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ナナフシギ喫茶@廃高等学校B
ななきつ⑸
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はい、素早く3回復唱せよ、屋城蓮子屋城蓮子屋城蓮子。その後画面に人差し指を押し当て、星を描くと……何も起こらないよ、案の定。早口でも読みやすい名前のあたしです。お隣は神対応の虚宮ナントカ君。
今いる場所、どこだと思う? ……うん、放送室なんだ本当に。暗幕張ったりネオン持ち込んでそれっぽく内装変えてるのは分かるけど、そもそもの箱の広さとほの見える無駄な設備の充実さが私立感あるじゃなあい? 普通の学校放送室にこんな金とスペース割かないから。なんで天井から本格的なミラーボール下がってんのよデカい機械ゴロゴロ置いてんのよ。たまに放送室でディスコでもやってたわけ? おっと現役カマトトJKのあたしはディスコとか知らないけど。カマボコって魚から出来てるんですかぁ、知らなかったぁあたしぃ、お魚さん可哀想だからこれからカマボコ食べなぁい。あ、嘘。
「僕の事は紹介してくれないのかい?」
「いや、あの、寒くなるから喋らないでもらえますか」
「えー! DJに黙れなんて酷だなあ。じゃあ代わりにミュージック、チェンジ!」
……うん、DJっているじゃん。ラジオのパーソナリティじゃなくてディスクをキュッキュ回す方。あの回す機械が部屋の真ん中に置かれてて、回ってるバカでかいディスクの上に一個、首が弾んだり転がったりしながら乗っかってるんだよね……。どうやらその動きによってディスクも動かされてるらしく、ノリノリのミックスを聞かされてるんだよ今まさに。生きてるがごとく表情が多彩に動いてたり首の断面がシリコンカバーみたいなので覆われてなかったら発狂してたよあたし。今もマシとはいえ、背中が寒くてしょうがない。もう一個カイロもらって2枚使ってるようん。それでも寒い。そういえば、何故かこの幽霊の声ははっきりと聞こえる。良い声だよ、流石放送室の怪異。ん? さっきのパンダ&キョンシーの声も聞こえてたし今更かな?
「DJトリガイって呼んでくれよ。カフェとかよく分かんないけど、せっかくイベントやってるからね、ついでで参加したんだ。さ、コーヒーしかないけど飲んで飲んで。大した設備もなくて悪いけど、毒とかは入ってないから。少なくとも、首から上に効く毒はね」
イケボの生首ジョークきっっっつ!
「……その姿で飲むのか?」
「あっ、虚宮くんだっけ? 同学年の男子は久し振りなんだ、少し話さないかい? 最近お客は女子ばっかりで、必要以上に話とかしてくれないんだよね」
「いいけど。こんな愛想良くても話通じないのか?」
「うーん、『逆張り』って奴じゃないかな。ヤバい所に愛想良い奴がいると、だいたい後で狂ったキャラになって襲ってくるって思うんじゃない? ま、首だけとか見た目からして実際狂ってるから合ってるね、あはは。あんまり怖くないように断面隠したんだけど、普段は飲んだものここから出ちゃうよ」
うーん、生首。ディスク真ん中の真っ白いシールの上から飛び跳ねて避けて、曲を垂れ流しながらイケボDJ生首は話を始めた。あたしも近い席に座ってるし、なんとなく会話に参加してるみたいになる。してないけどね?
「いやー、今こんな事やってるけどさ、実は生前は普通の学内放送パーソナリティだったんだよね、僕。放送部入っててさ。ディスクジョッキーの方は設備があったから触れてみた程度だったから、全部独学なんだ、これ」
「どうしてそっちにクラスチェンジしちゃったの?!」
あ、突っ込んじゃったよあたし。これじゃ会話参加してるみたいじゃん。
「はは、よく覚えてないんだけどさ、楽しかったんだ。成仏しないと死後って長くてさ」
「じょ、成仏する気は?」
「うーん、暇だからしてもいいけど、やり方も分からないしな」
あああ普通に会話してんじゃんあたし! ダメなんて信条は無いけど生者としてどうなの、これ?
「何か恨みとかはないのか? 見たところあまり感じないけど」
はぁ。もう虚宮氏も参加してるしいいよ……。
「うーん、恨み……それが、そもそも死んだ時の事全く覚えてないんだよね。多分首切られて死んだんじゃないかな? 放送室から出られないから現場も放送室? くらいかな、分かるのは」
「それ覚えてる事じゃなくて状況からの推理だよね?」
お? 推理? 虫眼鏡出すか? ダサいよ?
「出られないっていうのは?」
「そこが不思議なんだよね。具体的にはこの放送機器類が置かれてるあたりから離れられない。物理的に行けないっていうより、離れれば離れるほど気乗りがしなくなって戻ってきちゃう。どこまで行けるか暇な時に試してみたこともあるけど、ドアの1メートル前くらいに来たあたりで死んだほうがマシだと思って戻ったのが最高記録かなー。退屈よりも嫌な気分になるから最近はやってないよ」
「ふーん……じゃ、この放送室の奥の方にはさっぱり行ってないのか」
「そうそう! そういえば、この間遊びに来たキョンシーの、ドリーだっけ? 彼が、あっちのどこかにCD1枚落としちゃったみたいなんだよね。普段はディスクばっかり回してるからいいけど、あれがないと普通の放送する時いい感じの効果音が無くてさー。良かったら探してきてくれないか?」
なるへそ、このカフェの催しは探し物ゲームかな? さっきの円卓ゲームに比べると平和そう。それに生首DJから距離取る口実にもなるし。
「良いよ!」
「ああ、そのくらいなら。どんなCDだ?」
「透明な薄いCDケースに入った、オレンジのCD。見れば多分分かるんじゃないかな?」
やったー。あたしは席を立って早速後ろに向かった。うん、やっぱり本体から離れると寒気が和らぐね。
後方には角に巨大なスピーカーが一つずつ、小さなテーブルや椅子が適当に置かれてた。あとは端に長いコードの束と備品入れらしきロッカー。2人で見回ったら、すぐにコードの下にCDは見つかった。ついでに「ゼロから始めるプロDJ」とかいう本。面白そうだから持ってこ。ついでに見てみたけど、ロッカーには鍵が掛かってるのか開かなかった。
「あ、それそれ! ありがとう。お礼は……コーヒーしかないや、ごめん」
「なら、代わりに曲でも聞かせてくれよ。その白いディスクがいいな」
生首のDJは嬉しそうに曲を流し始める。席に戻った虚宮は黙って鑑賞モードに入ったみたい。暇なあたしは後ろで見つけた本をパラパラとめくってみる。いや、あたしも聞くけど聞いてるだけじゃ暇じゃん?
「おや、そんな本あったんだ」
「声聞くと背筋冷えるので黙っててくださーい」
「ええ……」
ふんふん、DJ用語の説明とか基礎とか乗ってる。見てる分にはけっこう面白い。……うん? DJがディスク回すアレの事ターンテーブルって言うんだ、へー。今度から中華料理店で回す奴の事ターンテーブルって言うのやめよ、覚えてたらね。
……なんて考えてたら、急に、曲が止まった。
「うん、やっぱり間違いない」
虚宮が針を止めて生首ごと、その下のディスクを持ち上げてた。上にいた生首君は少し驚いた様子だけど、流石いつも飛び跳ねてるだけある、すぐにバランスを取る。
「? どうしたんだい?」
「これ、プロモ盤じゃないよな」
「え?」
「聞いたことあるんだよ、この曲。アレンジとか無しで、そのまんまのをな」
「! それは……」
えーっと、えーっと、今本を見てて、なんとなく分かった範囲の知識で話を説明してみるね。ディスクって真ん中に曲名とか諸々書いたレーベルってシール貼ってあるじゃん、普通。でも今問題になってる奴は、ホワイトレーベル、真っ白なラベルが貼ってあるだけなの。で、首だけ君は今まで、それをプロモ盤……DJの為に作られた限定アレンジ盤みたいな奴? だと思ってたわけ。市販品と違って真っ白なこと多いんだって。でも、プロモ盤ってミックスが違ったり、とにかく何か正規品と違うところがあるわけよ、当然。という事はという事は、今ここにある、市販品と同じ内容が入ってて正規のレーベルがついてないこれって……。
「もしかして海賊盤って奴……?」
Bootleg、違法にディスクをコピーした奴のこと。
生首君が、ぴくりと耳を動かした。と思ったら、ディスクの上で跳ねた。
「そう、この海賊盤……これだ、これだよ! 思い出した。たしか、僕はこのディスクに呪われたんだ!」
「呪われた……?」
「うん、DJ試してみようと思って、たまたま触った奴がこれでさ。その時に取り憑かれたんだよね。そうだそうだ、なんかあの時ブートがどうとか幽霊? が言ってたや。はっきり覚えてないけど……だから僕、ここからなんとなく離れられないのかな」
スッキリした顔で虚宮の持つディスクの上を転がる生首(死因の一部? が分かっただけ)、訳が分からない。
「……でも死因は結局、何だったのかなー」
「どう考えても首を切られたんだろうな」
「呪いと放送室と首切りって結びつかないよね。というかそもそも、どんな風に呪われたわけ?」
「うーん、あんまり覚えてなくて、あはは」
「……確かめに行くか?」
「え?」
「君、たぶんこのディスクと一緒になら動けるだろ。向こう側、君が行けば何か見つけるか、思い出すかもしれない」
虚宮はさっき調べた部屋の奥を指差した。生首君は、そっちを向いたまましばし硬直。それから、ゴロッと転がった。
「…………そっか。そうだね、連れてってもらおうかな」
そしてあたし達は部屋の奥に向かう。虚宮の推理通り、機器から離れてもトリガイ君は問題ないみたいだった。といっても、さっき言った通り大したものは置かれてないんだよねここ。怪しいのはやっぱり、開かないロッカーくらい。
「怪しいのはここだよね」
「ああ、引いても開かなかったな。壊せば開きそうだけど」
「その力持っててただの脳筋じゃないのが信じられないよ……」
「……あ、思い出した」
生首が弾んだ。
「このロッカー、鍵掛かってないよ。そもそも壊れてて、鍵が掛からない奴だ。代わりに、手前から奥に向かって思いきり力を込めると開くんだ」
「奥に向かって?」
「うん、やってみてよ」
虚宮が、扉に掌底を当てて、グッと力を込めた。と……おお、内側に向かって倒れたよ? なんで?
「地震か何かで歪んだって聞いてたけど、どうなんだろうね?」
入り口だけ器用に歪んだってこと? ……ヘイDJトリガイ、そんな顔されても困るんだけど。
なんとかかんとか、倒れた扉をいい感じに避けつつ中を見てみると、そこには畳まれた古い新聞紙が1枚だけ、入ってた。引っ張り出して、近くのテーブルの上に置く。近くのネオンでようやくはっきりと記事が見えるようになった。
「あっ」
あたしは文字を読む前に、大きく載っている写真を見て声をあげた。あたしコイツ知ってる! 超知ってる!!!
