりと考える。そして赤い光が目の前まで届いた。
「くっ!」
伸ばされた爪を、体をよじって躱す。
「へぇ、よく避けたね。見えていたのかな?」
「はっ、そんなのろまな動きが見えないわけねえだろ」
「むっ、それじゃあこれならどうかな!」
先ほどよりも早い動きはもはや常人では反応できないものだ。だがウィルはそれすらも躱した。
「何!?」
レヴィは驚いて距離を取る。ウィルはそれを見て不敵に笑った。
「どうした、何驚いてんだよ?」
ウィルが躱せたのは圧倒的な戦闘経験からくる驚異的なまでの予測と野生的な直感によるものだった。なんとなく、攻撃が来そうなところから身を動かすだけしかできない。だがレヴィの攻撃が単調であるため、集中力を切らさなければ難なく躱すことができたのだ。だがそれだけだった。
唐突にレヴィが攻撃をやめて立ち止まった。そんなレヴィを訝しみ、その様子に目を向けると、少年は立ちすくんだままブツブツと何かをつぶやいていた。その目は虚ろで、どことなく儚げな印象を与えてきた。
「なんだよ、何してんだ?」
その疑問にブツブツと何かをつぶやいていたレヴィがぐるりとウィルに顔と目を向ける。虚ろだった瞳に、あやふやだった存在に力が戻る。
「ごめんごめん、少し相談をね」
「相談?」
「まあ、今から死ぬ父さんには関係ない話だよ」
「何だと?」
だがその言葉にレヴィは答えない。
「少しだけ、僕の本気を見せてあげるよ」
次の瞬間レヴィが消えた。そして隙だらけの脇腹にとてつもない衝撃が走る。吹き飛ばされたウィルは地面に何度もバウンドしながら、10メートルほど転がり続けたところでようやく岩にぶつかって体が止まった。集中を切らしたわけではない。ただ純粋に強化した目でさえ追えないスピードで迫られたのだ。
「あとは、確かこうだっけ?」
レヴィは自分の爪を伸ばすと、それをウィルに向けて解き放った。彼の四肢に突き刺さったそれはそのまま彼を地面に縫い付けた。
「ぐがあああああ!」
ウィルの全身に激痛が走る。ようやく脇腹を凄まじい力で殴られたこと、そして爪に貫かれたことを理解した。
「どうかな父さん、あなたにやられたことの意趣返しをしてみたんだけど」
「な…んだ…と…」
「あは、地面に這いつくばって、まるで芋虫みたいだね。全く、僕の血肉がこんな奴の一部を受け継いでいるなんて情けないよね。どう思う、母さん?」
そう言っていつのまにか死体から切り取ってきたのだろう、マリアの首をウィルに見せつける。
「あれ、返事がないなぁ。ほら父さん、母さんも呆れて物も言えないみたいだよ?」
マリアの顔をウィルに向けて弄ぶ。グニャグニャと変化する顔を見てウィルは堪えられなかった。不甲斐なさに、悔しさに、怒りに、憎しみに、悲しみに包まれた彼の心は耐えられなかったのだ。
「く、ぐぅぅぅ…」
「あらら泣き出しちゃった。さっきまでの威勢はどうしたのかな?全くしょうがないなぁ。母さん、面倒だけど慰めてあげてよ、ほら」
レヴィはマリアの頭をウィルの目の前に落とす。その目は計ったかのように彼を正面から見据えてきた。
「あは、あははははははははははは。」
涙を流し続けるウィルを見てレヴィは笑い続けた。
「なんでだ…なんでお前は、こんなことができるんだ!なんでそんな風になっちまったんだ!」
涙を流しながらウィルは吠える。それを聞いてピタリと嗤うことをやめ、レヴィは困惑したように、彼を見下しながら言った。
「えっと、何を勘違いしているかわからないけど、僕はね、生まれる前から魔人なんだよ?」
「な…んだと?」
「はぁ、わからないかな?僕は生まれる前からこの世の全てをフィリア様から聞いて育ったんだ。そしてあのお方に力を授かったんだ」
恍惚とした表情で彼は語る。
「フィリア様は僕に言った、僕は魔人すらも超越した上位種であると。確かに生まれ落ちた瞬間にそれは理解できた。なぜって皆僕よりも弱かったからね」
「………」
「屈辱だったよ。どうして上位種である僕が、父さんたち、下等なゴミに育てられなければならなかったのか。フィリア様に恨みがあるとしたらそこだけさ」
「…それじゃあなんで、なんでマリアを殺した、あいつらを殺した!」
「あいつら?ああ、兄さんと姉さんのことかな。別に、理由なんかないよ。強いて言えばお腹がすいたから、かな。それに母さんは父さんへの見せしめだよ」
嘲るようにレヴィは語る。
「あんたは僕に屈辱を、恐怖を与えた。だから殺す、絶望を与えて殺す」
それを聞いてウィルは歯を食いしばる。
