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第6章:ギルド編
研究者
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薄暗い部屋の中にあるベッドの上で1組の男女が肌を重ね合っていた。男の方は白衣を羽織り、学者然とした雰囲気を醸し出している。その一方でその肉体は逞しく、知性と獣性を兼ね備えている。女の方は、歳の頃は16、7歳ほどか。綺麗なアッシュグレーの長い髪に、少女と女性に変わりつつある顔は誰もが必ず振り返るであろうと断言できるほど美しい。一方でその体には凹凸がまるでなく、一見すると少年にも見間違えるかもしれない。
ただそんな彼女に唯一違和感があるとしたら、それはどこも見ていないと確信できるほどに虚ろな茶色の瞳である。時折、快感によるためか、単なる呼吸か分からないが、息を小さく吐き出し、瞬きをするため生きていることは確かである。だが彼女を見れば誰もが真っ先に思い浮かぶ言葉は『人形』であろう。
やがて男は満足したのか、少女から離れた。しかしその顔に浮かぶのは不満の感情である。
「やっぱ人形相手じゃねえ、燃えないよね」
男にとって、その少女は『人形』であって、人間ではない。事実彼は何体もその少女の『スペア』を所持している。細胞さえあればいくらでも生み出すことができるからだ。
「でも、あの子はダメだしねえ」
そう言った彼の頭に過ったのは、偶然完成した彼女だ。魂を持たない目の前の人形とは異なり、完成体は意思疎通ができ、自らの考えで行動し、法術すらも扱えることから、彼女が魂を持っていることを彼は確信している。
だが彼はそんな彼女に手を出すことは決してない。そんなことをすれば、せっかく定着している魂が体から抜け出してしまう可能性がある。未だに成功した原因が分かっていないため、手の出しようがなかったのだった。
「実験がてら、誰か攫ってみようかねえ」
男がぼそりと呟く。それから少女の方にもう一度目を向けた。彼女は先ほどと一寸も変わらない姿勢のまま、全裸で手足をベッドに放り出して、瞳は虚空を向いている。男はそっと近づいて彼女の胸を強く握る。わずかばかり痛みに反応を示すが、やはり暖かいだけの人形だ。
「後片付けしておけ」
男の命令に『人形』はまるでゴーレムのように動き出した。男はそれを確認すると、部屋から出た。
男にとって、あの少女は初恋の存在だった。無論容姿も(少々体については難ありだが)好みではある。しかしむしろオリジナルの彼女が持っていた能力と精神性が非常に魅力的であった。なんの打算もなく、誰かのために自分を投げ打つことができるというのは、闇の世界で生きてきた彼にとっては非常に新鮮だった。そういった人間がいるというのは聞いていたし、何度かそれらしき光景も見たことはあるが、彼女ほど衝撃を与えてくれる存在はいなかった。
能力にしても彼が集めた被験体の中でも最高だった。いつぞやのAクラスの少年など、足下にも及ばない。人間的にも、才能的にも、彼女は彼にとってパーフェクトだった。
「そういえば、あのAクラスの子は今どこにいるんだろうねえ」
少女のことを考えていた過程で思い出した少年について考える。魔人化実験ではなく、彼には様々な実験でお世話になった。途中精神が壊れそうになったが、幸いなことにそれも完成体の彼女の手伝いによってことなきを得た。
惜しむらくは交配実験の際、目を離していた隙に番いと共に逃げられてしまったことか。状況から見ておそらく彼女がわざと逃したのだろう。オリジンの外の森の中にある自らの実験場で飼育していたため、森に逃げ込まれると探すのが困難だった。一応探しはしたが結局見つけることは叶わなかった。
彼女が裏切ったことを知って、怒りのあまり、何体もの彼女の『スペア』を犯して殺した。しかし冷静になって考えると、この行動も彼にとっては非常に喜ばしいものである。なぜなら命令を聞かないというのは、彼女が真に魂を持っているのだという証明でもあるからだ。
「それにしても……」
もう一人の少年の顔が頭に浮かぶ。『無神術』を操る彼は、結局手に入れることができなかった。試しに拐おうかとも考えたが、厳重な警備の前に結局断念したのだ。そして次に彼の話を聞いたのは行方が分からなくなったということだった。今でもなぜ無理矢理にでも行かなかったのかと後悔するが、後の祭りだ。
