暖をとる。

山の端さっど

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-28℃ アップルメレンゲパイ

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「顔のない男。チープな表現だ」
「印象に残らない顔、人間の顔と認識できない面をつけた顔、催眠術の類い……色々やりようはあるだろうが」
「本当に『顔が無い』パターンもな」

 僕は等しく下賤な者どもを障がいや病や外見内面の差異でさして区別などしない。敬意を払うのは僕を上回る能力のみだ。その区分で言うならば僕らの追う猟奇犯「スターラー」は尊敬に値するだろう。これほどの件数を経て未だに油断もせず揺らぎもせず警察に尻尾を掴ませないのだから。……ただしこれは現状入手可能な情報を基に構築したスターラーの人間性評価に過ぎない。プレハブの城に王座を築いたとて理想郷を騙るのはあまりに尚早だ。

 そして今メレンゲの載ったパイを無防備に口にした探偵。僕はちょっとした賭けで探偵を手に入れた。契約期間はたったの一ヶ月。それから更新を繰り返して三年になる。契約開始までの面倒だったあのやり取りも含めれば随分だ。欠陥は多いにせよそれだけの価値はある男だ。



 不意に探偵が顎を止めて顔を顰めた。

「なんでこんなモン入って……ああ」
「フェーブか?」

 本来はガレット・デ・ロワに入れられており引き当てた者がその日コミュニティにおける「王様」になるという遊びの為のアイテムだ。ナプキンで拭われ机に置かれたそれは童話の「アリス」をイメージした女子の陶器人形。さしずめ当たった人の会計を割引するのだろう。

「聖職者役でも勤めようか」
「お、王冠を授与してくださるのか?」

 調子に乗った探偵には渡してやろうじゃないか。プレハブの城の王座に座るといい。

「おめでとう」

 上部がギザギザにカットされ縦にボーダーの入った薄いプラスチック片を輪にしてテープで留めて渡す。

「バランじゃねえか」
「似合っている」
「こんなモン常日頃から持ち歩いてんのか?」
「下らない工作をさせられたんだよ」

 バランの緑をずらしながら重ねて円錐に貼ると実に再現度の低い樅の木の枝葉部になる。クリスマスを控えた低学年生の為の上級生からのプレゼントの出来上がりだ。忌々しい作業の上にこんな風に手提げの中に混ざり込んだりもする。すぐ気づいたが後で捨てればいいとここまで持ってきていた。
 目立つ色彩のバランでなくとも僕は混入物を見落とさない。パイの中のフェーブに気付かぬ者は毒に気づかない。なあ探偵。使える有能。まだ死なれちゃ困るんだ。迂闊に死ぬなよ。
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