13 / 33
氷樹の森の大賢者
12.お茶菓子と昔の話
しおりを挟む
あれから一週間ほどが経ちました。
防具については公式服では何の役にも立たなかったため、インベントリを漁って多少はマシというものを見繕ってみた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
銘:ハウリングローブ+5
防御力:55(40)+15
耐久力:1600/1600(1100)
固有特性:同じ属性の魔法を使い続けると威力が上がる
使用制限:魔法職
品質補正
防御力:+15
耐久力:+500
所有者:なし
来歴:
一つの属性魔法を極めたものに送られるローブ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どれか一つでも最高ランクの属性攻撃魔法をマスターすると貰うことができる特典裝備なのだが、その性能故に一部の狩場ではかなり優秀とされた品である。
当時はイラストでしかグラフィックが無かったのだけど、実際に目にして着てみるとなかなか良いデザインで気に入った。
濃紺色の手触りの良い生地で作られた右足の前側にスリットが入ったロングスカート、光沢のある生地で作られたブラウスに丈の長いケープといった組み合わせ。
ローブと言うよりは服一式なのが気になるけど、まぁ気にしないことにしよう。
刻印魔術のコントロールについても精度が上がり早くもユナさんからは卒業を言い渡された。
怖くてゲーム時代の魔法についてはまだ使ってないんだけどね。
なので魔術の開放段階もまだランク2までとなっている。
使うなら村からある程度離れた場所がいいから首都に行くときの道すがらとかに場所を探してみるつもりなのだけれど、今のところその機会が無い。
剣についてもだいぶ落ち着いて立ち回れるようになり、以前のようにスプリントボアに背後から襲撃されるということもあれきり起きていない。
刻印魔術の一つ、"探知"を使って周囲をある程度確認しているというのもあるんだけどね。
変幻十六刻印に分類されるものの一つが探知、印の作り方次第で周囲を確認するレーダーや、ゲーム時代のマップみたいなものも確認できる優れもの。
なのだけれどあまり人気はないとかで使う人は少ないのだとか。
一定の需要はあるらしいんだけどおもいっきりサポート的な能力だから仕方ないのかね。
時刻は昼下がり、すれ違う村人さんに手を振りつつユナさんの家に向かう。
最近ではすっかり慣れてしまって向こうも気軽に訪ねてくるわ、こっちからも調味料もらいにいくわでだいぶ親しくなった気がする。
ちなみに向こうからの用事はたいてい肉類とか、魔物を倒した際に手に入る物品だ。
この前のスプリントボアの肉が原因だろう。
今は他の肉に加えて少し遠くに生えている山菜だとか木の実だとか、イモ類だとかがインベントリにつめ込まれている。
私一人じゃ処理しきれないからちょうどいいし、相手もそれをわかってるんだろうけどこういうご近所さんづきあいははじめてなわけでうまく出来てるか不安。
今のところ大丈夫そうだけどね。
ユナさんの家の前までやってくるとゼフィアが待っていたようで玄関前の花壇に腰を下ろしていた。
「よう、早かったな」
「そう? これでものんびり来たんだけどね」
「急かしたようじゃなかったならよかったよ。ユナさんが待ってるし入ろうぜ」
ユナさんの家へと上がると珍しくもお茶とお茶菓子を用意したユナさんが待っていた。
促されて席につくのだけれど、なんというかこういうお茶会というのは初めてだ。
「急に呼び出して悪かったね」
「構いませんよ、特にやらなければいけないことも無かったですし」
やりたいことはいろいろあるけれど急ぐものは特に無い。
こちらに来る前に探知を軽く広げて確認して見たが、魔物の反応もそう近くなかったため気にすることもないだろう。
「今日呼んだのは他でもない、この村についてのことと、それに関わることで一つ頼みごとがあるんだ。ゼフィアを呼んだのもその関係だね」
「頼みごと、ですか」
一体どんな内容なのだろうかと軽く考えを巡らせるが、村についての事が関わるとなるといささか知識不足で予測がつかない。
それについてもたぶんユナさんなら話してくれるだろうからおとなしく話を聞くことにした。
「多少講義的な内容になっちまうがね、まずエウリュアレ村というのがどこにあるかというと、アールセルム大陸南部に位置する半島のやや海寄りの位置にある。街道というほど立派なものじゃないが、多少整えられた道を馬か馬車で北上すると五日ほどで私達の所属するウィルヘルム王国の首都が見えてくる」
「結構遠いんですね」
「そうさね、なんでだと思う?」
不意に質問で返された。
この手の知識は無いのだが、開拓村を作るというのにしては結構な距離があるように思える。
馬で片道五日となると作った麦を運ぶにしてもやや遠いのではないだろうか。
開拓するのに遠いのにわざわざ作ったとなると場所に意味があるのかもしれない。
とすると……。
「エウリュアレ神殿ですか?」
この場所で何かあるとなるとそれぐらいしか思いつかないが、でもそれは開拓村ができたあとの話だっただろうか?
