聖魔の救済者

港瀬つかさ

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7.遼遠

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 まだ、終わりには程遠く。まして、始まりにも遠いのではないだろうか。全てがここから始まるのか、ここへ戻ってくるのか。掌の内側の、力のカケラは何も言わない。


 全てはまだ、遠い。


 辿り着くべき場所は、遙かなる高みか。それとも、限りなく遠き果ての場所か。とにもかくにも、力を集めない事には何も出来ない。まるで、只の代理人のように、人々の希望という名の重みを背負って、歩いていく。
 面倒な、事を。あまりにも面倒すぎる、事を。何故俺がと、心の内側で呟く。何度呟いたのかも解らない言葉を。ただ、漠然とした怒りと共に、胸の内に吐き捨てる。

「フーア、お前、何を考えている?」
「んぁ?何がだよ。」
「ウィスプにあってから、何かおかしいぞ。」
「失礼な。俺がおかしいなら、お前も充分おかしい。何せ、邪神のくせに既成概念の塊だしな。」
「それはお前の中にそういったモノが欠けているからだ!」

 怒鳴りつけてくるアズルの、深紅の瞳。邪神。異世界より追放された、愚かな呪われた神々。そうでありながらこの男の眼差しは、何処までも鮮やかだ。本人は無意識だろうが、色々なモノを惹き付ける。
 そのくせ、斬り捨てるのだろう。俺の前では馬鹿をやるような性格になってしまっているが。おそらく、この男の本性は、邪神そのものであるはずだ。寄り添おうとする者達を、全て冷たく、斬り捨てる。必要ないと、一言の元に。
 それが解る。何となく、邪神というのはそう言う存在だろうと。けれど俺は、目の前の、この、親しみを感じる姿が、自分でも不思議な程に、気に入っているのだ。俺の前だけで現れる、変わった邪神の性格が。
 遠い。手を伸ばしたところで届くものなどないだろう。それなのに、不思議なぐらい、全てが近くに見える。何もかもが遠いというのに、目に映るモノだけはいつも近かった。
 救済者。勇者。その2つの肩書きを背負って、俺は立つ。その2つの肩書きに相応しくなる為に、育てられた。歩く、その先にあるのは、未来だけ。希望に包まれた、救済された世界の未来。ただ、それだけだ。

「アズル。」
「何だ?」
「…………いや、何でもない。」
「おかしなヤツだな。疲れたのか?」
「お前の方こそ、おかしなヤツだな。俺を気遣うなんて。」
「気紛れで魔力を奪われてはたまらん。」
「……しねぇよ、そんな事。」

 ぼそりと呟いたのは、本音だった。不思議そうに俺を見た邪神には、伝わらなかっただろうけれど。気紛れなんかで、殺してたまるか。失って、たまるか。ようやっと見つけた、同行者なんだから。


 終わりまではまだ遠く、けれど始まりすら解らない、それが、俺の歩んでいる、この生き方…………。 
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