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ジルコン
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「失礼、銀河管理局の者です」
博士が管理局に連絡してすぐに、銀河ラボを訪ねる者がいた。その人物が見慣れた顔だったので、博士は安心してにこやかに笑って出迎えた。
「やあ、ジルコンじゃないか! よかったよ、来てくれたのが君で」
部屋に招き入れられた管理局の女性は、咳払いをした。背筋をすっと伸ばして、透き通るような水色の髪を後ろへ払う。
「仕事で来ているのよ、レイ」
「わかっているよ。すまないが、ラボの中では羽をしまってくれないか?」
ジルコンはうなずいてから、自身の背中に意識を集中する。星たちの光を一つずつ集めて作ったような、光輝く虹色の羽をジルコンは身体の中へとしまった。
「ありがとう。こっちだよ」
博士は、男の子が眠っている部屋へジルコンを案内した。
ベッドの上で静かに眠っている人間を見て、ジルコンは驚愕した。そして、ゆっくり男の子へ近づき、ふるえる指でほおに触れた。
「あたたかい」
そのまま、ジルコンは動かなかった。男の子のほおに触れたまま、ジルコンの時だけが止まってしまったかのように思われた。
博士は、ジルコンが泣いているように見えた。
「ジルコン? どうしたの?」
「どうもしてないわ。ただ、その、驚いただけ」
髪を後ろへ払いのけ、ゆっくり息を吐ききってから、ジルコンは言った。
「彼は、死者じゃない」
向かい合ったジルコンは、もう仕事をする人の顔に戻っていた。
「直近の死者のリストにも、記載されていなかったし、死者を連れて行く時に、迷子になった人間はいなかった」
ジルコンの説明に、博士は考え込む。
「そもそも、この世界に生きている人間がいる、ということ事態が、あり得ないことなんだ。人間は地球でしか生きられない。それに、死んだ人間たちは、ジルコンたち管理局に迎えられ、この世界を通り過ぎる。ただそれだけのはず……」
博士は、眠っている男の子に視線を落とした。
「彼は……人間では、ない?」
はっとして顔を上げると、ジルコンがじっと博士を見つめていた。その顔がやはり悲しそうだったので、博士の淡い紫色の瞳が揺らいだ。
──彼女はなにかを伝えようとしているのだろうか?
博士が疑問に思った時、ふいとジルコンは顔をそらした。
「答えを急ぐ必要はないのではないか。彼は人間かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
そう言いながら、ジルコンも男の子に視線を移す。
「彼が目覚めるまで、待ってみるのはどうだろう。幸い、博士は人間の研究をしているじゃないか。研究対象が目の前にいるというのに、喜ばないなんておかしいぞ」
「たしかに、彼に興味はあるけれど……。管理局の方は大丈夫なのか? もし、彼が生きている人間だったら」
「管理局の事は、私に任せろ。管理局の方で対応するより、人間に詳しいお前が対応した方が良いではないか」
ジルコンは昔から見切り発車なところがある、と内心博士は思いながらも、目の前の人間かもしれない男の子と話がしたい、という気持ちがわき始めていることも、認めない訳にはいかなかった。
だが、腑に落ちないことだらけである。
死者でない人間がこの世界にいること。人間でないなら、一体何者なのか。なぜ、月面に倒れていたのか。
それに、ジルコンの態度もなにかおかしい気がする。
「なんだか、大切なことを見落としている気がするんだ、ジルコン。落ち着かないというか、ソワソワする」
「心配しすぎだ、レイ」
ジルコンは博士の肩をポンと叩き、銀河ラボから出ようと颯爽と歩いて行ってしまった。
「ジルコン!」
博士の呼びかけには答えず、ジルコンは羽を広げる。そして、振り返りもせずに、
「彼は、きっとお前にとって必要な存在だ」
ぽつりと言葉を落とすようにつぶやいてから、ジルコンは飛び立っていった。
光の輝きを残しながら、ジルコンがなめらかな藍色の宙に溶けるように飛んでいった。その跡を見つめながら、博士は肩でため息をついた。
博士が管理局に連絡してすぐに、銀河ラボを訪ねる者がいた。その人物が見慣れた顔だったので、博士は安心してにこやかに笑って出迎えた。
「やあ、ジルコンじゃないか! よかったよ、来てくれたのが君で」
部屋に招き入れられた管理局の女性は、咳払いをした。背筋をすっと伸ばして、透き通るような水色の髪を後ろへ払う。
「仕事で来ているのよ、レイ」
「わかっているよ。すまないが、ラボの中では羽をしまってくれないか?」
ジルコンはうなずいてから、自身の背中に意識を集中する。星たちの光を一つずつ集めて作ったような、光輝く虹色の羽をジルコンは身体の中へとしまった。
「ありがとう。こっちだよ」
博士は、男の子が眠っている部屋へジルコンを案内した。
ベッドの上で静かに眠っている人間を見て、ジルコンは驚愕した。そして、ゆっくり男の子へ近づき、ふるえる指でほおに触れた。
「あたたかい」
そのまま、ジルコンは動かなかった。男の子のほおに触れたまま、ジルコンの時だけが止まってしまったかのように思われた。
博士は、ジルコンが泣いているように見えた。
「ジルコン? どうしたの?」
「どうもしてないわ。ただ、その、驚いただけ」
髪を後ろへ払いのけ、ゆっくり息を吐ききってから、ジルコンは言った。
「彼は、死者じゃない」
向かい合ったジルコンは、もう仕事をする人の顔に戻っていた。
「直近の死者のリストにも、記載されていなかったし、死者を連れて行く時に、迷子になった人間はいなかった」
ジルコンの説明に、博士は考え込む。
「そもそも、この世界に生きている人間がいる、ということ事態が、あり得ないことなんだ。人間は地球でしか生きられない。それに、死んだ人間たちは、ジルコンたち管理局に迎えられ、この世界を通り過ぎる。ただそれだけのはず……」
博士は、眠っている男の子に視線を落とした。
「彼は……人間では、ない?」
はっとして顔を上げると、ジルコンがじっと博士を見つめていた。その顔がやはり悲しそうだったので、博士の淡い紫色の瞳が揺らいだ。
──彼女はなにかを伝えようとしているのだろうか?
博士が疑問に思った時、ふいとジルコンは顔をそらした。
「答えを急ぐ必要はないのではないか。彼は人間かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
そう言いながら、ジルコンも男の子に視線を移す。
「彼が目覚めるまで、待ってみるのはどうだろう。幸い、博士は人間の研究をしているじゃないか。研究対象が目の前にいるというのに、喜ばないなんておかしいぞ」
「たしかに、彼に興味はあるけれど……。管理局の方は大丈夫なのか? もし、彼が生きている人間だったら」
「管理局の事は、私に任せろ。管理局の方で対応するより、人間に詳しいお前が対応した方が良いではないか」
ジルコンは昔から見切り発車なところがある、と内心博士は思いながらも、目の前の人間かもしれない男の子と話がしたい、という気持ちがわき始めていることも、認めない訳にはいかなかった。
だが、腑に落ちないことだらけである。
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それに、ジルコンの態度もなにかおかしい気がする。
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ぽつりと言葉を落とすようにつぶやいてから、ジルコンは飛び立っていった。
光の輝きを残しながら、ジルコンがなめらかな藍色の宙に溶けるように飛んでいった。その跡を見つめながら、博士は肩でため息をついた。
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