World End

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第3章:魔人襲来

反抗

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「ジン!くそっ、『水雨』!」

 ジンから預かった短剣と、自身に治癒の水法術を重ね掛けしたこともあって、ようやく立ち上がれるまで回復したウィルはジンに近づこうと歩み始め、その場から水法術をかけて消火しようと試みた。鎮火することには成功したが、そこには全身が焼けただれ、ほぼ虫の息のジンが倒れ伏していた。

「しっかりしろ、『治癒』!」

 何とかその場に辿り着き治療を始めたウィルを、レヴィはニヤニヤと笑いながら眺めていた。

「あはは、ほらほら急がないとその子死んじゃうよ?」

 煽るようなレヴィの声を無視してウィルはジンの治療を続ける。

「死なせねえよ…絶対に死なせねえ!」

「あはは、もう無理だよ。どれだけ火傷すれば死ぬかなんて、父さんでもわかっているだろ?それに、いつまでも僕が待ってあげるとでも?」

 その言葉に警戒しつつもウィルは治療を続ける。だがジンの体はゆっくりとしか回復していかない。ウィル自身がすでに精神力を使い果たしている状態なのだ。どれだけ気力を振り絞っても、通常時の効果は見込めなかった。それでもウィルは決して諦めようとはしなかった。そしてその思いが通じたのか、ジンの体がわずかに動いた。

 それに気づいたのか、レヴィは動き始めた。まずは歩くように、そして徐々にスピードを上げていき、ウィルたちに駆け寄る。

「あはは!」

「クソが!」

 彼は手元に転がっていた折れた短剣を拾い上げてレヴィに斬りかかる。レヴィはそれを容易く躱すと一足飛びで後退して距離をとった。

「あはは、すごいすごい、まだそんな元気があるんだね!」

 手を叩きながら言うレヴィに不快感を覚えるも、ウィルはレヴィから目をそらさずに、ジンの体の上に治癒の短剣を乗せて発動させた。

『窮地は脱したはずだ。そんならこの剣である程度は回復させられるはずだ。あとはジンを逃す時間が作れればいい』

 そう考えてウィルはレヴィに向かって短剣を構える。既に術を発動させるほどの精神力はほとんど残っていない。精々あと一回だろう。だが彼の眼からは未だ光は失われていなかった。

『こいつを使ったら俺は確実に死ぬな。だけど…だけどよぉ、俺は…俺はマリアの仇を討ちてぇ、ジンを守ってやりてぇんだ!』

 ウィルはそう心の中で強く叫んだ。そして集中を始める。おそらく自分の、生涯最後になる術を発動するために。覚悟を決めたウィルは闘気を練り上げる。

 やがて彼の体が青く輝き始める。身体中を覆う稲妻とともにそれは美しい光を放っていた。ちらりとジンを見る。

「ジン、これが俺からお前への最後のレクチャーだ。生命力を力に変えるって方法を教えてやるよ」

 ウィルはそう言って笑った。今までにないほどの優しい笑顔を向けてくる彼を、意識を取り戻したばかりの、身体中が激しく痛んでいるジンはぼんやりと眺めていた。耳に入ってくる彼の声は、痛みで脳が警告を発し続けているジンにはただの音でしかなかった。それでも彼はウィルが何をなそうとしているのか理解した。そして、彼の動きを強く観察した。父と慕う男の最後を見守るために。

「行くぜ、クソ餓鬼!」

「ああ、来なよ、父さん!」

 その言葉が放たれた瞬間にウィルは既にレヴィの背後に回っていた。先ほどまでの倍はあるかというスピードは、レヴィが見せた本気の一部にも届きうるものだった。そして思いっきりレヴィを蹴り飛ばした。

 闘気の最終形、命そのものを薪のように扱うその力は禁術とされ、ごく一部の者たちにしか伝えられていない。その身体を纏う色から『蒼気』と呼ばれ、命と引き換えに通常の何倍もの力を術者に与える。今ウィルはその力に『雷化』の術を重ねがけすることで、レヴィに届きうる速さを得たのだ。

 文字通り命を燃やすウィルはレヴィに向かって走り始めた。蒼光を残して光速で移動する彼は途中で自分の大剣を拾い上げると、そのまま突貫する。

 そこからの攻防は時間にして数秒にも満たなかったが濃密なものであった。ウィルの攻撃を紙一重で躱し、いなしていたレヴィに、徐々にウィルの剣がぶつかり始めた。

「くっ!」

 今やレヴィは爪を伸ばし、先ほどの余裕を浮かべた表情を消し去り、真剣な眼をウィルに向けて攻撃に対応していた。そんな彼にウィルの大剣は肉薄していった。圧倒的な戦闘の経験値が彼らの間にはっきりと現れていた。ウィルは相手が思わず反応してしまうような小さなフェイントを多用し、できた隙を的確に攻撃する。

 レヴィはそれに対して強引に身体能力を用いて、躱し、弾き飛ばし、いなす。それが何度も何度も両者の間で繰り返された。

 だがどれほどウィルが自分を強化していても、どれほどその実力がレヴィに迫ろうとも、それでも二人の能力の差は圧倒的に開きすぎていた。

「あはは!」

 レヴィが再び余裕な表情を、人を見下した笑い声をあげた。ウィルの動きが明らかに精彩を欠き始めたのだ。いかに肉体を回復したとしても、脳や精神への疲労は積み重なったままである。彼は『蒼気』を操れるほどの体力を持ち合わせていなかったのだ。そんなウィルに向かって、彼は左手の爪を伸ばし、突きを放つ。

 ウィルはそれに超人的な反応をして躱そうとする。だが完全には避けきれなかった。二の腕のあたりから右腕が切り離され、放物線を描いて地面に転がった。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」

 痛みに顔を歪めたウィルは嫌な予感から左手を駆使して、すぐさま自分の前に大剣の腹を見せる。そこにレヴィの強烈な蹴りが叩き込まれ、猛烈な勢いで吹き飛ばされた。

 地面に転がる彼の体を包んでいた蒼い光は消え失せていき、そこには生命力を失った影響からか、真っ白な髪になったウィルが倒れていた。

「さてと、それじゃあそろそろ殺そうか」

 何の感情もなく、気軽にそう言ったレヴィはウィルに軽い足取りで歩み寄る。立ち向かうために、左腕に力を入れて起き上がろうとするも、片腕ではバランスをうまく取れず、立ち上がれなかった。

「父さん、これで本当にさよならだね」

「はっ、クソが…」

 ウィルは全てを諦めた。もはや自分は立ち上がることもできない。

「悪いなマリア、ジン…」

 悲しみに、悔しさに涙を流しながらウィルはレヴィを見据える。

「あはは、バイバイ」

 伸ばした右手の爪を鋭利な刃物に変えて、レヴィはウィルの喉元に向けて突き放った。
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