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第8章:王国決戦編
王都陥落
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アスランはイースに呼び出され、玉座の間にいた。
「何用ですか、父上?」
彼の眼前には満身創痍のイースがいた。かつて見た凛々しい面影はまるで無く、酷く疲れ、今にも倒れそうだ。顔には深い皺が刻まれ、数時間の内に一気に20年以上の時が経ったようだった。肉体的な外傷は全く無いが、それ以上に精神が摩耗しきったのが原因であろう、とアスランは推測する。完全体となった法魔とはそれほどの相手なのだ。この国最強の使徒がなんとか生きて帰る事しか出来ない。
「これから法魔がこの宮殿に来る」
徐にイースが口を開く。
「はい。ですからこうして装備を整えて……」
アスランは最後まで戦うつもりだった。しかしイースは静かに首を横に振った。
「いいや、どんな装備で身を固めようと、あいつには敵わない」
「ならばどうしろと言うんですか!」
アスランは思わず声を荒げた。そんな事、彼は百も承知だったのだ。
「逃げろ」
イースは短くその問いに答えた。
「な……何を?」
「この王都は間も無く滅びるだろう。しかし、お前さえ、この国の王太子であるお前さえ生き延びる事が出来れば、国は滅びない」
「私も……私も最後まで戦わせてください!」
「ならん」
アスランの懇願をイースは拒絶する。
「リュカ王国のセニア女王には既に連絡してある。彼女ならばお前を悪く扱わないだろう」
「しかし……!」
「くどい。これは王命……いや、お前の父親としての最後の頼みだ」
「………」
その言葉に、アスランは下唇を血が出るほど強く噛んだ。自分の実力では無駄死にするのは間違いない。それでも最後まで戦いたかったのだ。
「生き延びさえすれば、我がキール神聖王国は滅びない。そして、探すのだ。あの悪魔を葬り去る方法を」
イースは力強く話す。アスランはしばらく逡巡すると、肩に入っていた力を抜いた。
「……分かりました。必ず法魔を倒してみせます」
法魔を倒すとは、シオンを殺すという事を同時に意味していた。しかし彼はそう言うことで覚悟を決めた。
「転移門は既に起動してある。さあ、奴が来る前に行くが良い。ああ、そうだ。ナディアも連れて行け。あいつは戦う力は無いが能力は役に立つ」
「分かりました。……ご武運を」
イースはその言葉を聞いて、アスランに向かって笑った。
~~~~~~~~~
【逃げられたか】
強い力を感じた2箇所の内の片方にレトは向かったが、そこは既にもぬけの殻だった。転移によって移動したのか、痕跡すら残っていない。
【仕方ない。もう一つの方に行くか】
再び空に舞い上がると、今度は城に向かう。瞬く間に城の上空に着くと、上から中の様子を確認する。
【強い力の源は……】
最も大きい力は先程戦ったこの国の王である事が分かった。それ以外にもさらに2人使徒らしき者達がおり、そして強くはないが異質な力を持った者が数名いた。
【まずはあそこか】
レトは城の天井部分を吹き飛ばすと、優雅に降り立った。そこは円卓が置かれた豪奢な作りの部屋であり、普段使徒達が会議を開く際に使う部屋だった。その部屋には完全武装した男女がレトを待ち構えていた。片方は以前戦った記憶がある男だった。
「……まさか本当にシオンが」
サリカが呟く。彼女の目の前にいる少女は、容姿は全く同じなのに在り方そのものが違っていた。
「ま、そんな事考えてもしょうがないよ。それよりも今考えるべきなのはここをどう切り抜けるか。それ一点だよ」
「そうだな。それにあなたと
そう言いながらウィリアムは持っていた長杖を構えた。先端に拳大の魔石が埋め込まれたシンプルな作りの杖だ。それを見て、サリカも同じく持っていたレイピアを構える。
「そうだな。それにお前と一緒なら私はどこまでも戦える」
二人で目を合わせて頷き合う。死が決まった恋人の顔をその前に魂に焼き付けるためだ。そうして改めて二人はレトを睨む。
【使徒2匹か。少しは楽しませてくれよ?】
