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12とパズルメーカー
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「翰くんありがとね。ほんと忙しくてさ」
「いえ、大変でしょうから……」
蜂庫さんは差し入れのクッキーの缶をさっそく開けた。この間帰省したときに買った地元企業の商品だ。
「猫の飼い主は見つかりましたか?」
「うんうん。もう絶対外に出ちゃわないようにするって」
「窓の締め忘れで出てしまったことになってますからね」
僕の不在中は、かなり大変だったらしい。超能力者関係の事件は当然ニュースにも載らないし誰も僕にまめに連絡したりしないので、情報が全然入ってこなかった。
……国内の総領事館、それも通信設備が狙われたというから、かなり危なかっただろう。その場に僕がいても何もできなかった。そして、今日起きた「アドベント」の事件……「12個目」も簡単なものではない。
「あー、どっちもね、影響はそんなに危なくはないよ」
「……危うく街中で猫が飛び回るところでした」
「そのくらいのマジックはね、ハロウィンのころにはいっぱい見れたから」
「もう11月ですが」
「うーん、でもまだ、ストリートパフォーマーだっけ。あの人たちに営業してもらってるから」
ストリートパフォーマー?
「知らない? えーと、黒い日傘の集団」
活動の様子が映された広報HPを見せてくれる。……どこかですれ違ったことがあった。
「日本では有名じゃないけど世界大会で優勝歴もあってねー。マジックで浮遊くらいなら完璧に再現できるんだって。すごいと思ったら彼らのファンになってもらおうよ」
「それは、また」
「簡単な異常現象なら青丹くんが押さえて止めることだって簡単にできる。それに、今って悪質なディープフェイクが流行ってるからね。テレビ中継に映っても領事館が騒いでも無かったことになるよ」
「うまくいくものでしょうか」
「もちろん。そのために超能力を一所懸命ファンタジーにしてきたんだからさ。あ、領事館だって超能力者のこと知ってる人はいるよ。本国にいる子供が超能力者って方も国内にいてね」
蜂庫さんは鍵のかかった資料棚のJのスペースに目をやって、クッキーを一枚取り上げた。
「昔、不動領域による超能力者の死亡事故があったの、知ってるよね。そのとき、体制が整ってないから隠すの大変だったんだよ。ほんとに困ってさ。その反省で色々頑張ることにしたんだ」
蜂庫さんや朱裁さんの担当区域だ。周囲に高い建物など何も無い状態での生身の人の高所落下事故。悼ましいだけでなく、説明が大変だっただろう。
「現場が血まみれなのは、人を立ち入らせない口実になったけどね」
「……」
公的には自家用航空機でのトラブルによる事故だと片付けられていたはずだ。「事故をきっかけに」非純正品のエンジン部品の規制が強められたこともあって、ネット上でも事件を不審視する声はほとんどなかった。
「うーんと、何だったっけ? とにかくさ」
蜂庫さんはソフト系のクッキーを個包装のまま二つに割って、割れ目をぴたりと合わせて置く。うまく割れば合わせると割れ目が分からなくなる。
「『アドベント』くんには驚いてほしいよね。世界は今のままでうまく回せてるんだって」
割り方に失敗したのでクッキーからは欠片が落ちた。僕は猫の首輪に結びつけられていたスファレライトのイヤリングの写真を流し見る。右耳。すぐに視線を戻す。
「そのためにもう少し手伝ってほしくてね。これ」
重大事件から軽い自損事故、民事まで様々な事件のリストを渡される。最近起きたものが多い。僕が知ってはいけない情報は除かれている。多分。
「何を?」
「これ全部未解決事件なんだけど、AからZにランク付けしてもらいたくて」
「AからZに並べ替えではなくて?」
「日本の事件だから並べ替えならあいうえおだよ。AからZの26種類にランク付け」
「……はい」
「YとZが本当の未解決~着手中の未解決、A~Fが被疑者死亡かつ関係者ほぼ不在で、他の不確定要素が事件に関与してるかもしれないよねって事件。Aはその中で爆発物が強く絡むもの」
「……」
「詳しくはこの表見てね」
エクセル。ネットワークに接続していない普通のパソコン。
「……Aの未解決事件は何件拾うのが目標ですか」
「理想は10件かな」
蜂庫さんは菓子皿に砕けたクッキーを広げて、他の色のクッキーの欠片と組み合わせた。食べ物で遊ぶというにはあまりに速い手つきでモザイク模様が四角く作られる。実際には、表沙汰にできない1枚のクッキーを細切れにして10枚の他のクッキーに隠すのだろう。「パズル」が非常に得意な人だ。手先が器用というだけでなく。
「……すみません、先に少し休憩を」
警視庁にも人気のない静かな場所はある。そもそも蜂庫さん用の特別室が人の寄らない資料室の中に紛れている。僕は少しだけ静かな方へ歩いた。
「……"ラッキーだと思うべきなのでしょうね、それは、それは"」
サラさんの英語がふいに聞こえて足を止める。
「"文字通りか。それだけでは到底成しえないとしても"」
もう一人は、モノリス・ユーミスさんだ。肉声。超能力者連合のトップは、欧州に戻らずこちらにずっと滞在しているらしい。
……「アドベント」の犯人を警戒しているのだろうか。僕の知る限りでは他に連合が動くような事件や外交案件は起きていない。アドベントも今のところ「そこまでの脅威」には見えないけど、予知を持つ人の見ている盤面は僕などの比ではない。
「あらあら……"翼をもがれた幸運にご用はありませんか?"」
「"無い"」
「"まあストイック"」
立ち止まってなどいない。会話が続く間にも足音を消して、慎重に引き返している。今咎められていないということは、サラさんは全く気づいていないか、聞かれても良い話だからと僕を無視している。そういう人だから、刺激しないですぐにやり過ごすべきだ。
「"君には悪いと思っている"」
「"ご冗談を、ボス。わたくし一介の探偵ですのよ"」
……そこまではぎりぎり会話が聞こえた。
サラさんは顔が広い探偵だ。探偵事務所を開いてはいないけど他に呼びようがない。便利屋と呼ぶには仕事を選ぶ。警察や国内の超能力者との特に強い協力関係においては、物語に出てくるような「探偵」をやる。僕がサラさんと出会った場所……とある事件では、サラさんは警察官と消防隊とともに消火活動と救助活動をしていた。だから、サラさんが親密に超能力者連合のトップの対応に当たっているのはおかしくない……のだろうか? かなり個人的な親密さを感じさせるような会話をすることもある?
そんなわけがない。
僕から見たサラさんかモノリスさんに対する印象が誤っていただけだ。サラさんのことは知っている。性格を偽れない人だ。きっとモノリスさんの方に僕の認識違いがある。
初対面のとき、モノリスさんは典型的な「尊大な人」だった。僕が使える人材か試している節もあった。鐘さんから、鳴さんのような一部の超能力者を軽んじているとも聞いた。……ただ、今の会話を聞く限りサラさんに対する態度は大きく違う。たぶんあの尊大さは演技だ。
もう一つ、鹿猪鶴姫さんがモノリスさんと話したときの印象は僕と違ったようだった。モノリスさんの弟さん(恐らく「コーテス」さん)と似た超能力者にやたら甘いという推測はあったけど、それなら霊能力も過去を知ることのできる能力だ。鳴さんの待遇が悪い道理がない。間違っている。……鶴姫さんの干渉する力は炎を操る力で、かなり強い。そちらを高く買っている可能性はある。だとしても、ネクロマンシーの有用性を低く見積もる理由は分からない。
最後に丹生子さんと青丹さん。初対面の時といい、先日「嘘か臆病か」をした時の言葉といい、丹生子さんはモノリスさんと一度や二度ではない交流がある。
『普通に話しただけで漏れる情報ってあるだろ。お前に限らず、人に話す内容は考えろってモノリスからずっと言われててね』
注意喚起というより、何度も言われている小言のようだ。
モノリスさんに話しかけられたとき、青丹さんは遠隔視聴のエスパーを通して小石を転がす程度の反応で済ませた。手慣れている。丹生子さんが対応するからというなら、そもそも反応しなくて良い。丹生子さんは声の聞こえる位置まで近づいていた。
……過剰に考えてしまった。とにかくモノリスさんはこの国の超能力者やその関係者と多く交流している。サラさんとだけでなく。未だに帰国しないのも、もしかして誰かの安否を気にかけているのかもしれない。
予知能力は、遠隔の指示だけで全てを解決できるようなものではないだろう。丹生子さんではないのだから、全知者が一般の非超者の試し行動をする意味がない。ここに留まる意味も感じない……。
「……すみません、戻りました。蜂庫さん」
「はーい」
「クッキーはお二人にも残しておいてください」
「分かったよ」
「モノリスさんのお口にも合うでしょうか」
「うーん、どうかなあ……」
蜂庫さんはしばらくして「あれ?」と顔を上げた。クッキーの袋を取り落とす。
「会ったの?」
「いいえ。FとGのランク分けの基準が分からないのですが」
「超能力者の事を知らない三人以上が事件の全体像に気づきうるかどうか」
「……分からなかったら聞きますね」
「うん」
モノリスさんがここにいると僕に伝える気が無かったのなら、蜂庫さんはあの会話を僕に聞かせる気がなかった。たぶんモノリスさんの印象を操作したいという発想自体がない。……確かに、僕なら蜂庫さんに嘘をついてほしいとは頼まない。
「蜂庫さんは……」
「うん?」
「サラさんに想いを伝える気は無いんですか」
「ゲホッ」
気の毒なくらいむせてペットボトルのお茶を飲んで、さらにむせている。
「参ったなあ……翰くん、秘密ね」
「言う気はないんですね」
「うん」
サラさんの本当の性別はどちらか、とか隠している年齢差とかそもそもサラさんに受け入れてもらえるか、とかは問題に見えないくらい、蜂庫さんには事情がある。母方の実家が名家で、結婚にあれこれと条件をつけられたり勝手にお見合いを組まれたりするらしい。あの手この手で逃げ続けていたら、今に至ってしまったとか。そこまでなら聞くことはある話だけど、「名家」の苗字を聞くと、ありきたりとは言えなくなってしまった。
「……ほんとに秘密ね?」
「口は固い方ですが、丹生子さんにも口止めをお願いします」
「丹生子さんにはずっと口止め料払ってるよ。丹生子さん僕には優しくないから」
「でしたか……」
蜂庫さんが悪いのではなく、相性の問題だ。多分。丹生子さんはあくまで自分の思惑通りに人が困惑するのを見るのが好きで、蜂庫さんの作るパズルと相性が悪い。そういうことにしておこう。
__________
Next 11/8 15:00
「いえ、大変でしょうから……」
蜂庫さんは差し入れのクッキーの缶をさっそく開けた。この間帰省したときに買った地元企業の商品だ。
「猫の飼い主は見つかりましたか?」
「うんうん。もう絶対外に出ちゃわないようにするって」
「窓の締め忘れで出てしまったことになってますからね」
僕の不在中は、かなり大変だったらしい。超能力者関係の事件は当然ニュースにも載らないし誰も僕にまめに連絡したりしないので、情報が全然入ってこなかった。
……国内の総領事館、それも通信設備が狙われたというから、かなり危なかっただろう。その場に僕がいても何もできなかった。そして、今日起きた「アドベント」の事件……「12個目」も簡単なものではない。
「あー、どっちもね、影響はそんなに危なくはないよ」
「……危うく街中で猫が飛び回るところでした」
「そのくらいのマジックはね、ハロウィンのころにはいっぱい見れたから」
「もう11月ですが」
「うーん、でもまだ、ストリートパフォーマーだっけ。あの人たちに営業してもらってるから」
ストリートパフォーマー?
「知らない? えーと、黒い日傘の集団」
活動の様子が映された広報HPを見せてくれる。……どこかですれ違ったことがあった。
「日本では有名じゃないけど世界大会で優勝歴もあってねー。マジックで浮遊くらいなら完璧に再現できるんだって。すごいと思ったら彼らのファンになってもらおうよ」
「それは、また」
「簡単な異常現象なら青丹くんが押さえて止めることだって簡単にできる。それに、今って悪質なディープフェイクが流行ってるからね。テレビ中継に映っても領事館が騒いでも無かったことになるよ」
「うまくいくものでしょうか」
「もちろん。そのために超能力を一所懸命ファンタジーにしてきたんだからさ。あ、領事館だって超能力者のこと知ってる人はいるよ。本国にいる子供が超能力者って方も国内にいてね」
蜂庫さんは鍵のかかった資料棚のJのスペースに目をやって、クッキーを一枚取り上げた。
「昔、不動領域による超能力者の死亡事故があったの、知ってるよね。そのとき、体制が整ってないから隠すの大変だったんだよ。ほんとに困ってさ。その反省で色々頑張ることにしたんだ」
蜂庫さんや朱裁さんの担当区域だ。周囲に高い建物など何も無い状態での生身の人の高所落下事故。悼ましいだけでなく、説明が大変だっただろう。
「現場が血まみれなのは、人を立ち入らせない口実になったけどね」
「……」
公的には自家用航空機でのトラブルによる事故だと片付けられていたはずだ。「事故をきっかけに」非純正品のエンジン部品の規制が強められたこともあって、ネット上でも事件を不審視する声はほとんどなかった。
「うーんと、何だったっけ? とにかくさ」
蜂庫さんはソフト系のクッキーを個包装のまま二つに割って、割れ目をぴたりと合わせて置く。うまく割れば合わせると割れ目が分からなくなる。
「『アドベント』くんには驚いてほしいよね。世界は今のままでうまく回せてるんだって」
割り方に失敗したのでクッキーからは欠片が落ちた。僕は猫の首輪に結びつけられていたスファレライトのイヤリングの写真を流し見る。右耳。すぐに視線を戻す。
「そのためにもう少し手伝ってほしくてね。これ」
重大事件から軽い自損事故、民事まで様々な事件のリストを渡される。最近起きたものが多い。僕が知ってはいけない情報は除かれている。多分。
「何を?」
「これ全部未解決事件なんだけど、AからZにランク付けしてもらいたくて」
「AからZに並べ替えではなくて?」
「日本の事件だから並べ替えならあいうえおだよ。AからZの26種類にランク付け」
「……はい」
「YとZが本当の未解決~着手中の未解決、A~Fが被疑者死亡かつ関係者ほぼ不在で、他の不確定要素が事件に関与してるかもしれないよねって事件。Aはその中で爆発物が強く絡むもの」
「……」
「詳しくはこの表見てね」
エクセル。ネットワークに接続していない普通のパソコン。
「……Aの未解決事件は何件拾うのが目標ですか」
「理想は10件かな」
蜂庫さんは菓子皿に砕けたクッキーを広げて、他の色のクッキーの欠片と組み合わせた。食べ物で遊ぶというにはあまりに速い手つきでモザイク模様が四角く作られる。実際には、表沙汰にできない1枚のクッキーを細切れにして10枚の他のクッキーに隠すのだろう。「パズル」が非常に得意な人だ。手先が器用というだけでなく。
「……すみません、先に少し休憩を」
警視庁にも人気のない静かな場所はある。そもそも蜂庫さん用の特別室が人の寄らない資料室の中に紛れている。僕は少しだけ静かな方へ歩いた。
「……"ラッキーだと思うべきなのでしょうね、それは、それは"」
サラさんの英語がふいに聞こえて足を止める。
「"文字通りか。それだけでは到底成しえないとしても"」
もう一人は、モノリス・ユーミスさんだ。肉声。超能力者連合のトップは、欧州に戻らずこちらにずっと滞在しているらしい。
……「アドベント」の犯人を警戒しているのだろうか。僕の知る限りでは他に連合が動くような事件や外交案件は起きていない。アドベントも今のところ「そこまでの脅威」には見えないけど、予知を持つ人の見ている盤面は僕などの比ではない。
「あらあら……"翼をもがれた幸運にご用はありませんか?"」
「"無い"」
「"まあストイック"」
立ち止まってなどいない。会話が続く間にも足音を消して、慎重に引き返している。今咎められていないということは、サラさんは全く気づいていないか、聞かれても良い話だからと僕を無視している。そういう人だから、刺激しないですぐにやり過ごすべきだ。
「"君には悪いと思っている"」
「"ご冗談を、ボス。わたくし一介の探偵ですのよ"」
……そこまではぎりぎり会話が聞こえた。
サラさんは顔が広い探偵だ。探偵事務所を開いてはいないけど他に呼びようがない。便利屋と呼ぶには仕事を選ぶ。警察や国内の超能力者との特に強い協力関係においては、物語に出てくるような「探偵」をやる。僕がサラさんと出会った場所……とある事件では、サラさんは警察官と消防隊とともに消火活動と救助活動をしていた。だから、サラさんが親密に超能力者連合のトップの対応に当たっているのはおかしくない……のだろうか? かなり個人的な親密さを感じさせるような会話をすることもある?
そんなわけがない。
僕から見たサラさんかモノリスさんに対する印象が誤っていただけだ。サラさんのことは知っている。性格を偽れない人だ。きっとモノリスさんの方に僕の認識違いがある。
初対面のとき、モノリスさんは典型的な「尊大な人」だった。僕が使える人材か試している節もあった。鐘さんから、鳴さんのような一部の超能力者を軽んじているとも聞いた。……ただ、今の会話を聞く限りサラさんに対する態度は大きく違う。たぶんあの尊大さは演技だ。
もう一つ、鹿猪鶴姫さんがモノリスさんと話したときの印象は僕と違ったようだった。モノリスさんの弟さん(恐らく「コーテス」さん)と似た超能力者にやたら甘いという推測はあったけど、それなら霊能力も過去を知ることのできる能力だ。鳴さんの待遇が悪い道理がない。間違っている。……鶴姫さんの干渉する力は炎を操る力で、かなり強い。そちらを高く買っている可能性はある。だとしても、ネクロマンシーの有用性を低く見積もる理由は分からない。
最後に丹生子さんと青丹さん。初対面の時といい、先日「嘘か臆病か」をした時の言葉といい、丹生子さんはモノリスさんと一度や二度ではない交流がある。
『普通に話しただけで漏れる情報ってあるだろ。お前に限らず、人に話す内容は考えろってモノリスからずっと言われててね』
注意喚起というより、何度も言われている小言のようだ。
モノリスさんに話しかけられたとき、青丹さんは遠隔視聴のエスパーを通して小石を転がす程度の反応で済ませた。手慣れている。丹生子さんが対応するからというなら、そもそも反応しなくて良い。丹生子さんは声の聞こえる位置まで近づいていた。
……過剰に考えてしまった。とにかくモノリスさんはこの国の超能力者やその関係者と多く交流している。サラさんとだけでなく。未だに帰国しないのも、もしかして誰かの安否を気にかけているのかもしれない。
予知能力は、遠隔の指示だけで全てを解決できるようなものではないだろう。丹生子さんではないのだから、全知者が一般の非超者の試し行動をする意味がない。ここに留まる意味も感じない……。
「……すみません、戻りました。蜂庫さん」
「はーい」
「クッキーはお二人にも残しておいてください」
「分かったよ」
「モノリスさんのお口にも合うでしょうか」
「うーん、どうかなあ……」
蜂庫さんはしばらくして「あれ?」と顔を上げた。クッキーの袋を取り落とす。
「会ったの?」
「いいえ。FとGのランク分けの基準が分からないのですが」
「超能力者の事を知らない三人以上が事件の全体像に気づきうるかどうか」
「……分からなかったら聞きますね」
「うん」
モノリスさんがここにいると僕に伝える気が無かったのなら、蜂庫さんはあの会話を僕に聞かせる気がなかった。たぶんモノリスさんの印象を操作したいという発想自体がない。……確かに、僕なら蜂庫さんに嘘をついてほしいとは頼まない。
「蜂庫さんは……」
「うん?」
「サラさんに想いを伝える気は無いんですか」
「ゲホッ」
気の毒なくらいむせてペットボトルのお茶を飲んで、さらにむせている。
「参ったなあ……翰くん、秘密ね」
「言う気はないんですね」
「うん」
サラさんの本当の性別はどちらか、とか隠している年齢差とかそもそもサラさんに受け入れてもらえるか、とかは問題に見えないくらい、蜂庫さんには事情がある。母方の実家が名家で、結婚にあれこれと条件をつけられたり勝手にお見合いを組まれたりするらしい。あの手この手で逃げ続けていたら、今に至ってしまったとか。そこまでなら聞くことはある話だけど、「名家」の苗字を聞くと、ありきたりとは言えなくなってしまった。
「……ほんとに秘密ね?」
「口は固い方ですが、丹生子さんにも口止めをお願いします」
「丹生子さんにはずっと口止め料払ってるよ。丹生子さん僕には優しくないから」
「でしたか……」
蜂庫さんが悪いのではなく、相性の問題だ。多分。丹生子さんはあくまで自分の思惑通りに人が困惑するのを見るのが好きで、蜂庫さんの作るパズルと相性が悪い。そういうことにしておこう。
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