「あ、ああああ、あ、こ、コイツ、あたしをこ、殺した奴……!」
最初理科室で虚宮を見捨てた後に、刃物で滅茶苦茶に切ってきた奴……!!! あ、だめ、思い出すだけで倒れそう……
「しっかりしろ! 今はあいつは出てこない。これからも出てこさせない。だから落ち着け」
「う、うん、ありが、と」
あ、背中をこう、胸板で支えられてる。うわ、触れた所あったかい……やっぱ寒かったのかなあたし。ごめん今は恥ずかしさとか感じてる暇無いや、もうちょっとくっついて背中暖取らせて……。
「通り魔……だったんだね」
テーブルに飛び乗ったトリガイ君が、口だけで器用に新聞を開いた。
知らない新聞社の古い、一面記事だ。この馬麟高校に、大きな刃物を持った不審者が入ってきて、生徒を斬りつけて回り、そのうち1人、放送部長の鳥貝篤という男子生徒が首を切断されて即死した、とかいう話だった。犯人は学校近くの純喫茶の店主だったー、とか、被害者の関係者の証言ー、とかを、ぼんやりあたしは見つめる。記事みたいな淡々とした文章じゃなきゃ、あの時のこと思い出しちゃいそうだった。
「うーん、僕、ぼんやりしてる所あるから、多分この防音室で外の騒ぎにも気付かず何かしてて、後ろからスパッとやられちゃったんだろうなあ。これじゃ犯人に恨みを抱く暇もないよねー。1人だけ死んで、それも即死とか、ははは、……僕らしいなー……」
そう言う生首……篤君の目からポタポタと液体が落ちる。
「24面に僕の状況と放送部員のインタビュー? うわー、見たかったなあ、それ……。あいつら僕の事何て言ったんだろう? 追悼の言葉とか……思いつかない。うーん、探したら他のページも出てきたりしないかな? …………」
しばらくの間、篤君が記事を見つめるのをあたし達は黙って見ていた。
「いやー、時間取らせちゃってごめん。ありがとう、いろいろ知れたよ」
ようやく泣き止んだ篤君は、目の周り腫れてるけど、他はほとんど変わりない笑顔とカラッとした口調で飛び跳ねた。何というか、すごい……なあ。あたしは今更恥を知って虚宮から距離を取りつつ火照った顔を冷ましてるところだというのに。
「ところで彼女は死人だったのかい? 死んでるようには思えないけど」
「記憶引き継ぎ式の『ゲームオーバー』の話だ」
「……なるほど、君たちにも事情があるんだね」
あるんだろうね、あたしにもよく分かってない事情ってやつがね。
「じゃ、そのディスク壊してくれないかな。こっちの呪いについてはよく分かってないままだけど、海賊盤なんて壊しちゃえば、終わる気がするんだ。そしたら……成仏、できるかも」
「……そうか」
「うん。頼むよ」
篤君は穏やかな顔だった。簡単なやり取りだけで、ツーカーなこの感じ、嫌いじゃないよ。
虚宮は、膝にディスクを当てて、バキッ、と白レーベルごとディスクを叩き割った。
ーーゥラミ、ハラセナーーカッーー
何か、小さくキンキンした音が響く。あたしは身構えたけど、すぐに音は止んで、急に、背中の寒気が消えた。空気が暖かい。ポワポワしてる。顔をあげたら、全身姿の篤君が、目の前に立っていた。
「ありがとう……」
初めて見る手が、さっき見つけてきたCDを指差した。そして、体が揺らいで……消える。
「消えた……」
「そうだな」
「あっけなかったね」
「……そうだな」
あたしが背中のカイロを外してる間に、虚宮は、CDを放送機器にセットしていた。スイッチを押すと、軽やかな音が流れ出す。さっきDJトリガイが流してたみたいなミックスだ。そして、声が、する。
『……あー、最後の仕事を忘れるところだったよ。さて、「ミステリーツアー」、次に君たちを誘うのは……』
じゃららららららら……効果音が流れ出す。……ばんっ!
『一階の多機能トイレ?! まあ、校内マップを見れば場所は分かるんじゃないかな? ……頑張ってくれよ。君たちが無事に帰れるよう、祈ってる』
それだけ言って、CDは動きを完全に止めた。CDを吐き出して、放送機器も電源を落としてしまう。
「ほんと、凄いなあ」
最後までイケボで、そんな清々しい声で言うんだ、篤君。
「……行くか」
「待って。……CD、持ってってもいい?」
「良いんじゃないか?」
あたしはCDケースをポケットにそっとしまって、虚宮の後を追いかける。背後で、ネオンが次々消える音がした。
〈放送室 生首DJ 巡〉
今いる場所、どこだと思う? ……うん、放送室なんだ本当に。暗幕張ったりネオン持ち込んでそれっぽく内装変えてるのは分かるけど、そもそもの箱の広さとほの見える無駄な設備の充実さが私立感あるじゃなあい? 普通の学校放送室にこんな金とスペース割かないから。なんで天井から本格的なミラーボール下がってんのよデカい機械ゴロゴロ置いてんのよ。たまに放送室でディスコでもやってたわけ? おっと現役カマトトJKのあたしはディスコとか知らないけど。カマボコって魚から出来てるんですかぁ、知らなかったぁあたしぃ、お魚さん可哀想だからこれからカマボコ食べなぁい。あ、嘘。
「僕の事は紹介してくれないのかい?」
「いや、あの、寒くなるから喋らないでもらえますか」
「えー! DJに黙れなんて酷だなあ。じゃあ代わりにミュージック、チェンジ!」
……うん、DJっているじゃん。ラジオのパーソナリティじゃなくてディスクをキュッキュ回す方。あの回す機械が部屋の真ん中に置かれてて、回ってるバカでかいディスクの上に一個、首が弾んだり転がったりしながら乗っかってるんだよね……。どうやらその動きによってディスクも動かされてるらしく、ノリノリのミックスを聞かされてるんだよ今まさに。生きてるがごとく表情が多彩に動いてたり首の断面がシリコンカバーみたいなので覆われてなかったら発狂してたよあたし。今もマシとはいえ、背中が寒くてしょうがない。もう一個カイロもらって2枚使ってるようん。それでも寒い。そういえば、何故かこの幽霊の声ははっきりと聞こえる。良い声だよ、流石放送室の怪異。ん? さっきのパンダ&キョンシーの声も聞こえてたし今更かな?
「DJトリガイって呼んでくれよ。カフェとかよく分かんないけど、せっかくイベントやってるからね、ついでで参加したんだ。さ、コーヒーしかないけど飲んで飲んで。大した設備もなくて悪いけど、毒とかは入ってないから。少なくとも、首から上に効く毒はね」
イケボの生首ジョークきっっっつ!
「……その姿で飲むのか?」
「あっ、虚宮くんだっけ? 同学年の男子は久し振りなんだ、少し話さないかい? 最近お客は女子ばっかりで、必要以上に話とかしてくれないんだよね」
「いいけど。こんな愛想良くても話通じないのか?」
「うーん、『逆張り』って奴じゃないかな。ヤバい所に愛想良い奴がいると、だいたい後で狂ったキャラになって襲ってくるって思うんじゃない? ま、首だけとか見た目からして実際狂ってるから合ってるね、あはは。あんまり怖くないように断面隠したんだけど、普段は飲んだものここから出ちゃうよ」
うーん、生首。ディスク真ん中の真っ白いシールの上から飛び跳ねて避けて、曲を垂れ流しながらイケボDJ生首は話を始めた。あたしも近い席に座ってるし、なんとなく会話に参加してるみたいになる。してないけどね?
「いやー、今こんな事やってるけどさ、実は生前は普通の学内放送パーソナリティだったんだよね、僕。放送部入っててさ。ディスクジョッキーの方は設備があったから触れてみた程度だったから、全部独学なんだ、これ」
「どうしてそっちにクラスチェンジしちゃったの?!」
あ、突っ込んじゃったよあたし。これじゃ会話参加してるみたいじゃん。
「はは、よく覚えてないんだけどさ、楽しかったんだ。成仏しないと死後って長くてさ」
「じょ、成仏する気は?」
「うーん、暇だからしてもいいけど、やり方も分からないしな」
あああ普通に会話してんじゃんあたし! ダメなんて信条は無いけど生者としてどうなの、これ?
