Sweetest Quest & B お菓子な世界

山の端さっど

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Smallest Q.1 王都・ラスティケーキ

004_カガミロワール&魔法

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「アレンさん、ご存知かと思いますが。酒場は戦場ではありません」
「知ってる」
「でもアレンさんのしたのは戦闘ですよね?」
「まあ、そうだな」
「ではアレンさんは規律を破った自覚があるんですよね?」
「悪いと思ってるぜ」
「もう、なんで堂々としてるんですか! 罰金です!」
「そこは納得いかないけど、まあ、ギルドが言うんなら出すよ」

 アレンは肩をすくめて、腰に吊った布袋から堅焼きのビスケットを取り出した。だいたい世界共通の通貨だ。

「どのくらい?」
「素ビスケじゃ済みませんよ」
「じゃステンドか?」

 中央に飴の窓が入ったステンドグラスビスケットを数枚出すと、ようやく受付嬢の目は和らぐ。

「全く、直すのも簡単じゃないんですからね!」
「はいはい、分かったよ」
「分かっているのに破壊したから怒ってるんです!」


 *


 こってりとクリームのように絞られたアレンが解放された時には、もう夜になっていた。

「ちぇー」

 宿にすぐ帰る気にもなれずギルド前に置かれた樽の上にちまっと座ったアレンの近くに、ホワイトチョコ色のフード服が近づいてきた。例の青年らしい。

「……僕が買った喧嘩、よくもかっさらってくれたじゃん」
「何だよそれ? 感謝の言葉とか無いのか?」
「は? 自分で対処できたし。君が勝手に終わらせたんでしょ?」
「ふーん、まいいや」

 別に本気で感謝してほしいなどと思っていたわけでもないアレンが流すと、何故かフードの青年は驚いた様子を見せた。

「……何が目的だったわけ?」
「何がって? だって揉めてただろ。ま、前に俺もあいつと揉めてたし、見かけたら殴ってやろうとは思ってたけどな」
「……あっそ」

 気が抜けたような様子で青年は近くの地面にあぐらをかく。

「……君、スライムゼリーみたいに単純そうだから言っとくけどさ。次からは相手が『武器を振り上げた時』じゃなくて『武器を振り下ろした時』に反撃しなよ。でないと今回みたいに君にも責任問われるよ」
「え、なんだそれ」
「武器振り上げただけじゃまだ正当防衛? にはなんないんだってば。だから言ったじゃん、『何してんの』って」
「へー、そうだったのか!」
「はぁ、君って本当、本当……残念な頭してるね」

 青年は呆れたような顔をした……らしかったが、口元しか見えないアレンには分かるわけもない。

「なあお前、見たことない奴だし王都来て間もないんだろ。ギローノと何揉めてたんだ?」
「……別に。あいつらが『マーブル』は何かとか、つら見せろとか言ってくるから断ってただけだけど」
「はあ?」

 思っていたより普通の内容に、アレンは首を傾げた。


 マーブル……種族的な特徴というのは、冒険者にとっては重要だ。すばしっこい小成リベリー族と硬い守りを持つ殻守ミクフォ族ではパーティにおける立ち位置も変わってくる。パーティを組みたいなら、得物や戦い方だけでなく、まず自分の特性を伝えるのは普通の事だ。


「個人情報を信頼できるか分からない相手に晒すなんてごめんだね。マーブル差別する気満々でしょ」

 ツンとした、ニヒルな口調で青年は吐き捨てた。

「お前……その言い方じゃ揉めるだろ、っていうかいつまでもパーティとか組めないだろ」
「君みたいに堂々としてられる奴ばかりじゃないんだよ、この世界は」
「? どういう意味だ?」
「……別に」

 青年は肩に掛けていたカバンから小さな瓶を出すと飲み始める。何か花の香りがかすかに漂った。

「……まあ、ギローノの奴俺の事もバカにしてきたし、断られたくらいでケンカになるあいつらも悪いけどよ」
「それ。あいつらマジで頭にパチパチキャンディ詰まってんじゃないの?」

 何となくフォローを入れたアレンの言葉に、フードは早口で食いついてきた。

「こっちは別にあいつらみたいな腐ったパイの寄せ集めとパーティ組む気無いし。だから何を話す義理もない。それを何? 黙ってりゃそうかザギフトかヌエかって、マジで腐った奴は腐った事しか言わないね。マーブル差別とかダッサ」
「お、おう……」


