Sweetest Quest & B お菓子な世界

山の端さっど

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Smallest Q.1 王都・ラスティケーキ

002_ジンジャーエール&はぐれ者

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 冒険者に与えられる等級は全部で9つある。「荒原」から始まって、実績により「地衣」「若草」「深草」「低陽」「高陽」「低陰」「高陰」「極相」とグレードが上がっていく。極相級に達した冒険者には勇者を目指す資格が与えられるため、等級上げに勤しむ冒険者は多い。かくいうアレン=レグルスも、勇者を目指して上都してから1日たりと無駄に休んだことはない。

「だから、一刻も早く低陰級に上がりたいんだよ。さっさと試験受けさせてくれ」
「ダメです」
「なんでだよ」

 ピンククグロフ山観光に並ぶ恒例行事が、今日も王都冒険者ギルドでは繰り広げられていた。

「ですから、アレンさん……」

 羊角と触角の生えた軟硬角フラニィ族の受付嬢は、真剣な顔でアレンに目を向けた。見下ろした、とも言う。決して見下す気はないのだが、体格差的にどうしてもそうなってしまう。

「『ラスティケーキ』に挑みたければ、パーティを組んでください」
「またその話かよ」
宴会パーティーの方ではありませんよ」
「分かってるっつの!」

 アレンは膨れた面で受付嬢をめ上げる。どう見ても上目遣いでほっぺを膨らませた可愛い子供にしか見えないのだが、そんな事を言ったが最後見た目にそぐわない拳が飛んでくるだろう(男には。女なので受付嬢は毎回助かっている)。

「我々ギルドとしましてもですね、アレンさんの功績はもちろん高く高く評価してます」

 緩む頬をなんとか引き締めて、受付嬢はアレンに向かって身を乗り出す。

「でも、ですよ。毎回申し上げてますが、アレンさんは高陽級です」
「実力はもう陰級だ」
「それは試験を受けなきゃ認められないんです」
「その試験場のラスティケーキには隠等級じゃなきゃ入れないんだろ!」
「ですから何度も言っていますが、陰等級になるようパーティを組んでください。たったもう1人、深草級以上のメンバーが加わるだけで陰級見込みになれるんですから」

 それを聞いて、アレンは……クシャリと顔を歪めた。

「それができりゃここに毎日通ってねえよ……」

 友達ができなくて悩む子供のようないじらしい表情に、とうとう耐えきれず受付嬢は頬を染めて口元を押さえた。


 *


「深草とか無理だろ……」

 魔菓子狩り、受付嬢との対決のルーティンを終え、次にアレンが暗い顔でやって来たのは、これまた日課の酒場だった。それもパーティを組みたいソロ冒険者向けの酒場。つまりアレンは今、いわゆる組活中だった。

「ネロさん、エール」
「はあい、エール冷えてるよ」
「……ネロさん、これ以上からかうとご自慢の鱗剥いでムースにする原型無くなるまで刻むけど」
「じょ、ジョーダンだから。はいエール」
「はいどーも。ケッ」

 ジンジャーエールというのは、エールに似せた子供用の飲み物だ。子供に見られがちなリベリー族のアレンにとって、エールを頼んでジンジャーエールを出されるのは明らかな種族差別……なのだが、王都では「冗談」でやられる事も多い。酒場のマスター、ネロは背が大きくなる大化ラージャ族の血を引いているせいか、小さいアレンをよくお人形マスコット扱いする。これでも、二、三度アレンが挑発を買って殴り合ってから控えめになった方なのだ。



 さて。アレンがここまでいじられるのには、少しだけ納得できる理由がないでもなかった。このクラレット国にはアレンのような小人系は多い方なのだが、その中でもアレンは珍しい部類……リベリー族なのだ。
 例えば先ほどの受付嬢は硬角ジュニィ軟角フラゲラの特徴を持つフラニィ族。マスターのネロは陸鱗ラプテル大化ラージャの特徴を持つラーテル族……といったように、ほとんどの人は二つ以上の特徴を持つ。これを「マーブル」と呼ぶ。一方、マーブルではない純粋族はアレンの低身長のように、極端な特徴が表れる。世界中で見てもごくわずかしかいないうえに目立つので、どうしても特別に扱われやすいのだ。
 とはいえ、当事者のアレンにしてみればいい迷惑でしかない。