私の答えにユナさんは何やら納得したように一度頷いた。
「考え方は間違ってないだろう、けどエウリュアレ神殿はこの村ができたあとに現れたものだ。エウリュアが村がこの位置にある理由は別、この村から見える海岸沿いに十二年前アイゼルネの軍勢が上陸したのがその理由だ」
「アイゼルネ?」
「海を挟んで向こう側──ポルセフェネ大陸にある宗教国家の名前さ。その遠征軍がこのそばの海岸に上陸し、そして十二年前に首都が半壊する事態になったのさ」
一気にきな臭くなったなぁ。
命にかかわるトラブルはできればご遠慮願いたいのだけども。
しかし、その話で納得がいった。
つまり──。
「エウリュアレ村は開拓が目的で切り開かれたものではなく、アイゼルネが過去に上陸した海岸線を監視するという目的のために生まれたということですか」
「そういうことさ、話が早くて助かるよ」
「……なにか、変じゃないですか?」
「なんとなく言いたいことはわかるが、なんだい?」
「この村って、兵役についていると思われる人を私は見たことがありません。国にとっては重要拠点であるはずなのになんで監視塔のようなものすら無く、そこに常駐する兵士も居ないんです? 見張り台は在りましたけど……こう言うとなんですが少々お粗末ですし」
エウリュアレの存在意義をそのまま解釈するなら国境警備と言い換えてもいい、そんな場所が国の騎士団だとか兵士だとか、そういった存在を欠いたままなんて明らかに不自然だろう。
私のそんな疑問に答えたのはユナさんではなく、途端に不機嫌になったゼフィアだった。
「この村は俺達の意思で作った開拓村だ」
「どういうこと?」
「ゼフィア、腹が立つのはわかるが嬢ちゃんに当たってもしょうがないだろう。ちゃんと順を追って説明しないとだめさ」
「……すまん、ちょっと頭冷やしてくる」
短く一言だけ謝ってこちらの返事も待たずにゼフィアは出て行ってしまった。
「この話題になるとゼフィアはいつもああだしノフィカもね、気持ちは分からないでもないんだが……」
「結局のところ、どういうことが起きたわけです?」
私の問いにユナさんは少しだけ、ほんの少しだけ思い出したくないことを思い返すかのように間をおいた。
「首都が半壊するような事態に陥った国ってなどうなってると思うね?」
「それは……」
正直あまり考えたくもないが、家屋の多くが焼け落ちて、多くの人が死んで、国の守りを担っていた騎士団だとか軍事力は半壊かほぼ壊滅といったところだろうか?
