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第3章:魔人襲来
魔4
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ジンは二人の戦いをただ眺めていることしかできなかった。レヴィが醸し出す空気に足が全く動かなくなったいたのだ。だが同時にウィルの動きにも魅了されていた。あらん限りに強化した自分の動体視力はウィルをも超えるとジンは知っている。その自分でさえなんとか追えるスピードに、ウィルは対応していた。圧倒的なまでの技術によって、格上の存在にすらその剣は届いていたのだ。
二人の戦いを見ていつのまにか握っていた拳に汗が滲んでいた。だがそれも長くは続かなかった。突如様子が変わったレヴィがウィルを吹き飛ばした。そしてウィルの元まで行ってその四肢に爪を突き立てた。それからおもむろにマリアのところに戻ると、彼女の首をもぎ取り、ウィルの前に差し出した。
二人が何を話しているのかは、ジンの位置からでは聞こえなかった。だがウィルが涙を流していることは見て取れた。レヴィの足がウィルの頭を踏みつけた時、ジンの固まっていた体が動けるようになった。
『早くしないと、ウィルが死ぬ!もうこれ以上誰かが死ぬなんて嫌だ!』
心の中でそう強く呟いたジンは、しかし冷静であった。限界まで強化した体を引き絞る。相手の注意はウィルに向いている。今なら自分の攻撃は通るのではないか。先ほどから、レヴィは武器による攻撃では怪我を負っていた。つまりレヴィは術に対する高い耐性がある代わりに物理攻撃にはそこまで強くないのではないか。
そう推測したジンは、持っていた短剣『レクス』の金神術を発動させる。イメージするのは一点集中攻撃に特化した剣、それで心臓を穿つ。そして強固な肉体を突き刺すのに耐えられる硬度の剣。剣を構築したジンは極力、音が立たないように、しかし高速で相手に詰め寄る。
不意打ちをする場合、決して音を立ててはならない。ウィルに習ったことを頭の片隅で思い出しながら、暗殺者のごとく相手に接近し、彼は覚悟を決めてレヴィに渾身の突きを放った。それはレヴィの背中から、心臓部を的確に突き刺した。
「え…あれ?」
レヴィが自分の胸元を見ると、飛び出した剣が目に入った。続けざまにそれが引き抜かれると、左腕に強い衝撃が走った。そして彼は吹き飛ばされて地面を数十メートルも転がっていった。
「ウィル、大丈夫!?」
レヴィに強烈な蹴りを食らわせたジンはすぐさまウィルに駆け寄る。彼の近くに転がっている『彼女』に目を合わせないようにする。今彼女を見て心を乱してはいられない。
ウィルの様子を確認すると、その様は想像以上に悲惨だった。爪は彼の手足を千切らんばかりに突き抜いている。彼の両手足は少しでも動かせば簡単に体から別れてしまうだろう。殴られたためか肋骨が折れ、おそらく肺に突き刺さっているのだろう、呼吸をするのも辛そうだ。さらに最初に強打された左腕からは骨が飛び出ていた。
「ウィル待ってて、『発動』!」
そう言ってジンはまず、最新の注意を払いつつ、素早く爪を引き抜くとティファニアからもらった、木神術が込められた回復用の短剣をウィルに向けた。徐々に彼の体が回復していくのを確認すると思わず安堵の息が出た。
「…な…にしてやが…、はや…く逃げろ…」
ウィルが息も絶え絶えにジンに囁く。だがジンはレヴィに剣を突き立てた時に既に覚悟は決めていた。ここで死ぬことになったとしても、もう誰かに残されるのは嫌だったのだ。
「嫌だ!俺も戦う!」
「ば…かやろう…俺はいいから…お前だけ…でも」
ジンの言葉にウィルが唸るように言う。
「嫌だ!逃げるならウィルも一緒じゃないとダメだ!」
そう言ってジンはウィルを見る。その目に映る覚悟はウィルが今まで見たことがなかったものだ。思わず言葉が出なくなる。
「いやいや、もう遅いよ。逃すわけないだろ」
しかしレヴィは既に起き上がってジンたちの元に歩き始めていた。
「痛いな~。それにこんなに汚れちゃったよ。君、どうしてくれるんだい?」
あまり大きい声ではないその声は、だが二人の耳にしっかりと聞こえてきた。ゆっくりと確かな足取りでレヴィは近づいてくる。
「クソッ、心臓を刺したのに全然ダメージないのかよ!」
ジンはレヴィの姿を見て悪態をつく。レヴィは服こそ汚れはすれ、ダメージは一切見られなかった。わずかに胸から血を流してはいるが、それも微々たるものであった。
「君、いい腕だよ。刺されるまで気づかなかったしね。でも残念、僕の体は人間と構造からして違うんだ」
そう言ってレヴィは額を親指で叩いた。
「僕を殺したいならここを壊すしかないんだよ」
余裕の笑みを浮かべて語るレヴィに一気に駆け寄る。全身を最大まで強化して突き出される攻撃はウィルのそれよりも早かった。ウィルはジンのその攻撃を見て驚愕した。自分との組手でも全力であったはずだ。だが彼の動きはその時のものをはるかに凌駕していた。
猛烈な攻勢にレヴィも怯んでいるのではないかと、鈍った頭の中で感じていた。思考がまとまらない彼の頭ではそう見えたのだ。
だがジンは焦っていた。立ち合って見て、漠然と恐怖していた存在が、目の前にいるものが本当の化け物であるということがわかったからだ。自分の攻撃が全く通用しない。そもそも届きすらしない。かつて戦った森の主など、この悪魔に比べればゴミのようなものだった。それがわかって一層、ジンは焦りを募らせた。
彼が剣を突き出す。躱される。斬り上げる。躱される。斬り払う。躱される。斬り下ろす。躱される。薙ぐ。躱される。蹴り上げる。躱される。殴りかかる。躱される。
何度も、何度も、何度も攻撃を繰り返すが全て躱された。相手はジンの限界を超えて使っているはずの力でも、たどり着けない高みにいるのだ。それでもジンは必死になって剣を振るう。手を休めればその瞬間にでも自分は死ぬだろう。だがそんな必死なジンとは異なり、レヴィは涼しい顔で彼の攻撃を躱し続けた。残酷にも彼我の技量の差は歴然としていた。
だがジンもそんなことは最初から知っている。だから剣を振るうことを止めない。もしかしたら自分の攻撃が相手に届くかもしれない。もしかしたらその攻撃が相手にダメージを与えるかもしれない。もしかしたらレヴィの魔核に届くかもしれない。もしかしたら、もしかしたら…。そんな仮定を信じて彼は攻撃を続けた。
おそらくは逃げられないだろうが、自分がここで逃げ出したら、ウィルは確実に死ぬ。それにマリアたちの仇を討ちたいと心の底から強く思ってもいる。だからこそ可能性が低くても、やるべきことは全てやるべきだと、ジンは考えていた。
「ふぁぁ~」
ジンの攻撃を躱しながら、レヴィは大きく欠伸をした。
「クソがっ!」
それを見てカッとなったジンは、両手に持つ短剣を振り下ろす。だがそれは容易くレヴィに摘まれた。
「『発動』!」
それを見たジンはとっさにそう叫んで、雷をレヴィに放つ。相手が怯んだすきに剣を取り戻そうと考えたのだ。
そして、剣は折れた。
パキンという虚しい音が二つ聞こえる。今までジンを支えてくれた武器は、初めて倒した『魔物』から作り上げた彼の武器は、目の前で容易く破壊された。ジンは忘れていた。相手が術に対して強い耐性を持っていたことを。術を解放するならば、金神術の方が適していたことを。しかしそれももう遅い。ジンを支えてきた『サルトゥス』と『レクス』は既に破壊されてしまったのだ。
「もういいよ。君、ただ体を強くすることしかできないんでしょ?それで僕の前に立つとか笑えるね」
それを聞いて、ジンは立ちすくんだ。武器を失った自分にはもう何もできない。体術ではおそらく太刀打ちできない。ただただ、押し寄せる無力感が彼を苛んだ。そんな彼を金色に光る眼が見据える。その眼はすでに、ジンからの興味を失っていた。
「全く、つまらないね。まあ元々父さんの前に殺してあげるつもりだったから別にいいけど。それじゃあ、バイバイ」
感情の感じられない表情でレヴィは言った。そして口を大きく開けて、黒い炎を放った。その高温の炎はジンの体を包み込み燃え上がった。
「ぐがぁぁぁぁぁぁ!」
猛烈な勢いで彼の体は焼かれていく。あまりの痛みで意識が飛びそうになる。地面に倒れてなんとか火を消そうと転げ回る。レヴィはそれを、ゴミでも見るかのような目で眺めていた。そしてなんとか立ち上がってジンに向かってくるウィルを見て、酷薄な笑みを浮かべた。
二人の戦いを見ていつのまにか握っていた拳に汗が滲んでいた。だがそれも長くは続かなかった。突如様子が変わったレヴィがウィルを吹き飛ばした。そしてウィルの元まで行ってその四肢に爪を突き立てた。それからおもむろにマリアのところに戻ると、彼女の首をもぎ取り、ウィルの前に差し出した。
