ユニオン・マギカ

ユリア・ソレイユ(紫月紫織)

文字の大きさ
5 / 33
氷樹の森の大賢者

5.バスケット片手に

しおりを挟む
 結論からいうと、同じ程度の剣は無かった。
 正確に言うと、どれも特殊能力がついていたり、同じような攻撃力帯の武器が短剣だったりで、形状と攻撃力両方を満たす近い武器というのが見繕えない。
 一番近いのは私が現在腰から下げているスペルキャストなのだが、これだけはよほどの理由がない限り……いや、あったとしても人に貸すつもりはないのだ。
 私にとって何よりも大事な宝物なのだから。

 そんなわけでゼフィアに剣を貸すのは見送ることになった。
 貸し出すと威力が高すぎて変なことになるんじゃないかという心配があったので。
 ステータスだけ見てもだいぶ違っていたことを考えると、ゲーム時代の武器は迂闊に出さないほうがいいだろう、少なくとも自分が使うにとどめたほうがいい。
 私の持っているスペルキャストが初心者鍛治師プレイヤーの作品なのだが、それで武器としての性能だけならゼフィアの持っているシルバーソーンの少し上ぐらいなのだ。
 ゲーム後期パッチのクエスト裝備とか考えたくもない。

 そんなわけで私たちは村から出て、北東にある森を抜けた先の薬草が群生する野原へと向かっている。
 森の中はさすがに人が管理できていない領域だけあって足場も悪く、鬱蒼とした森はどこか不気味な空気が漂っていた。
 先導のゼフィアが剣を抜いて周囲を警戒しながら歩みを進めるのだが、時折枯れ枝を踏んだりして森に音が響くたびにノフィカが息を飲む。
 ゼフィアと違って自衛できないためだろうか、かなり緊張している様子だった。
 私も剣を抜いておくべきか迷ったのだが、結局初の森歩きということで今は抜いていない。
 道が整備されていないこともあって歩くだけでも辛そうだと思ったからなのだが、スキルの補正が効いているのか大した疲労感はないあたり便利。
 これは恐らくスキル、幻惑の舞姫ファンタズマゴリアの影響だろう。
 内容はこんな感じ。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
幻惑の舞姫ファンタズマゴリア
"舞姫"のマスタースキル。
どのような場所でも自在に立ちまわることができる。
服装による制限を撤廃。
回避に+10%の上方修正。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 お洒落さんに大絶賛されそうなスキルだ。

 ともあれそんな森のなかを三十分ほど進んだ頃、森は唐突に終わりを告げ、その先には山の麓まで続く野原と、そこに群生する薬草を含めた草花が生み出す景色が広がっていた。
 まばらにではあるが青緑色の花をつけた植物が目当てのもの、ナナフシジャコウソウというらしい。

「くるときに魔物に出くわさなくてよかったな、それじゃあさっさと済ませちまうか」

 そう言ってゼフィアは剣を収める。
 その様子から、この周辺は安全なのだろうということがうかがえた。

「今日はどれぐらい取るんだ?」
「今日は、そうですね……ここ数日ヴァーラが出没することが増えていますから少し量を増やして一株から三節ほどでお願いします」
「さんふし?」
「あ、リーシア様には説明しないとですね。えっと、この青緑色の花をつけている草がナナフシジャコウソウです、このように七つ節ががあるからナナフシジャコウソウというのですが、全草が魔物よけの香草になっているんです」

 と言ってノフィカが示したものは確かに七つ節がある、なんというかラベンダーとつくしを混ぜたような植物だ、太さが一センチ程、花は節ごとに三箇所から横に細い茎が出てそこに咲いている。
 一つの節の長さはだいたい15センチほどなので、全長は腰より少し上になるぐらい。
 なので三節というと50センチぐらいだろうか。

「このように、少し節のところに力を入れてやるとぽっきりと折れます」
「ふむふむ……おお、とれた」

 以外と硬いのか折ったときの感触が結構気持ちいい。

「この節で折ると比較的すぐに新しい芽が出てくるんです。普段は一節かニ節で取るんですが、最近少し気になることがあるので多めに、ひとりあて100株ぐらいおねがいします」
「もっと根本からとっちゃダメなの?」
「節を折るとその年にできる種が減るんです。来年生まれる新しい株が減ってしまうことも避けたいので、背の低いものや節の少ないものからとるのは控えていただけると助かります」
「なるほど了解。そういえばゼフィア、ここにきたら剣を収めたけどこの辺って安全なの?」

