World End

nao

文字の大きさ
235 / 273
第8章:王国決戦編

乞い願う

しおりを挟む
 法魔はハンゾーをジンに向かって放り投げる。まるで最後の別れの時間を与えるかのように。否、彼女にとってその行いはまさにそのためのものだった。今この瞬間も、フィリアが彼女とジンの戦いを覗き見ている事を、彼女は知っている。自分の役割はフィリアの為に面白い劇を生み出す事だと、彼女は十分に理解しているのだ。だからこそ、少しでも盛り上がる様に、フィリアが楽しめる様に行動する。それが彼女が造られた時に与えられた存在意義だからだ。

 特に前回と今回宿った肉体はどちらも目の前のラグナの使徒である『贄』と深い関係にあった人物だ。こんな悲劇的な戦いを放置するほど、彼女の創造者は優しくない。

「おい、ハンゾー。しっかりしろ!」

 ジンは急いで抱き上げてハンゾーの状態を確認する。身体中が切り裂かれてグチャグチャだった。右肩から左の肋まで深々とした傷があり、骨どころかその下の肺や心臓まで露出している。右腕は千切れかけており、腹部からは切れ切れになった内臓が飛び出している。左腕にはヒビが伸びており、その先の手はすでに砂の様にハラハラと崩れて溢れている。両足は切断されており、体のそこかしこから血が出ている。

「今治すから死ぬんじゃねえぞ!」

 治癒の短剣ではとてもでは無いがこれほどの傷を治す事は出来ない。ハンゾーに必要なのは回復ではなく修復だ。失われた箇所を造り直すしかない。他人を治した事はないが、幸いな事に無神術の真髄は創り出すことだった。自分の腕に行った事をハンゾーにすればいいだけだ。そう考えたジンは急いで術を発動する。ジンの狙い通り、徐々にハンゾーの肉体が元に戻り始めた。

「ジン……さ……」

「喋るんじゃねえ! いいから黙って治療されていろ!」

 だがジンの予想に反して、ハンゾーの肉体にどんどんヒビが広がっていく。

「クソっ! なんだこれ……なんなんだよ! 止まれ、止まれぇぇぇ!」

 すでに大きい怪我は修復し終えた。しかし治した所が次々とヒビ割れていく。さらには砂の様に崩れ始めた。

「ジン様、良いのです」

 治療のおかげか話す事ができる様になっていた。しかしその声には疲労の色が濃く含まれていた。

「良くねえ!」

「これは『紅気』を使った反動によるものです。生命力を使い果たしてしまえば怪我とは違って元には戻りませぬ」

 それでもジンは治そうと力を行使しようとした所で、ハンゾーが残った右手でジンを制する。

「これ以上、死にかけのジジイにお力をお使いしますな。それはこれからの戦いに取っておきますように」

「……わかった」

 そう言うと、ジンは術をとめた。最低限食い止めていた力も無くなり、ハンゾーの肉体はどんどん砂の様に崩れていく。ジンは顔を歪めて唇を強く噛み締める。血が一筋溢れた。

「それで良いのです。ジン様、死に行くジジイの願いをお聞きくださいますでしょうか?」

 静かに首肯すると、ハンゾーは嬉しそうに笑った。

「どうかあの娘を、儂の孫を殺し、悪しき魂から、宿命から救い出してください。死ぬ事すら出来ず、人を喰らう悪鬼に落ちるなどあの者も望みますまい」

 孫という言葉に目を丸くするも、ジンはハンゾーの言葉に耳を傾け直した。

「あの者の弱点は恐らく腹です。魔核がそこにあるのでしょう。先程儂が腹に向けて攻撃した時に過剰に反応しておりました。それから目に注意して下さい。先程の術の発動条件は目、手印、呪言の3つ。視覚から外れれば防ぐ事ができます」

 シオンがジンの子供を妊娠している事を、ハンゾーは知らなかった。だから法魔の行動の意味が異なる可能性を示している事など頭になかった。だがジンはハンゾーの言葉を聞いて確信した。まだシオンの意識が法魔の中で戦っている事を。ならば、彼がすべき事は一つだけだ。

