World End

nao

文字の大きさ
204 / 273
第8章:王国決戦編

発見

しおりを挟む
 毎朝、ルースは日の出とともに起床して、剣を振るう。かつてジンに教えてもらった鍛錬の仕方を真似たり、教員達に教わった事をやったりしているうちに、あっという間に学校に行く時間になる。授業が終わると、彼はいつも教員達に教えを乞いながら、自分の不足しているところを改善しようと努力する。その姿はある種の求道者のようにも見えた。実際に教員達の覚えもよく、実力も彼の年代にしてはであるが、強いと評価されていた。ただ所詮は他の生徒と比べてよく出来る程度であり、彼が望む高みは遥先にある。

 それを毎日実感しながら、日々訓練に励む。その日もいつものように剣を振るって鍛錬をしていると、突然彼の目の前に水鏡が作り出された。

『ルース!』

「なんだ、マル……」

 随分と焦った様子の彼女を疑問に思う。彼女がこちらの言葉に被せることなどよくある事だが、ここまで焦っているのを見るのはあまりない。

『ジン君が、ジン君が戻ってきた!』

 その言葉に思わず握っていた剣を彼は取り落とす。

「な……んだと?」

 呆然とした表情を浮かべる彼を見て、焦ったそうにしながらもマルシェは器用に小さく叫んだ。

『早く来て!』

「お、おう!」

 ルースは訓練着から着替えるのも忘れて走り出した。

~~~~~~~~~~

「ふぅ、これで来るはず。アルるん、どんな感じ?」

 ルースに状況を伝えていたマルシェは一息つくとアルトワールに目を向けた。

「なんか……普通にデートしているみたい」

 アルトワールが観察している間、ジンもシオンも幸せそうにウィンドウショッピングを楽しんでいた。しばらく見なかった、シオンの幸福そうな顔に、正直アルトワールは面食らっていた。

「でもシオンは一体どこでジンを見つけたんだろう? あれだけ色んなところを探しても見つからなかったのに」

 シオンがこの2年近くの間、近衛騎士団ではなく、アレキウスの王国騎士団に所属していた理由の一つが、様々な場所に行く事が出来るからだった。しかしどれだけ探しても、彼の痕跡はほとんど見つける事が出来なかったのだ。そんな彼を偶然見つけたというのが、アルトワールには不思議に思えた。この広い世界で、たった一人の行方不明者を見つけるなど、無謀に近い。それも自らの意思で消えた人間をだ。偶然にしてはあまりにも出来過ぎている。

「そんな事、別にいいじゃん。シオン君が幸せならさ。それより、なんかさ、あの時を思い出さない?」

 彼女が言っている事がなんなのか、アルトワールはすぐに思い当たる。以前自分と彼女とテレサとでシオン達のデートのようなものを追いかけた事があったのだ。だがその時と明確に違うのはジンとシオンの距離感だった。

「まあ、そうだけどさ。それにしても、なんか悪い事している気になってきたわ」

 あの時以上に出歯亀もいい所だ。幸せそうな二人を遠くから眺めている自分達に少々抵抗感を覚える。しかし、マルシェはそんな事を気にしていない様子だった。溜息を吐きつつ、なんだかんだでアルトワールも付き合う事にしたのは、結局の所、彼女も2人の様子が気になったからだった。

~~~~~~~~

「はあ、はあ、はあ、そ、それで、あいつは?」

 しばらくして、ルースが荒い息を吐きながら、マルシェ達と合流した。

「今シオン君と一緒にご飯食べている所」

 マルシェはそう言うと、テラス席で楽しそうに食事を摂っている2人を指差した。その指先を追って視線を動かしたルースはすぐにジンを見つけた。2年前より背は伸び、体もしっかりとしている様子が座っているだけで想像できる。あれから自分だけではなく、彼も大きく成長してきたのだという事が分かり、嬉しさが込み上げてきた。ただそれを感じると同時に、なぜ自分達に何も言わずに去ったのかという、2年間も溜め続けてきた怒りが沸々と込み上げてきた。

