10 / 53
9.封印の指輪
しおりを挟む
それはある日の事だった。街に立ち寄る事はいつもの事で、別に不審はない。その中で、フーアは呪具店に足を踏み入れた。背後の邪神のあからさまな不快そうな気配を、彼は何処までも綺麗さっぱりと無視したのである。いっそあっぱれと言えよう。
そして、そんな彼が求めたのは、一つの指輪だった。シンプルなシルバーの、殆ど飾りのない指輪だ。その内側に、何やらややこしげに呪文が綴られている以外は、ごく普通の指輪にしか見えない。
「……フーア、それは何だ?」
「俺は今お前と魔力を繋いでるだろう?とはいえそれはそれで魔法を使う時に面倒だから、媒介に道具を使う事にしたわけだ。それがこれ。」
「……つまりそれは、俺の魔力を貴様と繋ぐ、媒介か?」
「そ。ま、ペットの首輪みたいなモンだな。」
「…………ヲイ。」
低い声でツッコミを入れた邪神を、彼は無視した。街の宿屋の一室に、ご丁寧に結界を張った上での会話である。誰かに聞かれては困るという理由なのだろうが、そこまでするのならばいっそ本性を晒せばいいと、アズルは思う。
ふと、アズルは思った。その指輪を壊してしまえば、彼は解放される。少なくとも、『魔力奪うぞ~♪』などと脅される事はない。その考えを実行に移そうとした彼の目の前で、フーアがニコリと笑った。
それはもう、見惚れる程晴れ晴れしい天使の微笑。だがしかし、中身がそうとは限らないのが、この勇者の少年だ。彼は思わず後退った。なんとなく、危険を感知したので。
「あんまり刃向かうような事するなら、本気で根こそぎ奪うぞ?」
「俺を殺す気か、貴様は。」
「まっさかぁ。生かさず殺さずがお仕置きだろ?」
「貴様やっぱり勇者を辞めろ、ど阿呆ッ!!!」
至極尤もなアズルの絶叫であった。だがしかし、フーアは聞く耳持たない。2人が出会ってから、一体何度言われたかも解らない言葉なのである。今更、それに大人しく従うような彼ではない。
「でもな、一応これは、お前の為なんだぞ。」
「……は?」
「俺自身と繋いでたら、俺が死んだらお前も死ぬだろ?それは流石に哀れだと思ったから、呪具にしたんじゃないか。俺が死んだらこれを壊せば、お前は自由だし?」
「…………お前、俺の事を考えていたのか?」
「はぁ?一応俺は勇者だぞ。考えるに決まってるだろうが。」
その発言の意味を、アズルは正確に理解した。つまり、彼が望んでその行動を取ったわけではない、というわけだ。幼少時から叩き込まれた勇者としての生き方が、フーアにアズルのみの安全に気を配る行動を取らせた。つまるところ、単なる条件反射と同レベルである。
嘘でもいいから、心配しているからだと言って欲しかったかも知れない。いや、そんな殊勝な事を言われたら、それこそ驚いて言葉も出ないだろうが。だがしかし、明らかにどうでもよさげに言われるのも、辛い。俺は一体何なんだと、呟いてみたくもなる彼であった。
それでも不思議な事に、フーアの傍を立ち去ろうとは思わない、その考えに辿り着けない、アズルなのであった…………。
そして、そんな彼が求めたのは、一つの指輪だった。シンプルなシルバーの、殆ど飾りのない指輪だ。その内側に、何やらややこしげに呪文が綴られている以外は、ごく普通の指輪にしか見えない。
「……フーア、それは何だ?」
「俺は今お前と魔力を繋いでるだろう?とはいえそれはそれで魔法を使う時に面倒だから、媒介に道具を使う事にしたわけだ。それがこれ。」
「……つまりそれは、俺の魔力を貴様と繋ぐ、媒介か?」
「そ。ま、ペットの首輪みたいなモンだな。」
「…………ヲイ。」
低い声でツッコミを入れた邪神を、彼は無視した。街の宿屋の一室に、ご丁寧に結界を張った上での会話である。誰かに聞かれては困るという理由なのだろうが、そこまでするのならばいっそ本性を晒せばいいと、アズルは思う。
ふと、アズルは思った。その指輪を壊してしまえば、彼は解放される。少なくとも、『魔力奪うぞ~♪』などと脅される事はない。その考えを実行に移そうとした彼の目の前で、フーアがニコリと笑った。
それはもう、見惚れる程晴れ晴れしい天使の微笑。だがしかし、中身がそうとは限らないのが、この勇者の少年だ。彼は思わず後退った。なんとなく、危険を感知したので。
「あんまり刃向かうような事するなら、本気で根こそぎ奪うぞ?」
「俺を殺す気か、貴様は。」
「まっさかぁ。生かさず殺さずがお仕置きだろ?」
「貴様やっぱり勇者を辞めろ、ど阿呆ッ!!!」
至極尤もなアズルの絶叫であった。だがしかし、フーアは聞く耳持たない。2人が出会ってから、一体何度言われたかも解らない言葉なのである。今更、それに大人しく従うような彼ではない。
「でもな、一応これは、お前の為なんだぞ。」
「……は?」
「俺自身と繋いでたら、俺が死んだらお前も死ぬだろ?それは流石に哀れだと思ったから、呪具にしたんじゃないか。俺が死んだらこれを壊せば、お前は自由だし?」
「…………お前、俺の事を考えていたのか?」
「はぁ?一応俺は勇者だぞ。考えるに決まってるだろうが。」
その発言の意味を、アズルは正確に理解した。つまり、彼が望んでその行動を取ったわけではない、というわけだ。幼少時から叩き込まれた勇者としての生き方が、フーアにアズルのみの安全に気を配る行動を取らせた。つまるところ、単なる条件反射と同レベルである。
嘘でもいいから、心配しているからだと言って欲しかったかも知れない。いや、そんな殊勝な事を言われたら、それこそ驚いて言葉も出ないだろうが。だがしかし、明らかにどうでもよさげに言われるのも、辛い。俺は一体何なんだと、呟いてみたくもなる彼であった。
それでも不思議な事に、フーアの傍を立ち去ろうとは思わない、その考えに辿り着けない、アズルなのであった…………。
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる