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第1章 SHP
第3話 レンタサイクルショップのオヤジ
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彼らは男に言われたとおり、車で5分ほどのところにあった百円パークに車を止めた。しかし、5人はその後困ったことに気が付いた。車で5分と言っても3~4キロはあるので、歩くには少し距離がある。
「仕方ないですね。あんなことがあったし、ここまで来てあきらめるわけにはいきませんから、歩きましょうか」
ギルフォードがため息交じりに言うと、富田林が不満さ全開で言った。
「そんなじゃ、帰ったら夜中になっちまいますよ」
「夜中は大袈裟だから」
と、由利子が空裏手のジェスチャーで突っ込みながら言った。
「私たちの足なら、1時間もかからないって。いっそ、5人でジョギングしながら行こうか、ね、葛西君」
「由利子さんたちはラフな格好だからそれもいいでしょうけど、僕ら二人はスーツを着てるんです。この格好で梅雨時にジョギングって、どんな罰ゲームですか」
由利子に話をふられた葛西が言うと、由利子がまた突っ込んだ。
「でも、走るのは刑事の仕事やろ~もん」
「あのォ、由利子さん、刑事ドラマじゃないんだから……」
「四の五の言っていても仕方ありませんわ。さっさと行きますわよ」
と言うと、紗弥がさっさと歩き出した。富田林が少し驚いて言った。
「四の五の……?」
「あ、居った、居った。刑事さんたち!!」
声の方向を見ると、さっきのオヤジが駐車場の外に立って手を振っている。
「足に困っとるんやろ。オレはこの裏の家で自転車屋とレンタサイクル屋をやっとるけん来んね」
「え?」
よく見ると、駐車場の看板の下に、レンタサイクルの案内があった。
「ひょっとして、この駐車場もオッサンの?」
由利子が若干眉を寄せながら言った。男は少しバツの悪そうに答えた。
「ま、まあ、そんなところばってんあこら何をいてててて」
男が言い終わらないうちに、紗弥が男の腕をねじりあげて言った。
「怪しいですわね、あなた。何かご存じなのではなくて?」
「あいたたた……、ご、誤解だ誤解。オレは、あの場所で最近ガス欠で困っとお人が多かけん、時々声をかけよおだけたい。そりゃまあ、商売になるっち思うたとは確かやけど……」
「さ、紗弥さん」
葛西が焦って言った。
「仮にも警察官が一緒なんですから、あまり、過激な行動は慎んでください」
紗弥は、葛西に言われてしぶしぶ男を解放した。それを見て、ギルフォードが苦笑しながら言った。
「まあ、渡りに船と言えないこともありません。せっかくだから、自転車をお借りしましょう」
「あ、ありがとうございます。やっぱり外人さんは話がわかる」
ギルフォードの提案に、男のしょぼくれた表情が商売人のホクホク顔に変わった。
「ただぁし!!」
と、富田林が厳しい表情で言った。
「疑いが消えた訳ではありませんので、後日、調べさせてもらいます。ご了承ください」
「ええっ、勘弁してくださいよお」
自転車屋のオヤジのホクホク顔が、再び情けない表情に戻った。
一行は自転車を借りると再び現場に向かった。
葛西は必死で自転車を漕いでいた。前方ではギルフォードがマウンテンバイク、由利子と紗弥がそれぞれロードバイクに乗って軽やかに走っている。一方自分はと言うとタンデム車、所謂二人乗り用自転車に富田林と仲良く乗ってえっちらおっちら漕いでいる。なんで野郎二人でこんなもんに乗らにゃならんのだと、むなしく天を仰いだ。
野郎二人のせいか微妙に息が合わない。しかも、タンデム車というものは、もともと夫婦で乗るのを前提に作られた自転車なので、前には背の高い(したがって足の長い)方が乗る方が設計に合っているのだが、葛西より背の低い(横幅では葛西に勝るが)富田林が躊躇せずに前を選んだのだから、余計に漕ぎにくくて仕方がない。それで、つい文句が口に出た。
「富田林さん、何でこんな自転車選んだんですかあ。一人乗りなら楽なのに」
「バカ者。一人一台ずつ借りるよりこっちの方が安上がりであるっ」
「何、そのケンペーくんみたいな口調」
「おまえな、下手したら教授とこれに乗ってたかもしれんのだぞ」
「え? 確かにアレクはこれを見つけて僕を呼びましたが……」
葛西は先ほどのレンタサイクル屋でのことを思い返した。
「ジュン、こっちこっち。タンデム車がありますよ」
ギルフォードに呼ばれて葛西が振り向き、ギルフォードの方に向かった。
「タンデム車?」
「二人漕ぎ用の自転車です。タンデムって直列と言う意味なんですよ。ジュン、僕と一緒にこれに乗りませんか?」
「え? 僕とアレクがですか?」
葛西はその絵を想像して若干引いたが、さして断る理由もないので「え~、どうしようかな」と迷っていたところで、ギルフォードが急に興味をシフトさせた。
「あー、ちょうど僕にピッタリのカッコイイMTBがありマシタ~。おじさん、それ借りられマスか~?」
彼は棒口調でそう言うと、そそくさとその場を離れた。富田林はその理由を知っていた。葛西の後で由利子と紗弥がギルフォードにガンを飛ばしていたのである。
「キサマ、相変わらずの鈍感ヤローだな。教授も気の毒に」
「アレクが気の毒? それとトンさんがこの自転車を選んだのと、どう関わりが?」
「トンさんゆ~な! だから、安上がりだからだと言ったろーが! 四の五の言わずにしっかりと漕げ! 前方とかなり差が目立って来たぞ」
「だから、一人乗りが良かったのに」
「くどい! 今から号令をかけるっ。 それに合わせて漕げッ! それ、オイッチニッ、オイッチニッ」
「りょうかぁい!」
葛西は半ばやけくそでペダルを踏んだ。
それとは対照的に、由利子は軽快に自転車を漕いでいた。午後の風が心地よい。
(今年は空梅雨で、まだ雨が少ないけど、今日みたいな日には良かったなあ。気っ持ちいい~)
由利子はだんだんご機嫌になった。
(まあ、梅雨終盤の大雨は怖いけど)
ふと横を見ると、紗弥がぴったりとギルフォードの後ろにつけて走っている。同じ距離を保ちつつ、紗弥は由利子を追い抜いていった。
(ってことは、紗弥さんはアレクと同じ速度で走ってるってことよね)
紗弥のとんでもない脚力を見せつけられ、由利子は驚いた。
(競輪選手でも稼げそう)
由利子の驚きをよそに、二人の影はどんどん遠のいて行った。
「くっそ~~~~! 負けるもんか!」
由利子が猛然と漕ぎ出し、富田林-葛西組はますます離されて行った。
「仕方ないですね。あんなことがあったし、ここまで来てあきらめるわけにはいきませんから、歩きましょうか」
ギルフォードがため息交じりに言うと、富田林が不満さ全開で言った。
「そんなじゃ、帰ったら夜中になっちまいますよ」
「夜中は大袈裟だから」
と、由利子が空裏手のジェスチャーで突っ込みながら言った。
「私たちの足なら、1時間もかからないって。いっそ、5人でジョギングしながら行こうか、ね、葛西君」
「由利子さんたちはラフな格好だからそれもいいでしょうけど、僕ら二人はスーツを着てるんです。この格好で梅雨時にジョギングって、どんな罰ゲームですか」
由利子に話をふられた葛西が言うと、由利子がまた突っ込んだ。
「でも、走るのは刑事の仕事やろ~もん」
「あのォ、由利子さん、刑事ドラマじゃないんだから……」
「四の五の言っていても仕方ありませんわ。さっさと行きますわよ」
と言うと、紗弥がさっさと歩き出した。富田林が少し驚いて言った。
「四の五の……?」
「あ、居った、居った。刑事さんたち!!」
声の方向を見ると、さっきのオヤジが駐車場の外に立って手を振っている。
「足に困っとるんやろ。オレはこの裏の家で自転車屋とレンタサイクル屋をやっとるけん来んね」
「え?」
よく見ると、駐車場の看板の下に、レンタサイクルの案内があった。
「ひょっとして、この駐車場もオッサンの?」
由利子が若干眉を寄せながら言った。男は少しバツの悪そうに答えた。
「ま、まあ、そんなところばってんあこら何をいてててて」
男が言い終わらないうちに、紗弥が男の腕をねじりあげて言った。
「怪しいですわね、あなた。何かご存じなのではなくて?」
「あいたたた……、ご、誤解だ誤解。オレは、あの場所で最近ガス欠で困っとお人が多かけん、時々声をかけよおだけたい。そりゃまあ、商売になるっち思うたとは確かやけど……」
「さ、紗弥さん」