 一応確認しておく、油断してて何かあると怖いしね。

「ああ、ノフィカが言ったろ、魔物除けの香草だって。ナナフシジャコウソウの群生地は魔物が寄ってこないことで有名なんだよ、よほどのことがない限り大丈夫だと思うぜ」
「そっか、それじゃあ私は向こうの方で集めてくるわ」
「あんまり遠くまで行くなよ、万が一ってこともあるからな」

 そんな感じで薬草採取ははじまった。
 あまり踏み荒らさないように気をつけながら一本、また一本と手折って集めていく。
 集めていると確かに癖のある香りを感じられる。
 魔物が嫌う臭いなのか、それともなんらかの忌避成分があるのか……除虫菊みたいなもんかな。

 20本ほど集めたところで抱えている腕がしんどくなってきたので一旦カゴに入れに行く、ゼフィアはさすがにノフィカのそばについているようで、ふとある考えが脳裏をかすめた。

 この状況……わたし、もしかして2人の逢瀬の時間を邪魔してるお邪魔虫なのでは?

「おう、以外と手際いいな」
「ええと、20本ですね」
「じゃ、あと80本あつめたらもどってくるわ、邪魔しないから、ごゆっくり」
「は?」

 そそくさと離れる私を見てノフィカは何か思い至ったのだろう、途端に焦って声を上げる。

「あの、リーシア様またなにか変な勘違いしてませんか!?」



 私が残りの80本ほどのナナフシジャコウソウを集めて戻ってくるころには2人はすでにノルマを終えて休憩している様子だった。
 やはり慣れている人は早いのね、私も急いだつもりなんだけど。
 作業中はこっそりインベントリにしまっておいたナナフシジャコウソウを両手に抱えて2人のところへと歩いて行く、その途中気づいたけれどゼフィアは休んでいるのではなく何かに警戒しているようだ。
 ノフィカが私を見つけ手招きする様子も何か急かしたようなもので、私は少し身をかがめながら早足に2人の元へともどる。

「リーシア様、無事でよかったです」
「そっちは何もなかったか?」
「う、うん。いたって普通だったけど、何かあったの?」
「はっきり何かあったわけじゃないんだが、少し空気に殺気が混ざってる感じでな、探しに行こうかとも思ったんだがノフィカを置いて動くわけにもいかなくて困ってたんだ、戻ってきてくれて助かった」

 ノフィカは私から受け取ったナナフシジャコウソウをカゴに急いで詰め込むと、籠のふたを閉めて背負い込む。

「よし、急いで戻るぞ。リーシアは後ろを頼む」
「了解、ノフィカ大丈夫?」
「これぐらいならなんとか、あまりはやくは走れそうにないですが」

 大きなカゴを背負って若干頼りなさそうだが、この場合荒事ができないだろう彼女にもってもらうしかない。
 腰から剣を抜き放ち背後と周囲に気を配りながら森の中を駆ける。
 本来なら私がしんがりを務めるとか無茶なんだろうけど、道も覚えていない私では先導することもできない。
 付いてきたのは果たして正解だったのだろうか。

 先頭を行くゼフィアが邪魔な枝を斬りはらい草をある程度分けてくれることで歩くペースはそこそこ早いだろうか、比較対象がないから体感だけど。
 草をかき分ける音と、枝を払う音。
 そんな中にうなり声のようなものが聞こえた気がした。

「コボルトだな……数が少なければなんとかなるんだが」
「強いの?」

 ゲーム時代は中級者ぐらいで戦えるモブで、ゼフィアぐらいのレベルだと1回戦うごとに休憩か回復アイテムが必須ぐらいの強さだったけども。

「強くはない、けど慣れてないと動きを追うのが難しいな。獣だけあって森でも素早く動くからひらけたところに出ないとこっちが不利だ」

 地の利は向こうにありってことか。
 茂みから突然襲いかかられたら対処のしようがないし、森の中に入ったのはもしかしてまずかった?
 ゼフィアはまだ余裕そうだけれどノフィカはさすがに疲れが出てきているようだし、この際ナナフシジャコウソウは籠ごとインベントリに突っ込むか?