雑な想像だけど。
「なんとかアイゼルネの軍を壊滅させたとき、ウィルヘルム王国は酷い有様だった。国民の三割ぐらいは死んだだろうし、騎士団はほぼ壊滅、国としての機能をかろうじて回復するまでに一月ほどかかった。そんな矢先に、片道五日もかかる海岸線の監視に軍の一部を割くってな相当の反感があったんだよ。食料をどうするのか、首都の守りをどうするのか、ってんでね」
気持ちはわからなくはない、魔物の脅威もある以上首都の警備をおろそかにするのは戦争によって焼け出されたばかりの街の人達には恐ろしいことだっただろう。
何より首都まで戦火が広がったのなら畑にも大きな損害が出ていたはずだ。
あるいはすぐに次はこないと、そう思いたかったのかもしれない。
「またアイゼルネが侵略してきたらどうするんだ、って声が上がったのは少しさ。皆夜が怖かったんだろうけどね……結果、監視砦建設計画は案こそ上がったものの実現されなかった。それに怒ったのは……当時の戦争で家族を失った連中。もっと早くアイゼルネの侵攻に気づいていれば、そう思わずにはいられなかったんだろう、今の村長──あいつ名乗らなかっただろう? マクネス・ウィルヘルムっていうんだが」
「……ウィルヘルム?」
「一応分家だけども王家の血筋でね……あんまり顔も知られてなかったんだが。あいつは自分の身分を全部捨てて、開拓村としてエウリュアレを作ることを決めて人を集め始めたのさ、そしてそれに乗ったのがこの村にいる連中ってことさ」
なんとなく感じていた違和感、考えてみれば私がこの村で過ごすようになってから、外部から来る人なんてほとんど居なかった。
ユナさんが言うには数ヶ月に一度、どうしても村では調達できない物品を運ぶために行き来があるぐらいだと聞いている、開拓村というにしては少々孤立しすぎなのだ。
誰もそこに行きたがらない監視拠点、それがこの村だというわけか。
「一応、そろそろ落ち着いた頃合いだろうってことで騎士団が砦建設を再度訴えてるらしいが、どうなるかねぇ……若い連中まで来ちまって、それだけが誤算だったかねぇ」
私の考えていたことがわかったのか、ユナさんが神妙な面持ちで言った。
有事の際の、命がけの伝令。
この村の人達は自らその役目を引き受けたのだ。
話が再開されたのはゼフィアが落ち着いて戻ってきてからだった。
結局のところ未だにユナさんからの頼みごとというのを聞けていないどころか前段階、前提のところで話が止まっている。
私としてはいろいろとこの世界のことを知れるから構わないのだけどもね。
「今まで話したことを前提にしてだね、この村は海岸の監視記録をつけてて、それを定期的に王国騎士団に報告してるのさ。それで次の報告をそろそろしなきゃいけないんだが……最近コボルトが結構な数出たことで剣を使える連中を外にだすかって話でちょっと意見が別れてね」
「確かにそういう時に戦える人を減らすのは抵抗ありますよね」
「かと言って報告をしないなんて選択肢はないわけで、どうするかって話で一つ提案が出てね」
「察しました」
これ、私にお使いに行けパターンだろう。
「察しのいい子は嫌いじゃないがまぁ最後まで聞いとくれ。報告事態に外部の者をつかうのは避けたいわけさ」
「知らない人がいきなり報告に来てもびっくりしますものねぇ、門前払いとかもありますし」
「で、報告に誰をやるかって話になって……ノフィカをって声が出たのさ」
なんでや、ノフィカって治癒の刻印魔術使えるからそんなに自由にならない立場な気がするんだけど?
ユナさんに疑問の視線を送ると彼女はゼフィアに視線を向ける。
そのゼフィアは視線をそらすしで彼が一枚噛んでいることは理解した。
「ゼフィアくん、さっさと吐きなさい」
「くんて……いや、まぁ……おせっかいというか、戦略的撤退というか、気になるっていうか……」
「めんどくさいなぁ。聞かれたくないわけ?」
「まぁ、あんまり言いたくない、お前には」
なんじゃそら、そんな感じはしないけどもしかして嫌われてるのか?
「まぁ、なんか思うところがあるらしくてね。それでノフィカを使いにやるって方向で話がまとまったんだが、魔物が出るようなろくに整備もされてない街道をろくに戦えもしない巫女一人で行かせるわけにもいかない、じゃあ誰を護衛にするんだってことで白羽の矢が立ったのが……」
「私だと」
「そういうことさ。提案したのは村長なんだが、それに賛成を投じたのがゼフィアなわけで、特に反対する理由もなくこうして話を持ちかけることになったわけさ」
「女同士だし、お前の実力はこの目で見てる。刻印魔術に関してもユナさんのお墨付きとあればこれ以上安心して任せられる人間なんて、俺には正直ユナさんかカレンさんぐらいしか思い当たらなくてな」
嫌われてるわけじゃなさそうと言うかむしろ信頼されてるっぽいのはいいんだけども、女同士って要素はあてになるのかあやしいよそれ?
