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21.はかなきもの
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人間とは儚い生き物。そう知っていた。知っていた、筈だった。それを忘れていた理由は、よく解らない。けれどそれは、この少年が、強い所為だろう。心ではなく、身体能力に置いて、この子供は途方もなく、強い。
だからこそ油断したのだと、今なら、解る。
腕の中には、ぐったりとしたまま動かない、子供が一人。なるべく刺激を与えぬようにと、地上を歩かず僅かだけ浮遊する。鼻を突く血臭があったが、あえてそれは無視をした。ひとまずは、落ち着ける場所に行かなくては、なるまい。そのようにだけ、俺は思ったのだ。
結局、俺が見つけたのは山の中の洞窟だった。満身創痍の勇者を抱えて人里にはおりられない。俺が害したと思われるのは、非常に不愉快だ。確かに、油断していて、反応が遅れたのは俺であるが。既にこの傷をつけた者達は、その報いを受けた。フーア自身が、気を失う寸前に、ならず者達全てを、殺した。
そっと洞窟の平らな場所に横たえ、精霊達を呼び集める。人間達は誤解している。邪神と呼ばれる存在は、決して世界の精霊と相容れぬモノではない。ただ邪神は、精霊神と袂を分かった存在だ。何らかの、神の定めた理に反した、それだけの存在。理に反したその時から、神も精霊も、邪神となる。ただ、それだけの事。
風と水の精霊達が、フーアの身体を浄め、傷を癒す。火の精霊達が暖かな温もりを与え、地の精霊達が生命力を高める。その様を見ながら俺は、小さく溜め息をついた。邪神である俺には、光の精霊だけは呼べない。呼べれば、おそらく。勇者であるこの少年は、すぐに力を取り戻す事が出来るだろう。俺の判じたところ、フーアは光の精霊に属する子供だ。俺が闇に属しているように。
たかがならず者。そうたかを括り、援護すらしなかった俺も悪かった。このところ浅い眠りが続いていたせいか、万全の体調ではなかったらしい。それならそうと素振りを見せればいいものを、カケラも見せない。そういう、意地を張るような性格だと、知っていたはずなのだが。
「……すまんな、精霊達よ。礼を言う。」
頭を振る精霊達に、俺は微笑んだ。この子供は、精霊達に愛されている。だからこそ彼等も、俺の呼びかけに答えてくれたのだろう。フーアに祝福を与えてから去っていく精霊達を見送って、俺はそっと、眠ったままの少年の額に掌を押し当てた。一時のような高熱は、既に下がっていた。
人間は、脆い。どれほど強い存在であっても、脆いのだろう。その事実を、再確認させられた気がした。フーアは強い。俺がそう認める事が出来るだけの強さが、この子供にはある。けれどやはり、生身の人間は儚いのだ。
「……ぅ、あ……。」
「……痛むのか?」
「……ぁさ……、……ッ。」
「…………?」
熱にうなされるように、掠れた言葉が聞こえた。だが、それは意味を成さない。何を言いたいのかは、俺には解らなかった。ただ、泣き出しそうな脆い表情が、そこにある。それだけが、事実だった。
縋るように、希うように、弱々しく腕が持ち上げられる。誰かを捜しているのだ。そう気付いた時に、俺は自分でも何故かは解らぬままに、その掌を握りしめていた。俺の体温を感じ取ったのか、フーアは、まるで幼い子供のように、安堵したような表情を浮かべて、弱々しく掌を握り返してきた。
孤独。それを抱えた、脆い精神。それを、俺は垣間見た気がした。常は毒を吐き続ける少年の、鎧の内側。何故かひどく、哀れであり、胸の奥が、痛みを訴えた。
せめて目覚めるまではと、握りしめた掌の意味を、俺は知らぬ……。
だからこそ油断したのだと、今なら、解る。
腕の中には、ぐったりとしたまま動かない、子供が一人。なるべく刺激を与えぬようにと、地上を歩かず僅かだけ浮遊する。鼻を突く血臭があったが、あえてそれは無視をした。ひとまずは、落ち着ける場所に行かなくては、なるまい。そのようにだけ、俺は思ったのだ。
結局、俺が見つけたのは山の中の洞窟だった。満身創痍の勇者を抱えて人里にはおりられない。俺が害したと思われるのは、非常に不愉快だ。確かに、油断していて、反応が遅れたのは俺であるが。既にこの傷をつけた者達は、その報いを受けた。フーア自身が、気を失う寸前に、ならず者達全てを、殺した。
そっと洞窟の平らな場所に横たえ、精霊達を呼び集める。人間達は誤解している。邪神と呼ばれる存在は、決して世界の精霊と相容れぬモノではない。ただ邪神は、精霊神と袂を分かった存在だ。何らかの、神の定めた理に反した、それだけの存在。理に反したその時から、神も精霊も、邪神となる。ただ、それだけの事。
風と水の精霊達が、フーアの身体を浄め、傷を癒す。火の精霊達が暖かな温もりを与え、地の精霊達が生命力を高める。その様を見ながら俺は、小さく溜め息をついた。邪神である俺には、光の精霊だけは呼べない。呼べれば、おそらく。勇者であるこの少年は、すぐに力を取り戻す事が出来るだろう。俺の判じたところ、フーアは光の精霊に属する子供だ。俺が闇に属しているように。
たかがならず者。そうたかを括り、援護すらしなかった俺も悪かった。このところ浅い眠りが続いていたせいか、万全の体調ではなかったらしい。それならそうと素振りを見せればいいものを、カケラも見せない。そういう、意地を張るような性格だと、知っていたはずなのだが。
「……すまんな、精霊達よ。礼を言う。」
頭を振る精霊達に、俺は微笑んだ。この子供は、精霊達に愛されている。だからこそ彼等も、俺の呼びかけに答えてくれたのだろう。フーアに祝福を与えてから去っていく精霊達を見送って、俺はそっと、眠ったままの少年の額に掌を押し当てた。一時のような高熱は、既に下がっていた。
人間は、脆い。どれほど強い存在であっても、脆いのだろう。その事実を、再確認させられた気がした。フーアは強い。俺がそう認める事が出来るだけの強さが、この子供にはある。けれどやはり、生身の人間は儚いのだ。
「……ぅ、あ……。」
「……痛むのか?」
「……ぁさ……、……ッ。」
「…………?」
熱にうなされるように、掠れた言葉が聞こえた。だが、それは意味を成さない。何を言いたいのかは、俺には解らなかった。ただ、泣き出しそうな脆い表情が、そこにある。それだけが、事実だった。
縋るように、希うように、弱々しく腕が持ち上げられる。誰かを捜しているのだ。そう気付いた時に、俺は自分でも何故かは解らぬままに、その掌を握りしめていた。俺の体温を感じ取ったのか、フーアは、まるで幼い子供のように、安堵したような表情を浮かべて、弱々しく掌を握り返してきた。
孤独。それを抱えた、脆い精神。それを、俺は垣間見た気がした。常は毒を吐き続ける少年の、鎧の内側。何故かひどく、哀れであり、胸の奥が、痛みを訴えた。
せめて目覚めるまではと、握りしめた掌の意味を、俺は知らぬ……。
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