葛西が焦って言った。
「仮にも警察官が一緒なんですから、あまり、過激な行動は慎んでください」
紗弥は、葛西に言われてしぶしぶ男を解放した。それを見て、ギルフォードが苦笑しながら言った。
「まあ、渡りに船と言えないこともありません。せっかくだから、自転車をお借りしましょう」
「あ、ありがとうございます。やっぱり外人さんは話がわかる」
ギルフォードの提案に、男のしょぼくれた表情が商売人のホクホク顔に変わった。
「ただぁし!!」
と、富田林が厳しい表情で言った。
「疑いが消えた訳ではありませんので、後日、調べさせてもらいます。ご了承ください」
「ええっ、勘弁してくださいよお」
自転車屋のオヤジのホクホク顔が、再び情けない表情に戻った。
一行は自転車を借りると再び現場に向かった。
葛西は必死で自転車を漕いでいた。前方ではギルフォードがマウンテンバイク、由利子と紗弥がそれぞれロードバイクに乗って軽やかに走っている。一方自分はと言うとタンデム車、所謂二人乗り用自転車に富田林と仲良く乗ってえっちらおっちら漕いでいる。なんで野郎二人でこんなもんに乗らにゃならんのだと、むなしく天を仰いだ。
野郎二人のせいか微妙に息が合わない。しかも、タンデム車というものは、もともと夫婦で乗るのを前提に作られた自転車なので、前には背の高い(したがって足の長い)方が乗る方が設計に合っているのだが、葛西より背の低い(横幅では葛西に勝るが)富田林が躊躇せずに前を選んだのだから、余計に漕ぎにくくて仕方がない。それで、つい文句が口に出た。
「富田林さん、何でこんな自転車選んだんですかあ。一人乗りなら楽なのに」
「バカ者。一人一台ずつ借りるよりこっちの方が安上がりであるっ」
「何、そのケンペーくんみたいな口調」
「おまえな、下手したら教授とこれに乗ってたかもしれんのだぞ」
「え? 確かにアレクはこれを見つけて僕を呼びましたが……」
葛西は先ほどのレンタサイクル屋でのことを思い返した。
「ジュン、こっちこっち。タンデム車がありますよ」
ギルフォードに呼ばれて葛西が振り向き、ギルフォードの方に向かった。
「タンデム車?」
「二人漕ぎ用の自転車です。タンデムって直列と言う意味なんですよ。ジュン、僕と一緒にこれに乗りませんか?」
「え? 僕とアレクがですか?」
葛西はその絵を想像して若干引いたが、さして断る理由もないので「え~、どうしようかな」と迷っていたところで、ギルフォードが急に興味をシフトさせた。
「あー、ちょうど僕にピッタリのカッコイイMTBがありマシタ~。おじさん、それ借りられマスか~?」
彼は棒口調でそう言うと、そそくさとその場を離れた。富田林はその理由を知っていた。葛西の後で由利子と紗弥がギルフォードにガンを飛ばしていたのである。
「キサマ、相変わらずの鈍感ヤローだな。教授も気の毒に」
「アレクが気の毒? それとトンさんがこの自転車を選んだのと、どう関わりが?」
「トンさんゆ~な! だから、安上がりだからだと言ったろーが! 四の五の言わずにしっかりと漕げ! 前方とかなり差が目立って来たぞ」
「だから、一人乗りが良かったのに」
「くどい! 今から号令をかけるっ。 それに合わせて漕げッ! それ、オイッチニッ、オイッチニッ」
「りょうかぁい!」
葛西は半ばやけくそでペダルを踏んだ。
それとは対照的に、由利子は軽快に自転車を漕いでいた。午後の風が心地よい。
(今年は空梅雨で、まだ雨が少ないけど、今日みたいな日には良かったなあ。気っ持ちいい~)
由利子はだんだんご機嫌になった。
(まあ、梅雨終盤の大雨は怖いけど)
ふと横を見ると、紗弥がぴったりとギルフォードの後ろにつけて走っている。同じ距離を保ちつつ、紗弥は由利子を追い抜いていった。
(ってことは、紗弥さんはアレクと同じ速度で走ってるってことよね)
紗弥のとんでもない脚力を見せつけられ、由利子は驚いた。
(競輪選手でも稼げそう)
由利子の驚きをよそに、二人の影はどんどん遠のいて行った。
「くっそ~~~~! 負けるもんか!」
由利子が猛然と漕ぎ出し、富田林-葛西組はますます離されて行った。
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