「さてと……」
彼は自身の体を術で包み込む。否、自分が心酔する神より与えられた権能を使って、肉体ごと作り変えた。やがてあっという間にその姿が別人へと変化した。この姿は数年前に実験台にした男から得たものだ。容姿というよりも、男の職業が持つメリットに惹かれて手に入れた。
「それじゃあねえ、今日のお仕事を始めようかねえ」
男は白衣を脱ぎ捨て、いつもの服に着替えると、実験台が転がるあの場所へと向かうことにした。
~~~~~~~~~~~~
朝の清涼な空気が、男の全身を包み込んだ。大きな伸びを一つして、男は歩き出す。やがて彼は少年少女達の集う学び舎へと足を踏み入れた。もちろん教員として。
「先生、おはようございます!」
「はいはい、おはようございますねえ」
何人もの生徒が自分に挨拶をしてくる。それに一つずつ丁寧に答えながら、男は今後の計画を頭の中で広げていく。
彼の目的は二つ。
人工的な魔人を誕生させること。そして神の望みに応えること。
それだけが彼の存在理由であった。
~~~~~~~~~~~~~
教壇に立った男はぐるりとクラスを見回す。このクラスの生徒は流石にSクラスに在籍できる一握りなだけはあり、自分の講義に集中している。彼が今変身しているオリジナルは、自分であれば絶対にうんざりするだろうという退屈な授業を受け持っている。そんなことを考えていると自然と笑みがこぼれた。
「さて、この問題、シオンくんに答えてもらいましょうかね」
男は今現在、最も欲している少女に目を向ける。彼女に再会した時、彼は心が震える思いだった。かつての命を落としかけていた哀れな幼い少女が、今や使徒だ。可能ならば彼女を読み解いていきたい。
「はい」
少女は立ち上がるとスラスラと回答を述べる。それに頷きながら取り留めのない妄想にしばし意識を飛ばした。
~~~~~~~~~~
夜、オリジンにある、変身した素体の家に戻ると、彼女がお供を引き連れて戻ってきていた。
「やあ、どこに行っていたんだい? 何日も戻らないから心配していたんだよ?」
男は変身を解除し、笑みを浮かべながら少女、否、20歳前半ほどの女性に話しかけた。
「あ、お父さん! おかえりなさい。ちょっと他の街まで行ってみたくって、ねえ?」
その女性に、そばにいることを許された少年に一瞬だけ目を向ける。
男は可能な限り完成体の望みを受け入れることにしている。だからこそ、彼女は何の疑問もなく彼に従っているのだろう。しかし流石に少年を拾ってきたときだけは驚いた。しかもその少年がかつて自分が実験台にした者の親族であると分かった時は、神の描いたシナリオに思わず声を出して笑ってしまった。
「そうか、何か面白いことはあったかな?」
「うん、ちょうど行商団が来ててね。いろんな話を教えてもらったんだ」
「へえ、例えばどんな話だい?」
「えっと、最近何が売れているかとか、他の街がどんな様子なのかとか、今までどんな人に会ったことがあるかとか、色々教えてもらったよ」
「そうか、それは良かったね」
にこりと彼女に笑いかけると、彼女も満面の笑みを浮かべた。
「それじゃあ、今日もお仕事を手伝ってくれるかな?」
「うん、いいよ」
彼女の様子に満足そうに頷くと、お供の少年をその場において、彼女とともに郊外にある実験場へと歩き出した。
~~~~~~~~~~~~
「今日は何の実験をするの? また人工魔人?」
「そうだよ」
「ふうん、私に何かできることってある?」
「もちろん、君の血を少しもらえないかな?」
「ああ、そっか。私の姉妹たちからは無理なんだっけ、それじゃあ、いいよ」
彼女と同じ素体なら腐る程ある。しかし、なぜかは分からないが、彼女とその他とでは明確な違いがあるのだ。一つ考えられるとしたら、それはやはり魂であろう。魂の存在により、人間は肉体を生まれた時から徐々に変質させていくのだと彼は考えている。
魔人や魔物が良い例だ。人工魔人化実験で多くの人間を魔物に変えてきた結果の産物ではあるが、後付けで魂を変質させた場合、人間は肉体を魂の形に合わせるという証明になった。つまり彼女とそれ以外の『人形』とではおそらく肉体そのものの質が異なっているのだろう。
