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第4章:学園編
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ベインが言ったように2日後、全クラスの生徒が運動場に集められた。ここでチーム分けを発表するとのことである。
「……次、3班!分隊長はSクラスのフォルス!班員は…」
Bクラスの担任で武術教練の授業を担当する女性教師、アルト・ティアリスが次々とチームを発表していく。
「おお、あれがアレキウス団長の。あー、一緒に組んでみてえ」
ルースが拳を握りながらジンに小さく囁いてくる。
「珍しいな。女子の方がいいんじゃないのか?」
「そりゃまあ、女子も捨てがたいけどよ、あの人の前ですげえ活躍すればアレキウス団長の耳にも入るかもしれねえだろ?」
「逆もまた然りだけどねー」
マルシェがニヤニヤと笑いながらルースにつっこむ。
「うっせ!」
そうこうしているうちに3班のメンバーが読み上げられた。
「あーあ、残念だったねー」
マルシェの声にルースはガックリとうなだれた。
「ドンマイ」
そんなルースの右肩にポンと手を置いて、普段やる気なさげな表情ばかりを浮かべているアルがにこやかに笑いかける。
「こんな時ばっか笑顔になるなよ!」
声を抑えながら騒いでいるとエルマーがおどおどしながらルースとアルに話しかけた。
「ふ、二人とも落ち着いて。先生が見てるよ」
その声にルースとアルが前方に目を向けると、一人の教員が彼らを見ていた。
「なああれ誰だ?初めて見たんだけど」
二人につられて顔を向けたジンはその男性教師を今まで見たことがなかった。他のメンツは授業なりなんなりで知っている。
「確か保健医だったと思うよー、確か名前は…サール・イアートだったかな。結構かっこいいよね。ね、アルるん」
「………ねえ、それ私のあだ名なの?」
「前にベイン先生にやられて保健室に行った時にあったぜ。いい人だったよ、薬臭かったけどな」
「ふーん」
もう一度そちらの方に目を向けると、興味を失ったのか他の騒いでいる生徒の方に目を向けていた。
「えー、それじゃあ11班!分隊長はSクラスのシオン!班員は…」
「お、シオンくんだ!一緒になれるといいなー、ね、ジンくん?」
「あ?いや俺は別にどうで…」
「…最後はEクラスのアカツキチーム!」
アルトが読み上げると周囲から一斉にため息が出た。どうやらシオンと同じグループに入りたかったものたちのようだ。
「ありゃりゃ、本当になっちゃったねー、どうするジンくん?」
ニマニマという音が聞こえてきそうな顔をしてマルシェが聞いてくる。
「どうするも何も、別にどうも…」
「えっ!何、お前もしかしてそうなのかよ!?うわー、チャレンジャーだなおい!」
ジンを遮るようにルースが興味津々の体でジンに顔を近づけてくる。
「違うし、近けえよ!」
「まあまあ、本当のところはどうなんだよ?」
「だからどうでもないって!」
「でも嫌いじゃないんだよねー?」
「ああ、もううるさいな!別に好きでも嫌いでもねえよ!」
執拗に詰め寄ってくる二人に思わず声を荒げると、ルースの額に水弾が直撃した。
「てめえらうるせえぞ!」
~~~~~~~~~~
その後アルトがチームを読み上げていくのを皆静かに聞いていた。ベインからのお仕置きが怖かったからだろう。
「それじゃあ班長の皆さん前へ!それから班員は今言った班長の元に集まりなさい!」
やがて全てのチームが発表されると、アルトがジンたちに告げた。未だに気絶しているルースを放置しようかとも考えたが、我慢して背負うと11班の班長であるシオンの元に向かう。
「シオンくんやっほー」
マルシェがパタパタと駆け寄ってシオンに飛びつく。
「ふふ、こないだぶりだねマルシェ」
それを受け止めて優しく微笑みかける。
「よう」
「ああうん」
ジンがルースを背負いつつ声をかけると、ブスッとしながらも返事を返してきた。マルシェがそれを見て愉快そうな顔をしている。
やがて他のクラスの面々もシオンの元に集まった。初めて見る顔がほとんどなので早速自己紹介をする。
「それじゃあまずは僕から。僕はシオン・フィル・ルグレ、シオンって呼んでくれ。一応前衛も後衛もできる。得意系統はみんな知っているかもしれないけど、4属性使うことができる。指揮するのは初めてだから色々迷惑かけるかもしれないけど、精一杯できることはやるつもりだから、一緒に三日間頑張ろう!」
「わぁ、シオンくんよろしくー」
マルシェがパチパチと拍手すると釣られて他の面々も手を叩く。それに少し赤くなりながらも右隣に視線を向ける。
「次は私ですか」
そう言って立ち上がったのはいかにも貴族然とした少年である。肩まである金色のストレートヘアの優男だ。顔にかけてある眼鏡をクイっとあげる。
「私はAクラスのアイザック・フォン・クルデリスです。法術は火・水・風法術が扱えます。前衛も後衛も可能です。それとE・Cクラス、特にEクラスの皆さん、どうか私の足を引っ張らないように。よろしくお願いしますよ?」
「な、なんだと!ふざけんなてめえ!」
唐突な侮辱とジンたちに向けて見下したような目を向ける彼にルースが吠えて立ち上がる。今にも襲いかからんばかりの表情を浮かべた。
「ちょっ!ルース止めなって!」
そんな彼をマルシェが慌てて後ろから抱き抑える。
「離せマルシェ!こいつ今俺たちのこと!」
「わかってるって!でも揉めたっていいことないよ、相手の方があんたよりもクラスが上なのは事実なんだよ?」
「ほお、その猿とは違って君は弁えるだけの頭はあるようだね。感心したよ」
「てめえ!」
「まあ落ち着けって」
さらなる言葉にルースがマルシェの拘束を無理やり外して飛びかかろうとする。だがその前にジンが彼の前に立ちふさがった。
「なんで止めんだよ!」
「シオンに任せろ」
ジンが答えたようにシオンがアイザックに向かい合った。
「はあ、アイザックだっけ?これから部隊を作るのに、君はチームを崩壊させる気か?」
シオンが片手で頭を押さえて疲れたような表情で尋ねる。
「まさか!ただ無能は無能だと事前にはっきり言っておかないと、私とシオンさんにまで被害が及ぶかもしれないじゃないですか」
心底驚いた様子の彼からは本当に自分が言ったことの意味について理解している様子はない。
「はあ、まあいいよ。後で少し話し合おう。それじゃあ次の…君、お願いできるかな?」
シオンが顔を向けたのは今の一連の流れを見ておどおどしている少女だった。濃紺のセミロングで、小動物のような振る舞いはどことなくエルマーに似ていた。人の顔を見るのが苦手なのか視線がキョロキョロと忙しなく動き回っている。
「は、はい…私はBクラスのクラン・コダードです。え、えっと、得意なのは土と水法術です。あ、あんまり運動は得意じゃないです。よ、よろしくお願いします」
つっかえつっかえの自己紹介を終えると、ぶんっと言う音が聞こえてくるほどの勢いで頭を下げてきた。直前のアイザックとの落差がひどく大きい。
「はい、それじゃあ…」
「はいはい!俺、イーサン!イーサンでいいぜ、んでこっちが双子の妹の…」
「初めまして、イリーナ・バートです。リーナって呼んでください」
よく似た容姿の二人はどうやら双子の兄妹のようだ。兄の方が若干背が高く、妹の方が兄よりも濃い赤毛をしている。
「俺たちCクラスで、俺は前衛で、こいつは後衛、そんで俺たちが得意なのはどっちも火!あ、でも俺はあんまり得意じゃないかも。それより体動かす方が好きだし。妹の方が俺より法術得意だよ。さすがに上のクラスとは比較にならないかもしれないけどな。好きなことは人と話すことかな?あ、でもスポーツならなんでも好きだよ。それでイリーナは運動はあんまり得意じゃないけど、勉強だけなら俺より格段に上だよ。あとはこいつの趣味は手芸でいっつもなんか作ってる。部屋の中とか作品だらけで少しきもいぐらいだからね。あ、俺の趣味?俺の趣味はねー、なんだろう?んー、あ!最近料理にハマってるんだよね、料理男子ってやつ?それと他にも…」
一度話したら止まらない口なのか自分のことと妹のことをつらつらと説明していく。
「あ、あの、もうわかったから…」
シオンが少しうんざりした顔で止めに入ろうとするも、自分の世界に入ってしまったのか、それに一切気がついていない。
