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ジェイクさんの戦闘能力のお話
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ジェイクは《真紅の山猫》所属の学者だ。指導係として日々、訓練生や見習い組達へ座学を中心に知識を与えている。そういう意味では彼は非戦闘員の枠に分類されるだろう。実際、実戦で彼が役に立っていることは殆どない。情報分析では役に立ったとしても、彼は純粋な戦闘ではお荷物扱いだった。
……だがそれは、彼が身を寄せているのが《真紅の山猫》だから、とも言えた。
別にジェイクは、己の身を守れぬ程に弱いわけではない。体力が無いので無理に戦えばぶっ倒れてしまうという本末転倒な部分はあるが、決して、弱者では、ない。普段のやりとりなどから訓練生も見習い組も把握していないが、ジェイクは決して、弱くはないのだ。
そう、彼は別に、弱くない。見た目が弱そうでも、普段の扱いから非戦闘員と思われていたとしても、弱くはない。
「あのですねぇ、僕、これでも一応《真紅の山猫》の指導係なんですよ?」
目の前の相手に対して、ジェイクはちょっと困ったように告げている。相手からの返事は無い。それを理解しているのかいないのか、ジェイクは相変わらずの口調で言葉を続けた。
「確かに僕はアリー達に比べればひ弱ですけどね?それは比べる対象が悪いと思うんです。彼らの戦闘力は桁外れなんですから。……えーっと、何でしたっけ?そうそう、僕は別に弱いわけではないので、こんな風に襲撃されても困るんですが」
のほほんとした口調で告げるジェイクの声音はいつも通り。浮かべる表情もいつも通り。けれど、いつもなら本を抱えているであろう右手には、武器が握られていた。彼が愛用しているのは鞭だ。非力な彼が、後方からでも攻撃できる武器として選んでいるものである。
……まぁ、普段はそれで荷物を引っ張り寄せたり、纏めたりしているのだが。器用に使いこなしてはいるが、使い方が微妙に間違っていると周りにツッコミを入れられているのがジェイクの日常だ。
その彼が、今、正しい意味で鞭を使っている。暴漢を倒す、という意味合いで。
「どんな理由で来られたのかは知りませんけど、うちに喧嘩を売っても良いことはありませんよ?僕個人に対しても同じです。うちの皆は思いやりがありますからねぇ。たとえ個人向けに襲撃されたとしても、報復には全員で赴いちゃったりするんです」
にこにこと微笑みながら告げるジェイクに、やはり答えは無い。そこで彼は、襲撃者達が昏倒していることに気づいた。久しぶりだったのでちょっとやり過ぎたのかも知れない。
「あぁ、うっかりしました。顎を揺さぶると意識飛ぶんですよねぇ」
非力な学者先生ではあるが、それ故に彼は人体の急所を把握している。襲撃されたので容赦なくその急所を鞭で攻撃した結果、相手は気絶しているようだった。しばらくどうしようか考えたジェイクは、ポケットに入っていた荷造り紐で男達を縛り上げていく。
縛り終えると、そのまま立ち去る。非力な彼では襲撃者達を運ぶことは不可能だったからだ。なので、逃げられないように拘束して、衛兵の詰め所に向かうのだった。プロに任せるのが一番だと思ったので。なお、何で襲撃されたのかは全然解っていないジェイクだった。
衛兵に事情を説明して後を任せたジェイクは、のんびりとアジトへの道を歩く。
「それにしても、こういうのは久しぶりですねぇ……」
ぼそりとジェイクは呟く。まさにその通りだった。実に久しぶりの、運動である。元々あんまり存在していない体力がごっそり削られた気がして、憂鬱だった。戻ったら本を読もうと思っていたのだが、何となく無理な気がした。
というのも、アジトへ向かう足取りが徐々に徐々に重くなっているからだ。身体が重かった。だがしかし、ここで座ったら絶対立ち上がれない気がするので、頑張っているのだ。せめて、何とか、アジトに帰り着くぐらいはしよう、と。
その後、無事にアジトに帰り着いたが玄関で力尽きたジェイクを発見した一同から小言を貰うのだが、何があったのかは特に言わないジェイクだった。心配をかけたくなかったので。
とはいえ、アリーを初め指導係達は色々と察していたのだろう。それから数日は、ジェイクの外出に誰かが付きそう姿が見られるのだった。何だかんだで愛されている学者先生である。
……だがそれは、彼が身を寄せているのが《真紅の山猫》だから、とも言えた。
別にジェイクは、己の身を守れぬ程に弱いわけではない。体力が無いので無理に戦えばぶっ倒れてしまうという本末転倒な部分はあるが、決して、弱者では、ない。普段のやりとりなどから訓練生も見習い組も把握していないが、ジェイクは決して、弱くはないのだ。
そう、彼は別に、弱くない。見た目が弱そうでも、普段の扱いから非戦闘員と思われていたとしても、弱くはない。
「あのですねぇ、僕、これでも一応《真紅の山猫》の指導係なんですよ?」
目の前の相手に対して、ジェイクはちょっと困ったように告げている。相手からの返事は無い。それを理解しているのかいないのか、ジェイクは相変わらずの口調で言葉を続けた。
「確かに僕はアリー達に比べればひ弱ですけどね?それは比べる対象が悪いと思うんです。彼らの戦闘力は桁外れなんですから。……えーっと、何でしたっけ?そうそう、僕は別に弱いわけではないので、こんな風に襲撃されても困るんですが」
のほほんとした口調で告げるジェイクの声音はいつも通り。浮かべる表情もいつも通り。けれど、いつもなら本を抱えているであろう右手には、武器が握られていた。彼が愛用しているのは鞭だ。非力な彼が、後方からでも攻撃できる武器として選んでいるものである。
……まぁ、普段はそれで荷物を引っ張り寄せたり、纏めたりしているのだが。器用に使いこなしてはいるが、使い方が微妙に間違っていると周りにツッコミを入れられているのがジェイクの日常だ。
その彼が、今、正しい意味で鞭を使っている。暴漢を倒す、という意味合いで。
「どんな理由で来られたのかは知りませんけど、うちに喧嘩を売っても良いことはありませんよ?僕個人に対しても同じです。うちの皆は思いやりがありますからねぇ。たとえ個人向けに襲撃されたとしても、報復には全員で赴いちゃったりするんです」
にこにこと微笑みながら告げるジェイクに、やはり答えは無い。そこで彼は、襲撃者達が昏倒していることに気づいた。久しぶりだったのでちょっとやり過ぎたのかも知れない。
「あぁ、うっかりしました。顎を揺さぶると意識飛ぶんですよねぇ」
非力な学者先生ではあるが、それ故に彼は人体の急所を把握している。襲撃されたので容赦なくその急所を鞭で攻撃した結果、相手は気絶しているようだった。しばらくどうしようか考えたジェイクは、ポケットに入っていた荷造り紐で男達を縛り上げていく。
縛り終えると、そのまま立ち去る。非力な彼では襲撃者達を運ぶことは不可能だったからだ。なので、逃げられないように拘束して、衛兵の詰め所に向かうのだった。プロに任せるのが一番だと思ったので。なお、何で襲撃されたのかは全然解っていないジェイクだった。
衛兵に事情を説明して後を任せたジェイクは、のんびりとアジトへの道を歩く。
「それにしても、こういうのは久しぶりですねぇ……」
ぼそりとジェイクは呟く。まさにその通りだった。実に久しぶりの、運動である。元々あんまり存在していない体力がごっそり削られた気がして、憂鬱だった。戻ったら本を読もうと思っていたのだが、何となく無理な気がした。
というのも、アジトへ向かう足取りが徐々に徐々に重くなっているからだ。身体が重かった。だがしかし、ここで座ったら絶対立ち上がれない気がするので、頑張っているのだ。せめて、何とか、アジトに帰り着くぐらいはしよう、と。
その後、無事にアジトに帰り着いたが玄関で力尽きたジェイクを発見した一同から小言を貰うのだが、何があったのかは特に言わないジェイクだった。心配をかけたくなかったので。
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