ゼフィアは知らないことだし私も言うつもりはないから外から見ると間違いないんだけどさ。
いやまぁ、手を出すつもりもないけど。
「そんなわけで、頼まれちゃくれないかい? お嬢ちゃんもエウリュアレ以外を見てくる良い口実になるだろう、ついでに何か見つかれば万々歳って村長は考えてるみたいだがね」
「私で良ければ構いませんよ。首都にはそのうち行ってみたいと思っててなかなかタイミングが合わせられなかっただけですし、いろいろしてもらってますから御礼もかねて」
私には特に断る理由もない。
しいて言うならば私に人を守りながらの戦いができるかだが、そこはまぁ御鏡やらクロウやらエリアルやらを出せば十分すぎるほどではないだろうか。
後でインベントリを漁って何かノフィカに裝備させるような品物でも見繕っておけば更に安全だろう。
「回ってほしい所とか、済ませて欲しい用事についてはノフィカに伝えておくから案内してもらってくれ。……一つだけ、ノフィカに直前まで言わないでおいてほしいこともあるんだがそれだけ頼んでいいか?」
「うん、なになに?」
こうして私はゼフィアが本当に私に頼みたかったことが何だったかを聞いた。
とても不器用で、それでいて彼女のことを気にかけている、そんなゼフィアの一面が見えた。
防具については公式服では何の役にも立たなかったため、インベントリを漁って多少はマシというものを見繕ってみた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
銘:ハウリングローブ+5
防御力:55(40)+15
耐久力:1600/1600(1100)
固有特性:同じ属性の魔法を使い続けると威力が上がる
使用制限:魔法職
品質補正
防御力:+15
耐久力:+500
所有者:なし
来歴:
一つの属性魔法を極めたものに送られるローブ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どれか一つでも最高ランクの属性攻撃魔法をマスターすると貰うことができる特典裝備なのだが、その性能故に一部の狩場ではかなり優秀とされた品である。
当時はイラストでしかグラフィックが無かったのだけど、実際に目にして着てみるとなかなか良いデザインで気に入った。
濃紺色の手触りの良い生地で作られた右足の前側にスリットが入ったロングスカート、光沢のある生地で作られたブラウスに丈の長いケープといった組み合わせ。
ローブと言うよりは服一式なのが気になるけど、まぁ気にしないことにしよう。
刻印魔術のコントロールについても精度が上がり早くもユナさんからは卒業を言い渡された。
怖くてゲーム時代の魔法についてはまだ使ってないんだけどね。
なので魔術の開放段階もまだランク2までとなっている。
使うなら村からある程度離れた場所がいいから首都に行くときの道すがらとかに場所を探してみるつもりなのだけれど、今のところその機会が無い。
剣についてもだいぶ落ち着いて立ち回れるようになり、以前のようにスプリントボアに背後から襲撃されるということもあれきり起きていない。
刻印魔術の一つ、"探知"を使って周囲をある程度確認しているというのもあるんだけどね。
変幻十六刻印に分類されるものの一つが探知、印の作り方次第で周囲を確認するレーダーや、ゲーム時代のマップみたいなものも確認できる優れもの。
なのだけれどあまり人気はないとかで使う人は少ないのだとか。
一定の需要はあるらしいんだけどおもいっきりサポート的な能力だから仕方ないのかね。
時刻は昼下がり、すれ違う村人さんに手を振りつつユナさんの家に向かう。
最近ではすっかり慣れてしまって向こうも気軽に訪ねてくるわ、こっちからも調味料もらいにいくわでだいぶ親しくなった気がする。
ちなみに向こうからの用事はたいてい肉類とか、魔物を倒した際に手に入る物品だ。
この前のスプリントボアの肉が原因だろう。
今は他の肉に加えて少し遠くに生えている山菜だとか木の実だとか、イモ類だとかがインベントリにつめ込まれている。
私一人じゃ処理しきれないからちょうどいいし、相手もそれをわかってるんだろうけどこういうご近所さんづきあいははじめてなわけでうまく出来てるか不安。
今のところ大丈夫そうだけどね。
ユナさんの家の前までやってくるとゼフィアが待っていたようで玄関前の花壇に腰を下ろしていた。
「よう、早かったな」
