銀河ラボのレイ

あまくに みか

文字の大きさ
1 / 8

博士と少年

しおりを挟む
 銀河ラボの丸い窓が開いて、博士が顔を出した。

 頭上では、白や桃色、エメラルドグリーンの色をした星たちが、ちかちかと輝いてあいさつを交わす。

 月面で月うさぎが数羽、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「今日はさわがしいな。オヤツの時間はまだなのに」

 少し伸びた銀色の髪をポリポリとかきながら、博士は月団子を入れたカゴを持って、外へ出た。


 博士の膝くらいまで伸びた、金色に輝く草が月面をおおっている。それは、ゆっくり波打つように揺れながら、時おり、淡く光る胞子を飛ばしていた。

 月うさぎは、月でしか育たない希少なうさぎで、その毛並みもやはり、金色の色をしている。
 博士の研究対象、というよりは友人であった。

 おーい、と博士は友人たちに向かって声をあげる。

「オヤツをもってきたよ」

 月団子の入ったカゴを掲げながら、近づいていくと、博士の存在に気がついた月うさぎたちが、いっせいに飛び跳ね、異常を知らせた。

「どうした?」

 博士が月うさぎたちに近寄ると、一箇所だけ草が潰れているのが確認出来た。更に近寄ると、なにかが草に埋もれているのが見える。

 立ち止まって、博士は息をのんだ。

「人間の……子ども……?」

 うつ伏せに倒れている子どもは、どうやら男の子のようだ。青白い顔をしているが、着ている白い服が上下に動いており、息をしていることがわかる。

「へえ! 生きているのか。珍しい」

 興味を持った博士はすかさず、すぐそばにしゃがみこむ。
 男の子をまじまじとあらゆる角度から観察する。
 月うさぎたちが不安そうに見上げているのに気がつくと、我に返って咳払いをした。

「たまに落ちてくる人間がいるんだよ」

 膝にのってきた一羽の頭をクシャっとなでてやる。博士は月うさぎたちの顔を一羽一羽見回して、安心させようと微笑み返した。

「大丈夫。ちゃんと銀河管理局に連絡するから。君たちは安心して、お団子でも食べていなさい」

 お団子をばらまいてやり、月うさぎたちがそれを食べているのを眺めてから、博士は男の子に向きなおった。
 そっと手を伸ばす。
 ほおに触れようとして、やめる。

「たしかめなくても、わかっているさ」

 生きている。
 その事実は変えられない。
 ザワついた心を落ち着けるために、博士は長く細い息を吐ききった。それから博士は、男の子を抱きかかえ、銀河ラボへと戻った。

 腕の中の男の子は、おだやかに息をしている。その伏せられた長いまつ毛、白くやわらかそうなほお。

 生きている。この子は、生きている。
 博士は、悲しくなった。
 この子はたしかに、生きているのに。


 銀河ラボへ帰り、男の子をベッドへ寝かせると、博士は部屋の隅へ向かった。そこには白く輝く水晶がある。

 博士は振り返って、もう一度男の子を見た。それから、静かな声で、水晶に向かって話し始めた。



「銀河ラボより、管理局へ。死者と思われる人間の男の子を保護。しかし、彼は生きています」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。 歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。 大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。 愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。 恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。 扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

緑色の友達

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

2020年 子年

紫 李鳥
児童書・童話
謹賀新年 旧年中は大変お世話になりました 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます 令和二年 元旦

にたものどうし

穴木 好生
児童書・童話
イモリとヤモリのものがたり

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...