聖魔の救済者

港瀬つかさ

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16.月光

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 空に輝く白銀の月。その下で微笑む、美しいヒトの残像。それを求める自分が、ひどく愚かだと知っている。それは、決して与えられる事のないモノ。


 月の光が見せた、ささやかな、幻。


 綺麗な満月だった。空に輝き、暗がりの夜道を照らすような美しい月。その冷たくて、けれど惹き付けられる美しさがあのヒトに似ていた。俺がどれだけ求めても、手に入らなかったあのヒトに。伸ばした掌が届く事もない事実が、尚の事、あのヒトと似ていると思った。

「月が好きなのか?」
「好きなヒトに似てる。」
「ほぉ……。お前にも思う相手がいるのか。」
「永遠に叶わない片思いだけどな。」
「……?」

 そうだ。永遠に叶う事のない思いだ。あのヒトは俺を見る事はないだろう。勇者としての俺しか見ない、一個人としての俺を見ない、そういう、優しくて惨くて、綺麗で愛しいヒトだ。
 あのヒトの眼差しは、俺を見ない。ただ、周囲の人々にだけ微笑む。まるで、俺は影の中で月の恩恵に肖れない存在のようだった。あのヒトの眼差しは、いつも俺を素通りしていたから。
 真剣に悩んでいるらしい、アズル。一生考えても解らないさ、アズル。これは片恋にも似ている。けれどそれよりももっと愚かで、報われない、哀れな感情。いっそ失ってしまえれば、楽になれるだろうに。それでも俺は、あのヒトの微笑みだけを、求めている。
 美しくて冷たい、俺の母上。貴方の視界に少しでも入りたかった俺は、だからこそ、勇者として必死に腕を磨いた。決して息子として愛されない事を知っていたからこそ。せめて、勇者としては、愛されていたかった。
 旅立ちの前に俺を抱きしめてくれた腕と。額に落とされた口付けと。与えられた無償の微笑みと。触れたその暖かな温もりと。それだけが、俺は、幼い頃に欲しかった。そして、それを、勇者ではなく、息子の俺に、与えて欲しかった。
 愛されない理由を、知っている。知っていながら俺は、足掻く。俺が世界を救済すれば、貴方は。俺を自慢の息子として、誇って下さるでしょうか?それを求めても、良いのでしょうか、俺は。


 返らない答えは、月光のように冷たくて、俺の心を突き刺す……。
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