「そう? これでものんびり来たんだけどね」
「急かしたようじゃなかったならよかったよ。ユナさんが待ってるし入ろうぜ」
ユナさんの家へと上がると珍しくもお茶とお茶菓子を用意したユナさんが待っていた。
促されて席につくのだけれど、なんというかこういうお茶会というのは初めてだ。
「急に呼び出して悪かったね」
「構いませんよ、特にやらなければいけないことも無かったですし」
やりたいことはいろいろあるけれど急ぐものは特に無い。
こちらに来る前に探知を軽く広げて確認して見たが、魔物の反応もそう近くなかったため気にすることもないだろう。
「今日呼んだのは他でもない、この村についてのことと、それに関わることで一つ頼みごとがあるんだ。ゼフィアを呼んだのもその関係だね」
「頼みごと、ですか」
一体どんな内容なのだろうかと軽く考えを巡らせるが、村についての事が関わるとなるといささか知識不足で予測がつかない。
それについてもたぶんユナさんなら話してくれるだろうからおとなしく話を聞くことにした。
「多少講義的な内容になっちまうがね、まずエウリュアレ村というのがどこにあるかというと、アールセルム大陸南部に位置する半島のやや海寄りの位置にある。街道というほど立派なものじゃないが、多少整えられた道を馬か馬車で北上すると五日ほどで私達の所属するウィルヘルム王国の首都が見えてくる」
「結構遠いんですね」
「そうさね、なんでだと思う?」
不意に質問で返された。
この手の知識は無いのだが、開拓村を作るというのにしては結構な距離があるように思える。
馬で片道五日となると作った麦を運ぶにしてもやや遠いのではないだろうか。
開拓するのに遠いのにわざわざ作ったとなると場所に意味があるのかもしれない。
とすると……。
「エウリュアレ神殿ですか?」
この場所で何かあるとなるとそれぐらいしか思いつかないが、でもそれは開拓村ができたあとの話だっただろうか?
私の答えにユナさんは何やら納得したように一度頷いた。
「考え方は間違ってないだろう、けどエウリュアレ神殿はこの村ができたあとに現れたものだ。エウリュアが村がこの位置にある理由は別、この村から見える海岸沿いに十二年前アイゼルネの軍勢が上陸したのがその理由だ」
「アイゼルネ?」
「海を挟んで向こう側──ポルセフェネ大陸にある宗教国家の名前さ。その遠征軍がこのそばの海岸に上陸し、そして十二年前に首都が半壊する事態になったのさ」
一気にきな臭くなったなぁ。
命にかかわるトラブルはできればご遠慮願いたいのだけども。
しかし、その話で納得がいった。
つまり──。
「エウリュアレ村は開拓が目的で切り開かれたものではなく、アイゼルネが過去に上陸した海岸線を監視するという目的のために生まれたということですか」
「そういうことさ、話が早くて助かるよ」
「……なにか、変じゃないですか?」
「なんとなく言いたいことはわかるが、なんだい?」
「この村って、兵役についていると思われる人を私は見たことがありません。国にとっては重要拠点であるはずなのになんで監視塔のようなものすら無く、そこに常駐する兵士も居ないんです? 見張り台は在りましたけど……こう言うとなんですが少々お粗末ですし」
エウリュアレの存在意義をそのまま解釈するなら国境警備と言い換えてもいい、そんな場所が国の騎士団だとか兵士だとか、そういった存在を欠いたままなんて明らかに不自然だろう。
私のそんな疑問に答えたのはユナさんではなく、途端に不機嫌になったゼフィアだった。
「この村は俺達の意思で作った開拓村だ」
「どういうこと?」
「ゼフィア、腹が立つのはわかるが嬢ちゃんに当たってもしょうがないだろう。ちゃんと順を追って説明しないとだめさ」
「……すまん、ちょっと頭冷やしてくる」
短く一言だけ謝ってこちらの返事も待たずにゼフィアは出て行ってしまった。
「この話題になるとゼフィアはいつもああだしノフィカもね、気持ちは分からないでもないんだが……」
「結局のところ、どういうことが起きたわけです?」
私の問いにユナさんは少しだけ、ほんの少しだけ思い出したくないことを思い返すかのように間をおいた。
「首都が半壊するような事態に陥った国ってなどうなってると思うね?」
「それは……」
正直あまり考えたくもないが、家屋の多くが焼け落ちて、多くの人が死んで、国の守りを担っていた騎士団だとか軍事力は半壊かほぼ壊滅といったところだろうか?
