砂姫の冒険記録──白き魔女と黒の使い魔は砂姫のために──

夜兎

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格差

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 男の子に連れられ、兄妹の家へと招かれたオネ。
 上がらせてもらった手前口にはできないようですが、とても戸惑っている様子が窺えます。

「何も出せなくてごめんなさい」
「いやいや! 何も気にしなくていいんだよ。匿ってもらってるわけだし……」

 申し訳なさそうに頭を下げている男の子に対し、苦笑気味に返すオネの気苦労というものが感じられますね。
 彼女にもそんな気遣いが出来ることに、少しだけ見直してしまいます。

「……でも、良くこんなところで過ごせるね。私にはとても真似できないかも……」

 前言撤回と致しましょう。彼女は彼女でしかなさそうです。
 男の子の方は、彼女の不躾な発言に屈託の無い笑みで返します。むしろ彼の方が大人ですよね。

「まあ、貧民街なんてのはこんなものなんだ。どこの家に行っても変わらない……まともな家なんてないんです」

 諦めたように俯く男の子に、オネもなんと返したらいいか悩んでいる様子。黒蛇くんが全然動く様子がないのは、愛嬌として見るしかありませんね。

「お兄ちゃん……だれかきてるの?」
 
 狭い家の奥、灯りが無いせいか真っ暗闇な部屋から、酒場でも一緒にいた妹さんらしき女の子が顔を覗かせました。
 この暗闇で見ると、その白く短い髪が明るく見え、わずかに赤い瞳は虚に感じられます。

「あ、さっきの妹ちゃん?」
「……助けてくれたおねえちゃん?」

 可愛らしく掛けられた声に、オネがわずかに表情を緩めました。どこか弱々しいその声が耳触りにいいことは間違い無いでしょう。
 近づいてくる様子のない彼女に、自分から近づこうとオネが立ち上がりました。すると、女の子は体を震わせてしまいます。

「あ、ごめん。そんな驚かれると思わなかった……」

 オネは落ち込み俯いてしまいました。

「ハンナ、悪い人じゃないから怖がらなくていいよ」
「分かってる……ごめんなさい」

 お兄ちゃんの優しい諭しと、素直な妹。本当にいい兄妹にしか見えませんね。

「悪いのは私だから、ごめんね?」
 
 何故かオネも謝り、二人して顔を見合わせると、お互いに笑い合いました。ハンナと呼ばれた妹さんも、つられて笑ってしまいます。

「ありがとう、おねえちゃん。……私はハンナ。少し体は弱いけど、そんなに気にしないでね」
「……僕はマシュー。ハンナは少し珍しい病気で……僕は妹を守るためにいるんだ」

 ハンナを見つめるマシューの目はとてもまっすぐで、迷いの一つも感じられません。
 オネもそんな二人を見て、嬉々とした笑みを浮かべました。

「私はオネだよ。いいお兄ちゃんだね」
「自慢のおにいちゃんだよ。……オネおねえちゃんか──ふふっ。おもしろいね」

 オネの呼び方に可愛らしく笑ってみせるハンナの表情は、とても愛らしいものです。

「ハンナ、失礼だぞ。……妹がごめんなさい。人とあまり話したことがなくて……」
「気にしないから、大丈夫だよ」

 まあ、オネはそんな事気にするような人間じゃないですね。なんなら自分でも笑ってるくらいに喜んでます。それほど面白いことを言ったでしょうか?

「おねぇちゃんごめんなさい」
「だから大丈夫だよ」

 そんな和やかなやり取りの中、家の外──貧民街の一番まともな通りの方から喧騒が聞こえてきました。

「なんだろう?」
「……多分、この国の衛兵だろうね。たまに貧民街の監視もしてるんだ」
「えいへい……?」

 書き慣れない言葉なのか、オネは説明を請うように首を傾げます。

「お姉さん──そっか、旅の人だもんね。この国のことなんか知らないよね……」

 そう落ち込むマシューにオネが戸惑います。
 落ち込みながらも、マシューが口を開こうと顔を上げると、その表情が固まってしまいました。
 その変化に驚き、オネが彼の視線の先に首を捻ります。

「やあ、お嬢さん。探しましたよ?」
「だれ?」

 家の入り口には複数人の男たち。ほとんどは顔の見分けも大して付かないほどの壮年くらいの男性です。
 白い甲冑かっちゅうを身につけ、長槍を構える姿はまさに衛兵ですね。
 しかし、先頭に立ちオネに話しかけてきた男は、雰囲気や服装が異なっているようです。

 暗いこの部屋でも、わずかに輝いて見える金色の髪。青く透き通った瞳や白い肌も、とても高貴な印象を受けます。
 まあ、オネの反応は当然の如く何も変わらないわけですが……なんなら嫌悪感すら抱いていそうな表情をしていますね。

「ふむ、旅人であることは間違い無いでしょうね。この国の下民が、閃光の貴公子と呼ばれたこの私、ウィリアムを知らないなんて事、あるはずがありませんから」

 ウィリアムと名乗る彼の口上に、付き人のような衛兵たちもあまり乗り気でない様子で、相槌を打っています。
 まあ……なんというか、残念なお方なのでしょう。本来なら、そっとしておいてあげるべき存在です。
 しかしながら、オネたちも今回はそういうわけにはいかない事でしょう。

「君たちが何者だとか興味はないし、用事がないなら人様のお家に上がらないで欲しいんだけど?」

 語気を強め、威嚇するようにオネが睨みつけますが、ウィリアムとやらには届いていないようですね。
 自分の美貌に酔いしれるかのように、目を閉じ自分の体を抱きしめ、惚けています。正直気持ち悪いです。

 オネは呆れたように眺めているわけですが、マシューはこの肌寒い空気の中、冷や汗を流しているようです。ウィリアムとやらと何かあったのでしょうか?
 ハンナに関しては、何があったのか分かっていないような呆け具合です。

「用事がない、ですか。用事ならありますとも。少なく見ても、二件ほど」

 先ほどまでの雰囲気と異なり、目を細め広角を上げる様子は、どこか不気味ささえ感じます。
 まあ、オネは大して気にしてもいないようですが。

「第一にあなたですよ。この国で盗みなど、看過できるはずもないでしょう?」
「盗み、て……動物をなんだと思ってるのさ」
「大切な商品ですよ。我が国を潤すための、ね」

 ウィリアムの言葉に、オネが表情を歪めます。かなり苛立ってますね。

「お姉さん、なんとかして逃げて。ウィリアムはだめだ。……妹をつれて逃げてください」
「マシュー……?」

 突如として、マシューがそんな提案をしてきます。やはり、彼のことを知っているのでしょう。

「そして、そちらの少女ですよ。ハンナと言いましたか?」
「何が言いたいの?」

 オネの問いかけに、ウィリアムは不敵な笑みで彼女を睨み返しました。
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