「リーシア、もう少し進んだら多少ひらけた場所に出る。そこで俺がコボルトを引きつけるからノフィカを連れて森を抜けてくれ。ノフィカ、道はわかるな?」
「わ、わかりますけど……大丈夫なんですか?」
「どうとでもするさ」

 私が囮になるって言ってもいろんな意味で却下されそうだし、普段から魔物と戦ってるゼフィアがなら多分大丈夫だろうけど、不安要素は私たちだよねー、はっはっは。
 いやいや笑い事じゃないわ。
 ひときわ高く茂った草を抜け開けた場所に出る、そこで私たちは足を止めることになった。
 いや、足を止めざるを得なかった。
 一つはノフィカが足を引っ掛けて盛大に転倒し背負っていたナナフシジャコウソウをぶちまけてしまったこと、ナナフシジャコウソウを頭から盛大にかぶっている。
 こんな状況でなければ笑い話で済んだんだけどね。

「ノフィカ大丈夫!?」
「コボルトが待ち伏せ!? しかもこんな数でまとまってるだと!?」

 もう一つは数えただけで二十近い数のコボルトたちが私たちを待ち伏せしていたのだ、そして背後からも5匹のコボルトが飛び出してくる。

 さすがに状況的に周囲への対応を優先したのかゼフィアは剣を構えた状態で周りを牽制している。
 そのおかげかコボルトがすぐさま襲いかかってくることはなかった。
 ノフィカはすぐに立ち上がろうとしていたのだが中腰ぐらいまで立ち上がったところでまた倒れてしまった。
 足を抑えている様子なのだが、これは変な形にひねるか折るかしたか。

「走れそうにないわね……気のせいかな、状況がどんどん悪化してる気がするわ」
「悪化してるんじゃない、追い込まれたんだ。こんなこと初めてだが……リーシア覚悟決めろ、もうやるしかない」

 だよねぇ。
 意を決して飛びかかってきたコボルトをゼフィアは一刀で斬り返す。
 手傷を負わせこそしたものの一撃ではしとめきれなかったコボルトはいきり立って牙をむき、手に持っている棍棒を振り回した。

 こうして私の異世界での初戦闘はかなり不利な状況で幕を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

古代文明の最強王、5000年後に転生すると魔法が弱体化しすぎていたのでもう一度最強になります。~底辺貴族からの成り上がり~

しNぱ
ファンタジー
5000年前、魔法文明マギア魔導王国を築き、 魔法体系そのものを創造した王アーケ・マギアス・マギアは、 さらなる魔法の発展を求め、自らの魂を未来へ送る転生魔法を発動した。成熟した古代魔法を超える研究が進んだ世界を見たいという純粋な探求心から、5000年後の世界へと意識を沈めた。 目覚めた先は、スケルド男爵家三男レイフとしての赤子の身体だった。産まれた瞬間から記憶を持つ彼は、質素な家と薄い魔力の流れを前に、未来の魔法研究が古代よりも大きく退化していることに気づく。最底辺と呼ばれる家に生まれながらも、家族は温かく、彼の異常な魔力量を希望として受け入れた。 幼少期から魔力操作を自然に行い、三歳で石を浮かせ、五歳で光魔法を自在に扱うなど、古代王としての力を隠しながら成長する。外では古代魔法を使わず、転生者であることを悟られないよう慎重に振る舞いながら、未来の魔法体系を観察し続けた。 十歳になると身体強化などの古代魔法を最低限だけ使い、父との剣術訓練でも圧倒的な動きを見せるが、本来の力は隠したまま過ごす。そして十六歳、高等魔導学園に入学したレイフは、初日の実技試験で無詠唱魔法や術式無効化を用いて試験官を圧倒し、最底辺男爵家ながらA級判定を受ける。 その姿を見たストラング公爵家の令嬢エリナは、彼に強い興味を抱く。5000年後の世界は古代より魔法が退化していたが、だからこそ発展の余地がある。レイフは古代王としての知識をもとに、もう一度魔法の未来を切り開くことを決意する。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

処理中です...