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最恐ドラゴンが出会いを演出する時。(4)

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8日目。

そろそろネタが尽きてきた、そう思ったので、今日の衣装はTシャツに、ショートパンツにしてみた。思いっきり生足をさらしてる。でもアストリッド様は気にしてないらしい。この人の恥ずかしい格好の基準はなんだろうと、逆に俺が気になり始めた。

そしてもう嫌だ~と思いながら、レオン様の食堂へ行く。するとそこには店を取り囲んでいる、普通の人なら、怖い~っていうだろうな~って思える男の人達がいた。どうやら店を襲撃しようとしてるみたいだ。

男の人達には怯えなかった俺だが、アストリッド様の額に浮かんだ青筋には恐怖した。これはヤバい!絶対に死人が出る!と思った俺は、その男の人達をほうきで掃くように片付けた。
アストリッド様から舌打ちされたが、人間もレオン様も店も無事だった。俺が陰で泣いただけだ。

そして今日もアストリッド様は野菜炒め。俺は勇気を出してカレーを頼んでみた。そして美味しくなかった。カレーを不味く作れる料理人を天才だと思った。

そして翌日の新聞に、俺が倒した男達が丸坊主にされた挙句、大通りに吊るされている姿がスクープとしてニュースで報道された。

あの人数を美しく吊せた技術に、思わず拍手を送ってしまった。



9日目。

今日はお店が休みだ。そして俺は早起きして、ストーキングしようとするアストリッド様を必死で止めた。

犯罪だから辞めましょうと言っても聞いてくれない。
嫌だ、嫌だと子供の様に駄々をこねて、まったく聞いてくれない。

人の嫌がる事をしてはいけませんよと言ったら、バレなきゃ良いと言う。
捕まりますよと言ったら、国を滅ぼすとか言う。

なんだか麻薬中毒の人みたいだ。いったい何が良くてここまでレオン様にハマっているのだろう。全然分からない。

あまりにも駄々をこねるので、お菓子を作って持って行きますか?と打開策を出してみた。
意外にもこれはアストリッド様の琴線に触れたらしい。

早速俺の指導のもと作り始めた。エプロン姿のアストリッド様はかわいく、この姿をレオン様に見せるのもありだと思った。

基本のクッキーを作ろうと思ったのに、なぜかアストリッド様のクッキーは消し炭になった。
もう一度挑戦したら、今度は石になった。もう一度挑戦したら、オーブンが爆発した。

なんでだと泣く、アストリッド様を慰めていたら、朝になっていた。


10日目

泣くアストリッド様を慰めて、着せた衣装は、左右にスリットの入ったスレンダーな民族衣装だ。これはアリだと思った。髪もハーフアップにしてみた。更にアリだ!

レオン様にも、似合いますね!と褒められている。アストリッド様もご機嫌だ!俺もちょっと鼻が高くなる。

そしていつもの野菜炒め。もう嫌だ。飽きた。でもこの食堂は野菜炒め以外は美味しくなかった。率直に言うと不味かった。

憂鬱な気分で食べていると、またレオン様が絡まれている。
エンカウント率高くない?ここまでくるとわざとかと思えてきた。

レオン様に絡んでる男3人の脳に軽く刺激を送り、気絶させる。一応最恐ドラゴンだ。この位は簡単にできる。周囲がざわめいている中、レオン様と目があった。アストリッド様がやったと思ったんだろう。こちらを見てる。

倒すついでに男達の思考を読んだが、レオン様への憎しみと恐れの感情が見えた。純粋にレオン様を見るとムカつくらしい。人間の思考は良く分からない。あんなに人畜無害そうなのに。
そして翌日、男3人は橋の欄干に吊るされていた。そろそろ捕まるだろうから止めて欲しいと思った。


9日目。

今日のアストリッド様の衣装は、大変だった。昨日の服を着ると駄々をこねるアストリッド様を説き伏せ、ノースリーブのスリムなワンピースを着せた。髪はハーフアップにした。頑張った。俺の努力をレオン様に褒めて欲しいと思った。
だけど、レオン様はいなかった。あまりにも客に絡まれるので退職させられたそうだ。実は俺達が目撃していたのは、ごく一部らしい。なぜだろう。あんなに良い人なのに。

しかし、それを聞いたアストリッド様の怒りはすさまじく、抑えていた威圧を解放してしまった。

店を中心とした半径1キロほどの人間を気絶させ、アストリッド様は、泣きながら家に帰った。レオン様の気持ちを慮ったのだろう。だからと言ってやって良い事と悪い事があるが……。

俺は頑張って後始末をした。幸いな事にアストリッド様は気絶させただけだったので、被害はなかった。被害を受けた人達はびっくりしていたが、謝ったら許してくれた。大らかな人達で良かった。
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