「ちくしょう…ちくしょう、殺してやる…殺してやる!」
「ふふ、どうやって?一体どうやって父さんみたいな下等生物が僕を殺すっていうんだい?」
ゴミを見るような目でウィルを見下し、そう言いながら、レヴィはウィルの頭を踏みつける。
「あ、がぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ほらほら、早く逃げないとこのまま踏み砕いちゃうよ?」
じわじわと加えられていく力によって、ウィルの頭蓋がミシミシと音を立てて軋んでいった。
光のない目がジンを見据える。それはかつて彼が見たものとそっくりだった。過去の記憶が脳裏を強くよぎる。ジンは思わず地面に跪くと嘔吐した。
「ぐ、げぇぇぇ!」
そんな彼の前にレヴィが立つ。
「うわっ、汚いなぁ、お姉さんにゲロがついたらどうしてくれるんだよ?」
そう言いながら彼はミリエルの髪を掴んで持ち上げる。そして光を失った瞳に指を入れて、目玉をほじくり出した。
「これこれ、これが美味しいんだよね」
手のひらに二つの目玉が転がる。それを一つ口の中に放り込むと、飴玉を舐めるように口の中で転がした。
「あとは君にあげるよ」
レヴィがジンの目の前にミリエルを落とす。パシャりと音を立てて、ジンの吐いた吐瀉物の中に彼女は沈んだ。それを見てジンはまた嘔吐した。今度は彼女をその吐瀉物で覆うように。
「あはは、汚ったないなぁ」
その様を嘲笑うレヴィはぐるりとウィルの方に目を向けた。
「それで、そろそろ始められそうかな父さん?」
たった一撃。胸への一撃だけで彼は立ち上がることも辛いほどのダメージを与えられた。
「はっ、いつでも来いよクソガキ!」
痛む体で目一杯虚勢を張って吠える。ミリエルが嬲られ、殺されている間になんとか水法術で自分の治療は完了していた。だが体の芯に響く鈍い痛みと、恐怖は消えることはなかった。それでも、ジンだけでも救わなければ、生かさなければならない。そうしなければ今までの生活は全て無為になってしまう。彼はマリアの生きた証でもあるのに。
必死で立ち上がった父親を見てレヴィは口元を歪めて嗤った。
「あはは、それじゃあ行かせてもらうよ。すぐに死んじゃダメだよ?」
地面を蹴った力で地盤が揺れる。一瞬にしてウィルの目の前にたどり着いていた。だがウィルはそれを予測していた。その攻撃に合わせるように、相手が動く動作を見せた瞬間にもう、剣を振り下ろしていたのだ。
「うらぁぁぁぁ!!」
「うわっ!」
その斬撃は確かにレヴィに届いた。ザシュッという音ともに血が辺りに飛び散る。
「痛っ!」
レヴィは痛みに顔が歪む。それを見てウィルの顔に希望の色が宿った。攻撃次第では相手を傷つけることができるのだ。決して倒せない相手ではないということだ。
「おいおい、どうしたんだよレヴィ、攻撃当たってんぜ?」
ウィルは不敵に笑う。
「むっ、まあ今のは褒めてあげるよ。でもこれで終わりだ。父さんにはもう僕を傷つけることはできないよ」
「はっ、言ってろ!」
ウィルは足に闘気を充実させて地面を蹴った。高速で接近する彼をレヴィはのんびりと眺めていた。
「遅いよ」
そして突っ込んできたウィルの横に立つと左腕に拳を叩き込んだ。肉を叩く音とボキッという音が響き、ウィルの苦渋に満ちた声が辺りに広がった。
「あらら、折れちゃったの?脆いなぁ」
呆れたようにいうレヴィからウィルは慌てて距離を取る。患部を見ると、強烈な一撃によって骨どころか肉ごと潰されている。砕けた骨が肉から飛び出している。ウィルは痛みに脂汗をかいた。その状態でなんとか右腕一本で大剣を構える。
「あはは、いいね、まだ諦めてないんだ。そうこなくっちゃ!」
レヴィが再びウィルに接近する。コンマ数秒の間違いが命取りとなる、そんな極限の状況下でウィルの視界は却って開けていた。目を強化して、高速に動くレヴィの線を捉えた。
『笑えるぜ、目を凝らしても線しか追えないのかよ…』
そんなことをぼんやりと考える。そして赤い光が目の前まで届いた。
「くっ!」
伸ばされた爪を、体をよじって躱す。
「へぇ、よく避けたね。見えていたのかな?」
「はっ、そんなのろまな動きが見えないわけねえだろ」
「むっ、それじゃあこれならどうかな!」
先ほどよりも早い動きはもはや常人では反応できないものだ。だがウィルはそれすらも躱した。
「何!?」
レヴィは驚いて距離を取る。ウィルはそれを見て不敵に笑った。
「どうした、何驚いてんだよ?」
