World End

nao

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龍の章

呼び出し

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【ちっ。また死におった】

 巨大なベッドに横になった銀色の髪の少女は不快そうな様子で舌打ちをした。彼女の近くには同じ様に全裸の男達の死体が積み上がっていた。全員性器が潰されていた。彼女に性的な接触をする様に命令された哀れな男達である。不思議な事に性行為をしようとする度に、体が拒絶反応を起こすかの様に男達が死ぬのだ。つまり、今現在、彼女の肉体は彼女の意思に従わない時があると言うことだ。

 それに苛立っていると、ドアがノックされた。レトが入る様に告げると、男が一人、報告書を持って入ってきた。彼女は一糸纏わぬ姿のまま、それに恥じる様子もなく目の前にいる翼を生やした男の報告を聞き始めた。

「……という事でして、い、未だにどこにいるかは」

 そこまで言って、彼女の不機嫌な空気を察し、男はビクビクと震えた。彼女の機嫌を損ねれば、命はないと理解していたからだ。偶然彼女に選ばれたおかげで魔物から魔人になる事ができたが、それは新たに彼女の側で仕えるという事も意味しており、ある意味では魔物の時よりも命の危険は遥かに高かった。

【『未だ』だと? 一体あとどれぐらいすれば分かるのだ? もう既に1ヶ月だぞ……何の為にお前たちを魔人にしたと思っている!】

 レトは報告をしてきた男に怒鳴る。

「ヒッ、も、申し訳ありません! 今まで以上に精一杯探させていただきますので」

 男は頭を下げて、何とかレトの機嫌を取ろうとしたが、逆効果だった。

【今まで以上? つまり今までは全力じゃなかったという事か?】

「い、いえ、そういう訳ではあ、ありません!」

【使えぬ者は死ね。…………『爆』】

 レトの言葉を聞いた男は必死に翼を使って部屋から逃げ出したが、その甲斐もなく、3秒後に爆ぜた。辺り一体に血と肉片が飛び散る。すると部屋の外に控えていた、男と同じく翼を生やしたメイドの格好をした二人の女性が後始末を開始した。

【全く、どこにいるのだ……あの忌み子は!】

 自分の腹部を見下ろす。そこを住処にしていた主は既にいなかった。その上、現在絶賛行方不明中である。だが、そんな事よりも彼女が最も苛立っている事は一つ。

【なんたる無様か。術一つまともに扱えぬとは!】

 自分の力が明らかに衰えている事を改めて実感し、彼女は怒りを露わにした。

【あのガキを殺せれば全てが収まるというのに。シオンめ、魂まで取り込まれたくせに余計な事をしおって!】

 もう一つ舌打ちを打つと、彼女の元にも呼び出しがかかった。

【チッ、面倒な】

~~~~~~~~

 身長2メートルを超える大柄でけむくじゃらな男は、無数の死体の山の上にどっかりと腰を下ろしていた。その男は眼下に広がる自分が作り上げた群れを見て、満足気な表情を浮かべた。この一年で変化させた数は既に5万を超えている。その上、最近では蠱毒の儀式を用いて、次々に屈強な10体の魔人を生み出している。彼らを生み出すために1万もの魔物を生贄にした。それからさらに争い合わせ、この10体の魔人を2体にまで削る予定である。

【いいねぃ。この調子でいけばぁ、今回は簡単にはやられねぃだろうよぉ】

 前回転生した時の事を思い出し、渋い顔をする。前回は生まれた場所が悪かったため、群れを作る前に勇者に見つかり、駆逐されたのだ。プライドが大きく傷付けられる事件だった。

 ムカつきながら、自分の近くにいた死体の頭をもぎり取ると、それを喰べ始める。口の中に見える歯はまるで肉食獣のようにギザギザとしており、頭蓋骨は中身を守る事なく脆く砕けた。

「グティス様」

 むしゃむしゃと喰べていると、声をかけられた。

【あん?】

「そろそろお時間では?」

 獣魔の下に控えていた男の魔人が頭を下げる。彼は獣魔の誕生に立ち会い、彼に頭を蹴り飛ばされた魔人だ。しかし、核は無事であったため復活する事ができた。最も、獣魔も殺す気はなかった。何せ、自分を再誕させるための儀式で生き残ったのだ。その実力は新たに作り出した10の魔人よりも上だった。

【おっ、もうそんな時間かぃ。ちょっくら行くとしますかぁ】

 獣魔グティスは獰猛な笑みを浮かべながら、大陸中央にある旧キール神聖王国の首都オリジンに向かって走り出した。それに追従するように男の魔人も走り出す。二人の速度は常軌を逸しており、瞬く間に見えなくなった。

~~~~~~~~

「ヴァーロン様、本日のお食事を準備いたしました」

 右目にモノクルをかけ、美しい金色の髪を雑に束ねて肩に流している、この世のものとは思えないほどの美貌を携えた男が外を見ていると、一人の若い女性が部屋の中に入って頭を下げた。美しい容姿ではあるが口元には鋭い牙がのぞき、さらには血が通っていないのではないかと思うほど真っ白な肌をしている。

【ふむ、今日はどのようなものを用意してくれたのかね?】

「はい、ヴァーロン様が昨日ご所望しておりました、16歳の生娘を用意いたしました。容姿等も先程確認いたしましたが、作成した基準の中でS程度は超えているでしょうか」

【ほう、それは楽しみだ。では連れてきなさい】

 その言葉を聞いて、女性はドアの前に戻って開けると、おずおずとした少女が中に入ってきた。容姿は美しいが、その格好は野暮ったく、田舎に住む農家の娘然としている。少女は恐る恐る部屋を見回して、すぐにヴァーロンを見つけてその美貌に息を飲み、瞬く間に頬を染めて虜になった。

【名前は?】

 ヴァーロンは優しく尋ねる。しかし、ぼおっとしていた少女はその質問を聞いていなかった。

「……へ?」

 と、間抜けな返答をすると、ヴァーロンはまた優しく尋ねる。

【名前は?】

 今度は慌てて土下座までして口を開いた。

「あだすはリ、リリスと言いますです」

 訛りの酷さと間違った敬語に思わずヴァーロンは苦笑する。

【ふむ、リリスか。今から何が起こるか聞いているかね?】

「へ、へい。ヴァーロン様にこん身を味わっていただげると聞いてますです」

【これから死ぬ事になるがそれでも良いのか?】

「……怖いです……ます。でんも、両親と2人の妹達の為なら、あだすの命であればいぐらでも差し上げますです」

 ヴァーロンは一家から一人以上の人間を集めないという触れを出していた。そのため誰かが犠牲になれば、残りの家族は救われるのだ。

【そうか、美しい上に勇敢にして素晴らしい考えの持ち主であるな。……気が変わった。お前は我輩の眷属にしてやろう】

 その言葉にリリスは顔を上げて目を丸くする。

「ほ、本当ですが!?」

【うむ、本当だとも。では首を差し出しなさい】

 ヴァーロンの命に従い、リリスは怯えながらも覚悟を決めた様な顔をして、髪を持ち上げて自分の首にヴァーロンが牙を立てるのを待った。次の瞬間、ヴァーロンはリリスの首に噛み付く。痛みにリリスは顔を歪めるも、すぐにそれは快楽へと変わり、その初めての快感に恍惚とした表情を浮かべ、股を濡らした。そして3分後、人間であった少女は背中にコウモリの翼を生やした魔人へと変貌した。

