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8.砂漠の女神
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炎の砂漠と呼ばれる地帯がある。その中央付近に、火の祭壇がある。火界『マーズ』と繋がる唯一の場所から、フーアは火の精霊神・イフリートと接触を取るつもりである。というか、そうしなければならないのだが。
茹だるような暑さと、体力を奪う熱。だがしかし、全ての魔法を使える事の出来る勇者は、平然と水と風の精霊魔法を用いて、快適な環境を維持していた。その傍らの邪神は、元からそういった繊細さを持っていないので、顔色一つ変えていないが。
辿り着いた祭壇は、砂漠の砂の中に埋もれる事もなく、昂然とその姿を保っていた。何があっても汚す事の出来ない聖域が、そこにある。石造りの祭壇に足を踏み入れ、フーアはその中央で言葉を綴る。異世界とこの場を繋ぐ為の、時空魔法を使う為である。
「我が名を解放の力の礎と成せ。今、我は請う。隔たりを持ちし火界との境をしばしの間取り除き、我が前に彼の火の精霊神の御姿を遣わし給え。」
その声に惹かれるように、祭壇の中央に激しい炎が灯った。炎の中央を割くようにして現れたのは、美しい女神。燃える紅の長髪に、強い光を宿した真紅の双眸を持った女神。二十代の半ば頃の容貌を持った美貌の精霊神は、女というモノを感じさせながら、その汚れとは無縁だった。
火の精霊神、イフリート。一般的に男性体であると誤認されているこの女神は、端正な美貌と豊満な肉体を持ちながら、女性の持つ柔らかさやしなやかさとは無縁であり、限りなく勇猛で雄々しく、凛々しい印象を与える。
「私を呼ぶのはそなたか、ヒトの子よ。」
「ご無礼を承知でお呼びいたしました。我が名はフーア。滅び行く『オリジン』を救う為に、救済の使命をおびし勇者です。火の精霊神よ、どうか、貴方の御力を私にお貸し下さい。」
「そうか……。遂にその時が来てしまったというのだな。宜しい。私もまた、この世界を愛するもの。私の力でこの世界が生き長らえるのならば、喜んでお貸ししよう。」
口元に笑みを浮かべた火の精霊神は、そっとフーアに手を伸ばす。その手を恭しく取った勇者を見て、彼女はまた微笑んだ。眩い光が弾け、掌の中に熱を感じる。そっとフーアが開いた掌には、赤い力の結晶があった。ルビーに似たその結晶を握りしめて、フーアは微笑みを浮かべた。
優しく柔らかな、慈愛に満ちた微笑み。それは勇者という存在には何処までも似合っているが、フーアという存在の本質とはことごとく相反する。相も変わらず特大の化け猫を背負った少年を見て、邪神の青年は呆れたように息を吐いた。
そんな彼を見咎めたように、女神が目を細める。真っ直ぐと、逸らされることなく感じる視線。思わず身を固くしたのは、おそらく単なる条件反射だろう。邪神というのは、ことごとく精霊神に疎まれる存在だ。どの世界にいても、その世界に害成すモノであるとされる為に。
「……そなた、アズルか?」
「…………俺は貴殿など知らぬぞ。」
「おや、記憶の欠如があるのか?私はそなたを知っている。そなたもまた、私を初め皆を知っているはずだ。」
「知らぬ。」
「……そうか、ならば、致し方あるまいな。」
少しばかり残念そうに呟くと、火の精霊神は勇者に視線を向けた。励ますような視線だった。その暖かな眼差しに、フーアは居心地の悪さを感じる。だが彼は、それを表に表しはしなかった。天使の微笑みを浮かべるだけだったのだ。
「『オリジン』が救済される事を願っている。そなたらの旅に、祝福があらん事を。」
「ありがとうございます、火の精霊神。」
「礼を言おう、イフリート。」
俺の災いは傍らの勇者だが。思ってはいてもあえて何も言わないアズルであった。そんな彼等の目の前で、火の精霊神は姿を消す。元いた世界へ戻ったのだ。彼女が守護すべき、彼女が生み出した火界へ。
先日の光の精霊神の時と同じように揺らいだフーアを、アズルは片腕で支える。不機嫌そうな顔をしている少年を見下ろして、彼は苦笑した。己の未熟を悔しいと思うような、そんな少年らしさがまだ、この勇者にはあるのだ。
「……てか、暑いんだよ、砂漠は。」
「マトモに気温を感じているわけではないくせに、何を言う。」
「わざわざ調整してるんだよ。お前と違って。」
憮然と呟いたフーアを見て、アズルは笑う。心の底から楽しそうな笑みに、フーアは首を傾げた。おかしなヤツだと呟く彼を見て、アズルはお互い様だと斬り返した。まるでじゃれ合うように、ごく平然と。
2つ目の力のカケラが、フーアの掌の内で小さく輝いた…………。
茹だるような暑さと、体力を奪う熱。だがしかし、全ての魔法を使える事の出来る勇者は、平然と水と風の精霊魔法を用いて、快適な環境を維持していた。その傍らの邪神は、元からそういった繊細さを持っていないので、顔色一つ変えていないが。
辿り着いた祭壇は、砂漠の砂の中に埋もれる事もなく、昂然とその姿を保っていた。何があっても汚す事の出来ない聖域が、そこにある。石造りの祭壇に足を踏み入れ、フーアはその中央で言葉を綴る。異世界とこの場を繋ぐ為の、時空魔法を使う為である。
「我が名を解放の力の礎と成せ。今、我は請う。隔たりを持ちし火界との境をしばしの間取り除き、我が前に彼の火の精霊神の御姿を遣わし給え。」
その声に惹かれるように、祭壇の中央に激しい炎が灯った。炎の中央を割くようにして現れたのは、美しい女神。燃える紅の長髪に、強い光を宿した真紅の双眸を持った女神。二十代の半ば頃の容貌を持った美貌の精霊神は、女というモノを感じさせながら、その汚れとは無縁だった。
火の精霊神、イフリート。一般的に男性体であると誤認されているこの女神は、端正な美貌と豊満な肉体を持ちながら、女性の持つ柔らかさやしなやかさとは無縁であり、限りなく勇猛で雄々しく、凛々しい印象を与える。
「私を呼ぶのはそなたか、ヒトの子よ。」
「ご無礼を承知でお呼びいたしました。我が名はフーア。滅び行く『オリジン』を救う為に、救済の使命をおびし勇者です。火の精霊神よ、どうか、貴方の御力を私にお貸し下さい。」
「そうか……。遂にその時が来てしまったというのだな。宜しい。私もまた、この世界を愛するもの。私の力でこの世界が生き長らえるのならば、喜んでお貸ししよう。」
口元に笑みを浮かべた火の精霊神は、そっとフーアに手を伸ばす。その手を恭しく取った勇者を見て、彼女はまた微笑んだ。眩い光が弾け、掌の中に熱を感じる。そっとフーアが開いた掌には、赤い力の結晶があった。ルビーに似たその結晶を握りしめて、フーアは微笑みを浮かべた。
優しく柔らかな、慈愛に満ちた微笑み。それは勇者という存在には何処までも似合っているが、フーアという存在の本質とはことごとく相反する。相も変わらず特大の化け猫を背負った少年を見て、邪神の青年は呆れたように息を吐いた。
そんな彼を見咎めたように、女神が目を細める。真っ直ぐと、逸らされることなく感じる視線。思わず身を固くしたのは、おそらく単なる条件反射だろう。邪神というのは、ことごとく精霊神に疎まれる存在だ。どの世界にいても、その世界に害成すモノであるとされる為に。
「……そなた、アズルか?」
「…………俺は貴殿など知らぬぞ。」
「おや、記憶の欠如があるのか?私はそなたを知っている。そなたもまた、私を初め皆を知っているはずだ。」
「知らぬ。」
「……そうか、ならば、致し方あるまいな。」
少しばかり残念そうに呟くと、火の精霊神は勇者に視線を向けた。励ますような視線だった。その暖かな眼差しに、フーアは居心地の悪さを感じる。だが彼は、それを表に表しはしなかった。天使の微笑みを浮かべるだけだったのだ。
「『オリジン』が救済される事を願っている。そなたらの旅に、祝福があらん事を。」
「ありがとうございます、火の精霊神。」
「礼を言おう、イフリート。」
俺の災いは傍らの勇者だが。思ってはいてもあえて何も言わないアズルであった。そんな彼等の目の前で、火の精霊神は姿を消す。元いた世界へ戻ったのだ。彼女が守護すべき、彼女が生み出した火界へ。
先日の光の精霊神の時と同じように揺らいだフーアを、アズルは片腕で支える。不機嫌そうな顔をしている少年を見下ろして、彼は苦笑した。己の未熟を悔しいと思うような、そんな少年らしさがまだ、この勇者にはあるのだ。
「……てか、暑いんだよ、砂漠は。」
「マトモに気温を感じているわけではないくせに、何を言う。」
「わざわざ調整してるんだよ。お前と違って。」
憮然と呟いたフーアを見て、アズルは笑う。心の底から楽しそうな笑みに、フーアは首を傾げた。おかしなヤツだと呟く彼を見て、アズルはお互い様だと斬り返した。まるでじゃれ合うように、ごく平然と。
2つ目の力のカケラが、フーアの掌の内で小さく輝いた…………。
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