レトは覚悟を決めた二人を見て嘲笑う。
「言われなくても!」
サリカが駆け出す。即座にウィリアムが彼女に3つの法術をかけて強化する。一つは『水鎧』、一つは『光膜』、そしてもう一つは『風迅』。水の鎧を攻撃を反射する光の膜で覆い防御力を高めると同時に、速度を上げる術をかける。『水鎧』はサリカも扱えるが、法術の扱いならウィリアムに一日の長がある。彼が創ったものの方が彼女のものより遥かに強固なのだ。それならば、彼女はそれ以外の所に自分の力を回すべきであり、実際に彼女は攻撃することにのみ専念した。
彼らの判断に間違いはない。ただ一つ過ちがあったとするならば、敵の戦力を見誤ったことだ。過去最高の肉体を手に入れて、魂を掌握し完全体となったレトの力はウィリアムがかつて戦った時と比べて数倍は強くなっていた。
法魔は指先を合わせて一言呟いた。
【千切】
その言葉とともに発せられた術がレイピアを持つサリカの右腕にあたる。
「くっ!?」
痛みを感じたと思った瞬間、腕は細かく切り刻まれ、無数の肉片となって床にボトボトと音を立てながら落ちた。
「ぐあああああ!」
サリカは痛みでその場に蹲る。
「サリカ!」
それを見たウィリアムは彼女に駆け寄り、レトとサリカの間に体を入れる。即座に法術で彼女の腕の治療を始めた。
【ほう。法術使いが前に出ていいのか?】
「うるせえ! てめえ、よくもサリカの腕を!」
いつもの飄々としたウィリアムとは異なり、言葉が荒くなる。
「ウィル……私の事はいいから戦え」
痛みを堪えながら、サリカが囁くように言う。
「お前も黙ってろ!」
ウィリアムはサリカを無視して、術に力を回す。瞬く間に傷が塞がった。
「すまねえな。流石に腕を元通りにする時間はない」
「構わない。これでまた戦える」
残った腕でレイピアを拾う。
【ふむ。意欲は十分か。だが、惜しいな。あまりにも弱すぎる。『発』】
次の一瞬で、ウィリアムの頭が弾け飛んだ。首の上から血が噴き出す。横にいたサリカの顔に愛した男の脳髄がベタリとぶつかった。
「う、うわああああああああ!」
それに激昂したサリカは型も何も関係なく、幼児のように剣をただ振り回す。その様を見て、レトは鼻で笑う。
【『捻』】
その言葉とともに、サリカの体が捻れ始めた。
「ぐっ、ああああああ!」
バキバキと骨が折れる音とともに血がそこかしこから噴き出す。
【かかかかかか!】
しばらくしてサリカは、一本の綱のように細長い肉片となった。
【さてと、喰うか】
レトはしゃがみ込んでサリカとウィリアムだったモノに手を伸ばした。
~~~~~~~~~
「来たか」
【うむ。来てやったぞ】
「サリカとウィリアムはどうした?」
【使徒達の事か? 喰った。まあまあ美味かったぞ】
「ふぅ、そうか。喰ったのか」
イースは疲れたように玉座から立ち上がった。
「それで、私も喰うのか?」
【うむ。デザートだ】
「はっ、デザートねぇ」
イースはレトの言葉に苦笑する。最強の名を恣にした自分の最後がデザートとして喰われる事だとは。そんな事を考えながら、玉座に立てかけていた剣を鞘から引き抜く。これもまた名剣であるが、先程レトに破壊された龍魔の死骸から造り出したドラグセイフほどではなかった。
「行くぞ!」
【かかか、来るがよい!】
恐怖を乗り越え、覚悟を決めてイースはレトに飛びかかった。そして5分後、イースはその生を終えた。
~~~~~~~~
この日、キール神聖王国の王都は復活した法魔とその眷属になった白い翼を生やした魔物達によって蹂躙された。数多くの人々が死に、生き残った人達は皆、オリジンから脱出する事になり、その時にもかなりの数が死亡した。使徒達も立ち向かったけど、アスラン様とナディア様を残して全員が戦死したそうだ。
オリジンはレトに占領され、死の都となり、逃げ遅れた人々は家畜としてレトとその配下に飼育される事になった。
気絶していた私は、瀕死の重傷を負っていたシオンくんのお父さんと共にルース達に連れられて、べイン先生と学校で合流した後、なんとか脱出に成功した。その時も何人もの生徒達が白い翼の魔物に喰べられたらしい。
それでも、私達は生き残った。
