~ファンタジーアラカルト~お好み選びの短編集

イマノキ・スギロウ

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男の俺が転生させられたら女勇者になってた件

第3話「婚約者」

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 キクルを引き取ってもらうべく、次の街に来たディアーユは着いて早々、領主の館に呼び出された。いきなり呼び出された事自体は思うところがあったが、領主に会えるならこれ幸いとついでにキクルを街に引き取ってもらう話もしてしまおうと考えた。しかし、

「ようこそ、噂に名高い勇者殿に来ていただけるとは光栄です」

「お招きいただきありがとうございます」

「いえいえ、ところで、どうでしょうかこの者達は?」

「……どう、とは?」

 ディアーユの前には現在、領主とその執事、数人のメイド、そしてずらりと並ぶ筋肉ムキムキの男、男、男、男、男。

 ――なんで全員上半身裸なんだよこいつら……。

「おや? そちらの方面には疎いご様子ですね。勇者殿が村や街を救う報告が届く度、我々は日々励まされておるのですよ」

「はあ……その……、励みになっているのであればなによりです」

 あからさまな誉め言葉など本気でどうでもいい、そう思いながらも後のお願いの事を考えてディアーユは体裁としての言葉を取り繕う。

「しかし、それと同時に不安もあります。いつか勇者殿が敗れ、また魔王軍の影に怯える日々が戻ってしまうのではないか、とね」

「…………」

「失敬、御気分を悪くされたのでしたら謝ります。しかし、万が一に備えるというのはどんな時も必要な行動です。それが貴族であれ、王族であれ、、ね」

「……何がいいたいのですか?」

「これから先、魔王軍と戦う前にお世継ぎを残していただきたいのです。世界を確実に守るために」

 今すぐ魔法で館ごとこの領主吹っ飛ばしてぇ、と本気で考えながらもディアーユは表面上の平静を保ちつつ、拳を握りしめながら辛抱強く話を続けた。

「もしかして後ろに並んでいる方々はそのために?」

「はい、より強い子孫を残せるようにと領内でも屈指の戦士達を見繕ってまいりました。勇者殿が御望みであれば今すぐにでも子作りができる様に準備は万全整えてあります」

「領主様、自分が何を言っているのか本当にご理解しているのですか?」

「大丈夫です。勇者様が身重で動けない間は我が国の軍が全力でこの街を防衛してくれる手はずとなっております。なにも心配はいりません。何でしたら数年お子様をお育てになる時間もいただけるように私から陛下に…」

 これまでにも何度かディアーユにそれらしい話や流れを遠回しにそっちの方向へもっていこうとした輩は居た。だが、ここまで直球に、しかも一方的に子どもを作れなどと言ってくる者はこれまでおらず、中身が男のディアーユにとってこの領主の言葉はブチ切れるには十分だった。

 ――うん、ダメだ殺そう。

 そう思ってディアーユが魔法をぶっ放そうとした瞬間、先に横から火炎魔法が炸裂して周囲に火の粉が飛び散った。

「な、なんだ一体!?」

「……キクル!?」

 見るとそこには新たに火炎魔法を生成しながら泣きそうな顔になっているキクルの姿があった。

「ひっく、ひっく、」

「貴様、貴族に歯向かう気か!?」

「領主様に手を上げるとは、死ぬ覚悟はできているんだろうな?」
「あいつを捕まえろ!」
「このガキ!驚かせやがって!!」

 魔法を使ったのがキクルだとわかると、領主の後ろに控えていたムキムキ男たちが一斉に取り押さえようと動き始める。

「ひぃ!」

 怯えるキクルに男たちの手がかかる寸前、

「全員動くな!!」

「「「!?」」」

 部屋全体に響き渡るような音量でディアーユが声を上げ、それと同時に水魔法の応用で作った氷で男たちの足元を固めて身動きを封じる。

「勇者殿、これは一体どういうつもりですかな!?」

 ――やべ、ついいつもの人助けの癖であいつら凍らせて止めちまった、………………あ~も~、こうなったらどうにでもなれ!!

 この時、ディアーユはキクルが火炎魔法を炸裂させてから領主に問い詰められるまでのおよそ一分にも満たない短い時間の中でこの危機的状況をどうにか回避できる言い訳をなんとか考えだしていた。しかし、その言い訳を使うことはディアーユにとってまさに苦渋の決断と言えた。

「大変失礼しました、お部屋の修繕費は出させていただきます。ですが、私の婚約者の前でこんな話をされては彼が多少取り乱してもおかしくはないかと」

「こ、婚約者?」

「はい、そうです」

 「婚約者」という発言に領主もまわりの使用人たちも、そしてそう言われたキクル自身も驚きの表情を浮かべたが、唯一キクルの顔だけは周りに悟らせないようにディアーユが自分の身体で巧妙に隠した。