雑な想像だけど。
「なんとかアイゼルネの軍を壊滅させたとき、ウィルヘルム王国は酷い有様だった。国民の三割ぐらいは死んだだろうし、騎士団はほぼ壊滅、国としての機能をかろうじて回復するまでに一月ほどかかった。そんな矢先に、片道五日もかかる海岸線の監視に軍の一部を割くってな相当の反感があったんだよ。食料をどうするのか、首都の守りをどうするのか、ってんでね」
気持ちはわからなくはない、魔物の脅威もある以上首都の警備をおろそかにするのは戦争によって焼け出されたばかりの街の人達には恐ろしいことだっただろう。
何より首都まで戦火が広がったのなら畑にも大きな損害が出ていたはずだ。
あるいはすぐに次はこないと、そう思いたかったのかもしれない。
「またアイゼルネが侵略してきたらどうするんだ、って声が上がったのは少しさ。皆夜が怖かったんだろうけどね……結果、監視砦建設計画は案こそ上がったものの実現されなかった。それに怒ったのは……当時の戦争で家族を失った連中。もっと早くアイゼルネの侵攻に気づいていれば、そう思わずにはいられなかったんだろう、今の村長──あいつ名乗らなかっただろう? マクネス・ウィルヘルムっていうんだが」
「……ウィルヘルム?」
「一応分家だけども王家の血筋でね……あんまり顔も知られてなかったんだが。あいつは自分の身分を全部捨てて、開拓村としてエウリュアレを作ることを決めて人を集め始めたのさ、そしてそれに乗ったのがこの村にいる連中ってことさ」
なんとなく感じていた違和感、考えてみれば私がこの村で過ごすようになってから、外部から来る人なんてほとんど居なかった。
ユナさんが言うには数ヶ月に一度、どうしても村では調達できない物品を運ぶために行き来があるぐらいだと聞いている、開拓村というにしては少々孤立しすぎなのだ。
誰もそこに行きたがらない監視拠点、それがこの村だというわけか。
「一応、そろそろ落ち着いた頃合いだろうってことで騎士団が砦建設を再度訴えてるらしいが、どうなるかねぇ……若い連中まで来ちまって、それだけが誤算だったかねぇ」
私の考えていたことがわかったのか、ユナさんが神妙な面持ちで言った。
有事の際の、命がけの伝令。
この村の人達は自らその役目を引き受けたのだ。
話が再開されたのはゼフィアが落ち着いて戻ってきてからだった。
結局のところ未だにユナさんからの頼みごとというのを聞けていないどころか前段階、前提のところで話が止まっている。
私としてはいろいろとこの世界のことを知れるから構わないのだけどもね。
「今まで話したことを前提にしてだね、この村は海岸の監視記録をつけてて、それを定期的に王国騎士団に報告してるのさ。それで次の報告をそろそろしなきゃいけないんだが……最近コボルトが結構な数出たことで剣を使える連中を外にだすかって話でちょっと意見が別れてね」
「確かにそういう時に戦える人を減らすのは抵抗ありますよね」
「かと言って報告をしないなんて選択肢はないわけで、どうするかって話で一つ提案が出てね」
「察しました」
これ、私にお使いに行けパターンだろう。
「察しのいい子は嫌いじゃないがまぁ最後まで聞いとくれ。報告事態に外部の者をつかうのは避けたいわけさ」
「知らない人がいきなり報告に来てもびっくりしますものねぇ、門前払いとかもありますし」
「で、報告に誰をやるかって話になって……ノフィカをって声が出たのさ」
なんでや、ノフィカって治癒の刻印魔術使えるからそんなに自由にならない立場な気がするんだけど?
ユナさんに疑問の視線を送ると彼女はゼフィアに視線を向ける。
そのゼフィアは視線をそらすしで彼が一枚噛んでいることは理解した。
「ゼフィアくん、さっさと吐きなさい」
「くんて……いや、まぁ……おせっかいというか、戦略的撤退というか、気になるっていうか……」
「めんどくさいなぁ。聞かれたくないわけ?」
「まぁ、あんまり言いたくない、お前には」
なんじゃそら、そんな感じはしないけどもしかして嫌われてるのか?
「まぁ、なんか思うところがあるらしくてね。それでノフィカを使いにやるって方向で話がまとまったんだが、魔物が出るようなろくに整備もされてない街道をろくに戦えもしない巫女一人で行かせるわけにもいかない、じゃあ誰を護衛にするんだってことで白羽の矢が立ったのが……」
「私だと」
「そういうことさ。提案したのは村長なんだが、それに賛成を投じたのがゼフィアなわけで、特に反対する理由もなくこうして話を持ちかけることになったわけさ」
「女同士だし、お前の実力はこの目で見てる。刻印魔術に関してもユナさんのお墨付きとあればこれ以上安心して任せられる人間なんて、俺には正直ユナさんかカレンさんぐらいしか思い当たらなくてな」
嫌われてるわけじゃなさそうと言うかむしろ信頼されてるっぽいのはいいんだけども、女同士って要素はあてになるのかあやしいよそれ?
ゼフィアは知らないことだし私も言うつもりはないから外から見ると間違いないんだけどさ。
いやまぁ、手を出すつもりもないけど。
「そんなわけで、頼まれちゃくれないかい? お嬢ちゃんもエウリュアレ以外を見てくる良い口実になるだろう、ついでに何か見つかれば万々歳って村長は考えてるみたいだがね」
「私で良ければ構いませんよ。首都にはそのうち行ってみたいと思っててなかなかタイミングが合わせられなかっただけですし、いろいろしてもらってますから御礼もかねて」
私には特に断る理由もない。
しいて言うならば私に人を守りながらの戦いができるかだが、そこはまぁ御鏡やらクロウやらエリアルやらを出せば十分すぎるほどではないだろうか。
後でインベントリを漁って何かノフィカに裝備させるような品物でも見繕っておけば更に安全だろう。
「回ってほしい所とか、済ませて欲しい用事についてはノフィカに伝えておくから案内してもらってくれ。……一つだけ、ノフィカに直前まで言わないでおいてほしいこともあるんだがそれだけ頼んでいいか?」
「うん、なになに?」
こうして私はゼフィアが本当に私に頼みたかったことが何だったかを聞いた。
とても不器用で、それでいて彼女のことを気にかけている、そんなゼフィアの一面が見えた。
0
あなたにおすすめの小説
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。
剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。
彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。
「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。
これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。
【カクヨムでも掲載しています】
表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)
古代文明の最強王、5000年後に転生すると魔法が弱体化しすぎていたのでもう一度最強になります。~底辺貴族からの成り上がり~
しNぱ
ファンタジー
5000年前、魔法文明マギア魔導王国を築き、
魔法体系そのものを創造した王アーケ・マギアス・マギアは、
さらなる魔法の発展を求め、自らの魂を未来へ送る転生魔法を発動した。成熟した古代魔法を超える研究が進んだ世界を見たいという純粋な探求心から、5000年後の世界へと意識を沈めた。
目覚めた先は、スケルド男爵家三男レイフとしての赤子の身体だった。産まれた瞬間から記憶を持つ彼は、質素な家と薄い魔力の流れを前に、未来の魔法研究が古代よりも大きく退化していることに気づく。最底辺と呼ばれる家に生まれながらも、家族は温かく、彼の異常な魔力量を希望として受け入れた。
幼少期から魔力操作を自然に行い、三歳で石を浮かせ、五歳で光魔法を自在に扱うなど、古代王としての力を隠しながら成長する。外では古代魔法を使わず、転生者であることを悟られないよう慎重に振る舞いながら、未来の魔法体系を観察し続けた。
十歳になると身体強化などの古代魔法を最低限だけ使い、父との剣術訓練でも圧倒的な動きを見せるが、本来の力は隠したまま過ごす。そして十六歳、高等魔導学園に入学したレイフは、初日の実技試験で無詠唱魔法や術式無効化を用いて試験官を圧倒し、最底辺男爵家ながらA級判定を受ける。
その姿を見たストラング公爵家の令嬢エリナは、彼に強い興味を抱く。5000年後の世界は古代より魔法が退化していたが、だからこそ発展の余地がある。レイフは古代王としての知識をもとに、もう一度魔法の未来を切り開くことを決意する。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる