一途彼女と誘惑の彼

山の端さっど

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∽2∽[笑顔]の裏側

Side12.5 町角すみれの◼︎◼︎

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『すみれ、みんなとなかよくできるわね?』

 夢を見ていた。
 夢だと分かっているけれど、思考がうまく働かなかった。


  ◇

階段を上る。
 階段を上る。

  ◇


 九十度傾いた階段の上を、当たり前みたいに歩いていた。
 エッシャーのだまし絵の世界に入り込んだ気分だ。

『町角さんが悪いんだ。俺のことなんて眼中にないみたいに』

 夢だから現実感が無かった。


   ◇

 階段を上る。
  階段を上る。

   ◇


『すみれって、絵美里えみりと一緒に居るところしか見たことないよね』

『話してるとすごく楽しい子だよ。でも何となく話しかけ辛いというか、何でだろうね?』

『いえ、ちょっとしたトラブルなんですよ。すみれちゃんと遊びたいって子が何人かいて、その子達でケンカになっちゃったんです。よくある事ですよ』

 お腹に冷たい感触があった。触ってみたら、濡れている。夢だから、現実感が無かった。


    ◇

  階段を上る。
   階段を上る。

    ◇


『止めろよ。町角さん、お前とは付き合えないって言ってんだろ。合わないんだよ』
『俺と合わなきゃ、誰と合うんだよ?』
 
『そっか。きっとクラスの皆、すみれちゃんには幼すぎて相手してらんないんだね。ごめんね』

 終わりのない階段を歩き続ける。疲れないし飽きない。夢だから現実感が無かった。


     ◇

   階段を上る。
    階段を上る。

     ◇


『すみれ、みんなに優しくするのよ?』
『勿体無いねー、絶対人気者になれるのに』

 あの時、なんて言っただろう。


『町角さん、どうして俺には冷たいんだ?』
『ちゃんと面倒見れないなら、遊ぶのやめなさい。◼︎◼︎ちゃんねちゃったでしょ』

 あの時、何をしなかったんだろう。


『「みんな」の心配はしてくれるけど、「私」の心配はしてないよね』
『無視するなら徹底的に無視しなきゃ。半端に期待させ続けたすみれさんも悪いよ』
『放っておけなかったのは分かるけどね。優しすぎるのもなあ』

 それで、お腹が赤く濡れている。それだけ。


      ◇

    階段を上る。
     階段を上る。

      ◇


『遊びに行ってもあんまり楽しそうじゃないんだよね、こう、一人だけ取り残されてる感じで』
『もっと話を聞きたいな、ってとこで、離れてっちゃうんだよね。友達作っちゃいけないとでも言われてるのかな、って感じ』
『町角さんって「良い人」だよな』
『すみれっちと話してて楽しかったんだけどなー。友達だと思ってたの、私だけだったか』

 騙し絵の世界なのに、頭がクラクラすることはない。夢だから現実感が無い。自然とこの光景を受け入れていた。


       ◇

     階段を上る。
      階段を上る。

       ◇


『前に色々あったらしくてさ。人間不信? そっとしておいて欲しいって』
『凄く仲良くなるか、表面上の付き合いするかってタイプだよ』
『えっ、すみれさんってあの家の……?』

 夢だから大丈夫。


        ◇

      階段を上る。
       階段を上る。

        ◇


『アイツ、なんで事件なんか起こしたんだろうな』
『振られただけだろ? 女子相手にムキになって』
『いや、案外、清楚な顔して魔性の女だったりして』
『ハハハ。だったら自業自得だな』


         ◇

       階段を上る。
        階段を上る。

         ◇


『すみれ、どうしてケンカなんかさせちゃったの?』
『そんな子達と付き合うのはやめた方がいいね』
『すみれ、仲良くするならちゃんと守ってあげなさい』
『すみれ、誰とでも仲良くやっていくのよ』
『すみれ、どうして中途半端なの?』
『あなたはどう思ってるの?』
『あんたはそうやっていつも、』


 誰と誰と誰と誰と誰がいるかは分かるけど、ここは夢の中だ。誰に会っても怖くはないし、現実感もない。


          ◇

        階段を上る。
         階段を上る。

          ◇


『楽しくないなら抜ければいいのに』
『大勢の中だとどうしても、浮かないところに入ろうとしてしまうみたいで』
『相談には乗ってくれるのに、自分の話はしてくれないんだね』

『恋愛とか、したことある?』

『きみに中途半端に心配される奴らの事を、気に掛けたことはあるのかい?』


           ◇


 知ってる誰かと誰かと誰かと誰かと誰かが、普通の向きで立っていた。私が乗ってる階段以外は何もかも普通の向きをしていて、だから私が傾いているのだと分かる。エッシャーの騙し絵、騙しているのは私だけ。

『なんか、あたし達とは生きてる世界が違うってカンジ?』

 私は立ち止まった。
 誰もが、傾いている私を見ていた。



『本当に好きなんだ』

 誰もが、の中に、「元クラスメート」が、いるみたいだった。

『分かってもらうには、これしか無い……』

 夢だから現実感が無い。

『これが俺の、本気なんだっ!』 


 ナイフが一つ。

 でも、他の人も、何も持ってない訳じゃない。
 夢だから、どれだけ濡れても現実感が無かった。


   ◇


 階段を落ちる。夢から覚めるまで。
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