「何か恨みとかはないのか? 見たところあまり感じないけど」
はぁ。もう虚宮氏も参加してるしいいよ……。
「うーん、恨み……それが、そもそも死んだ時の事全く覚えてないんだよね。多分首切られて死んだんじゃないかな? 放送室から出られないから現場も放送室? くらいかな、分かるのは」
「それ覚えてる事じゃなくて状況からの推理だよね?」
お? 推理? 虫眼鏡出すか? ダサいよ?
「出られないっていうのは?」
「そこが不思議なんだよね。具体的にはこの放送機器類が置かれてるあたりから離れられない。物理的に行けないっていうより、離れれば離れるほど気乗りがしなくなって戻ってきちゃう。どこまで行けるか暇な時に試してみたこともあるけど、ドアの1メートル前くらいに来たあたりで死んだほうがマシだと思って戻ったのが最高記録かなー。退屈よりも嫌な気分になるから最近はやってないよ」
「ふーん……じゃ、この放送室の奥の方にはさっぱり行ってないのか」
「そうそう! そういえば、この間遊びに来たキョンシーの、ドリーだっけ? 彼が、あっちのどこかにCD1枚落としちゃったみたいなんだよね。普段はディスクばっかり回してるからいいけど、あれがないと普通の放送する時いい感じの効果音が無くてさー。良かったら探してきてくれないか?」
なるへそ、このカフェの催しは探し物ゲームかな? さっきの円卓ゲームに比べると平和そう。それに生首DJから距離取る口実にもなるし。
「良いよ!」
「ああ、そのくらいなら。どんなCDだ?」
「透明な薄いCDケースに入った、オレンジのCD。見れば多分分かるんじゃないかな?」
やったー。あたしは席を立って早速後ろに向かった。うん、やっぱり本体から離れると寒気が和らぐね。
後方には角に巨大なスピーカーが一つずつ、小さなテーブルや椅子が適当に置かれてた。あとは端に長いコードの束と備品入れらしきロッカー。2人で見回ったら、すぐにコードの下にCDは見つかった。ついでに「ゼロから始めるプロDJ」とかいう本。面白そうだから持ってこ。ついでに見てみたけど、ロッカーには鍵が掛かってるのか開かなかった。
「あ、それそれ! ありがとう。お礼は……コーヒーしかないや、ごめん」
「なら、代わりに曲でも聞かせてくれよ。その白いディスクがいいな」
生首のDJは嬉しそうに曲を流し始める。席に戻った虚宮は黙って鑑賞モードに入ったみたい。暇なあたしは後ろで見つけた本をパラパラとめくってみる。いや、あたしも聞くけど聞いてるだけじゃ暇じゃん?
「おや、そんな本あったんだ」
「声聞くと背筋冷えるので黙っててくださーい」
「ええ……」
ふんふん、DJ用語の説明とか基礎とか乗ってる。見てる分にはけっこう面白い。……うん? DJがディスク回すアレの事ターンテーブルって言うんだ、へー。今度から中華料理店で回す奴の事ターンテーブルって言うのやめよ、覚えてたらね。
……なんて考えてたら、急に、曲が止まった。
「うん、やっぱり間違いない」
虚宮が針を止めて生首ごと、その下のディスクを持ち上げてた。上にいた生首君は少し驚いた様子だけど、流石いつも飛び跳ねてるだけある、すぐにバランスを取る。
「? どうしたんだい?」
「これ、プロモ盤じゃないよな」
「え?」
「聞いたことあるんだよ、この曲。アレンジとか無しで、そのまんまのをな」
「! それは……」
