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第8章:王国決戦編

慶事

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「はてさて、予想外の駒が現れたね」

 ガバルの姿の男が地下の研究室の中で報告書を読みながら呟く。

「勇者ね。このタイミングで現れたという事は、フィリア様には一体どのようなご計画があるのだろうね」

 すでに多くの合成獣が勇者と名乗る一向に倒されている。ちらりと男は後ろの培養槽を見る。そこには少年の姿の合成獣がいた。人工魔人を作成する過程で出来た、限りなく成功例に近い失敗作だ。ただの合成獣よりも数倍の強さがある。

「それでもねぇ、勝てるのかねぇ」

 未知数の存在を倒せる程のモノではないことを彼は理解していた。それ程までに勇者という存在は異質なのだ。何せ歴史を紐解けば、今までに四魔やラグナの使徒を滅ぼしてきた存在なのだから。女神の寵愛を受ける存在が使徒ならば、勇者は女神に溺愛されている存在だ。不完全な自分の研究成果が叶う訳がない。

「これでも普通の使徒になら勝てるぐらいの力はあるはずなんだけどねぇ」

 培養槽の中で眠る少年に優しい目を向ける。

「それに、そろそろ潮時かねぇ」

 学校で校長達から警戒されている事に、彼は気づいていた。このままでは、そのうちこの研究所も見つかるだろうと想定していた。

「そうなる前に……」

 彼はテーブルの上に置いてあった紙を持ち上げて、そこに書かれていた文章に目を通す。読みながら口角が僅かに上がる。

「彼女をどうにかしてこちらにお迎えしないとねぇ」

~~~~~~~~~

 街は悲惨な状況だった。もはや騎士団に生存者は殆どおらず、住民達もなす術なく合成獣に喰い散らかされていた。

「ふっ!」

 ジンの短剣が足の一本を切り飛ばす。それと同時にハンゾーとゴウテンも攻撃を加えた。

「やっぱり、核を破壊しねえと無理そうだな」

 回復を始めた合成獣を見ながら呟いたその言葉に、ハンゾーとゴウテンは首肯する。ミコトは現在生存者を救出中でこの場にはいない。

「このままじゃ埒があかねえぞ」

 ゴウテンがイライラしながら地面をトントンと右足で叩く。

「一気に攻めるぞ。俺は頭のを狙う」

「ならば儂は胴体を」

「じゃあ、俺は足って事だな」

 合成獣の回復力を考慮すると、一気に破壊するしかない。幸いな事にこれまでの戦いで、3つの核の位置は大体掴めている。

「行くぞ!」

 ジンの掛け声と同時にハンゾーとゴウテンが動き出す。一斉に動く3人に、合成獣も反応する。凶悪な腕が彼らを捕まえようと振り回される。それを回避して、ゴウテンが滑り込むように足元に入る。ハンゾーは巧みに背中に回り込み、蜘蛛の下半身に飛び乗った。

「いまだ!」

 そう言うと、ジンはトカゲの頭を切り落とす。それと同時にハンゾーとゴウテンの剣が正確に魔核を破壊した。地面に転がった頭に、ジンはそのまま飛び降りて短剣を突き立てた。

 ズンっという重い音と共に合成獣が倒れた。それから体が崩壊し始めた所で、ジン達は武器を仕舞った。

「全く、回復する敵ほど面倒な奴はいないよな」

 ゴウテンがぼやく。

「まあ仕方ねえよ。合成獣を作る事ができるんだ。何体も持っているに決まっている」

 すでにジン達が知る限り、20体ほど確認されている。これが全てなのかどうか、あるいはそれ以上の隠し球が残っているのか正直不明だった。

「それに、人工魔人を生み出そうとしている狂人だ。もしかしたら、もう成功しているかもしれねえしな」

「ああ、お前の知り合いの話だっけ。しっかし、人工魔人なんて本当に作れるのかよ。あまりにも信じられん話なんだがな」

「儂もそう思いたいが、あの魔人と最後に会話をしたジン様が仰っていることだ。間違いのない真実だ」

「はぁ。全く嫌な世の中になったもんだ」

 そうぼやくゴウテンに、ジンは苦笑いを浮かべた。

「みんなー! そんなとこで喋ってないで手伝ってよ!」

 ミコトが遠くからジン達に声をかけてくる。3人はお互いに顔を見合う。

「やるか」

「ええ」「ああ」

 ジンの言葉に二人が首肯した。

~~~~~~~

 シオンは近衛騎士団長のサリカと剣を交えていた。

「朝から精が出るわね」

「ああ、おはよう。どうかしたのか?」

 この国の第一王子であるアスランが汗を拭っていた所に、婚約者であるテレサがやってきた。

「うん。シオンとお昼の約束なの。いつまで待っても来ないから来ちゃった。アスランは休憩中?」

「ああ。さっきまでな。今日はこれで上がるつもりだ。何せ親父殿が俺に政務を任せてくるからな」

「あはは、それだけ期待されているって事だよ」

「まあ、期待されるのは良いけ……」

「うっ」

 テレサとアスランが話していると、カランと剣が落ちる音がした。二人がシオン達の方に目を向けると、真っ青な顔をしたシオンがペタンと地面に腰を落としていた。

「どうした? 体調が悪いのか?」

 サリカが心配そうな顔を浮かべる。テレサが慌ててシオンに駆け寄った。

「大丈夫?」

 背中を摩りながらシオンに尋ねる。

「だ、大丈夫……うぇっ」

 その場でシオンが嘔吐する。

「シ、シオン!?」

 慌てるテレサの肩をアスランが叩く。

「落ち着けテレサ。まずは医者を呼ぼう。サリカ、頼む」

「分かりました。シオンをお願いいたします」

「シオン、少しあっちで休もう?」

 テレサは近くにあった木の下を指さす。弱々しくシオンが頷いた。そこでテレサとアスランはシオンに肩を貸して、木陰まで連れて行き、横にさせた。

「すぐにサリカ様が来るからね」

 心配そうな顔を浮かべながら、テレサはシオンの頭を撫でた。

~~~~~~~~~

「エルティン先生。シオンの容体は?」

 しばらくして、なんとか歩けるようになったシオンは、自分の力で医務室に向かった。途中で医者を連れてきたサリカと合流し、そのまま医務室に戻り、検査を受けたのだ。しばらくして、シオンが休んでいる部屋から医者が出てきた。

「なんと言いましょうか……とりあえず、おめでとう、ですかな」

「エルティン先生、それってもしかして……」

 エルティンの言葉に、テレサは彼が何を言っているのか、その意味に思い当たり、思わず両手で口を隠す。

「ええ。そう言う事です」

「どういう事だ?」

 アスランがテレサに尋ねる。テレサは少し呆れたような顔をする。

「だから……」

 耳元に顔を近づけると、テレサはアスランに伝える。

「えぇぇぇ!?」

 その話を聞いて、アスランが目を丸くする。

「だから、どういう事なんだ?」

 サリカだけが気づかず、不思議そうな顔をしてエルティンに尋ねた。

「つまり、シオンさんは妊娠しています」

「は? ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 サリカの驚愕の叫びが宮殿に響き渡った。

~~~~~~~~~

「落ち着きましたかな?」

「あ、ああ。それで、シオンはこの事を知っているのか?」

 あまりの事に驚愕していたサリカが漸く落ち着きを取り戻した。

「はい。すでに伝えております」

「あの! 中に入ってもいいですか?」

 意を決したかのようにテレサが尋ねる。

「ええ、ただし、安静にするよう、あまり刺激しないようにお願いします。ただでさえ彼女は直前まで激しい訓練をしていたのですから」

 エルティンの言葉に頷き、テレサが恐る恐るドアを開けると、シオンがベッドから体を起こして、窓の外を見ていた。サリカとアスランは空気を読んで部屋の外で待機をしている。

「シオン、大丈夫?」

 ゆっくりと部屋の中に入ってきたテレサの方に、シオンが顔を向ける。

「うん……」

 しかし、明るい話題のはずなのに、彼女の顔は暗い。

「どうしたのシオン。まだ体調が悪いの?」

「ううん。なんともないよ」

「でも……」

 しばらく沈黙が流れ、やがて弱々しく、困った表情でシオンはテレサの顔を見た。

「ねえ、どうしよう、どうすればいいかな」

 聞いているようで聞いてない質問に、テレサは深く掘り下げる事を一瞬躊躇する。

「……どういう事?」

「あいつは、きっと困ると思う。ううん、絶対困る」

「あいつって、ジン君の事?」

「うん」

「彼が困るってどういう事なの?」

「……あいつはきっと子供なんて望んでいない。もしこの事を知ったら、喜んではくれると思う。でもきっと僕はあいつの重荷にしかならなくなる」

「重荷って、そんな事……」

「そんな事あるんだ!」

 シオンがヒステリックに叫ぶ。そんな姿にテレサは目を丸くした。

「ごめん。でも、あいつには絶対に叶えたい……叶えなきゃいけない目標があって、それには家族の存在は邪魔なんだ。僕はあいつのそばにいたい。だから重荷になんてなりたくないんだ」

「シオン……それじゃあ、お腹の子はどうするの? 産みたくないの?」

「……産みたい」

 シオンはぎゅっと肩を強く抱きしめる。

「ねえ、僕、どうすればいいかな?」

「……私には無責任な事は言えない。でも一つだけ。シオン、あなたは絶対にジン君に話すべきよ」

 その言葉にシオンが怯えの色を見せる。

「でも……」

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「ううん」

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「そんな事ない」

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 強い意志を込めた目で、テレサを見つめ返す。そこには先ほどまでの怯えが消えていた。それを感じ取り、テレサは優しく微笑む。

「それなら、絶対にジン君と話さなきゃ。二人が幸せになるために何をするべきかをね」

「……うん。頑張ってみるよ」

「ええ、応援しているわ」

 そう言ってテレサは優しくシオンの頭を撫でた。
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