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心の中でそう強く呟いたジンは、しかし冷静であった。限界まで強化した体を引き絞る。相手の注意はウィルに向いている。今なら自分の攻撃は通るのではないか。先ほどから、レヴィは武器による攻撃では怪我を負っていた。つまりレヴィは術に対する高い耐性がある代わりに物理攻撃にはそこまで強くないのではないか。
そう推測したジンは、持っていた短剣『レクス』の金神術を発動させる。イメージするのは一点集中攻撃に特化した剣、それで心臓を穿つ。そして強固な肉体を突き刺すのに耐えられる硬度の剣。剣を構築したジンは極力、音が立たないように、しかし高速で相手に詰め寄る。
不意打ちをする場合、決して音を立ててはならない。ウィルに習ったことを頭の片隅で思い出しながら、暗殺者のごとく相手に接近し、彼は覚悟を決めてレヴィに渾身の突きを放った。それはレヴィの背中から、心臓部を的確に突き刺した。
「え…あれ?」
レヴィが自分の胸元を見ると、飛び出した剣が目に入った。続けざまにそれが引き抜かれると、左腕に強い衝撃が走った。そして彼は吹き飛ばされて地面を数十メートルも転がっていった。
「ウィル、大丈夫!?」
レヴィに強烈な蹴りを食らわせたジンはすぐさまウィルに駆け寄る。彼の近くに転がっている『彼女』に目を合わせないようにする。今彼女を見て心を乱してはいられない。
ウィルの様子を確認すると、その様は想像以上に悲惨だった。爪は彼の手足を千切らんばかりに突き抜いている。彼の両手足は少しでも動かせば簡単に体から別れてしまうだろう。殴られたためか肋骨が折れ、おそらく肺に突き刺さっているのだろう、呼吸をするのも辛そうだ。さらに最初に強打された左腕からは骨が飛び出ていた。
「ウィル待ってて、『発動』!」
そう言ってジンはまず、最新の注意を払いつつ、素早く爪を引き抜くとティファニアからもらった、木神術が込められた回復用の短剣をウィルに向けた。徐々に彼の体が回復していくのを確認すると思わず安堵の息が出た。
「…な…にしてやが…、はや…く逃げろ…」
ウィルが息も絶え絶えにジンに囁く。だがジンはレヴィに剣を突き立てた時に既に覚悟は決めていた。ここで死ぬことになったとしても、もう誰かに残されるのは嫌だったのだ。
「嫌だ!俺も戦う!」
「ば…かやろう…俺はいいから…お前だけ…でも」
ジンの言葉にウィルが唸るように言う。
「嫌だ!逃げるならウィルも一緒じゃないとダメだ!」
そう言ってジンはウィルを見る。その目に映る覚悟はウィルが今まで見たことがなかったものだ。思わず言葉が出なくなる。
「いやいや、もう遅いよ。逃すわけないだろ」
しかしレヴィは既に起き上がってジンたちの元に歩き始めていた。
「痛いな~。それにこんなに汚れちゃったよ。君、どうしてくれるんだい?」
あまり大きい声ではないその声は、だが二人の耳にしっかりと聞こえてきた。ゆっくりと確かな足取りでレヴィは近づいてくる。
「クソッ、心臓を刺したのに全然ダメージないのかよ!」
ジンはレヴィの姿を見て悪態をつく。レヴィは服こそ汚れはすれ、ダメージは一切見られなかった。わずかに胸から血を流してはいるが、それも微々たるものであった。
「君、いい腕だよ。刺されるまで気づかなかったしね。でも残念、僕の体は人間と構造からして違うんだ」
そう言ってレヴィは額を親指で叩いた。
「僕を殺したいならここを壊すしかないんだよ」
余裕の笑みを浮かべて語るレヴィに一気に駆け寄る。全身を最大まで強化して突き出される攻撃はウィルのそれよりも早かった。ウィルはジンのその攻撃を見て驚愕した。自分との組手でも全力であったはずだ。だが彼の動きはその時のものをはるかに凌駕していた。
猛烈な攻勢にレヴィも怯んでいるのではないかと、鈍った頭の中で感じていた。思考がまとまらない彼の頭ではそう見えたのだ。
だがジンは焦っていた。立ち合って見て、漠然と恐怖していた存在が、目の前にいるものが本当の化け物であるということがわかったからだ。自分の攻撃が全く通用しない。そもそも届きすらしない。かつて戦った森の主など、この悪魔に比べればゴミのようなものだった。それがわかって一層、ジンは焦りを募らせた。
彼が剣を突き出す。躱される。斬り上げる。躱される。斬り払う。躱される。斬り下ろす。躱される。薙ぐ。躱される。蹴り上げる。躱される。殴りかかる。躱される。
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