えーっと、えーっと、今本を見てて、なんとなく分かった範囲の知識で話を説明してみるね。ディスクって真ん中に曲名とか諸々書いたレーベルってシール貼ってあるじゃん、普通。でも今問題になってる奴は、ホワイトレーベル、真っ白なラベルが貼ってあるだけなの。で、首だけ君は今まで、それをプロモ盤……DJの為に作られた限定アレンジ盤みたいな奴? だと思ってたわけ。市販品と違って真っ白なこと多いんだって。でも、プロモ盤ってミックスが違ったり、とにかく何か正規品と違うところがあるわけよ、当然。という事はという事は、今ここにある、市販品と同じ内容が入ってて正規のレーベルがついてないこれって……。
「もしかして海賊盤って奴……?」
Bootleg、違法にディスクをコピーした奴のこと。
生首君が、ぴくりと耳を動かした。と思ったら、ディスクの上で跳ねた。
「そう、この海賊盤……これだ、これだよ! 思い出した。たしか、僕はこのディスクに呪われたんだ!」
「呪われた……?」
「うん、DJ試してみようと思って、たまたま触った奴がこれでさ。その時に取り憑かれたんだよね。そうだそうだ、なんかあの時ブートがどうとか幽霊? が言ってたや。はっきり覚えてないけど……だから僕、ここからなんとなく離れられないのかな」
スッキリした顔で虚宮の持つディスクの上を転がる生首(死因の一部? が分かっただけ)、訳が分からない。
「……でも死因は結局、何だったのかなー」
「どう考えても首を切られたんだろうな」
「呪いと放送室と首切りって結びつかないよね。というかそもそも、どんな風に呪われたわけ?」
「うーん、あんまり覚えてなくて、あはは」
「……確かめに行くか?」
「え?」
「君、たぶんこのディスクと一緒になら動けるだろ。向こう側、君が行けば何か見つけるか、思い出すかもしれない」
虚宮はさっき調べた部屋の奥を指差した。生首君は、そっちを向いたまましばし硬直。それから、ゴロッと転がった。
「…………そっか。そうだね、連れてってもらおうかな」
そしてあたし達は部屋の奥に向かう。虚宮の推理通り、機器から離れてもトリガイ君は問題ないみたいだった。といっても、さっき言った通り大したものは置かれてないんだよねここ。怪しいのはやっぱり、開かないロッカーくらい。
「怪しいのはここだよね」
「ああ、引いても開かなかったな。壊せば開きそうだけど」
「その力持っててただの脳筋じゃないのが信じられないよ……」
「……あ、思い出した」
生首が弾んだ。
「このロッカー、鍵掛かってないよ。そもそも壊れてて、鍵が掛からない奴だ。代わりに、手前から奥に向かって思いきり力を込めると開くんだ」
「奥に向かって?」
「うん、やってみてよ」
虚宮が、扉に掌底を当てて、グッと力を込めた。と……おお、内側に向かって倒れたよ? なんで?
「地震か何かで歪んだって聞いてたけど、どうなんだろうね?」
入り口だけ器用に歪んだってこと? ……ヘイDJトリガイ、そんな顔されても困るんだけど。
なんとかかんとか、倒れた扉をいい感じに避けつつ中を見てみると、そこには畳まれた古い新聞紙が1枚だけ、入ってた。引っ張り出して、近くのテーブルの上に置く。近くのネオンでようやくはっきりと記事が見えるようになった。
「あっ」
あたしは文字を読む前に、大きく載っている写真を見て声をあげた。あたしコイツ知ってる! 超知ってる!!!