そんな取り留めのないことを考えながら、次の実験への準備を着々と進めた。彼女はそんな彼の脇で興味深そうな顔を浮かべていた。
「さてと、今回はどんな結果になるだろうねえ」
男はぼそりと呟いた。
ただそんな彼女に唯一違和感があるとしたら、それはどこも見ていないと確信できるほどに虚ろな茶色の瞳である。時折、快感によるためか、単なる呼吸か分からないが、息を小さく吐き出し、瞬きをするため生きていることは確かである。だが彼女を見れば誰もが真っ先に思い浮かぶ言葉は『人形』であろう。
やがて男は満足したのか、少女から離れた。しかしその顔に浮かぶのは不満の感情である。
「やっぱ人形相手じゃねえ、燃えないよね」
男にとって、その少女は『人形』であって、人間ではない。事実彼は何体もその少女の『スペア』を所持している。細胞さえあればいくらでも生み出すことができるからだ。
「でも、あの子はダメだしねえ」
そう言った彼の頭に過ったのは、偶然完成した彼女だ。魂を持たない目の前の人形とは異なり、完成体は意思疎通ができ、自らの考えで行動し、法術すらも扱えることから、彼女が魂を持っていることを彼は確信している。
だが彼はそんな彼女に手を出すことは決してない。そんなことをすれば、せっかく定着している魂が体から抜け出してしまう可能性がある。未だに成功した原因が分かっていないため、手の出しようがなかったのだった。
「実験がてら、誰か攫ってみようかねえ」
男がぼそりと呟く。それから少女の方にもう一度目を向けた。彼女は先ほどと一寸も変わらない姿勢のまま、全裸で手足をベッドに放り出して、瞳は虚空を向いている。男はそっと近づいて彼女の胸を強く握る。わずかばかり痛みに反応を示すが、やはり暖かいだけの人形だ。
「後片付けしておけ」
男の命令に『人形』はまるでゴーレムのように動き出した。男はそれを確認すると、部屋から出た。
男にとって、あの少女は初恋の存在だった。無論容姿も(少々体については難ありだが)好みではある。しかしむしろオリジナルの彼女が持っていた能力と精神性が非常に魅力的であった。なんの打算もなく、誰かのために自分を投げ打つことができるというのは、闇の世界で生きてきた彼にとっては非常に新鮮だった。そういった人間がいるというのは聞いていたし、何度かそれらしき光景も見たことはあるが、彼女ほど衝撃を与えてくれる存在はいなかった。
能力にしても彼が集めた被験体の中でも最高だった。いつぞやのAクラスの少年など、足下にも及ばない。人間的にも、才能的にも、彼女は彼にとってパーフェクトだった。
「そういえば、あのAクラスの子は今どこにいるんだろうねえ」
少女のことを考えていた過程で思い出した少年について考える。魔人化実験ではなく、彼には様々な実験でお世話になった。途中精神が壊れそうになったが、幸いなことにそれも完成体の彼女の手伝いによってことなきを得た。
惜しむらくは交配実験の際、目を離していた隙に番いと共に逃げられてしまったことか。状況から見ておそらく彼女がわざと逃したのだろう。オリジンの外の森の中にある自らの実験場で飼育していたため、森に逃げ込まれると探すのが困難だった。一応探しはしたが結局見つけることは叶わなかった。
彼女が裏切ったことを知って、怒りのあまり、何体もの彼女の『スペア』を犯して殺した。しかし冷静になって考えると、この行動も彼にとっては非常に喜ばしいものである。なぜなら命令を聞かないというのは、彼女が真に魂を持っているのだという証明でもあるからだ。
「それにしても……」
もう一人の少年の顔が頭に浮かぶ。『無神術』を操る彼は、結局手に入れることができなかった。試しに拐おうかとも考えたが、厳重な警備の前に結局断念したのだ。そして次に彼の話を聞いたのは行方が分からなくなったということだった。今でもなぜ無理矢理にでも行かなかったのかと後悔するが、後の祭りだ。
「さてと……」
彼は自身の体を術で包み込む。否、自分が心酔する神より与えられた権能を使って、肉体ごと作り変えた。やがてあっという間にその姿が別人へと変化した。この姿は数年前に実験台にした男から得たものだ。容姿というよりも、男の職業が持つメリットに惹かれて手に入れた。
「それじゃあねえ、今日のお仕事を始めようかねえ」