 それはさておき、ネロとのジャブを終えて酒場に踏み込んだアレンの周りには、すぐ次の問題たちが近寄ってきた。

「あ、アレンさんですよね! いつも応援してます!」
「お、おう……」
「あのあの、握手してもらっても良いですか?」
「まあ良いけど……」
「え、じゃあ僕は角触ってもらっても良いですか?!」
「そのくらい良いけどお前はそれで嬉しいのか……?」

 彼らはその名を「アレンのファン」という。
 背が高いだけなら気圧されることもないのだが、キラキラした期待の目で見られるとアレンも邪険にしづらい。そのまま一団と握手を交わし、浮かれた顔で元気に走っていく様子を眩しく見送ったところで、ようやくアレンは我に返る。

「……って、ここ握手会場じゃねえから!」

 と、「ファン」にしょっちゅう捕まるアレンに他の人たちはどうしても声を掛けづらくなってしまう。酒場で握手会とか、傍から見れば「ちやほやされて調子に乗ってそうな奴」だ。「ファン」達はまだ冒険者になって日が浅く、若草級程度で誘うわけにもいかない。若者の希望なんて勝手につけられた称号が、アレンのパーティ作りを邪魔していた。



 そしてもう一つ、アレンには問題があった。

「うーん……アレンさん、功績は素晴らしいと思うんだけど、もううち、剣とナイフ要員は足りてるから……」

「すみません、人手不足の中から魔法使いを貸し出すのはちょっと無理かな……」

「魔法銃とか使えないんですよね? 魔法が使えればお願いしたいところだったんですけど……」

 彼が陽級冒険者ながらパーティを組めていない理由はここにもあった。
 アレンは魔法の類が一切使えない。ナイフ剣と投げナイフ、多少の刃物の扱いは素晴らしいが、近距離の戦闘要員にしかなれない。その技の狭さが、有能さを上回ってパーティ結成の大きな壁になっていた。ずっとソロでやってきて、他の武器を扱ってこなかったツケだった。この半年、アレンの技能をちょうど必要とする冒険者がいなかったのだ。

「何だよ、ナイフだけで悪いかよ。キャロレーメルだってミロワールだって倒してきたぜ!」

 かくして今日もアレンは、失意の中一人でやけエールをあおる事になる。これがアレンの日常……



「ん?」

 酒場の奥が急に騒がしくなった。
 アレンが目をやると、ホワイトチョコレート色のフードの男が一人、数人の柄の悪そうな男たちに囲まれているのが目に入った。フード以外はアレンをバカにしてきたことのある素行の悪いパーティのメンバーだったので、何が起きているのかは一目瞭然だった。パーティぐるみでフードの冒険者に絡んでいるのだろう。

「おいおい、揉め事かよ……待 っ て た ぜ」

 アレンはニヤッと笑って立ち上がった。
 このパーティには、身長でバカにされたを済ませていなかったのだ。そもそもソロでもないのに彼らが何故この酒場に居るのかは謎だが、「ここで会ったがバースデーケーキ」というやつだ。因縁のあるパーティを正義の名のもとにムースにしてすりつぶしてやろうと、アレンは騒ぎの元に近づいた。

 その時、

「はっ、マーブル差別主義のクッキー・ガイいしあたまズってやっぱ、よく吠えるんだ。勉強になったよ。超、変な生態ってこと分かったし。僕がもし集縮ザギフトやヌエだったとして何だっての? 種族とかどうでもよくなるくらいには、君らより強い自信あるけど」

 フードの男が、余裕たっぷり、皮肉たっぷりに言い放った。



 *****


魔菓子レポート


No.004 ラスティケーキ(RustyCake Dungeon)
ダンジョン・陰等級(クラレット国王都付近)

 飴水が多く降る地域に現れる建物のような巨大構造物。地下に広がりながら魔菓子を生み出し続ける事が多いため「地下牢ダンジョン」と呼ばれている。
 ダンジョンを「魔菓子」に含めるか? というのは、魔菓子学者の中でもめちゃんこ揉める議題。ダンジョンを生物と考えるか、が主な争点だが、そもそも全く動かない植物系の魔菓子が認定されている時点で今更という気もする。

 ラスティケーキは、ココアとアラザンが掛かって表面がサビ色に見える、濃く硬いホールの巨大なプルーンチョコケーキ。チョコレート系の強力な魔菓子を生み出すが、今のところ魔菓子がダンジョン外に出ることはない。
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