「あの…」
シオンが再度止めようとしたところで、
「いい加減落ち着け、バカ兄貴!」
それまで静かにしていたイリーナがイーサンの頭を叩いた。
「あいてっ!何すんだよリーナ!」
「鬱陶しいからいい加減喋るのやめろって言ってんの!誰もあんたのガキの頃の話なんか聞きたくないっての」
「えー、そんなことないよな、な?」
周囲に賛同を求めるも、誰も微妙な笑みを浮かべる。
「君、コダードさん、あ、クランって呼んでもいい?クランはどう?興味ない?」
「え?え?」
「だからいつもそういうのやめろって言ってんでしょ、このバカ兄貴!」
「あいたたたた!ギブギブギブ!」
リーナはイーサンにヘッドロックをかける。
「本当にうちの愚兄がすいません。こんな奴ですけど悪いやつじゃないと思うんでよろしくお願いします。皆さんもなんか迷惑に感じることがあったら殴るなり蹴るなりして構いませんから。クランさんもごめんね。あ、クランさんって呼んでもいいかな?」
「は、はい大丈夫です!」
頭を下げるリーナにクランは慌てふためく。
「そ、それじゃあ次は…」
シオンがマルシェに顔を向ける。
「あ、あたし?こんにちはー、あたしマルシェ!マルシェ・サーフィス、マルシェって呼んでね!得意なのは水法術だけど基本回復しかできません!の、で、戦闘に加わることあんまないかもしれないけどよろしくね!」
「ありがと、マルシェ。それじゃあ…」
「ぼ、僕はエルマー、エルマー・オプファーです。得意なのは風法術だけど、コントロールは少し苦手です。あと運動もあんまり得意じゃないんで後衛になると思います。ご迷惑をかけると思いますけどよろしくお願いします」
エルマーが自己紹介を終えるとアルがやる気なさそうに顔を上げた。
「あー、私はアルトワール・アニックでーす。気軽にアルちゃんって呼んでねー。趣味は読書でー、得意系統は土です。よろっす」
先日の自己紹介と一言一句違えないのは、むしろすごいとジンには感じられた。
「えー、アルちゃんじゃないよー、アルるんだよー」
マルシェがアルの紹介にツッコミを入れる。
「………まじ無理、それは勘弁」
「えー、こっちも無理!」
気だるそうなアルに満面の笑みを浮かべてマルシェは反対した。
「…………はぁ」
その顔を見て重い溜息をついたアルはルースに顔を向けた。
「…俺はルース、ルース・ラント。得意のなのは火法術と剣術を少し。んで嫌いなもんは、自分が有能だって勘違いしている間抜けな金持ちのぼんぼんだ。そこの金髪以外はよろしく」
不機嫌そうな顔で自己紹介を終えるルースにアイザックが口を開きかけるがそれをシオンが制する。
「じゃあ最後に…」
シオンがジンに顔を向けてくる。
「ああ、俺はジン。ジン・アカツキだ。得意なのは剣術と体術、あとは身体強化かな。法術は正直おまけみたいなレベルだ。3日間よろしく」
その自己紹介を聞いてアイザックが鼻で笑う。
「ふっ、ほらシオンさん、やっぱりどう考えてもEクラスなんて役立たずの集まりじゃないですか。一体こんな低脳な奴らとどうやって連携するというんですか?」
「てめえ、いい加減にしろよ!」
アインザックに掴みかかったルースに向けて冷たい視線を送る。
「死にたくなかったらその汚い手を放せ猿」
「ああ、もう!どっちもやめろ!」
シオンが二人の間に土壁を作り出す。
「アイザック!頼むから班員に喧嘩をふっかけるな!ルースも!いちいちこいつの言うことに反応するな!」
シオンの剣幕に二人は渋々と従った。
「ちっ、服が垢で汚れたじゃないか」
「後でぜってぇぶっ殺す…」
その光景を笑いながら眺めていたイーサンが唐突な終わりに思わず不満げな顔をする。
「えっ!何?もう終わり?」
「馬鹿!」
「あいたっ!ごめんリーナ、ごめんってば!」
リーナにどつかれるイーサンやアイザックとルースの様子を見て、エルマーとクランはおろおろしている。
「ZZZ…」
アルはいつのまにか立ったまま眠っている。
「はあぁぁぁぁ」
シオンは彼らを見て、どっと疲れた顔をする。
「お、おつかれシオンくん」
「まあなんだ、その…頑張れよ」
マルシェとジンがその肩をポンと叩いた。
「……次、3班!分隊長はSクラスのフォルス!班員は…」