男は白衣を脱ぎ捨て、いつもの服に着替えると、実験台が転がるあの場所へと向かうことにした。
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朝の清涼な空気が、男の全身を包み込んだ。大きな伸びを一つして、男は歩き出す。やがて彼は少年少女達の集う学び舎へと足を踏み入れた。もちろん教員として。
「先生、おはようございます!」
「はいはい、おはようございますねえ」
何人もの生徒が自分に挨拶をしてくる。それに一つずつ丁寧に答えながら、男は今後の計画を頭の中で広げていく。
彼の目的は二つ。
人工的な魔人を誕生させること。そして神の望みに応えること。
それだけが彼の存在理由であった。
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教壇に立った男はぐるりとクラスを見回す。このクラスの生徒は流石にSクラスに在籍できる一握りなだけはあり、自分の講義に集中している。彼が今変身しているオリジナルは、自分であれば絶対にうんざりするだろうという退屈な授業を受け持っている。そんなことを考えていると自然と笑みがこぼれた。
「さて、この問題、シオンくんに答えてもらいましょうかね」
男は今現在、最も欲している少女に目を向ける。彼女に再会した時、彼は心が震える思いだった。かつての命を落としかけていた哀れな幼い少女が、今や使徒だ。可能ならば彼女を読み解いていきたい。
「はい」
少女は立ち上がるとスラスラと回答を述べる。それに頷きながら取り留めのない妄想にしばし意識を飛ばした。
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夜、オリジンにある、変身した素体の家に戻ると、彼女がお供を引き連れて戻ってきていた。
「やあ、どこに行っていたんだい? 何日も戻らないから心配していたんだよ?」
男は変身を解除し、笑みを浮かべながら少女、否、20歳前半ほどの女性に話しかけた。
「あ、お父さん! おかえりなさい。ちょっと他の街まで行ってみたくって、ねえ?」
その女性に、そばにいることを許された少年に一瞬だけ目を向ける。
男は可能な限り完成体の望みを受け入れることにしている。だからこそ、彼女は何の疑問もなく彼に従っているのだろう。しかし流石に少年を拾ってきたときだけは驚いた。しかもその少年がかつて自分が実験台にした者の親族であると分かった時は、神の描いたシナリオに思わず声を出して笑ってしまった。
「そうか、何か面白いことはあったかな?」
「うん、ちょうど行商団が来ててね。いろんな話を教えてもらったんだ」
「へえ、例えばどんな話だい?」
「えっと、最近何が売れているかとか、他の街がどんな様子なのかとか、今までどんな人に会ったことがあるかとか、色々教えてもらったよ」
「そうか、それは良かったね」
にこりと彼女に笑いかけると、彼女も満面の笑みを浮かべた。
「それじゃあ、今日もお仕事を手伝ってくれるかな?」
「うん、いいよ」
彼女の様子に満足そうに頷くと、お供の少年をその場において、彼女とともに郊外にある実験場へと歩き出した。
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「今日は何の実験をするの? また人工魔人?」
「そうだよ」
「ふうん、私に何かできることってある?」
「もちろん、君の血を少しもらえないかな?」
「ああ、そっか。私の姉妹たちからは無理なんだっけ、それじゃあ、いいよ」
彼女と同じ素体なら腐る程ある。しかし、なぜかは分からないが、彼女とその他とでは明確な違いがあるのだ。一つ考えられるとしたら、それはやはり魂であろう。魂の存在により、人間は肉体を生まれた時から徐々に変質させていくのだと彼は考えている。
魔人や魔物が良い例だ。人工魔人化実験で多くの人間を魔物に変えてきた結果の産物ではあるが、後付けで魂を変質させた場合、人間は肉体を魂の形に合わせるという証明になった。つまり彼女とそれ以外の『人形』とではおそらく肉体そのものの質が異なっているのだろう。
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