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目覚め
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男の子は目を覚ました。
くりくりした青い瞳が、右を見て、左を見て、それから博士にとまった。
「やあ、起き上がれるかい? ぼくの言葉わかる?」
こくんと神妙に、男の子はうなずいた。
「ぼくは、レイ。ここ銀河ラボの博士をしている。レイって呼んでくれ」
差し出された手を不思議そうに見てから、男の子はレイの手を取り、ベッドから起き上がった。
「さてと」
そう切り出したレイだったが、その後の言葉が見つからない。男の子を見つめたまま、しばらく後頭部をポリポリとかいた。
長い沈黙を破って、出てきた言葉は「お茶、飲む?」であった。
レイは背後にある、真っ白で長細い机と、背もたれのない青い色の椅子を指差した。
男の子が小さくうなずく。レイが歩けば、後をついて来る。椅子にかけるよう促すと、男の子は素直に従った。
二人は机を挟んで座った。
レイがお茶を注ぐと、白いマグカップから澄んだ夜空のような、おだやかな香りが部屋中に立ちこめた。
「いい香りでしょう? おとめ座で採ってきた星花を、乾燥させてお茶にしたんだ」
マグカップの中は、まるで小さな銀河のよう。深い青色をしたお茶の中を白い花弁が、星のように揺れている。
「ええっと……。先に謝っておくけれど、ぼくは小さい人と話したことがないんだ。話し相手といっても、月うさぎかジルコンぐらいだし。ああ、ジルコンというのは、天使のことで。天使ってわかるかな? ああ、つまり、あまり上手く話せないかも……すまないね」
そう一気に話すと、レイはふーっと息を吐いた。
正直に話して一安心、といったレイの姿を見て男の子は、くしゃりと笑って答えた。
「わかった」
その小さな声を聞いて、レイはザワザワしていた心がゆっくりと落ち着いていくのを感じた。
──大丈夫。きっと、この子とわかりあえる。
レイはそう、特に理由もなく直感で感じていた。
「じゃあ、君のこと教えてくれるかい?」
男の子は黙ってうなずいた。
「君は、どこからきたの?」
「わからない」
「名前は?」
「わからない」
「君は、人間なの?」
「わからないよ」
「そうか……。じゃあ、なにか覚えていることは?」
男の子は首を振った。
「ごめんなさい」
どんどん小さくなっていく男の子の声に、レイは慌てて言った。
「君のせいじゃない。ぼくは、可能性として、君は人間なんじゃないかって思っている。見た目からの判断だけれど」
「レイがぼくのことを人間だと言うのなら、ぼくは、人間なのかもしれない」
そう言ってから、小首をかしげる。
「でも、レイもぼくと同じに見えるけれど……」
「たしかに、ぼくは人間にちかい姿をしている。ぼくは人間の研究をしているから、少しでも人間のことを知ろうと擬態しているんだ」
レイの本来の姿は、ジルコンのように背中から羽を生やして、宙を飛んでまわれるのだが、ずっと人間の真似をして生きてきたため、羽をどうやって身体から出したり、しまったりするのか、レイはとうに忘れてしまっていたのだ。
「人間のけんきゅう?」
目を輝かせて男の子は尋ねた。
「どうやってするの?」
「見てみるかい?」
レイも男の子の反応に、嬉しくなった。
「こっち! 観測所にいこう!」
くりくりした青い瞳が、右を見て、左を見て、それから博士にとまった。
「やあ、起き上がれるかい? ぼくの言葉わかる?」
こくんと神妙に、男の子はうなずいた。
「ぼくは、レイ。ここ銀河ラボの博士をしている。レイって呼んでくれ」
差し出された手を不思議そうに見てから、男の子はレイの手を取り、ベッドから起き上がった。
「さてと」
そう切り出したレイだったが、その後の言葉が見つからない。男の子を見つめたまま、しばらく後頭部をポリポリとかいた。
長い沈黙を破って、出てきた言葉は「お茶、飲む?」であった。
レイは背後にある、真っ白で長細い机と、背もたれのない青い色の椅子を指差した。
男の子が小さくうなずく。レイが歩けば、後をついて来る。椅子にかけるよう促すと、男の子は素直に従った。
二人は机を挟んで座った。
レイがお茶を注ぐと、白いマグカップから澄んだ夜空のような、おだやかな香りが部屋中に立ちこめた。
「いい香りでしょう? おとめ座で採ってきた星花を、乾燥させてお茶にしたんだ」
マグカップの中は、まるで小さな銀河のよう。深い青色をしたお茶の中を白い花弁が、星のように揺れている。
「ええっと……。先に謝っておくけれど、ぼくは小さい人と話したことがないんだ。話し相手といっても、月うさぎかジルコンぐらいだし。ああ、ジルコンというのは、天使のことで。天使ってわかるかな? ああ、つまり、あまり上手く話せないかも……すまないね」
そう一気に話すと、レイはふーっと息を吐いた。
正直に話して一安心、といったレイの姿を見て男の子は、くしゃりと笑って答えた。
「わかった」
その小さな声を聞いて、レイはザワザワしていた心がゆっくりと落ち着いていくのを感じた。
──大丈夫。きっと、この子とわかりあえる。
レイはそう、特に理由もなく直感で感じていた。
「じゃあ、君のこと教えてくれるかい?」
男の子は黙ってうなずいた。
「君は、どこからきたの?」
「わからない」
「名前は?」
「わからない」
「君は、人間なの?」
「わからないよ」
「そうか……。じゃあ、なにか覚えていることは?」
男の子は首を振った。
「ごめんなさい」
どんどん小さくなっていく男の子の声に、レイは慌てて言った。
「君のせいじゃない。ぼくは、可能性として、君は人間なんじゃないかって思っている。見た目からの判断だけれど」
「レイがぼくのことを人間だと言うのなら、ぼくは、人間なのかもしれない」
そう言ってから、小首をかしげる。
「でも、レイもぼくと同じに見えるけれど……」
「たしかに、ぼくは人間にちかい姿をしている。ぼくは人間の研究をしているから、少しでも人間のことを知ろうと擬態しているんだ」
レイの本来の姿は、ジルコンのように背中から羽を生やして、宙を飛んでまわれるのだが、ずっと人間の真似をして生きてきたため、羽をどうやって身体から出したり、しまったりするのか、レイはとうに忘れてしまっていたのだ。
「人間のけんきゅう?」
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「どうやってするの?」
「見てみるかい?」
レイも男の子の反応に、嬉しくなった。
「こっち! 観測所にいこう!」
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