「ちょっと行ってくる」

「「はあ!?」」

 彼の発言に素っ頓狂な声をマルシェとアルトワールは上げる。

「いやいやいやいや、今あの2人の間に割り込むとかありえないから!」

「あんたも少しはシオンの気持ちになって考えろ!」

「で、でもよ……」

「「絶対にダメ!」」

 2人の女子から批判されて、流行る気持ちを渋々と抑えて、ルースは席に着いた。

~~~~~~~~~

「ここまででいいよ。今日はありがとう」

 シオンはそのまま実家に向かうらしく、貴族街の近くまで2人は来ていた。流石に今のジンの格好では貴族街を歩くには、少々見窄らしくて目立ち過ぎるため、仕方なくギリギリの所まで一緒に歩く事になったのだ。

「……次、いつ会える?」

 若干ぶっきらぼうに成りつつも、ジンが尋ねる。彼から尋ねてくるのがかなり新鮮なようにシオンは感じ、思わず笑みが溢れた。

「そうだなぁ。取り敢えず、王宮にはもう報告は終えてあるし、要請が掛かるまで、しばらくは空いていると思う」

「じゃあ、明日、また明日会えるか?」

 ジンの質問にシオンは嬉しそうに頷いた。そして2人はもう一度顔を見合わせると、どちらからともなく顔を近づけていった。

「シ、シオン?」

 しかし、突如、2人の横を通り過ぎようとした馬車が止まり、中から男性が声を掛けてきた。信じられないものを見ているかのように呆然とした声に、シオンとジンはバッと距離を取る。そしてシオンがその声の主の方にギギギという音が聞こえてきそうな程ゆっくりと振り返ると、そこにはシオンとどことなく似ている雰囲気を携えた壮年の男が馬車から出てきていた。

「お、お父様……」

 そう呟くシオンの言葉を聞いて、ジンの体は姉のナギと対峙した時とは全く別の意味で硬直した。

~~~~~~~~

「それで、君は一体誰なのかな?」

 落ち着いた言葉で、無理矢理笑顔を作りながらジンに尋ねてくる。3人は今、シオンの家の応接室にいた。テーブルを挟んで向かい側にシオンとその父親であるグルード・フィル・ルグレがソファに座っており、ジンは1人掛けの椅子に座らせられていた。

「おれ……私はシオンさんとお付き合いをさせていただいている、ジン・アカツキと申します」

「ジン・アカツキ?」

 その名前にグルードは反応する。その名を忘れるわけがない。以前大切な一人娘のシオンに手を出そうとしていた男だからだ。ただでさえそれが気に入らなかったのに、その上、彼女を傷つけ、キリアン公爵の馬鹿息子との縁談をシオンが受け入れるきっかけを作ってしまったのだ。

 グルードとしては本来あの縁談を受け入れるつもりはなかった。しかし、龍魔王がオリジンに現れた事を防げなかったとして、馬鹿な貴族派が騒ぎ出した。そこで、中立派を掲げていたキリアン公爵とその一派を自陣営に引き込むために、あの縁談が立ち上ったのだ。

 非常に不愉快ではあったが、国政に携わる身として、愚かな貴族派を牽制するのには良い手である事は否定出来なかった。どうせ断るだろうと思いながらも、一応シオンと公爵の馬鹿息子を見合いさせた結果、信じられない事に彼女が受け入れてしまった。その時のグルードの心境は計り知れない。だが、シオンがまともな精神状態でなかった事だけは、彼は理解していた。それも目の前の男のせいで。

「なるほど。それで、そのジン・アカツキ君が、娘とどんな関係なのか、もう一度私に教えてくれるかね?」

 怒りを抑えつつ、もう一度尋ねるグルードの威圧感に軽く怯みながらも、ジンは再度覚悟を決める。

「シオン……娘さんとお付き合いをさせていただい……」

「よく聞こえなかった。もう一度」

「娘さんとお付き……」

「よく聞こえなかった。もう一度」

「む、娘さんと……」

 ジンに向かって引きつった笑みを浮かべていたグルードがカッと目を見開くと、立ち上がって大声で怒鳴った。

「ふざけるなあああああ!!」

 その声に、シオンもジンも驚く。

「どこの馬の骨とも知らない若造が、言うに事欠いて私の大切な、大切な娘と付き合っているだと!? 馬鹿も休み休み言え!!」

「お、お父様!」

 シオンが父を宥めようと慌ててその手を掴み、落ち着かせようとする。

「お前は黙っていなさい! 今は私とこのクソ野郎が話しているんだ!」

 狂ったように怒りを露にするグルードに怯みつつも、ジンは毅然と立ち向かおうとする。

「お、お父様!」

「誰がお前のお父様だ!!」

「も、申し訳ありません、グルード侯爵! しかし、どうかお嬢さんとのお付き合いを認めていただけ……」

「それ以上、一言でも言ってみろ。お前をあらゆる手を用いてこの世から消してやる!!」

 その言葉には本気の意志が伴っていた。

「それでも、どうかシオンさんとのお付き合いを認めてください!」

 ジンの言葉で彼の怒りは頂点に達したらしく、テーブルを飛び越えてジンに掴みかかろうとした。

「お父様、ごめんなさい!」

 しかし、シオンがそれを制するために、素早く動き、首に手刀を落とす。その結果、グルード侯爵が伸ばした手ははジンに辿り着く事はなく、彼はそのまま気絶した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...