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第8章:王国決戦編

勇者の人助け

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 森の中で、突然襲いかかってきた鋭い爪を躱して、カウンターとして剣を切り上げて残っていた片腕を切り飛ばす。痛みに喚くデカブツの足元に入ると、両足を切り裂いた。俺の方に倒れ込んできたので、軽く後ろに飛んだ。四肢を奪われ、動けないデカブツが俺に憎悪の目を向けてくる。

「見てんじゃねぇよ。バーカ」

 その頭に剣を突き立てる。少し震えた後にデカブツは死んだ。

「また意味わかんねぇやつかよ」

 血のついた剣をセルトに投げる。慌てながら手を切らないようになんとか受け止めて、血を拭う。それからセルトは短剣を出して、急いでデカブツに近づくと、恐る恐るその腹を捌き、魔核を探し始めた。

「合成獣って言うのよね。うぇっ、気持ちわるーい」

 セルトのそんな様子を見ながら、パーティーの治癒師のアリーネが鼻をつまむ。他の2人を見ると同じく嫌な顔をして鼻をつまんでいた。確かにデカブツの糞の匂いが半端ねえ。吐き気がする程だ。放置していきたいが、態々ぶっ殺したのに、高く売れる魔核を無視していくとか骨折り損のなんとやらだ。

「おい、早くしろ!」

「は、はい!」

 俺が急き立てると、セルトは臭気で綺麗な顔を歪めながら、必死に短剣でデカブツの腹を切り裂く。

「それにしても、なんか数多くない? まだこの国に入って4、5日なのにこれで6体目よ」

 剣士のエリミスが近寄ってくる。確かにキール神聖王国に入ってから数日で、もう何度も合成獣とかいう化け物に襲われている。色んな魔獣の特徴を持った面倒な奴らだ。雑魚だがこう何度も現れると、正直だりぃ。

「ねー。合成獣って滅多に出ないって話だったはずなんだけどなー」

 魔術師のウェネーは昔、チェルカという学術都市に住んでいた事があるらしい。その時に師匠に合成獣の話を聞いたのだそうだ。

「お、終わりました……」

 俺たちが話していると、くせぇ匂いを漂わせて、血塗れのセルトが魔核を持って近寄ってきた。あまりの臭さに俺を含めて全員が距離を取る。

「くせぇから近寄んじゃねぇよ」

「クスクス」

「うぇっ」

「ばっちぃ」

 俺に同調するように後ろの3人もセルトを見て笑う。セルトはまたしても泣きそうになる。幸運な事に近くに川があったので、そこに行かせる事にした。先程合成獣に襲われたばかりで、下手したらすぐそばに他にもいるかも知れないというのに、セルトはこれ幸いとばかりに川へ走って行った。まぁ、俺が法術で周囲を索敵した感じでは、大した奴はいなかったから大丈夫なはずだけどな。

「た、助けてくれ!」

「あ?」

 突然近くの草を掻き分けて、小太りの男が現れた。ボロボロの服ではあるが、かつて高級だったことは一目で分かるほどの服だった。デブはところどころ怪我をしているが、大した事はなさそうだ。近くに隠れている事には気がついていたが寄ってくるとは思っていなかった。

「た、助けてくれ!」

 もう一度デブが言ってきた。付き合うのはだりぃが、情報収集のためだ。仕方ねぇ。

「なんだおっさん?」

「わ、私は近くの街で商いをやっている者だ。私の街が、私の家族が化け物に襲われたのだ!」

「へえ、そんで家族は死んだのか?」

「わ、分からない。突然の事で、私が仕事で外に出ている間に……」

「なるほど、つまりお前は家族を探しもせずに自分だけ逃げたってぇ事か」

「し、仕方が無かったんだ! あんたもあの化け物を見れば、そうするはずだ!」

「さぁな。俺はあんたじゃねぇし、そいつも見てねぇ。ただ確かな事実としてあんのは、あんたが家族を見捨てたってぇことだけだ」

 俺の言葉にデブは下唇を噛み、強く拳を握りしめる。

「まぁ、そんな生き汚いやつ、俺は嫌いじゃねぇけどな。そんで、何があった?」

 あんまりいじめすぎるのも面倒だから聞いてやる。デブは恨めしい顔をしながらも、何があったかを話し出した。

 デブの話によると、近くの街で突然、四メートル以上のデカさの化け物が出たそうだ。蜘蛛の体にエテ公の胴体がつき、その頭がトカゲという、意味の分からねえ化け物だったらしい。多分また合成獣だろう。街に突然現れて、暴れ出し、詰めていた騎士達が応戦したものの全く歯が立っていない状況だそうだ。

「で、なんであんたは俺たちに声をかけたんだ?」

「それは……」

 デブの目線はさっき倒したデカブツに向けられていた。

「ああ、なるほど。値踏みしてたってぇ事か」

「も、申し訳ない。しかし、私に出来る事など何も……」

「ああ、別に責めてはねぇよ。ただムカついたってだけだから」

「ふふ、横から助太刀したら怒るくせによく言うわね」

 ウェネーが茶々を入れてくる。

「うっせぇ。そんで、おっさんは俺らに何をして欲しいんだ?」

「か、金ならいくらでも払う! だから私の家族を救ってくれ!」

 そう言うとデブは持っていた金の入ったズシリと重い袋を渡してきた。中を見ると、100枚以上の金貨が入っていた。これだけあれば、よっぽど遊ばなければ数年は保つだろう。

「それは前金だ。助けてくれたらその倍以上払う!」

 その言葉に俺はデブの肩を叩くと、唇を舐めた後、営業スマイルを浮かべた。

「毎度!」

~~~~~~~~~

「へぇ、あれがあんたが言っていた街か」

 街から少し離れた高台から俺たちは、その様子を見ていた。まあまあでかい街だ。人口は、多分万はいってるだろう。あちこちから火の手が上がっていた。それに建物も崩れていた。街の北側が現在進行形で崩壊しているあたり、あそこで化け物が暴れ回っているのだろう。デブの家は南側にあるので、所々崩壊はしているが、まだそこまで危険ではなさそうだ。

「ああ、頼む。早く妻を、娘達を助けてくれ!」

「へいへい、分かった分かった。おいウェネー、エリミス」

「はぁい」

「ああ」

「街の様子を見るついでに適当に人を助けてこい」

「えー、めんどー」

「アリーネじゃダメなのか?」

「うるせぇ、さっさと行け」

 ケツを軽く蹴り飛ばすと、キャアキャアと喜びながら街へと向かって行った。

「全く、あいつらはどうしてあんなんなのかねぇ」

「あ、あんたはどうするんだ?」

「俺か? 何言ってんだ。もちろんあんたの家族を助けに行くんだよ」

 デブはそれを聞いて明るい笑顔を浮かべた。

「な、ならばついてきてくれ!」

~~~~~~~~~

 デブの案内で俺たちも東門から街に入り、南区へ向かう。想像以上の惨状で気分が滅入る。そこかしこに食い散らかしが残されている上に建物が燃えていて、クソ暑い。

「あそこだ。あそこが私の家だ!」

 見ると一際立派な建物だ。結界が張られていたのか、無事な様子だった。幸運な事に、化け物はまだ奴の家には来ていなかったらしい。

「エミリー! シンシア! シーナ!」

 デブは家の中に駆け込んで行く。俺はセルトとアリーネを連れて、デブの後に従う。

 家の中に入ると、中には誰もいなかった。

「誰もいねぇじゃねぇか」

「こっちだ!」

 デブはそう言うと、俺たちは書斎らしきところに連れて行った。

「ここに緊急用の隠し部屋があるんだ!」

 本棚の前に立つと、その中の一冊を動かした。するとギギギと何かが動く音がして、ついで本棚が動き出す。動き終わった本棚が元々あった場所には地下へと続く扉があった。

「なるほどね」

 やはり俺を無視して、デブが床の扉を上げると、中に駆け降りて行った。下に降りるのが面倒だったので、俺たちはその場に残る。下から再会を喜び合う声が聞こえてきた。

「さてと。どんな顔をしてるのかねぇ」

 俺は手を擦り合わせる。態々こっちにきた理由はもちろん一つだ。お眼鏡に敵うことを切に願う。そんな事を考えていると、デブが家族を引き連れて上に上がってきた。

「へぇ」

 姉の方はシンシアといい、歳の頃は16、7か。デブの娘とは思えないほどの美人だ。妹の方はシーナというらしく、こちらは13、4ぐらいで、やはり愛らしい。今回は当たりだった。

「頼む。我々をこの街から逃してくれないか? 礼ならなんでもする!」

「ああ。いいぜ」

 俺の言葉にデブとその家族は安堵する。

「でも金はいらねぇ」

「ど、どういうことだ?」

「代わりにテメェの娘達とヤらせろ」

 後ろからアリーネのため息が聞こえてくるが無視する。

「つっ!」

「ひっ!?」

 シンシアが怯えるシーナの前に立って、庇うような動きをする。涙ぐましい家族愛に思わず感動して唇を舐める。

「な、何を?」

「いいじゃねぇか。別に減るもんじゃねぇだろ? 死なねぇ上に、助かるし気持ち良い事もできるんだ。良い事尽くしじゃねぇか」

 このままこいつらを放置すれば、確実に死ぬ。いつまでも結界が持つとは考えられないし、たかが地下室で化け物から逃げられるとは思えない。

「し、しかし……」

「……わ、わかりました。でも、でも妹にだけは手を出さないで下さい!」

 体を少し震わせながら、シンシアが俺を睨んでくる。ゾクゾクするような瞳に思わず俺は唇を舐めた。

「おい、おっさん。娘はそう言ってるぜ?」

「くっ……すまない。シンシア」

「あ、あなた!?」

「パパ!?」

 ババアと妹が驚きの声をあげる。だが外の惨状と、化け物を一目見ているデブは俺の要求を飲む以外に助かる道がない事を理解していた。

「かはは、助かるために娘を差し出すか。良いねぇ。好きだぜ、そういうやつは」

「わー、ちょー悪趣味」

 アリーネがまた茶々を入れてくるが俺はやはり無視をした。

「まあ良いだろう。シンシアつったよな。俺を満足させれば妹には手を出さないでやるよ」

「……わかりました」

 ゴクリと唾を飲み込むと、シンシアは頷いた。

「よーし、そんじゃあ、ベッドはどこだ?」

「……こちらです」

 シンシアはまるで死刑台に連れて行かれるかのように、蒼白な表情をしていた。チラリと後ろを振り返ると、デブ達は拳を握り、歯を食いしばっていた。

「じゃあ、また後で」

 俺は奴らに向かって手を振った。
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