16 / 53
15.憂鬱な午後
しおりを挟む
とある街に滞在する勇者と邪神。世界救済の使命を背負った二人は、宿屋の中にいた。外には豪雨が降り注ぎ、とてもではないが歩けはしない。したがって、まだ夕刻には程遠いというのに、二人は宿屋の中で暇を潰す事以外に何も出来なかった。
確かに階下の食堂では人々が多くいる。その輪の中に入って言葉を交わせば、それなりの時間つぶしにはなるだろう。だがしかし、ここで弊害が一つ発生する。それは、彼等が勇者と邪神の二人連れだという事だ。好奇の視線に晒されるのは必然である。
疲れるから嫌だ。そのようにだけ、勇者の少年は告げた。元来静かな空間で孤独に過ごす事が苦でもない邪神の青年は、勝手にしてくれと呟いた。今更、彼の意向を聞き届けるようなフーアではない。
「嫌な雨だな。」
「何がだ?」
「重い。こういう雨は数日続く可能性があるんだ。……ッたく、嫌になる。」
「お前は全ての面倒な事が嫌なんだろうが。」
「それもある。けど、さっさと終わらせたいだろうが、こんな役目。」
「……まぁ、否定はせん。」
アズルの言葉には、別の意味が含まれていた。役目が終われば、解放されるはずである。さっさとこの外道勇者と手を切って、再び眠るなりなんなり、とりあえず、自分の意志に従って生きていきたいと思う。というか、フーアと連んでいると、ろくな目に合わない。それを彼は痛感してしまったのだ。
この少年を相手にするのは至難の業だ。何を言っても、ヒトの話など聞きはしない。そのくせ、時折不意に、放っておけないような瞳をする。自己嫌悪や自嘲などよりも遙かに深く暗い、自分という存在を根底から否定する瞳を、この少年はするのだ。
選ばれて、望まれて生まれてきた勇者。そうではないのかと問いかけようとして、けれどアズルは止めるのだ。そこに踏み込む資格がないと、彼は知っていた。また、踏み込む事を恐れてもいた。この勇者の内側に眠る闇を知った時、彼は戻れないところに足を踏み入れてしまう気がした。
「……嫌な雨だ、本当に。」
「雨は嫌いなのか?以前から嫌っているようだが。」
「身動きが取れないからな、嫌いだ。雨が降ると、何処にも行けない。」
「……そうか。」
逃げ出したいと思う時があったのか。喉元まで出かかった言葉を、邪神は封じた。彼はただ、勇者の力となり、全てを終わらせるだけだ。この世界救済の度が終わる、その時まで。ただ勇者の力として存在しているだけで、良いのだ。
自分が自分に言い聞かせているという事を、邪神は知っていた……。
確かに階下の食堂では人々が多くいる。その輪の中に入って言葉を交わせば、それなりの時間つぶしにはなるだろう。だがしかし、ここで弊害が一つ発生する。それは、彼等が勇者と邪神の二人連れだという事だ。好奇の視線に晒されるのは必然である。
疲れるから嫌だ。そのようにだけ、勇者の少年は告げた。元来静かな空間で孤独に過ごす事が苦でもない邪神の青年は、勝手にしてくれと呟いた。今更、彼の意向を聞き届けるようなフーアではない。
「嫌な雨だな。」
「何がだ?」
「重い。こういう雨は数日続く可能性があるんだ。……ッたく、嫌になる。」
「お前は全ての面倒な事が嫌なんだろうが。」
「それもある。けど、さっさと終わらせたいだろうが、こんな役目。」
「……まぁ、否定はせん。」
アズルの言葉には、別の意味が含まれていた。役目が終われば、解放されるはずである。さっさとこの外道勇者と手を切って、再び眠るなりなんなり、とりあえず、自分の意志に従って生きていきたいと思う。というか、フーアと連んでいると、ろくな目に合わない。それを彼は痛感してしまったのだ。
この少年を相手にするのは至難の業だ。何を言っても、ヒトの話など聞きはしない。そのくせ、時折不意に、放っておけないような瞳をする。自己嫌悪や自嘲などよりも遙かに深く暗い、自分という存在を根底から否定する瞳を、この少年はするのだ。
選ばれて、望まれて生まれてきた勇者。そうではないのかと問いかけようとして、けれどアズルは止めるのだ。そこに踏み込む資格がないと、彼は知っていた。また、踏み込む事を恐れてもいた。この勇者の内側に眠る闇を知った時、彼は戻れないところに足を踏み入れてしまう気がした。
「……嫌な雨だ、本当に。」
「雨は嫌いなのか?以前から嫌っているようだが。」
「身動きが取れないからな、嫌いだ。雨が降ると、何処にも行けない。」
「……そうか。」
逃げ出したいと思う時があったのか。喉元まで出かかった言葉を、邪神は封じた。彼はただ、勇者の力となり、全てを終わらせるだけだ。この世界救済の度が終わる、その時まで。ただ勇者の力として存在しているだけで、良いのだ。
自分が自分に言い聞かせているという事を、邪神は知っていた……。
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる