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第8章:王国決戦編

モンスターパニック2

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 拳に纏っていた炎を消し、ルースは大きく息を吐くとマルシェの方へと振り向いて手を差し出した。

「大丈夫か?」

「う、うん」

 その手を掴みながら、立ち上がる。チラリと彼の後ろを見ると、そこにはつい先程まで彼女の教室で猛威を振るっていた化け物が死んでいた。ルースが彼女の前に現れてまだ10分程しか経っていない。それなのにほぼ無傷でルースはその化け物に勝利していた。

「悪かったな。少し遅くなって」

「う、うん」

 マルシェは目の前の危険が無くなり、唐突に周囲の様子を理解し、顔を蒼白にする。ガタガタと体が震え、ガチガチと歯を鳴らす。

「大丈夫、大丈夫だから」

 そんな彼女をルースは抱きしめ、頭を優しく撫でる。

「う、うう、うわああああああん!」

 ついには耐えきれなくなり、マルシェは大声で泣き始めた。ルースはそんな彼女を安心させるためにより一層強く抱きしめ、彼女が周囲を見ないで済むように、胸に顔を埋めさせた。

「マルシェ!」

 アルトワールが教室に駆け込んでくる。彼女の泣き声が聞こえてきたため、異変があったのだと思い、息を荒くするほど全力で走ってきたのだ。

 教室の中に入った彼女はその惨状に目を見開く。しかし、すぐに目を逸らし、泣き声のする方に目を向ける。ルースの腕の中にいるマルシェを確認し、彼女が無事である事が分かってホッと息をついた。

「マルシェ、大丈夫?」

「ア、アルるん、み、皆が、皆が!」

 ルースの胸から離れてアルトワールの胸に飛び込む。マルシェの服についている血がアルトワールの服につくが、それを気にせず、激しく泣きじゃくる彼女をアルトワールは慰める。

「とりあえず教室から出て、第2演習場に行きましょう。避難場所になっているはずよ」

 複数ある演習場は学生が模擬戦の時に使用するため、法術が外に出ないように強固な結界があり、緊急時の避難所としての役割を持っていた。第2演習場は、3年の校舎から最も近く、アルトワールの予想が正しければ、すでに多くの学生が集合しているはずだ。

「そうだな。マルシェ、動けるか?」

 その質問にマルシェは首を横に振る。恐怖で腰が抜けてしまった様だった。

「分かった。じゃあ、俺の背に乗れ」

 マルシェの前に背を向けて跪く。

「ほら、マルシェ」

 アルトワールに促され、マルシェはヨロヨロとルースの背に乗った。

「周囲の警戒は任せた」

「ええ」

 ルースとアルトワールは目配せすると、第2演習場に向けて走り出した。

~~~~~~~~

 白い翼を持った化け物達が街を蹂躙する。歪ながら人の姿を保つものもいれば、白い翼を生やしただけで、見た目は完全に化け物のものもいる。その数は100を越え、オリジンの5分の1が既に焦土と化している。

「父上、準備が整いました」

「分かった。ならば至急駆除を始めろ」

 息子のアスランにそう告げるとイースは眼下に広がる光景を忌々しく睨みつける。自分も今すぐにでも向かいたい所だが、立場がそれを許さない。彼の代わりにアスランが対処に当たる事となった。

「全く、こういう時ほど立場というものを忌々しく思うこともないな」

 ボソリと呟くと後ろで動く気配がした。

「ナディアか」

 後ろを向かずにイースが言う。

「あら~、お気づきでしたか~」

 彼の後ろには20代ほどの見た目の蠱惑的な女性が立っていた。

「託宣か?」

「はい~。フィリア様から先程お言葉をいただきました~」

 のんびりとした喋り方に若干イラつきつつも、イースは先を促す。だが彼女から告げられた事実は彼の想像を超えるほど最悪なものだった。

「使徒の一人が堕ちて、【法魔】が復活したそうです~」

「何!? それは真実なのか?」

「はい~。フィリア様は確かにそう言いました~」

「……誰が成った?」

「シオンちゃんです~」

 脳裏に銀髪の少女が浮かぶ。才能で言えばはっきり言って自分すらも超えるだろう。まだ現時点では他の使徒達の方が強いだろうが、恐らく数年の内に追い越すだろう。それほど期待を向けていた少女だった。しかし『法魔』に成ったというのが事実であれば、もう彼女は人類の敵だ。早急に排除しなければ、この世界が滅びる。まだ成り立てのうちに殺す必要がある。

「グルードには悪い事をするな」

「そうですね~」

「出る」

 そう言うとイースは装備を身につけ始めた。『法魔』を倒せる可能性があるのはこの国で彼しかいなかったからだ。

「全く、勇者は何をしているんだ」

 勇者が誕生した事は聞いていた。それが人格破綻者であるという情報も掴んでいる。さらに言えばオリジンに向かっているという事も知っていた。それなのにいつまで待っても現れず、結局今に至る。勇者は四魔を倒すための兵器であり、その力があれば『法魔』も倒せるはずだった。

「ナディア、お前は避難していろよ」

「分かってます~」

 フィリアの言葉を受け取る彼女は国において重要な存在だ。その彼女を失うことは、他の使徒を失うことよりも重い。

「さて、行くとするか」

 イースは先程感じた禍々しい力の波動の先を睨む。未だにそこから吹き荒れる嵐の様な気配に向かって、執務室の窓から飛び出した。

~~~~~~~~~

「無事だったか。いないから心配したぞ。アルトワール」

 ベインがルース達に近づいてくる。Eクラスの生徒達を引き連れてきた。どうやらアルトワールがいなかったので、探していたらしい。普段のやる気なさが薄れ、真剣な顔をしている。

「すいませんね。それよりも、今何が起こっているんですか?」

「俺も分からん。ただ既に複数のクラスが餌食になっているらしい。Cクラスはどうした?」

 ベインの質問にマルシェがルースの背で震える。

「先生」

 アルトワールが糾弾するように短く言う。

「そうか。分かった」

 その意味を理解し、ベインはそれ以上何も言わなかった。

~~~~~~~~~

「ひいいいい! 来るな! 来るな!」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」

 ディアスは自分の背後から迫ってくる白い翼を生やしたキマイラから必死に逃げていた。お供のコルテも必死で彼を追いかける。既に彼以外の3人のお付きの者は全員後ろのキマイラに喰われている。

「ディ、ディアス様! 待ってください! 待って!」

 コルテが叫ぶ。しかしディアスはそれを無視する。それどころか、口を微かに歪めて醜悪な顔を浮かべた。

「お、俺のために死ね!」

 そう言うと、ディアスは走りながら小さく呪文を呟き、地面をサッと触った。その途端、コルテの前方に土の壁が出来た。急いでいるため、大した厚さではないので壊す事は容易なのだが、混乱しているコルテにはそれが分からなかった。

「ふ、ふざけるな! ふざけるなぁあああああああ! 殺してやる! 殺してやるぞ! ディアスゥゥゥゥゥゥ!」

 壁をガンガンと殴り、コルテは怨嗟の叫びを上げる。そんな彼の後ろでザッザッザッとキマイラが近づいてくる音がした。恐る恐るコルテが振り返ると、そこには涎を垂らしてグルグルと唸るキマイラがいた。

「あ、ああ、あああああ! 許してください! お願いです! 殺さないで! 殺さな……」

 コルテの首にキマイラが噛み付く。真っ赤な血を噴き出すと同時に、喉笛を喰い千切られた。出血が止まらず、コルテは思わず喉笛を抑える。痛みよりも恐怖で感覚が麻痺していた。

「…………!」

 声にならない叫び声が響きわたり、そのまま彼はキマイラに切り裂かれた。

~~~~~~~~~

「助かった!」

 ディアスが第2演習場に入ってくる。いつものお付きは誰もおらず、荒い息を吐き、所々服が汚れている。

「ディアスか。お前一人か? いつも連れている奴らはどうした?」

 ベインが話しかける。ディアスは引き攣った笑みを浮かべる。まるで無理矢理笑おうとしているかのようだった。

「他の奴らとは途中で逸れてしまいました」

 どことなく怪しさがあるものの、今はそこを追求している時間はなかった。

「……そうか」

「きゃあああああああ!」

 突然女生徒の悲鳴がきこえてきた。

「なんだ?」

 ベインがそちらに目を向けると、演習場の入り口に白い翼を生やしたキマイラがいた。その大きさは先程ディアスが見たサイズよりも一回り大きくなっていた。

「あ、あいつは!」

「知っているのか?」

「コルテは、コルテは何をしているんだ!」

 ベインの質問に答えず、ディアスは頭を掻きむしる。

「……ルース」

「なんすか?」

「あのキマイラ、倒せそうか?」

 その言葉に、ルースはキマイラの方を見る。力は未知数だが、あまり恐怖は感じない。勝てるかは分からないが、負けない自信はある。

「多分行けます」

「そうか。まあ単騎では無理だろうからアルトワール、お前も行け」

「ええ!? 何で私が!」

 アルトワールはマルシェのそばに座っていた。突然声をかけられた上に、ベインの言葉が理解できなかった。

「テメェがいつもサボってんのは知ってんだよ。たまには役に立ちやがれ」

「で、でもマルシェが」

「そいつは俺が見ておく。だからさっさと行け!」

 その言葉に、アルトワールは渋々と立ち上がる。彼女が離れてしまう事を理解し、マルシェがギュッとアルトワールの服を掴んできた。

「マルシェ、ちょっと行ってくるね。大丈夫、絶対に帰ってくるから」

 アルトワールはマルシェの頭を撫でる。

「……うん」

 それに小さく頷いて答えた。

「ふっ、久々のタッグだな」

「そういう暑苦しいのパス」

「いやいや、パスとかねえから。気合入れていこうぜ!」

 ルースがアルトワールの肩をバシバシ叩く。

「はあ、だからあんたと組むのって面倒なのよ」

 叩かれた肩をさすりながらアルトワールはボヤいた。
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