「ありがとうごぜぇますです、ヴァーロン様」

【おめでとう、これでお前は上位の存在へと生まれ変わった。それでは我輩から一つの命令を出すとしよう】

「それは何でしょうかです?」

【お前が恨んでいる人間を四人殺すが良い。その血肉はお主にやろう】

 その言葉には強制力が伴っていた。リリスは心の中で嫌がりつつも、その意に反して体が勝手に動き始めた。そうして彼女は元来た道を、今度は飛んで帰る事になった。

【さてと、では呼び出しに応えるとするか】

 そう言うと、ヴァーロンは立ち上がり、背中から翼を生やす。控えていた女性が頭を下げるのを尻目に、彼は旧キール神聖王国に向かう為に窓から飛び立った。

~~~~~~~

「……そうか。やっぱり龍魔から逃げる事は出来ないのか」

 つい先程、俺の頭の中にフィリア様の声が聞こえた。普段ならノヴァが聞いていたのだろうが、今はもう奴はいない。だから代わりに俺に聞こえたんだろう。その内容は、四魔が集まり、今後について話し合えという事だった。何を話すと言うのか。昔もそうだったのか。それらは全部ノヴァが知っていた事だ。俺は何も知らない。だがそんな俺でも一つだけ分かる。俺が龍魔である以上、いつかカミーラ達は巻き込まれるだろう。その時彼女達が生きていられるかは分からない。

 チラリと、ベッドの方を見る。そこではカミーラが楽しそうに息子をあやしていた。その光景に胸が熱くなる。今からする事に心が引き裂かれそうになった。だけど俺はもう決断した。そうして覚束ない足取りで彼女達に近寄る。カミーラは綺麗な顔に少し怪訝そうな表情を浮かべた。

「どうかしたんですか?」

 そう尋ねてきた彼女の意識を一瞬で奪う。まだ名前もつけていない息子が泣き出すが、それを無視してカミーラの頭を掴んだ。そして俺は無神術を発動する。この術は本当に都合がいい。俺の望む力を俺に与えてくれる。

 創造と破壊が無神術の本質であるならば、偽りの記憶すらも創り出せるのではないか。そして、本当の記憶を破壊できるのではないか。それに、肉体すらも創り変える事ができるのではないか。

 カミーラの為にそんな事を考えた俺はこの一年、無神術を学び続けてきた。幸いな事に、俺にはノヴァの記憶が一部あった。おかげで無神術の基本的な創造と破壊については苦労せずに身につける事ができ、肉体を部分部分で創り変える事が出来る様になった。しかし、記憶に関しては困難だった。最近になって漸く形にはなったが。

 俺はそんな事を思い出しつつ、苦笑しながら三つの無神術を発動する。カミーラの肉体を正常に戻し、悲惨な記憶を修正し、俺を忘れ、ただの龍魔とだけ覚えているように。それから俺がいなくなっても矛盾が生じないように偽の記憶を上書きした。

「いつか……いつかまた会いにくるから」

 そっとカミーラの唇にキスをし、息子が泣き止むようにあやす。そうして子供が眠りについた事を確認した俺は、重い、とてつもなく重い扉を開けて空へと飛び立った。

~~~~~~~

「行っちゃった……」

 私は彼の飛び去る彼の後ろ姿を眺めながら、ポツリと呟いた。

「あんな事されて、忘れられるわけないじゃないですか……バカ」

 レヴィさんは私に何かの術をかけようとしたらしい。頭の中には覚えのない記憶が沢山あって、彼との記憶が曖昧だ。それに、あの屋敷であった事も明確には思い出せない。だけど、どうやら術は不完全だったようだ。いつまでも続く、狂いそうになる程の火照りは無くなったけど、記憶についての術は上手くいかなかったみたい。

 私は彼の唇を思い出しながら、自分の口をなぞる。それからベビーベッドの中で眠る私達の子に顔を向ける。

「戻ってきても、パパなんて呼んじゃダメだからね」

 恨みがましくそんな事を言ってから苦笑する。いつかこの子がレヴィさんの事をパパと呼ぶ姿と、そんなこの子を嬉しそうに抱くレヴィさんと、それを近くで笑いながら見る私を想像し、私はベッドに横になった。
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