「悪いなハンゾー。俺はあいつも、お前の曽孫も死なせる気はねえ。必ず救ってみせる」

 ジンはハンゾーに笑いかける。ハンゾーはジンの言葉にぱちくりとまたたいてから静かに笑った。

「左様ですか。それならばこれ以上野暮な事は言いますまい。勝ってください。勝って……全てを……取り戻し……くださ……」

 ヒビは身体中に広まり、ついにハンゾーの舌まで届き、彼は言葉を失った。だがその目にはまだ強い意志が込められていた。

「ああ、そのつもりだ」

 ジンは彼に向かって力強く、安心させるために頷いた。どんどん軽くなっていくハンゾーに、ジンは宣言する。

「必ず救ってみせる。だからお前は見ていてくれ」

 その言葉にハンゾーは動きづらくなった顔でニコリと笑う。そして砂となってジンの腕から零れ落ちた。

 空っぽになった彼の服を強く握ってから立ち上がると、法魔の方を睨みつけた。

「最後の別れを待ってくれるなんて、随分優しいんだな」

 皮肉った言葉に法魔は嗤う。

【なに、我らの至上の命題はフィリア様を喜ばせる劇を生み出す事。お前達の哀れな別れは、あの御方もさぞお悦びになるだろうて】

「はっ、相変わらず悪趣味なクソ女神だ。それより、お前さっきシオンはもう起きないって言ったよな」

【ああ、決してな】

「じゃあなんで腹の子を庇ってんだ?」

【なに?】

「分かってた事だったんだけどさ。あいつはそう簡単にお前に操られる玉じゃねえんだよ」

【馬鹿な事を。四魔の侵食に耐えられる魂など、この世に存在せぬ】

 そうは言うものの、レト自体先程の跳躍の意味が分かっていなかった。実動時間はそれほどでもないが、それでも今までに憑依した肉体の経験を、魂を吸収する事で学習してきた法魔は知識や精神の面で、戦闘経験が豊富である。それなのに、そんな自分が高速で動く相手の前で足を失う選択をするなど理解し難かった。腹など切られた側から修復すればいいのだから。だが自分の行動にシオンの精神が干渉しているのなら納得できる。

【存在せぬが、そうであるならば徹底的に喰らうまでよ】

 レトからすれば至極当然の結論である。だがそれを簡単に許すジンでは無い。

「時間なんかやるかよ!」

 ジンは一気に肉体を最大限まで強化すると、さらに権能を解放する。黒い闘気が彼の肉体を包んだ。そして一気に接近する。

【馬鹿が、あのジジイの言葉を何も理解していない様だな】

 すぐさま手印を組むと呪言を発しようとする。しかし、ジンは持っていたハンゾーの上着を法魔に向けて投げた。まるで風に押されている帆のように広がると、その影にジンは隠れる。

【『止』】

 直後、言葉がジンの所に届く。しかし服が壁となり、ジンの代わりにその場に停止した。法魔は眉を顰めるも、すぐにジンの出方を見る。

 突如頭上が暗くなり、上からジンが短剣を振り下ろしてきた。

【くっ!】

 後ろに下がってそれを回避すると、ジンはピッタリと張り付いて相手が術を発動しようとする隙を与えない。何かを放とうとする素振りを見せた瞬間に右腕を切り飛ばした。

「術を使わせるわけねえだろ!」

 距離を取れないと理解すると、レトは肉体を硬化させてジンの剣戟を防ごうとする。しかしその程度、最大限まで肉体を強化した今のジンにとっては大したものではない。あっという間にレトを切り刻んだ。

【くはっ】

「おいシオン! 目ぇ覚まさねえとガキごと叩っ斬るぞ!」

 ジンがそう叫んで、彼女の腹に向けて横薙ぎの一撃を放つ。レトは驚きながらもなんとか後退してそれを回避した。

【速さが今まで以上に増しているな。それにしても貴様、自分の子供を殺す気か?】

「当然だ。俺はシオンが表に出てくるならなんだってやってやる。たとえあいつに恨まれたとしてもな」

 当然の事だがジンにその気はない。それは対峙しているレトも理解している。だがこのブラフはレトにではなく、その内に眠る彼女への言葉だった。

【そうか。それならばやって……「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」

 突然、レトの精神を追いやって、シオンの意識が表層に出てきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...