「あ、ああああ、あ、こ、コイツ、あたしをこ、殺した奴……!」
最初理科室で虚宮を見捨てた後に、刃物で滅茶苦茶に切ってきた奴……!!! あ、だめ、思い出すだけで倒れそう……
「しっかりしろ! 今はあいつは出てこない。これからも出てこさせない。だから落ち着け」
「う、うん、ありが、と」
あ、背中をこう、胸板で支えられてる。うわ、触れた所あったかい……やっぱ寒かったのかなあたし。ごめん今は恥ずかしさとか感じてる暇無いや、もうちょっとくっついて背中暖取らせて……。
「通り魔……だったんだね」
テーブルに飛び乗ったトリガイ君が、口だけで器用に新聞を開いた。
知らない新聞社の古い、一面記事だ。この馬麟高校に、大きな刃物を持った不審者が入ってきて、生徒を斬りつけて回り、そのうち1人、放送部長の鳥貝篤という男子生徒が首を切断されて即死した、とかいう話だった。犯人は学校近くの純喫茶の店主だったー、とか、被害者の関係者の証言ー、とかを、ぼんやりあたしは見つめる。記事みたいな淡々とした文章じゃなきゃ、あの時のこと思い出しちゃいそうだった。
「うーん、僕、ぼんやりしてる所あるから、多分この防音室で外の騒ぎにも気付かず何かしてて、後ろからスパッとやられちゃったんだろうなあ。これじゃ犯人に恨みを抱く暇もないよねー。1人だけ死んで、それも即死とか、ははは、……僕らしいなー……」
そう言う生首……篤君の目からポタポタと液体が落ちる。
「24面に僕の状況と放送部員のインタビュー? うわー、見たかったなあ、それ……。あいつら僕の事何て言ったんだろう? 追悼の言葉とか……思いつかない。うーん、探したら他のページも出てきたりしないかな? …………」
しばらくの間、篤君が記事を見つめるのをあたし達は黙って見ていた。
「いやー、時間取らせちゃってごめん。ありがとう、いろいろ知れたよ」
ようやく泣き止んだ篤君は、目の周り腫れてるけど、他はほとんど変わりない笑顔とカラッとした口調で飛び跳ねた。何というか、すごい……なあ。あたしは今更恥を知って虚宮から距離を取りつつ火照った顔を冷ましてるところだというのに。
「ところで彼女は死人だったのかい? 死んでるようには思えないけど」
「記憶引き継ぎ式の『ゲームオーバー』の話だ」
「……なるほど、君たちにも事情があるんだね」
あるんだろうね、あたしにもよく分かってない事情ってやつがね。
「じゃ、そのディスク壊してくれないかな。こっちの呪いについてはよく分かってないままだけど、海賊盤なんて壊しちゃえば、終わる気がするんだ。そしたら……成仏、できるかも」
「……そうか」
「うん。頼むよ」
篤君は穏やかな顔だった。簡単なやり取りだけで、ツーカーなこの感じ、嫌いじゃないよ。
虚宮は、膝にディスクを当てて、バキッ、と白レーベルごとディスクを叩き割った。
ーーゥラミ、ハラセナーーカッーー
何か、小さくキンキンした音が響く。あたしは身構えたけど、すぐに音は止んで、急に、背中の寒気が消えた。空気が暖かい。ポワポワしてる。顔をあげたら、全身姿の篤君が、目の前に立っていた。
「ありがとう……」
初めて見る手が、さっき見つけてきたCDを指差した。そして、体が揺らいで……消える。
「消えた……」
「そうだな」
「あっけなかったね」
「……そうだな」
あたしが背中のカイロを外してる間に、虚宮は、CDを放送機器にセットしていた。スイッチを押すと、軽やかな音が流れ出す。さっきDJトリガイが流してたみたいなミックスだ。そして、声が、する。
『……あー、最後の仕事を忘れるところだったよ。さて、「ミステリーツアー」、次に君たちを誘うのは……』
じゃららららららら……効果音が流れ出す。……ばんっ!
『一階の多機能トイレ?! まあ、校内マップを見れば場所は分かるんじゃないかな? ……頑張ってくれよ。君たちが無事に帰れるよう、祈ってる』
それだけ言って、CDは動きを完全に止めた。CDを吐き出して、放送機器も電源を落としてしまう。
「ほんと、凄いなあ」
最後までイケボで、そんな清々しい声で言うんだ、篤君。
「……行くか」
「待って。……CD、持ってってもいい?」
「良いんじゃないか?」
あたしはCDケースをポケットにそっとしまって、虚宮の後を追いかける。背後で、ネオンが次々消える音がした。
〈放送室 生首DJ 巡〉
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キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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