ハナサクカフェ

あまくに みか

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木月美優の場合

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 「ここちゃーん、手が邪魔~」
 スマホの画面いっぱいに映し出された、プレートランチにのプニプニした手が伸びてきた。
 「あ、待って。逆に映えるかも!」
 お洒落なカフェランチに、赤ちゃんが手を伸ばしている写真。いい!すごく、いい!
 木月美優は、興奮して何度も写真を撮った。
 「何がか知らないけど、写真撮ってないで、温かいうちに食べなさいよ」
 「のりちゃん、今絶対違うを想像したでしょう」
 あおいちゃんを抱っこしているおばちゃんが、田辺さん。みんなからは、田辺のおばちゃんと呼ばれているらしい。
 そして、白髪のマダムが、店長の櫻子さん。名前の通り、品のある人。
 美優は二人をちらりと盗み見て、確認した。
 「SNS映えって言うのよ。孫が教えてくれたわ」
 「なんだい、それ。流行ってんのかい?」
 「綺麗な写真を撮って、沢山の人からってされるのが、いいらしいのよ」
 「いいねって?」
 「もう、おばあさんは黙っててよ」
 櫻子さんは、首を振ってイヤイヤした。
 「ゆり先輩、ここいいですね。めっちゃ綺麗だし、ランチもお洒落!教えてくれて、ありがとうございます」
 ハナサクカフェの事を教えてくれたのは、ゆり先輩。会社の先輩で、近所に住んでいたのはびっくりだけど、出産したのも同じ年っていうのも、またびっくり。まあ、わたしの方が若いし、先に出産したけどね。
 「でしょう。翔太がね、教えてくれたの」
 「へぇー……、旦那さんが」
 おっといけない!と美優は、内心舌を出す。声のトーンが低くなっちゃった。別に羨ましくないけど、ゆり先輩が旦那さんと仲良しなの、自慢されたくないのよね。


 「美優は、インフルエンサーなんですよ」
 ゆり先輩が、櫻子さんたちに紹介してくれた。
 「やだ、ですよ、元」
 嬉しさを隠しつつ、美優は付け加えた。
 「なんだって?インフルエンザ?」
 あー、嫌。おばさんって本当に面倒くさい。美優は答えず「いただきまぁす」と手を合わせた。
 「インフルエンサーですよ、田辺さん」
 ゆり先輩が笑って訂正する。
 「例えば、この商品がとっても使い勝手よかったってSNSで発信したとします。すると、その投稿を見た人が紹介された商品を買いに行く…というような、影響力を持つ人のことですよ」
 ゆり先輩の説明を聞いて、田辺さんは「へえーあんたスゴい人なんだね」と言った。
 そうなの、わたしはすごいの。沢山の女の子たちが、わたしに憧れて、真似をしたがったんだから。
 「はい、ここちゃん、あーん」
 こころは、離乳食をあまり食べない。もう生後八ヶ月になるのに、お粥を口に入れては、ベーっと口から出してしまう。
 「元ってことは、今は辞めちゃったの?どうして?」
 櫻子さんが、不思議そうに言った。
 「あーそれは……。妊娠したから辞めたんです。それまでは、プレ花……結婚式関係の情報を投稿してたので、妊娠をきっかけに卒業しようかなって」


 美優は、これから結婚式を行う花嫁向けに、自身の結婚式の記録や披露宴の内容、ドレスやメイクなど詳細に投稿していた。
 写真の撮り方や頑張ってお金をかけた結婚式が良かったのか、次第に美優のフォロワーは増えていき、プレ花嫁向けのイベントに参加しないか、と声をかけられたこともあった。
 『幸せいっぱいで、羨ましい』とか『こんなステキな結婚式に招待されたい』とか『そのアイディア真似してもいいですか?』といったコメントで溢れていた。
 だが、もう美優のアカウントは存在しない。妊娠したからではない。晒しにあったからだ。「痛い」「うざい」「次はマタニティフォトか?」などとコメントしてくるが突如増えたのだ。
 他人の幸せを素直に喜べない、不幸なヤツら。本当に、心が貧しい人たち……と美優は同情した。
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