World End

nao

文字の大きさ
161 / 273
第6章:ギルド編

vs魔人4

しおりを挟む
「な……んで」

 吹き飛ばされた先で、自分の上に重なっていた瓦礫から抜け出したジンは絶句した。周囲一帯が吹き飛ばされた事にでも、地面に転がりかすかなうめき声を挙げているハンゾーたちにでもない。全ての中心にいる、この景色を作り出したであろう少女を見て、ジンの口からその言葉が漏れ出た。

 彼の視線の先にいる少女の姿は先ほどまでと大きく違っていた。背中からは純白の翼が生え、その風貌はどことなく懐かしさすら覚えさせる。全く違う容姿のはずなのに、彼女の醸し出す雰囲気はナギに似ていた。それも魔人になった時の。

 ゆらりとジンの方に視線を向けてくる。その瞳からは生気が抜け、一方でその表情は恍惚としている。その全てに既視感があった。

「姉……ちゃん」

 思わずその言葉が口から溢れでた。

「どうして?」

「え?」

 突然相手から投げかけられた言葉に困惑する。

「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!?」

 壊れたように同じ言葉を続ける彼女は血が出るほどに頭を掻き毟り、突然静かになった。そしてジンから視線を移し、ゆらゆらと体ごと周囲をぐるりと見まわし、最後に自分の血で真っ赤に染まった手を見下ろした。

「きゃは、きゃははははははははははははははははははははははは!」

 狂ったように笑い始めた少女は首だけをジンに向ける。人間ではありえないほどに首を曲げて、ニタリと笑った。次の瞬間、ジンは凄まじい衝撃を腹部に感じたと同時に吹き飛ばされた。

「がはっ!」

 まだ残っていた家屋の壁にしこたま背中を打ち付けて、肺の中にあった空気が一気に吐き出された。感覚からして殴られたのだと判断し、動くのに支障があるかどうかをすぐさま確認する。呼吸時に痛みを感じるものの大したほどではない。それよりも状況を把握しなければならないと、彼は視線を少女に向けながら思考を開始する。

『まずは何が起きたか、だな』

 周囲の様子とあの少女の変化は密接に関わっている。ハンゾーたちをちらりと見ると生きていることは確実だが意識を失っていることがわかった。そこまで確認したところで、目の前に少女が現れる。

「きゃは!」

「ちっ!」

 舌打ちとともに少女が放った拳をギリギリのところで回避すると、お返しとばかりに彼女の腹部に思いっきり蹴りを入れる。まるで岩を蹴っているような硬い感触に、再度舌打ちをしながら距離を取ろうと後退するが、ぴったりとジンに張り付いて、アイラは次々と拳を、蹴りを放ってくる。全てが拙いために回避はできているものの、一撃でも受ければ死ぬのは確実だ。

『少しは考える時間をくれよ!』

 そんな必殺の攻撃を躱すのと同時並行で思考できるほど、ジンはまだ卓越していない。なんとか避けてはいるものの、徐々に体力も奪われてきている。

「くそっ!」

 ジンは強化した拳でアイラの顔にカウンターを入れる。しかしそれは振り抜くことができず、アイラの顔に押し返される。

「きゃははははははははははは!」

 アイラは口を大きく開けるとジンの肩に思いっきり噛み付いてきた。患部から大量に血が噴き出す。

「うぐっ、はっ、なっ、せ!」

 強引に引き剥がす事に成功するも、肩の肉を大きく喰い千切られた。痛みに顔を歪める。そこでようやくアイラが止まる。おそらく『食事』のためだろう。ぐちゃぐちゃという咀嚼音が聞こえてくる。ジンは肩を抑えながら、どうするかを考える。

『引くか? いや、そうするとあいつらが襲われる可能性が高い。なら、モガルに援護を頼むか? ダメだ、ここからあの人がいるところまで伝える手段がないし、攻撃に俺たちが巻き込まれる。そもそも効くかどうかもわからねえ』

「はは、1つしか手段が無いじゃねえか」

 ジンは覚悟を決める。

『俺がやるしかねえ』

 ここ数日の連戦と『権能』の行使で疲労が激しい。その上、どう考えても目の前にいる少女の方が、アイザックよりも強い。しかし現状の彼ではそれ以外に思い浮かぶことがない。

