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第二章 ~魔王勇者課~リプタリア編

第19話 「始末」

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「ここがR・プロジェクトの中枢区画になります」


 艦長がカードキーを使い、ロックされていた隔壁が開いていくと閉ざされた区画の中で待っていたのは、メアリーベルの魔法で吹き飛んだはずのドルーク長官だった。

「ドルーク長官、いくらなんでも『チケット』の発行は早すぎたのではないか?」

「申し訳ありません。情報漏洩だけならここまでする事もなかったのですが、
状況が変わりまして、」

「あれ以上なにが起こったと言うんだ?」

「それは……、」

「…なに? 直ちに保安要員を増員して捕縛しろ」

 ドルークが発言を躊躇していると、大統領の後ろで通信機にアルコム艦長が何事か指示を飛ばしていた。

「艦長どうかしたのかね?」

「いえ、『チケット』を持たない者達がシャトルに紛れ込んでいたらしく、認証区画から内部に侵入を図った模様です」

「大丈夫なのかね?」

「ご安心下さい。このノアニクスは万全のセキュリティを備えています。すぐに捕まえて地上に送り返しますよ」

「ならば良いが、」

「それよりも大統領、ここまで来たのです。まずはアレをご覧になってはいかがでしようか?」

「それもそうだな、長官、装置を見せてくれ」

「は、了解しました」

 大統領に促されてドルーク長官が持っていた端末を操作すると、さらに奥への扉が開き、一行が中に入るとそこには大きなカプセル状の装置が複数設置されていた。

「これが……、R、いや、の成果か」

「はい、これで大統領を始め、出資者の皆様は永遠とも言える時間を手に入れる事が可能になりました」

「実際にその効果を今すぐ見る事はできるか?」

「では、お見せしましょう」

ドルーク長官がおもむろに首筋へ手を伸ばすと、何かのスイッチが入る音がして、頭のてっぺんから風船がしぼむように膜のようなものが首元へと縮んでいき、ドルークの顔が全くの別人に変化した。

「な、ドルーク長官…なのか?」

「はい、大統領」

「…その顔はどういうわけだ?」

「これは情報部が潜入作戦などに使う変装用の光学マスクです」

「そんな事はわかっている。何故顔が別人に…、」

「もしもに備えて装置を使ったのですが、まだ用意しておいたクローン体が10歳前後だったので遺伝子が近いこの体を一時的に使っているのです」

「何故装置を使う事態に?」

「ノアニクスが完成したことで例の二人組が何か仕掛けて来るかと思いましてね、ここから様子を見つつ抜け殻で会話したのですが、案の定オリジナルの私の身体は二人組の片割れに吹き飛ばされてしまいました」

「それで、捕まえたのかね?」

「予定通りに事が運んでいれば私の補佐官のベルトが捕らえている頃です」

「ふむ、出航前にその二人組、こちらに移送する事は可能か?」

「あまりお勧めは出来ません。彼らは既存の物とは別の未知の技術を多数有しています。下手に懐に抱え込むと手痛い目に合う可能性が高いと思われます」

「もう懐に入ってますけどね」

「「「!?」」」

 背後からした声に全員が振り返ると、そこにはシャトルを乗っ取った市民にまぎれてノアニクスに侵入したルークが立っていた。
 それに対して要人警護として大統領とともにいた部下達は侵入者にそれぞれ反応する。

「大統領、お下がり下さい!」

「貴様!そこを動くな!」

「アルコム艦長、拘束しますか?」

「いや、射殺して構わん。ここを見られた以上は運が悪かったとあきらめてもらおう」

 大統領の護衛やアルコム艦長の引き連れていた保安要員が手に手に銃を構え、侵入者に対して次々と銃弾が撃ちこまれていった。
 撃ち終った後には射殺された死体が一つ横たわっていた。

「まったく、驚かせおって」

「死体は試作転換炉に放り込んでおけ。分子レベルで燃料になってもらおう」

「あいたたた、…やっぱり身体強化されてても銃弾をモロに食らうのは無理があったか、」

「「「!?」」」

 銃弾を複数発受けて倒れ込んだはずのルークは何事もなかったかのようにむくりと起き上がり、撃った当人たちは驚愕する。

「な、当たった…よな?」

「鎮圧弾ではなく確かに実弾のハズだぞ!?」

「なにをしている! もう一度撃て! 今度こそ始末しろ!」

 彼らが再び銃を構えようとした瞬間、電流が降り注ぎ大統領とドルーク長官を残して全員が倒れ込んだ。

「な、なにが起こったんだ?」

 事態が理解できない大統領は慌ててドルーク長官の後ろへと後ずさり、身を守ろうとする。

「ルーク、そっちの仕事は終わってる?」

「はい課長、指示通り艦内各所に爆薬を仕掛けおきました」

「ご苦労様」

 隔壁の影から電撃魔法を飛ばし、転移によって入り込んだメアリーベルはルークの仕事を褒めつつ姿を現した。

「君までここに来たという事はベルト君は失敗したようだな」

「さっきぶりですね。ドルーク・ルータビア長官、いえ、元地球出身の転生者、Mさんとお呼びした方がよいですか?」

「……その名で呼ばれるのは久しぶりだな」

「ドルーク! なんとかならんのか!?」

「大統領、あなたもゼルベルヤと、どちらでお呼びした方が良いですか?」

 メアリーベルの言葉に、大統領は冷や汗をかきながら否定の言葉を並べる。

「な、なんの話だ? 私はゼルベルヤ・トーラス、この惑星の統一国家の指導者として」

「隠す必要も意味ももう無いですよ?」

 メアリーベルの言葉と視線に完全に平静を失った大統領はがくがくと足を震わせる。

「………君たちの目的は転生者の始末かね?」

「いえ、あなた達の始末ですね」

「それはこのリインカネーションプロジェクトが原因かね?」

「おそらくはそうですね。私はこの世界の存在ではないので詳細については断言出来かねますが、あなた達二人がリプタリアを利用してリインカネーションプロジェクトと称する人工的なを作ろうとしたことで神の逆鱗に触れたのかと…」