Bクラスの担任で武術教練の授業を担当する女性教師、アルト・ティアリスが次々とチームを発表していく。
「おお、あれがアレキウス団長の。あー、一緒に組んでみてえ」
ルースが拳を握りながらジンに小さく囁いてくる。
「珍しいな。女子の方がいいんじゃないのか?」
「そりゃまあ、女子も捨てがたいけどよ、あの人の前ですげえ活躍すればアレキウス団長の耳にも入るかもしれねえだろ?」
「逆もまた然りだけどねー」
マルシェがニヤニヤと笑いながらルースにつっこむ。
「うっせ!」
そうこうしているうちに3班のメンバーが読み上げられた。
「あーあ、残念だったねー」
マルシェの声にルースはガックリとうなだれた。
「ドンマイ」
そんなルースの右肩にポンと手を置いて、普段やる気なさげな表情ばかりを浮かべているアルがにこやかに笑いかける。
「こんな時ばっか笑顔になるなよ!」
声を抑えながら騒いでいるとエルマーがおどおどしながらルースとアルに話しかけた。
「ふ、二人とも落ち着いて。先生が見てるよ」
その声にルースとアルが前方に目を向けると、一人の教員が彼らを見ていた。
「なああれ誰だ?初めて見たんだけど」
二人につられて顔を向けたジンはその男性教師を今まで見たことがなかった。他のメンツは授業なりなんなりで知っている。
「確か保健医だったと思うよー、確か名前は…サール・イアートだったかな。結構かっこいいよね。ね、アルるん」
「………ねえ、それ私のあだ名なの?」
「前にベイン先生にやられて保健室に行った時にあったぜ。いい人だったよ、薬臭かったけどな」
「ふーん」
もう一度そちらの方に目を向けると、興味を失ったのか他の騒いでいる生徒の方に目を向けていた。
「えー、それじゃあ11班!分隊長はSクラスのシオン!班員は…」
「お、シオンくんだ!一緒になれるといいなー、ね、ジンくん?」
「あ?いや俺は別にどうで…」
「…最後はEクラスのアカツキチーム!」
アルトが読み上げると周囲から一斉にため息が出た。どうやらシオンと同じグループに入りたかったものたちのようだ。
「ありゃりゃ、本当になっちゃったねー、どうするジンくん?」
ニマニマという音が聞こえてきそうな顔をしてマルシェが聞いてくる。
「どうするも何も、別にどうも…」
「えっ!何、お前もしかしてそうなのかよ!?うわー、チャレンジャーだなおい!」
ジンを遮るようにルースが興味津々の体でジンに顔を近づけてくる。
「違うし、近けえよ!」
「まあまあ、本当のところはどうなんだよ?」
「だからどうでもないって!」
「でも嫌いじゃないんだよねー?」
「ああ、もううるさいな!別に好きでも嫌いでもねえよ!」
執拗に詰め寄ってくる二人に思わず声を荒げると、ルースの額に水弾が直撃した。
「てめえらうるせえぞ!」
~~~~~~~~~~
その後アルトがチームを読み上げていくのを皆静かに聞いていた。ベインからのお仕置きが怖かったからだろう。
「それじゃあ班長の皆さん前へ!それから班員は今言った班長の元に集まりなさい!」
やがて全てのチームが発表されると、アルトがジンたちに告げた。未だに気絶しているルースを放置しようかとも考えたが、我慢して背負うと11班の班長であるシオンの元に向かう。
「シオンくんやっほー」
マルシェがパタパタと駆け寄ってシオンに飛びつく。
「ふふ、こないだぶりだねマルシェ」
それを受け止めて優しく微笑みかける。
「よう」
「ああうん」
ジンがルースを背負いつつ声をかけると、ブスッとしながらも返事を返してきた。マルシェがそれを見て愉快そうな顔をしている。
やがて他のクラスの面々もシオンの元に集まった。初めて見る顔がほとんどなので早速自己紹介をする。
「それじゃあまずは僕から。僕はシオン・フィル・ルグレ、シオンって呼んでくれ。一応前衛も後衛もできる。得意系統はみんな知っているかもしれないけど、4属性使うことができる。指揮するのは初めてだから色々迷惑かけるかもしれないけど、精一杯できることはやるつもりだから、一緒に三日間頑張ろう!」
「わぁ、シオンくんよろしくー」
マルシェがパチパチと拍手すると釣られて他の面々も手を叩く。それに少し赤くなりながらも右隣に視線を向ける。