「何用ですか、父上?」
彼の眼前には満身創痍のイースがいた。かつて見た凛々しい面影はまるで無く、酷く疲れ、今にも倒れそうだ。顔には深い皺が刻まれ、数時間の内に一気に20年以上の時が経ったようだった。肉体的な外傷は全く無いが、それ以上に精神が摩耗しきったのが原因であろう、とアスランは推測する。完全体となった法魔とはそれほどの相手なのだ。この国最強の使徒がなんとか生きて帰る事しか出来ない。
「これから法魔がこの宮殿に来る」
徐にイースが口を開く。
「はい。ですからこうして装備を整えて……」
アスランは最後まで戦うつもりだった。しかしイースは静かに首を横に振った。
「いいや、どんな装備で身を固めようと、あいつには敵わない」
「ならばどうしろと言うんですか!」
アスランは思わず声を荒げた。そんな事、彼は百も承知だったのだ。
「逃げろ」
イースは短くその問いに答えた。
「な……何を?」
「この王都は間も無く滅びるだろう。しかし、お前さえ、この国の王太子であるお前さえ生き延びる事が出来れば、国は滅びない」
「私も……私も最後まで戦わせてください!」
「ならん」
アスランの懇願をイースは拒絶する。
「リュカ王国のセニア女王には既に連絡してある。彼女ならばお前を悪く扱わないだろう」
「しかし……!」
「くどい。これは王命……いや、お前の父親としての最後の頼みだ」
「………」
その言葉に、アスランは下唇を血が出るほど強く噛んだ。自分の実力では無駄死にするのは間違いない。それでも最後まで戦いたかったのだ。
「生き延びさえすれば、我がキール神聖王国は滅びない。そして、探すのだ。あの悪魔を葬り去る方法を」
イースは力強く話す。アスランはしばらく逡巡すると、肩に入っていた力を抜いた。
「……分かりました。必ず法魔を倒してみせます」
法魔を倒すとは、シオンを殺すという事を同時に意味していた。しかし彼はそう言うことで覚悟を決めた。
「転移門は既に起動してある。さあ、奴が来る前に行くが良い。ああ、そうだ。ナディアも連れて行け。あいつは戦う力は無いが能力は役に立つ」
「分かりました。……ご武運を」
イースはその言葉を聞いて、アスランに向かって笑った。
~~~~~~~~~
【逃げられたか】
強い力を感じた2箇所の内の片方にレトは向かったが、そこは既にもぬけの殻だった。転移によって移動したのか、痕跡すら残っていない。
【仕方ない。もう一つの方に行くか】
再び空に舞い上がると、今度は城に向かう。瞬く間に城の上空に着くと、上から中の様子を確認する。
【強い力の源は……】
最も大きい力は先程戦ったこの国の王である事が分かった。それ以外にもさらに2人使徒らしき者達がおり、そして強くはないが異質な力を持った者が数名いた。
【まずはあそこか】
レトは城の天井部分を吹き飛ばすと、優雅に降り立った。そこは円卓が置かれた豪奢な作りの部屋であり、普段使徒達が会議を開く際に使う部屋だった。その部屋には完全武装した男女がレトを待ち構えていた。片方は以前戦った記憶がある男だった。
「……まさか本当にシオンが」
サリカが呟く。彼女の目の前にいる少女は、容姿は全く同じなのに在り方そのものが違っていた。
「ま、そんな事考えてもしょうがないよ。それよりも今考えるべきなのはここをどう切り抜けるか。それ一点だよ」
「そうだな。それにあなたと
そう言いながらウィリアムは持っていた長杖を構えた。先端に拳大の魔石が埋め込まれたシンプルな作りの杖だ。それを見て、サリカも同じく持っていたレイピアを構える。
「そうだな。それにお前と一緒なら私はどこまでも戦える」
二人で目を合わせて頷き合う。死が決まった恋人の顔をその前に魂に焼き付けるためだ。そうして改めて二人はレトを睨む。
【使徒2匹か。少しは楽しませてくれよ?】
レトは覚悟を決めた二人を見て嘲笑う。
「言われなくても!」
サリカが駆け出す。即座にウィリアムが彼女に3つの法術をかけて強化する。一つは『水鎧』、一つは『光膜』、そしてもう一つは『風迅』。水の鎧を攻撃を反射する光の膜で覆い防御力を高めると同時に、速度を上げる術をかける。『水鎧』はサリカも扱えるが、法術の扱いならウィリアムに一日の長がある。彼が創ったものの方が彼女のものより遥かに強固なのだ。それならば、彼女はそれ以外の所に自分の力を回すべきであり、実際に彼女は攻撃することにのみ専念した。
