Sweetest Quest & B お菓子な世界

山の端さっど

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Smallest Q.1 王都・ラスティケーキ

010_狂魔女ドロシー&魔法戦①

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「じゃあ……あいつが、どこかに隠れて魔法撃ってんのか!」

 アレンはプラリオネを切り払いながら、周囲をキョロキョロと見渡した。

「ちょっと、危なっかしいから目逸らすのやめてよ。……そんな見たって、遠隔で攻撃できる魔法使いがホイホイこっちの射程に出てくる訳がないでしょ」
「そりゃそうだ」
「僕が調べるから、その間敵のクリアリングよろしく。水の邪魔も入ってくると思うけど、できる?」
「おう!」

 アレンが力強く答えると、ライズは、地面に膝をついて詠唱を始めた。地面に、戦闘中とは別の、炎をかたどった赤い文様が浮き出る。

火神よクティリア'ズ乾きのパァチド加護をディア偉大なる仮名においてビ・ボア・ディア・デイ・ディモリアこの身のまま我アズィスタン炎の中で燃え立ちインフレイム・アフレイム昇り立ち届くアセンド・ア・センド火神よクティリア'ズ加護をディア我、神に伝うる事叶おうかアズィスタン・キル・タ・ディア……」

 唱えるたびに、足元の文様に細かい模様が加わっていく。
 魔法には詠唱が必須だ。そして、上級の魔法になればなるほど長い呪文と魔力、集中が必要になる。片手間にできるものではなく、その間、魔法使いはノーガードだ。当然、魔菓子のかっこうの的になってしまう。

「まあ任せなっ!」

 その隙を、アレンが埋める。四方八方から襲い来るプラリオネを、ミキサーのように、刃が切り刻んでいく。
 その時、大小さまざまな水球が次々と飛んできた。この詠唱を成功されてはまずいのか、全ての水球がライズを狙っている。

「この詠唱って、やっぱ水掛かっちゃまずいのか? 多分そうだよな?」

 プラリオネの相手をしながらナイフだけで全ての水球を弾くーーそんな事は、アレンにも流石にできない。それでも、アレンは慌てなかった。慌てなかったというより、完全に懐かしい目をしていた。

(そういや、小さい頃ガキ共と遊んでたな。砂糖水の川に入った鬼が水掛けて、陸にいる奴は決められたフィールド内で水を全部避けるっての。砂糖水って乾くと結晶残るから、雫でもどこ濡れたか後々分かっちまうんだよなー。そうそう、秋は水避けって楽なんだよ)

 そんな事を思い出しながらアレンは、足元に溜まったプラリオネの欠片を、蹴った。

(落ち葉蹴って盾代わりにするんだよな、うまく広がるように蹴るの練習したなー、うんうん)

 落ち葉が舞い上がるように宙に広がった欠片が、水球を受け止める。その隙に、アレンは水球の飛んできた方向に数本、ナイフを投げた。

「そっちから来たのは分かってんだよっ!」

 適当に投げたナイフが命中するとは思えない。この距離なら避けたり払い落とす事もできるだろう。ただ、威嚇にはなったようだった。水球の妨害が止まる。同時に、いつの間にかプラリオネの群れも数が減っていた。おそらく、水球の妨害やナイフの対処で魔菓子を誘導する暇がなくなったのだろう。

「つっても、水魔法ってもっとエグいのいっぱいありそうなんだよな……ライズ、まだ終わんねーのか?」
「……伝われト・キル・タ偉大なる仮名においてビ・ボア・ディア・デイ・ディモリア火神よクティリア'ズ感熱のクティセンシング加護をディア

 火魔法陣が地面から浮き上がり、ライズに吸い込まれた。フードの袖から覗くチョコ色の腕に、赤い文様が貼り付いて光っている。

「ライズ!」
「見つけた」

 上級火魔法、クティセンシングーー熱を持つ生物の場所が、ライズの感覚にはっきりと伝わってくる。プラリオネには熱がない。近くにあるのはアレンとライズ、そして、少し離れた場所に、もう一つ。
 ライズは真っ直ぐに、そびえるチョコ岩に向かってボムをいくつか放った。
 色鮮やかな爆発がいくつも起きて、チョコ岩は砕かれる。その奥から……水柱が、立ち上った。