ウィルが躱せたのは圧倒的な戦闘経験からくる驚異的なまでの予測と野生的な直感によるものだった。なんとなく、攻撃が来そうなところから身を動かすだけしかできない。だがレヴィの攻撃が単調であるため、集中力を切らさなければ難なく躱すことができたのだ。だがそれだけだった。
唐突にレヴィが攻撃をやめて立ち止まった。そんなレヴィを訝しみ、その様子に目を向けると、少年は立ちすくんだままブツブツと何かをつぶやいていた。その目は虚ろで、どことなく儚げな印象を与えてきた。
「なんだよ、何してんだ?」
その疑問にブツブツと何かをつぶやいていたレヴィがぐるりとウィルに顔と目を向ける。虚ろだった瞳に、あやふやだった存在に力が戻る。
「ごめんごめん、少し相談をね」
「相談?」
「まあ、今から死ぬ父さんには関係ない話だよ」
「何だと?」
だがその言葉にレヴィは答えない。
「少しだけ、僕の本気を見せてあげるよ」
次の瞬間レヴィが消えた。そして隙だらけの脇腹にとてつもない衝撃が走る。吹き飛ばされたウィルは地面に何度もバウンドしながら、10メートルほど転がり続けたところでようやく岩にぶつかって体が止まった。集中を切らしたわけではない。ただ純粋に強化した目でさえ追えないスピードで迫られたのだ。
「あとは、確かこうだっけ?」
レヴィは自分の爪を伸ばすと、それをウィルに向けて解き放った。彼の四肢に突き刺さったそれはそのまま彼を地面に縫い付けた。
「ぐがあああああ!」
ウィルの全身に激痛が走る。ようやく脇腹を凄まじい力で殴られたこと、そして爪に貫かれたことを理解した。
「どうかな父さん、あなたにやられたことの意趣返しをしてみたんだけど」
「な…んだ…と…」
「あは、地面に這いつくばって、まるで芋虫みたいだね。全く、僕の血肉がこんな奴の一部を受け継いでいるなんて情けないよね。どう思う、母さん?」
そう言っていつのまにか死体から切り取ってきたのだろう、マリアの首をウィルに見せつける。
「あれ、返事がないなぁ。ほら父さん、母さんも呆れて物も言えないみたいだよ?」
マリアの顔をウィルに向けて弄ぶ。グニャグニャと変化する顔を見てウィルは堪えられなかった。不甲斐なさに、悔しさに、怒りに、憎しみに、悲しみに包まれた彼の心は耐えられなかったのだ。
「く、ぐぅぅぅ…」
「あらら泣き出しちゃった。さっきまでの威勢はどうしたのかな?全くしょうがないなぁ。母さん、面倒だけど慰めてあげてよ、ほら」
レヴィはマリアの頭をウィルの目の前に落とす。その目は計ったかのように彼を正面から見据えてきた。
「あは、あははははははははははは。」
涙を流し続けるウィルを見てレヴィは笑い続けた。
「なんでだ…なんでお前は、こんなことができるんだ!なんでそんな風になっちまったんだ!」
涙を流しながらウィルは吠える。それを聞いてピタリと嗤うことをやめ、レヴィは困惑したように、彼を見下しながら言った。
「えっと、何を勘違いしているかわからないけど、僕はね、生まれる前から魔人なんだよ?」
「な…んだと?」
「はぁ、わからないかな?僕は生まれる前からこの世の全てをフィリア様から聞いて育ったんだ。そしてあのお方に力を授かったんだ」
恍惚とした表情で彼は語る。
「フィリア様は僕に言った、僕は魔人すらも超越した上位種であると。確かに生まれ落ちた瞬間にそれは理解できた。なぜって皆僕よりも弱かったからね」
「………」
「屈辱だったよ。どうして上位種である僕が、父さんたち、下等なゴミに育てられなければならなかったのか。フィリア様に恨みがあるとしたらそこだけさ」
「…それじゃあなんで、なんでマリアを殺した、あいつらを殺した!」
「あいつら?ああ、兄さんと姉さんのことかな。別に、理由なんかないよ。強いて言えばお腹がすいたから、かな。それに母さんは父さんへの見せしめだよ」
嘲るようにレヴィは語る。
「あんたは僕に屈辱を、恐怖を与えた。だから殺す、絶望を与えて殺す」
それを聞いてウィルは歯を食いしばる。
「ちくしょう…ちくしょう、殺してやる…殺してやる!」
「ふふ、どうやって?一体どうやって父さんみたいな下等生物が僕を殺すっていうんだい?」
ゴミを見るような目でウィルを見下し、そう言いながら、レヴィはウィルの頭を踏みつける。
「あ、がぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ほらほら、早く逃げないとこのまま踏み砕いちゃうよ?」
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