彼らの判断に間違いはない。ただ一つ過ちがあったとするならば、敵の戦力を見誤ったことだ。過去最高の肉体を手に入れて、魂を掌握し完全体となったレトの力はウィリアムがかつて戦った時と比べて数倍は強くなっていた。
法魔は指先を合わせて一言呟いた。
【千切】
その言葉とともに発せられた術がレイピアを持つサリカの右腕にあたる。
「くっ!?」
痛みを感じたと思った瞬間、腕は細かく切り刻まれ、無数の肉片となって床にボトボトと音を立てながら落ちた。
「ぐあああああ!」
サリカは痛みでその場に蹲る。
「サリカ!」
それを見たウィリアムは彼女に駆け寄り、レトとサリカの間に体を入れる。即座に法術で彼女の腕の治療を始めた。
【ほう。法術使いが前に出ていいのか?】
「うるせえ! てめえ、よくもサリカの腕を!」
いつもの飄々としたウィリアムとは異なり、言葉が荒くなる。
「ウィル……私の事はいいから戦え」
痛みを堪えながら、サリカが囁くように言う。
「お前も黙ってろ!」
ウィリアムはサリカを無視して、術に力を回す。瞬く間に傷が塞がった。
「すまねえな。流石に腕を元通りにする時間はない」
「構わない。これでまた戦える」
残った腕でレイピアを拾う。
【ふむ。意欲は十分か。だが、惜しいな。あまりにも弱すぎる。『発』】
次の一瞬で、ウィリアムの頭が弾け飛んだ。首の上から血が噴き出す。横にいたサリカの顔に愛した男の脳髄がベタリとぶつかった。
「う、うわああああああああ!」
それに激昂したサリカは型も何も関係なく、幼児のように剣をただ振り回す。その様を見て、レトは鼻で笑う。
【『捻』】
その言葉とともに、サリカの体が捻れ始めた。
「ぐっ、ああああああ!」
バキバキと骨が折れる音とともに血がそこかしこから噴き出す。
【かかかかかか!】
しばらくしてサリカは、一本の綱のように細長い肉片となった。
【さてと、喰うか】
レトはしゃがみ込んでサリカとウィリアムだったモノに手を伸ばした。
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「来たか」
【うむ。来てやったぞ】
「サリカとウィリアムはどうした?」
【使徒達の事か? 喰った。まあまあ美味かったぞ】
「ふぅ、そうか。喰ったのか」
イースは疲れたように玉座から立ち上がった。
「それで、私も喰うのか?」
【うむ。デザートだ】
「はっ、デザートねぇ」
イースはレトの言葉に苦笑する。最強の名を恣にした自分の最後がデザートとして喰われる事だとは。そんな事を考えながら、玉座に立てかけていた剣を鞘から引き抜く。これもまた名剣であるが、先程レトに破壊された龍魔の死骸から造り出したドラグセイフほどではなかった。
「行くぞ!」
【かかか、来るがよい!】
恐怖を乗り越え、覚悟を決めてイースはレトに飛びかかった。そして5分後、イースはその生を終えた。
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この日、キール神聖王国の王都は復活した法魔とその眷属になった白い翼を生やした魔物達によって蹂躙された。数多くの人々が死に、生き残った人達は皆、オリジンから脱出する事になり、その時にもかなりの数が死亡した。使徒達も立ち向かったけど、アスラン様とナディア様を残して全員が戦死したそうだ。
オリジンはレトに占領され、死の都となり、逃げ遅れた人々は家畜としてレトとその配下に飼育される事になった。
気絶していた私は、瀕死の重傷を負っていたシオンくんのお父さんと共にルース達に連れられて、べイン先生と学校で合流した後、なんとか脱出に成功した。その時も何人もの生徒達が白い翼の魔物に喰べられたらしい。
それでも、私達は生き残った。
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