「!」

 水はクルクルと渦を巻きながら集まって、その場で人の形を取りながら固まっていく。そして、尖り帽子を被った一人の女の姿になった。

「こいつ、ギローノのパーティに居た奴だな!」
「だから言ったでしょ」
「……へへ……へへへへっへへへへ……」

 女は、帽子のつばを上げて、キッと二人を……どちらかといえばライズの方を睨んだ。美人なだけに、その歪んだ表情と口から漏れる笑い声とも唸り声ともつかない醜い声が目立つ。

「へへ、へ、……よくも……よくも、魔法も使えない小僧と、たかが火魔法使いが、あたしの邪魔をしてくれたねぇ……?」

 言いながらピックの杖を構える女は、独特な話し方をしている上、酔ったようにフラフラとして落ち着きがない。

「な、何だ、こいつ……」
「……酒場では気づかなかったけど、君、ドロシー=サグメントじゃん」
「? ライズ、こいつ知ってんのか?」
「五年くらい前、そこそこ有名だったよ。……悪名の方で」

 ライズはフード越しにも分かる苛立った様子で言う。

「聞いたことない? 水魔法使いの学生が、他の学生に怪我負わせた挙句、魔法学校を半壊させて逃げた話。あの時手配書出てたじゃん」
「いや、五年前って、俺田舎いたしな……」
「ああ、聞くだけ無駄だった」
「で、どんな奴なんだよ」
「さあ? 別に僕、魔法学校とか通ってないし詳しくは知らない」
「へへっへ……、この私が……」

 女ーードロシー=サグメントは、ライズの言葉を聞いていたのかも怪しかった。ユラリと上半身を揺らして、ただ、ライズを憎々しげに睨みつけ、吠えた。

「この私が! 火魔法に負けるなんてあり得ないんだよおぉぉぉ! 水よオフェ!」

 鋭い水球……水の槍と言ってもいい一撃が、ライズの頭を狙って飛び出した。短い詠唱だが、素早く無駄がない。水量を減らす代わりに素早さを増した、不意をつく事に特化した攻撃だった。しかし、ライズは予測していたかのようにただ避ける。

「……こんな奴らしいよ」
「お、おう?」

 顔色も変えず言ってのけるところを見ると、予測していたのだろう。

「避けるんじゃあないよ小賢しいっ! 魔法さえあれば私は無敵だ、無敵だ、無敵だ、無敵だ、無敵だ、無敵だ、無敵だ、無敵だ、無敵だ、無敵だ、誰も私を馬鹿になんてさせない、沈めてやる、溺れ死ね、沈めてやる、沈めてやる、沈めてやる、沈めてやる」

 ドロシーは呪文を唱えているかのように怒鳴ってはブツブツと言葉を吐く。

「どうすんだよあれ、話通じないぞ」

 アレンは戸惑いながらも、ナイフ大剣シルエットミラーを構えた。いつまた攻撃してくるか分からない以上、備えるしかなかった。アレンにはドロシーがどんな女なのか分かりっこないし、いきなり同情も嫌悪もできない。ただ、ためらいがあった。

苺なしケーキめクソッたれ、俺そんなに対人戦慣れてねーんだよ」
「酒場では随分やってたじゃん」
「女は相手してないだろ! 野郎の面に傷ついても気にしないけど、女はほら……」
「……へー、君ガサツな癖して多少は気遣うんだ。それともオスのサガ?」
「うるせえよ! そんな事より、どうすんだ!」

 アレンは林檎のように赤面しながら露骨に話を逸らした。正直、その声の方がドロシーより大きい。しかし誤魔化しとはいえ、どうするのか方針を決めた方が良いのも事実だ。姿を見せたとはいえ、ドロシーはまだ魔法使いの距離を保っている。アレンが直接斬り込める距離ではない。それに、

「あいつ、水化してたじゃねーか。銃もナイフも上手くやんないと効かないぞ」

 姿を現した時の様子を見れば分かる。ドロシーは液体状に姿を変えて物理ダメージを無効化できるのだろう。
 さらに言えば問題は、それが水魔法によるものか、種族マーブルによるものか、だ。マーブルは通常2つ。腕には瑞々しい鱗が見えるからマーブルの一つは水系の鱗、水鱗スイリンだろうと分かるが、もう一つが何の種族か確定していない。マーブルを知らないというのは、相手の手数を知らないという事。液化できるだけならまだ対処のしようはあるが、内容によっては更なる苦戦を強いられるかもしれない。

(……だから、仲間になる奴の手数を知っとくって意味でマーブル確認すんのは当然ではあるんだけどな)

 アレンはフードを頑なに脱がないライズを流し見た。アレンだって、純粋にパーティメンバーを増やしたいと思っていたらこんな怪しい奴とは組まなかっただろう。今のところ、一番得体が知れないのは目の前のドロシーよりもライズだ。
 そのライズはというと、

「アレン。言っとくけど、君は黙ってなよ」

 流し見してきたアレンに目を合わせ……フードの奥で見えないが、多分目を合わせてきた。

「何でだ?」
「君みたいなナチュラル天才タイプがあの手の暴走した自称天才に何言ったって地雷踏むだけだから。戦闘中に正論なんてもの聞けたもんじゃないからね」
「はあ?」
「理解できないのに、対話なんてするだけムダだ」
「何の話してんだよ。だから、そんな事よりあいつ、お前の火魔法効かないんだろ?」
「ああ、その事。別に僕、火しか使えない訳じゃないけど」

 ライズはあっけらかんと言った。

「なっ、え、そうなのか?」
「というか、得意不得意はあれど、一種類の魔法しか使えない魔法使いの方が少ない。君、田舎出の魔法適正ゼロとはいえ、ほんと魔法の事知らないんだね?」
「そ、そういうものなのか。じゃあ、あいつの苦手な、えっと土魔法で攻撃すればいいのか……?」

「地は水を切る」。土魔法なら水魔法に対抗できる、が……

「へへへへッへへッ……本気で言ってるのかぁい、火魔法の小僧。ここは迷宮ダンジョン内部。濃く汚染されたチョコまみれの地面を操るなどと、初級程度の土魔法じゃできない。それに、貴様が土魔法を使えるなら、私だって土を封じる気魔法も使える。どこまで付いてこれるかなぁ?」

 どこから聞いていたのか、耳障りな声でドロシーが笑った。
 砂糖による汚染は、樹気地水火、五種の神魔法全ての弱点だ。砂糖だらけの水や土や空気はうまく扱えないし、魔菓子が使ってくる「砂糖魔法」なんて受ければ、どの魔法も弱まってしまう。(神魔法が砂糖に効かないわけではなく、砂糖魔法の弱点も五種神魔法。互いを弱点とする関係だから、魔菓子と魔法で戦うことはできるのだが……。)
 大地を必要とする地魔法は、汚染の強いダンジョン内ではやや不利だ。もちろん新鮮な水もダンジョンには無いから、ドロシーは持ち込んでいるのだろう。

「フン。そんなの承知の上。教科書の1ページ目みたいな事喋ってる暇あればさっさと掛かって来れば?」
(ん、気体……?)

 ライズは挑発を買って小馬鹿にしたハンドサインを出した。その横で、アレンは何かに気づいたような顔をする。

「なあライズ、俺思いついた事があるんだけど」
「また滅茶苦茶な戦術? 任せるよ君に」
「いや、お前の力が要る」
「……まさか。……いや、考えとくよ」

 アレンが指で示したものを見て、ライズは少し呆れた顔で頷くと「まずは目の前」と顔を正面に戻す。

「じゃ、第1ラウンドと行こうか」
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