 集縮ザギフトやヌエは、マーブルの中でも特に変わったものだ。複数の種族の特徴が混ざるマーブルには、まれにうまく特徴が混ざらず異変が起こる事がある。その結果、目や腕、特徴などが欠けてしまうのがザギフト、逆に多肢のように何かが増えるのが多覚チェイン、親にない特徴が現れたり特徴が変化し続けたりして不安定になるのがヌエ。
 これらの不安定なマーブルは一般的に冒険者には向かないとされているが、世界にはザギフトやチェインで有名な極相級冒険者になった者も少ないながら居るし、差別はクラレット国では禁止されている。口にしたところを見られたのだから、ギローノ達も無事では済まないだろう。


「はー、俺もそのくらい開き直りたいもんだぜ」

 アレンは星空を見上げた。

「君ほど開き直ってる奴見た事ないけど。生粋のリベリーで高陽級って、初めて聞いた時は何の冗談かと思ったよ」
「言ったな!」
「差別じゃないって。信じられなかったって言ってんの。まあ、マジだったけど」
「失礼だよな! そんなに俺が不思議かよ」
「そもそも生粋のリベリー自体が珍しいと思うんだけど?」
「俺の出身の村はほぼ全員リベリー持ちだぞ? 俺の父さん母さんも両方生粋のリベリーだし。平均身長は俺の半分以下だ」
「何その世界……」
「地元じゃ『リベリーの村』で通じるな」
「めっちゃ開き直ってんじゃん……」
「でも弱いうちはパーティとか絶対断られるし、強くなったらなったでナイフ使うだけの奴は要らないって言われんだよな。どうしろっていうんだよ」
「君、魔法は使わないの?」
「使えねーんだよ! 生粋のリベリーだから、らしいけどな。そんなに魔法が大事かよー!!」
「いや叫ばなくても大事だよ。パーティになれば特に……って、君魔法使わないで高陽級になった訳?」
「おう。Lvラベル400くらいの魔菓子倒しまくってたらなれたぜ。一度Lv500も倒せたし」
「500? それって、倒せたら即低陰級に格上げされてもいい難易度じゃない?」
「そう思うだろ? 信じてくれなかったんだよ誰も!」

 アレンはガバッと身を起こして、一枚のクッキーを取り出すとくるくると弾いた。

「倒したんだよ、カガミロワール」
「まあさっき見た感じ、硬い力押しだけの奴の相手ならLv500でも倒せ……はっ? ミロワール?」
「ああ。一度ピンククグロフ山に出たからーー」
「ステンドグラスビスケットの間違いじゃないの?」
「これがステンドに見えるか?」

 アレンはクッキーを弾いて青年の手元に落とした。
 縁に装飾がされたクッキーの真ん中は、ステンドグラスと違って穴が空いているわけではない。その代わりに、中央が少し凹んでいて、そこに銀箔が敷かれ、透明なゼリー風のクリームが乗せられていた。まるで鏡のように、青年の姿を反射する。

「……ミロワールじゃん」
「そうなんだよ! それをギルドの奴ら、俺がたまたま落ちてたミロワール拾ったんだろうって……Lv500のミロワールの欠片がそこらに落ちてるわけないだろ!」
「……もう一度聞くけど、マジで君、カガミロワールを倒したんだよね? ピンククグロフ山で?」
「ああ、間違いないぜ」
「一体だけ?」
「見つけた限りは」
「それヤバい事だって理解してる?」
「何が?」

 フードの青年はアレンの服の首元を掴んだ。

「陰級冒険者認定試験に使われるダンジョン、ラスティケーキの最下層にいる魔菓子はLv500。いい、Lv500って陰級なわけ。なんで陽級の君が立ち入り許可されてる場所で陰級の魔菓子が出てるわけ?」
「えーと、つまりどういう事だ?」
「君の話が本当なら、ピンククグロフ山の脅威度が上がってるって事だよ! しかも、君に討伐されたせいで、まだ誰もその目撃情報を信じてない。そう、魔法が使えない君がソロでミロワールを倒したとか、まず誰も信じないからね。……一応聞くけど、今の、本当に、嘘じゃないんだよね?」



 *****



魔菓子スイーツレポート


No.006 カガミロワール(MirrorMiroir)
ミロワール系
Lvラベル500 Calカロリー:500 Bx糖度:5000

 ミロミロワールとも呼ばれる。全身が鏡のように光る菓子でできた魔菓子だが、その形や生態はほとんど明らかになっていない。Cal体力は低く、鏡面を狙えば簡単に部分破壊できるが、その脅威の真価は体力よりもふんだんな菓魔力を用いた幻惑系の魔法。自らや敵の姿に似せた幻覚を多数作り出し、襲わせ、自らは隠れる。対処法としては、魔法で幻覚を打ち消すのが一般的。

Drop:ミロワールクッキー、鏡など
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