『限界を今ここで超えろ。俺があの娘を終わらせてやるんだ!』

 ジンは1つ深呼吸をすると体の中心に意識を傾ける。ラグナとミコトによって、自分の体の中には確かに枷のようなものが存在していることが認識できる。それを無理矢理にでも引きちぎり、力を解放しようとする。すぐさま体中の血が沸騰しているのではないかと錯覚するほど熱くなり、心臓が早鐘を打つ。それと同時に体の芯から力が吹き上がってくるのを感じる。黒い闘気が彼の体を包み込むと同時に、回復力も大幅に向上し、肩の傷が急速に塞がっていき、やがて完全に治った。肩をぐるりと回すと痛みはなく、全力で動かせると確認した。

 異変を察知したのか、食事を終えたのか、少女が活動を再開する。ジンに迫り来る拳を、今度は回避することなく鷲掴む。素の身体能力に差はあるが、強化した彼の力と少女の力とでは拮抗しているらしい。その証拠にアイラが拳を引こうとするも、微動だにせず、却ってジンが彼女の拳を握り締めると苦痛に顔を歪ませた。

「—————————————————!!!」


 甲高い悲鳴をあげて、再度ジンに噛みつこうとしたアイラの腹部に思いっきりもう片方の拳を叩き込む。空中に浮かび上がるほどの威力にアイラは苦悶の表情を浮かべた。ジンは掴んだ手を引っ張って強引に彼女を近づけると何度も何度も殴りつける。

「——————————————————!!!」

 アイラが悲鳴をあげて、ジンの攻撃から逃れようと体にバリアーを張った。これ以上ダメージが通らないと判断したジンはすぐさま距離を取ると、右手をアイラに向けて無神術『重力操作』を放つ。

「はあああああああああああ!」

 突然の負荷に、アイラは地面に這いつくばった。必死に起き上がろうとするも、ジンはその術を『権能』で強化し、アイラが逃げられないように固定し、そのまま押しつぶそうとする。楽に死なせてやりたいが、そんな配慮をできる相手ではない。事実既に左腕に力が入りにくくなってきている。彼にはもう時間があまり残されていない。

「このまま死んでくれ!」

 ジンの祈るような願いを。アイラは聞き入れることはない。

「————————————————!!!」

 アイラは張っていたバリアーを一気に放出することで、周囲一帯を吹き飛ばした。

「ちっ!」

 ジンは彼女の挙動から何をしようとしているかを察知し、術を咄嗟に解除すると、防御に力を費やす。爆風が彼に襲い掛かった。

 しかしなんとか堪えて、ジンが顔を上げると、目の前にアイラはいなかった。慌てて彼女を探すと、ミコトのそばまで接近していた。受けたダメージを回復するために彼女を喰おうとしているのだということをすぐに理解した。もはやジンが戦っているのは、アイザックが言っていた、優しい『人間』のアイラではなく、食欲と殺意に支配された『魔人』のアイラであった。

 しかしまだ間に合う。ここで彼女にミコトを殺させなければ、きっと彼女は人間として死ぬことができる。そしてそれを防ぐことができるのは、この場で彼しかいない。

「間に合え!」

 ジンは足を強化して地面を蹴る。だがその距離は無情なほどに遠い。せいぜい離れていると言っても300メートルほどで、今のジンなら数秒で辿り着ける。それでも間に合わない。まさにアイラはミコトの首筋に歯を立てようとしている。

「くそっ!」

 ジンは手を伸ばし無神術によって炎弾を放とうとする。しかし彼はすぐに術を放てない。イメージから放つまでに時差が有り過ぎるのだ。これは偏に彼が後天的に術を手に入れた事に起因している。どうしても無意識で発動するという感覚が掴めないのだ。だからこそ今、彼の術は間に合わない。ミコトは死に、アイラは魔人へと成り果てる。

「くそおおおおおお!」

 だが、ミコトとアイラの間を遮るかのように突如ハルバードがアイラの顔面目掛けて振るわれた。突然のことにアイラはなす術なく吹き飛ばされた。続いて蒼い影が彼女の背後に接近すると、その背の翼を思いっきり切り飛ばした。どさりという音とともに血に染まった白い翼が落ち、血が周囲に飛び散り、アイラが苦悶の声をあげた。

「遅れて申し訳ありませんジン様」

「わしらも微力ながら加勢させていただきます」

「ハンゾー、クロウ!」

 ところどころから血を流しながらも、彼らの身は『蒼気』で力強く輝いている。ジンは2人に向かって頷いて、アイラに目を向ける。

「よし、それじゃあ行くぞ!」

「「はっ!」」

 3人は決着をつけるために、少女に向かって駆け出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

処理中です...