「転生と言っても魂の摘出技術と別の肉体への移植技術を確立させただけなのだがな、勝手にこんな世界に記憶付きで転生させたくせにこちらのやる事には制限を掛けるとは、ずいぶんと狭量で勝手だな、この世界の神は」

「ドルーク! いやラグエル! あいつらをなんとか出来ないのか!」

「無理ですね、彼らは私たちを始末する為に派遣された存在です。諦めるしかないでしょう」

「い、嫌だ!私はこの未来世界でもっと成功するのだ! かつてアメリカでバカな民衆に媚びを売っていた市長生活なんぞ比べ物にならんこのすばらしい世界で成功を!」

「ロンドンでの生活に比べれば私にとってここでの日々は物足りないモノでしたがね」

「では、次の転生はお望みの人生になると良いですね。御機嫌よう」

「……この、悪魔め!!」

「いいえ、魔王です」

 大統領の悪態に対する返答を最後に混ぜつつ、リインカネーションプロジェクトの結晶と二人の転生者は区画毎吹き飛ばされ、ルークの仕掛けた爆弾によってノアニクスは誘爆を起こしながらシステムが誤作動し、宇宙の彼方へ暴走という名の航海に出発していった。

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 ノアニクスがリプタリアから出発して2週間。リプタリア国内は大いに混乱していた。大統領や主だった政治家、軍関係者、財界人が『チケット』の発行で我先にとノアニクスへ乗り込んだことで地上に残された人々は見捨てられた怒りの矛先を向ける相手が見つからず、政府関係者と見ればただの事務員ですら攻撃の的として狙うようになっていた。

「補佐官、25地区でまた市民達の暴動が発生。警察は他の地区の暴動鎮圧で手が回りません」

「どこかに余剰人員は残っていないか? 軍を鎮圧に向かわせると市民達を余計刺激することになる」

「ですがこれ以上はもう、」

「……あきらめるな、多少時間を掛けて遠方の地区からでもいいから人数を確保してくれ」

「了解です」

「頼んだぞ」

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 -2週間前-

「……一つお願いがあります」

「ふむ、言ってみたまえ」

「ノアニクス発進後、残った地上の指揮の一部を私に一任してほしいのです」

「最後まで市民を守る気かね?」

「はい」

「まぁ、構わんが、大統領達がいなくなった後、市民達がどう行動するか君にも想像はつくだろう? それでも残るのかね?」

「それでもです。私はリプタリアをより良い国に、市民の幸福の為にとこの仕事を目指したのです。その決意だけは偽るつもりはありません」

「……わかった。大統領に掛け合って関係各所に話は通しておこう」

「ありがとうございます」

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 ――自分で選んだ道だ、後悔はない。しかし、CS2番艦が完成したとして誰を乗せる? 3番艦以降の完成までリプタリアは持つのか? いや、例え4番艦、5番艦まで完成したとしても全ての市民の収容はとても…、

 
「ごきげんようベルト補佐官」

「!」

 一息つく為に個室に居たベルトが振り返るとそこにはよく見知った、いや忘れる事など出来ない存在が立っていた。

「…貴様、よくも私の前に姿を見せられたものだな?」

「えぇ、最後になるからお別れをと思って」

「最後?」

「そう、もう仕事は終わったので」

「何のことかは知らんが、生きてここから出られると思うな!」

 懐に忍ばせていた自衛用の拳銃を取り出し、ベルトはメアリーベルへその銃口を向ける。

「撃っても良いけど、その前に一言良いかしら?」

「…………なんだ?」

「ありがとう、あなたが居てくれたから私たちは気兼ねなく仕事が出来たし、今後のリプタリアは安心して任せられるわ」

「……な、なにを、なにを言っている!? そもそもお前たちが! こんな混乱が起きなければリプタリアは! 俺の国は滅ぶことも…、こんな、こんな姿になる事も、全て、全て貴様が現われたせいだ!!」

 感情の高ぶりによって自身の気持ちをうまく言語化できないでいるベルトに対してメアリーベルはその気持ちに応えるべく口を開く。

「その怒りはもっともかもしれないけど、今この星で市民達が本当に頼れる存在は間違いなくあなたよ、そのことをどうか忘れないで、そしてできれば自分の決断に押しつぶされないで頑張って頂戴」

「知った風なことを! その顔を二度と見せるな!」

「ええ、さようならベルト補佐官」

 別れの言葉を告げてメアリーベルは転移により姿を消し、ただ一人個室に残ったベルトは拳銃を投げ捨てて決意を新たにリプタリアの未来に向けて仕事を再開した。

「最後まであきらめてたまるか!」

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 数か月後、CSコロニーシップ2番艦『ノアニクスⅡ』が完成し、厳正な抽選によって乗組員と乗船できる市民が決定した。そしてその中には指導者たちが逃げ出した後、混乱するリプタリアを再び秩序ある国家へと建て直した英雄 ベルト・ポポリスが大勢の支持を受けて名を連ねていた。
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