聖魔の救済者

港瀬つかさ

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15.憂鬱な午後

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 とある街に滞在する勇者と邪神。世界救済の使命を背負った二人は、宿屋の中にいた。外には豪雨が降り注ぎ、とてもではないが歩けはしない。したがって、まだ夕刻には程遠いというのに、二人は宿屋の中で暇を潰す事以外に何も出来なかった。
 確かに階下の食堂では人々が多くいる。その輪の中に入って言葉を交わせば、それなりの時間つぶしにはなるだろう。だがしかし、ここで弊害が一つ発生する。それは、彼等が勇者と邪神の二人連れだという事だ。好奇の視線に晒されるのは必然である。
 疲れるから嫌だ。そのようにだけ、勇者の少年は告げた。元来静かな空間で孤独に過ごす事が苦でもない邪神の青年は、勝手にしてくれと呟いた。今更、彼の意向を聞き届けるようなフーアではない。

「嫌な雨だな。」
「何がだ?」
「重い。こういう雨は数日続く可能性があるんだ。……ッたく、嫌になる。」
「お前は全ての面倒な事が嫌なんだろうが。」
「それもある。けど、さっさと終わらせたいだろうが、こんな役目。」
「……まぁ、否定はせん。」

 アズルの言葉には、別の意味が含まれていた。役目が終われば、解放されるはずである。さっさとこの外道勇者と手を切って、再び眠るなりなんなり、とりあえず、自分の意志に従って生きていきたいと思う。というか、フーアと連んでいると、ろくな目に合わない。それを彼は痛感してしまったのだ。
 この少年を相手にするのは至難の業だ。何を言っても、ヒトの話など聞きはしない。そのくせ、時折不意に、放っておけないような瞳をする。自己嫌悪や自嘲などよりも遙かに深く暗い、自分という存在を根底から否定する瞳を、この少年はするのだ。
 選ばれて、望まれて生まれてきた勇者。そうではないのかと問いかけようとして、けれどアズルは止めるのだ。そこに踏み込む資格がないと、彼は知っていた。また、踏み込む事を恐れてもいた。この勇者の内側に眠る闇を知った時、彼は戻れないところに足を踏み入れてしまう気がした。

「……嫌な雨だ、本当に。」
「雨は嫌いなのか?以前から嫌っているようだが。」
「身動きが取れないからな、嫌いだ。雨が降ると、何処にも行けない。」
「……そうか。」

 逃げ出したいと思う時があったのか。喉元まで出かかった言葉を、邪神は封じた。彼はただ、勇者の力となり、全てを終わらせるだけだ。この世界救済の度が終わる、その時まで。ただ勇者の力として存在しているだけで、良いのだ。


 自分が自分に言い聞かせているという事を、邪神は知っていた……。
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