「次は私ですか」
そう言って立ち上がったのはいかにも貴族然とした少年である。肩まである金色のストレートヘアの優男だ。顔にかけてある眼鏡をクイっとあげる。
「私はAクラスのアイザック・フォン・クルデリスです。法術は火・水・風法術が扱えます。前衛も後衛も可能です。それとE・Cクラス、特にEクラスの皆さん、どうか私の足を引っ張らないように。よろしくお願いしますよ?」
「な、なんだと!ふざけんなてめえ!」
唐突な侮辱とジンたちに向けて見下したような目を向ける彼にルースが吠えて立ち上がる。今にも襲いかからんばかりの表情を浮かべた。
「ちょっ!ルース止めなって!」
そんな彼をマルシェが慌てて後ろから抱き抑える。
「離せマルシェ!こいつ今俺たちのこと!」
「わかってるって!でも揉めたっていいことないよ、相手の方があんたよりもクラスが上なのは事実なんだよ?」
「ほお、その猿とは違って君は弁えるだけの頭はあるようだね。感心したよ」
「てめえ!」
「まあ落ち着けって」
さらなる言葉にルースがマルシェの拘束を無理やり外して飛びかかろうとする。だがその前にジンが彼の前に立ちふさがった。
「なんで止めんだよ!」
「シオンに任せろ」
ジンが答えたようにシオンがアイザックに向かい合った。
「はあ、アイザックだっけ?これから部隊を作るのに、君はチームを崩壊させる気か?」
シオンが片手で頭を押さえて疲れたような表情で尋ねる。
「まさか!ただ無能は無能だと事前にはっきり言っておかないと、私とシオンさんにまで被害が及ぶかもしれないじゃないですか」
心底驚いた様子の彼からは本当に自分が言ったことの意味について理解している様子はない。
「はあ、まあいいよ。後で少し話し合おう。それじゃあ次の…君、お願いできるかな?」
シオンが顔を向けたのは今の一連の流れを見ておどおどしている少女だった。濃紺のセミロングで、小動物のような振る舞いはどことなくエルマーに似ていた。人の顔を見るのが苦手なのか視線がキョロキョロと忙しなく動き回っている。
「は、はい…私はBクラスのクラン・コダードです。え、えっと、得意なのは土と水法術です。あ、あんまり運動は得意じゃないです。よ、よろしくお願いします」
つっかえつっかえの自己紹介を終えると、ぶんっと言う音が聞こえてくるほどの勢いで頭を下げてきた。直前のアイザックとの落差がひどく大きい。
「はい、それじゃあ…」
「はいはい!俺、イーサン!イーサンでいいぜ、んでこっちが双子の妹の…」
「初めまして、イリーナ・バートです。リーナって呼んでください」
よく似た容姿の二人はどうやら双子の兄妹のようだ。兄の方が若干背が高く、妹の方が兄よりも濃い赤毛をしている。
「俺たちCクラスで、俺は前衛で、こいつは後衛、そんで俺たちが得意なのはどっちも火!あ、でも俺はあんまり得意じゃないかも。それより体動かす方が好きだし。妹の方が俺より法術得意だよ。さすがに上のクラスとは比較にならないかもしれないけどな。好きなことは人と話すことかな?あ、でもスポーツならなんでも好きだよ。それでイリーナは運動はあんまり得意じゃないけど、勉強だけなら俺より格段に上だよ。あとはこいつの趣味は手芸でいっつもなんか作ってる。部屋の中とか作品だらけで少しきもいぐらいだからね。あ、俺の趣味?俺の趣味はねー、なんだろう?んー、あ!最近料理にハマってるんだよね、料理男子ってやつ?それと他にも…」
一度話したら止まらない口なのか自分のことと妹のことをつらつらと説明していく。
「あ、あの、もうわかったから…」
シオンが少しうんざりした顔で止めに入ろうとするも、自分の世界に入ってしまったのか、それに一切気がついていない。
「あの…」
シオンが再度止めようとしたところで、
「いい加減落ち着け、バカ兄貴!」
それまで静かにしていたイリーナがイーサンの頭を叩いた。
「あいてっ!何すんだよリーナ!」
「鬱陶しいからいい加減喋るのやめろって言ってんの!誰もあんたのガキの頃の話なんか聞きたくないっての」
「えー、そんなことないよな、な?」
周囲に賛同を求めるも、誰も微妙な笑みを浮かべる。
「君、コダードさん、あ、クランって呼んでもいい?クランはどう?興味ない?」
「え?え?」
「だからいつもそういうのやめろって言ってんでしょ、このバカ兄貴!」
「あいたたたた!ギブギブギブ!」
リーナはイーサンにヘッドロックをかける。
「本当にうちの愚兄がすいません。こんな奴ですけど悪いやつじゃないと思うんでよろしくお願いします。皆さんもなんか迷惑に感じることがあったら殴るなり蹴るなりして構いませんから。クランさんもごめんね。あ、クランさんって呼んでもいいかな?」
「は、はい大丈夫です!」
頭を下げるリーナにクランは慌てふためく。
「そ、それじゃあ次は…」
シオンがマルシェに顔を向ける。
「あ、あたし?こんにちはー、あたしマルシェ!マルシェ・サーフィス、マルシェって呼んでね!得意なのは水法術だけど基本回復しかできません!の、で、戦闘に加わることあんまないかもしれないけどよろしくね!」
「ありがと、マルシェ。それじゃあ…」
「ぼ、僕はエルマー、エルマー・オプファーです。得意なのは風法術だけど、コントロールは少し苦手です。あと運動もあんまり得意じゃないんで後衛になると思います。ご迷惑をかけると思いますけどよろしくお願いします」
エルマーが自己紹介を終えるとアルがやる気なさそうに顔を上げた。
「あー、私はアルトワール・アニックでーす。気軽にアルちゃんって呼んでねー。趣味は読書でー、得意系統は土です。よろっす」
先日の自己紹介と一言一句違えないのは、むしろすごいとジンには感じられた。
「えー、アルちゃんじゃないよー、アルるんだよー」
マルシェがアルの紹介にツッコミを入れる。
「………まじ無理、それは勘弁」
「えー、こっちも無理!」
気だるそうなアルに満面の笑みを浮かべてマルシェは反対した。
「…………はぁ」
その顔を見て重い溜息をついたアルはルースに顔を向けた。
「…俺はルース、ルース・ラント。得意のなのは火法術と剣術を少し。んで嫌いなもんは、自分が有能だって勘違いしている間抜けな金持ちのぼんぼんだ。そこの金髪以外はよろしく」
不機嫌そうな顔で自己紹介を終えるルースにアイザックが口を開きかけるがそれをシオンが制する。
「じゃあ最後に…」
シオンがジンに顔を向けてくる。
「ああ、俺はジン。ジン・アカツキだ。得意なのは剣術と体術、あとは身体強化かな。法術は正直おまけみたいなレベルだ。3日間よろしく」
その自己紹介を聞いてアイザックが鼻で笑う。
「ふっ、ほらシオンさん、やっぱりどう考えてもEクラスなんて役立たずの集まりじゃないですか。一体こんな低脳な奴らとどうやって連携するというんですか?」
「てめえ、いい加減にしろよ!」
アインザックに掴みかかったルースに向けて冷たい視線を送る。
「死にたくなかったらその汚い手を放せ猿」
「ああ、もう!どっちもやめろ!」
シオンが二人の間に土壁を作り出す。
「アイザック!頼むから班員に喧嘩をふっかけるな!ルースも!いちいちこいつの言うことに反応するな!」
シオンの剣幕に二人は渋々と従った。
「ちっ、服が垢で汚れたじゃないか」
「後でぜってぇぶっ殺す…」
その光景を笑いながら眺めていたイーサンが唐突な終わりに思わず不満げな顔をする。
「えっ!何?もう終わり?」
「馬鹿!」
「あいたっ!ごめんリーナ、ごめんってば!」
リーナにどつかれるイーサンやアイザックとルースの様子を見て、エルマーとクランはおろおろしている。
「ZZZ…」
アルはいつのまにか立ったまま眠っている。
「はあぁぁぁぁ」
シオンは彼らを見て、どっと疲れた顔をする。
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「まあなんだ、その…頑張れよ」
マルシェとジンがその肩をポンと叩いた。
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アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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