聖魔の救済者

港瀬つかさ

文字の大きさ
21 / 53

20.街道

しおりを挟む
 街道を歩く二人組があった。一人は、短い黄金の髪を持つ少年。その傍らを歩くのは、長い白銀の髪の青年。一枚の絵画のように、一対の彫像のように、当人達がどう思っていようと、周囲の視線を集める二人組である。
 方や、僅か12歳で勇者の称号を得た、天才少年。その蒼玉もかすむと言われる青の双眸と、天使に見立てられる中性的な美貌は、多くの者を魅了する。方や、遙か昔に封じられた、最強の名を冠する邪神。紅玉を溶かし込んだ色よりも尚深い、見事な紅の瞳と、怜悧な刃にも似た鋭く端正な美貌は、見る者に息を呑ませた。共通点など何もない、対立する以外に術のない、二人である。けれど彼等は、こうして共に歩いている。
 本来、邪神は人間達の前に姿を現さない。自分の領域に人間が入ってきた場合は別だが、基本的に彼等は人里近くに姿を現さないし、だいたい、殆どの邪神が既にこの世界に封じられている身である。そんな中でヒトの中に現れる邪神は奇特であるが、そういった場合、彼等はごく当たり前のように神気を隠す。だがしかし、この邪神は、それをしていなかった。
 何ら、気にする事はない。そのように言い切る強さがあるのか、はたまた面倒だったのか。むしろ、単に忘れていただけ、というのが正しいだろう。この邪神の青年にとって、傍らの勇者は鬼門である。無理矢理叩き起こされ下僕宣言をされ-それは却下しているが-、その破天荒ぶりの所為で、邪神は常識の塊と化しているのだ。

「アズル、そんな仏頂面をするなよ。通行人が怯えてる。」
「好きでしているわけではない。……ここは魔力が薄すぎる。」
「それは仕方ないだろう?この付近には魔術学校があるんだから。」

 魔術を使うモノの多くは、使った後に魔力を世界から取り入れる。それが頻繁に行われる為に、この辺り一帯は魔力が薄い。そのように、勇者は笑顔で語った。体内に魔力を取り入れて生きている邪神にしてみれば、かなり死活問題な事である。それを笑顔で言われては困る。
 天使もかくやといわんばかりの晴れやかな微笑を、邪神は見た。否、見慣れたという方が正しい。だがしかし、この微笑はとにかく厄介だった。こういう笑顔を邪神に向けて浮かべる時、この勇者は決まって性格の悪さを発揮する。そしてこの時も、邪神の嫌な予感は当たっていた。

「頑張れv」
「……俺はもう一本向こうの街道にしろと、言わなかったか?」
「いったかもしれないな。でも、そっちだと遠回りだろう?」

 そんな面倒な事になったら可哀想だろう、俺が。ニコニコニッコリ。それこそ誰もが見惚れるような笑顔で、勇者は言った。この外道と、邪神が低い声で毒突く。勇者は、自らの楽の為ならば、傍らの同行者の不調など気にしない。むしろ、そんな事はどうでも良いと、笑顔で言い切るだろう。
 魔力の欠乏でずきずきと痛むこめかみに指を押し当てて、邪神は疲れたように息を吐いた。一瞬視界がかすむのを感じて、本格的にヤバイのではないかと、らしくもなく不安に駆られた。その理由は、ただ一つ。この場で倒れたりした日には、どんな目に合わされるか解らない。ただそれだけであった。

「……なるべく早く、この一帯を抜けるぞ。」
「魔術学校は規模がデカイから、影響を受けない地帯に行くには、きっと2、3日かかると思うぞ?」
「………………。」
「おーい、大丈夫か?」

 あまりの事に思わずその場でよろめいてしまう邪神。本気で視界が真っ暗になった気がしたが、そんな彼の視界には、やはり勇者の笑顔があった。こいつは鬼だ。そんな事を、彼は確信した。


 だがしかし、逃れる術はないのだと彼は知っていたのであった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

政略結婚の意味、理解してますか。

章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。 マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。 全21話完結・予約投稿済み。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...