「こんなただの平民の子供が勇者殿の婚約者ですと? 御冗談でしょう?」

「いいえ、彼はとても素質のある素晴らしい男ですよ」

「どのような素質が?」

「彼は全属性の魔法が使えます。それにまだ見ての通り幼いですから今後の剣術や武術での成長にも期待ができます」

「……なるほど、勇者殿が自ら鍛えることでその恵まれた才能をさらに伸ばそうと、そういうことですか?」

「はい」

「…………わかりました。事情を良く知らないまま、いきなり呼び出して話を急いだこちらにも多少の非はある。今回の件は不問とすることにいたしましょう。ですが、婚約者の彼とは今後どうされるおつもりで?」

「何度も言いますが、彼はまだ子供です。戦士としてもそうですが、男としても成長するまで待つつもりです」

「それまで魔王軍に負けるつもりはないと?」

「そう努力します」

「…………いいでしょう、今日の話はここまでにしておきましょう。またいずれ」

「はい、その機会があれば」

 こうしてなんとか場を修めることに成功したディアーユはキクルを連れ、無事に領主の館を後にした。

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 ――ぬああぁぁぁぁぁ!!!! やっちまったああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! これでもうキクルをどこかに預けて一人旅に戻る訳にもいかなくなっちまった!! 
領主はもとより音魔法で把握してたけど、俺の勇者としての力を狙ってる各国の密偵達もあの館の屋根裏でこっそり聞き耳立ててやがったからなぁ、数日もすれば各国に勇者の婚約者キクルの名が知れ渡っちまう。ああもうホント最悪だ!!

 領主の館を出てからずっと自分の行動を後悔しつつ宿に戻ったディアーユは、キクルと部屋に入り二人だけの状態になったのを確かめると、部屋全体に防音結界を張ってから思い切りキクルを叱りつけた。

「一体何考えてんだこのバカ!」ゴン!

「い、痛いですよ勇者様!」

「領主の兵達に捕まってたら痛いじゃ済まなかったぞ!? わかってんのか!!?」

「うぅ、そ、それはわかってますけど、その、なんとなく勇者様が嫌そうだなぁ~って気がしたのと、領主様が今すぐにでも子作りできますって言った時に勇者様が誰かの人のものになっちゃうと思った途端、なんだか胸のあたりがぎゅって苦しくなって、気が付いたら魔法を……」

「…………はぁ~~ったく、おかげでもうお前をどこかの街に預けることも出来なくなっちまったじゃねーか!!」

「僕は別に構いませんけど、」

「こっちが構うわ!!」

「ところで、さっきの婚約者ってほんとですか? 僕なんかが勇者様のお相手に……?」

「な……勘違いすんじゃねぇ!? ああでも言わなきゃお前、貴族への反逆罪で確実に処刑、良くて一生投獄だったんだぞ? 魔法ぶっ放した尻ぬぐいしてやっただけだ!! そこんとこだけ深く感謝しとけドアホ!!」

「あ……、はい、そうですよね、助けてくれて本当にありがとうございました。やっぱりやさしいですね勇者様は」

 どことなく悲しげな表情を浮かべながらも笑顔で感謝の言葉をキクルは述べた。

「う……うっさい! べつにやさしくなんてない!!」

 その後、ある程度キクルに貴族相手に面倒事は起こすな!とお説教をしてから、ディアーユは現状の整理とこれからの予定を立てるべく、考えを巡らせた。

 ――とりあえず周りにキクルが婚約者として認知されるなら、逆に考えると面倒な男たちの求婚や種付けの危機から多少距離を置けるハズ。だからひとまずこれは良しとしよう。むさいムキムキのおっさんとくっつけられるよりはるかにマシだ。
 キクル自身にしても全属性の魔法が使えるなら本当に鍛え方次第で足手まといにはならないだろうし、いい加減荷物持ちくらいは欲しいと考えていたところだった、加えて俺の料理知識も一部ながらあいつは吸収してるからそこらの飯屋や宿で食う食事よりもうまいものが作れるようになってきている。……なんだ、よくよく考えたらあいつを婚約者として周りに誤解させておいた方が面倒が少ないんじゃないか? よし、そうしよう。これ以上面倒にならない限りこれで行こう。

 半ば強引な理由付けで自分を誤魔化すように納得させたディアーユだったが、キクルに説教をしたばかりだったため、正式なお供として連れて行くと言い出せるまで、それから数日の時間を要する事となった。

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 ~数日後の朝食時~

 ようやく気持ちの踏ん切りがついたディアーユは食事をしながらお供にならないか、とキクルに告げた。

「え? 今……何て言ったんですか?」

「だから……もう婚約者ってことで噂も広まっちまったし、お前をどこかの街に預けるのも難しくなった、料理番としてははそこそこ使えるからお前がその気ならこれからの旅の供として正式に…」

「よろしくお願いします!!」

 ――早、まぁ予想はしてたが……。

「なら今日から魔王軍に殺されない程度に鍛えるからそのつもりでいろよ」

「はい、頑張って強くなります!!!」

 それからおよそ一月後、足手まといにならない程度にキクルを鍛えつつ、ディアーユは魔王討伐の旅の一環として二つ目の大陸に渡っていった。
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