Sweetest Quest & B お菓子な世界

山の端さっど

文字の大きさ
2 / 21
Smallest Q.1 王都・ラスティケーキ

001_ピンククグロフ&リベリー

しおりを挟む
「お前、王都来たばかりだろ。このギルドに来たら、まず山に行こうぜ」

 ここ最近、クラレット国の王都にある冒険者ギルドではよく、上都してきた新人がこんな誘いを受ける。

「えっ、受付の人にピンククグロフ山は上級者向けって言われたんですけど……」

 ピンククグロフ。帽子のような形のと紅白の王都にほど近いこの山は、巨大な「魔菓子スイーツ」が出ることで有名だ。新人に対処できるようなモンスターは出ない。それでも、

「大丈夫大丈夫。俺らが付いてるし、中腹までだ。面白いモノ見せてやっからよ」

 不思議と、新人はこの山に一度連れて行かれる事が多い。パーティへの勧誘ではない。ただ、暇そうな奴らが集まって新人を連れていくのだ。おまけに、

「あ、行くんですか? じゃあ俺らも連れてってください!」
「お前らまたか」
「もうですからね」
「???」

 ……不思議なことに、一度行った新人がまた行きたがる事もある。


 *


 さて、時は進んで、ピンククグロフ山の中腹。例の新人は結局、なぜかノリノリの集団に連行されていた。

「……はあ、はあ、はあ……この山、きつくないですか?」
「それはお前、体力が足りないからだよ。で、この山に出る魔菓子スイーツ、知ってるか?」
「……は、はい、知識だけは。危ないのだと、キャロレーメル、ですよね」

 キャロレーメルとは、が固まった、硬い体を持つ牛。動きは遅めだが、小屋ほどの大きさの体で突進しては鋭い角を振り回す、脅威度Lvラベル400になる魔菓子だった。この新人が挑もうものなら一瞬で吹っ飛ばされるだろう。

「……あ、あんなのに襲われたら僕動けません……」
「大丈夫大丈夫、あんな遅い奴、数の暴力なら余裕だよ」
「俺らがついてるしな」
「それに、見せたいモンはキャロレーメルの巣に近いからこっちから近づくぞ」
「……あの、僕もう帰りま」
「いたぞ!」
「うぇえっ?!」

 そこは、バウムクーヘンや クッキーの木がなぎ倒されて大きく開けた砂糖草原になっていた。その草原に、大きな家ほどのキャラメル色の塊……いや、大牛が立っていた。

「これは一段と大きいな!」
「いい角が取れるな、うん」
「おい、どうした新人、惚けちまって」
「……お……大きい……山みたいだ……」
「おいおい、いつかお前も狩ることになるんだぜ?」
「あんなものを?!」

 考えられない、とフルフル首を振った新人は、ふと目を見開いて遠くを指差した。

「……あ、あんなところに子供が!」

 新人の指差した所、大牛の前足の近くに、小さな人影が見えた。少年ほどの背丈、背中には斜めに大きな武器を吊っているようだが、手を掛ける様子がない。

「おおお、襲われてるんじゃ……」

 助けに行く勇気もなく、ただ新人が人影を見ていると、ふいに少年? が手を上げた。その指の間には、数本のバターナイフが挟まれている。

「?」

 次の瞬間、少年が前に跳んだ。
 前足の間に入り込み、転がりながら次々と手元のナイフを放っていく。少年の動きに気づいたキャロレーメルが腹を地面に押し付けるよりも早く後ろ足の間から飛び出して、おまけというように尻尾の先を切る。針のようなキャラメルの毛が吹き飛んで、新人の所にまで飛んできた。
 それから、風のように少年は大牛の周りを駆け巡った。うまく攻撃を躱し、いなしながら、ナイフをザクザクと急所に打ち込んでいく。次第にキャロレーメルの体に、ナイフから広がる亀裂の網目模様が広がっていった。それが全身に広がった時、キャロレーメルが、吠えた。

「突進が来るぞ! 新人、よく見とけよ」

 キャロレーメルが頭を低く下げ、角を振り上げて突進の構えを見せる。唯一傷ついていない角は、1番硬く恐ろしい部位。キラリと角が光ったと思うと、恐ろしい勢いでキャロレーメルは少年へと突進する。この突進の時だけは、熟練の冒険者も撥ね飛ばされるほどのスピードが出るのだ。
 それを真正面から受けた少年は、……避けることも慌てることもなく、そのまま立っていた。少し大きめのナイフに持ち替え、少しだけ脚を曲げて構えると、

「よっし」

 ブランコから飛び出すように気安く、体の何倍もの高さに

 空中で宙返りをした少年は、キャロレーメルの頭上に狙いをつけて、体重をかけてナイフをキャロレーメルの目に突き通す。軽い子供のはずなのにそれは力強く、不安を一切感じさせない。
 キャロレーメルの目が、砕けた。ヒビはそれに留まらず、頭に、胴体に伸びていく。それまでのヒビ割れに次々と到達していくと……全身が、砕けた。

 キャラメルの欠片と粉が、一瞬すべてを覆いつくし、風に乗って煙のように流れていく。あとから現れたのは、残った角を拾い上げた、やはり小さな少年の姿だった。

「『シルエットミラー』縛りも飽きてきたな……」

 そして、息一つ切らさず、ごくつまらなさそうな顔で呟いたのだった。



 ブルーベリージャムのような潤んだ青眼、所々焦がしたようなキャラメルの髪、背には身長を大きく越える鏡のような大剣。整った容姿と手練れの使うような大剣のアンバランスさは目を引くが、それよりも何よりも。
 一族の中では珍しい大成長を遂げた背丈。地元を出るまでは大の誇りだったーー王都ではにしかならない外見。

 そんな小人の種族「リベリー族」のアレン=レグルスが王都に来てから2年あまり。最初は侮る者だらけだったが、その小さな体に反して巨大な魔菓子を次々と仕留め、冒険者等級を上げるにつれ、からかう者は減り、今では「ファン」がつくまでに至った。それどころか、「あんな小さくても上級冒険者になれる」と新人に勇気を与える存在になっているのだ。



「す……すごい!!」

 その新人の声が大きかったのか、憧れの眼差しに気づいたのか、一仕事終えて辺りを見渡したのか、ふいに見学の団体を見つけたアレンはーー



「おい、見世物じゃないぞ、冷やかしなら帰れ!」



 大声で叫んで、その背に背負っていた得物を引き抜き、横ざまに振った。
 デザートナイフ剣「幻鏡剣シルエットミラー」。引き抜かれると背負っていた時よりも更に巨大化したナイフは、とても少年に振るわれているとは思えない。

「どいつもこいつも面白半分で人の仕事を見に来やがって! 暇か! 冒険者ならお前らの腕を鍛えろよ!」

 怒りのままに空を切るナイフの銀色の腹が、鏡のようにすべてを反射する。もしこのナイフが使われていれば、キャロレーメルの腹でさえも切り裂いていただろう。

「おっ、演舞始まったぞ。相変わらずとんでもない力だよなぁ」
「……すごく怒ってるように見えるんですけど大丈夫でしょうか……?」
「うん、しばらくすると追いかけてくるからそしたら全力で逃げるぞ」
「?!?!」

 威嚇のつもりが観光されているとはつゆ知らず怒りを示す彼の首から下がった鎖の先で、広がった葉のような模様が刻まれた冒険者の証、スケールタグが光る。
 冒険者の中でも上の方であることを示す「陽」のマークだった。



 *****


魔菓子スイーツレポート


No.002 ビッグキャロレーメル(Big Caroleymel)
牛型・ピンククグロフ山
Lvラベル400 Calカロリー:4000 Bx糖度:100

 硬いキャラメルの体に、砕いた乾燥キャラメルがまぶされたような体躯のスイーツ。焦がしキャラメルの目につややかな大角を持つ。とにかく硬いが、弱点は遅いことと、腹の乳。ちなみに牛乳は出さない。キャロレーメル自体は様々な地に生まれるが、ピンククグロフ山(クラレット国)のものは特に大きく、家ほどもある。突進攻撃だけは素早いが伏せて角を掲げる行動を取るので予測は簡単。

Drop:キャラメル角、キャラメル珠



No.003 ピンクシュガークグロフ山(Mt.PinkSuger Gugelhupf)
山・クグロフ系(クラレット国)

 クグロフ系は、斜めに凹凸が入った独特な形の山型魔菓子。粉砂糖やチョコがたっぷりと上に掛かっている事が多い。ピンククグロフは紅白の粉砂糖が大きく掛かっているのが特徴のクグロフで、バウム木やクッキーの木が生える一方、巨大キャロレーメルが現れては木を倒して回る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...