砂姫の冒険記録──白き魔女と黒の使い魔は砂姫のために──

夜兎

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白亜の魔女

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「知らずに側にいたのですか? ……無知と言うのはくも恐ろしいものですね」

 ウィリアムの意味深な言葉も、オネが気にする素振りはありません。

「その少女は白亜の魔女と呼ばれている、大罪人ですよ」
「ハンナが大罪人? 全然そう見えないんだけど?」

 実際、会話を聞く限りではとてもそうは思えませんね。彼女に何ができると言うのでしょうか。

「お姉さん、こんな男に付き合わなくていいか──」
「何故ですか?」

 目にも止まらない速さ、と言うのでしょうか?
 マシューの発言を遮ったのは、マシューに鉄剣を振りかざしているウィリアムの手首と、それを掴んで止めたオネの左手との接触による、空気を弾く乾いた音。
 物凄い険相で睨むオネと、そんな彼女を不思議そうに睨むウィリアムが静止画のように睨み合っています。

「それはこっちの言葉。なんでマシューに切り掛かったの?」
「貧民街の屑が、私のことを見下すなど、あっていいことではありませんので。掃除しようと思ったまでですよ」

 ウィリアムの発言に、オネはさらに顔を歪め、手に力を込めています。
 その行動に表情を歪めたウィリアムは手を振り払い、後退しました。

「何故、私の動きを見切れたのですか」
「そんな遅い剣筋を私が見逃すとでも?」

 オネの余裕の笑みに、ウィリアムが憤怒し、剣の持ち手を高く持ち上げて剣先を彼女に向けました。
 オネを観察するように、構えた左手の隙間から彼女を見据えています。

「閃光の貴公子と呼ばれたこの私を侮辱したこと、後悔するといい」

 既に整った顔立ちの面影はなく、オネを睨む目つきはさながら、獲物を捕らえようとする虎のように鋭くなっています。
 オネはそんな彼とは対照的に、落ち着いた様子で小さくため息を漏らしました。

「マシューとハンナに謝りなさい」

 語気を荒くして怒るオネの言葉と共に、ウィリアムが踏み込み、高くから高速の刺突を放ちました。
 実際その速度たるや、素人では剣筋を追うことすら叶わなかったことでしょう。
 しかし、オネはその速度をいとも容易く見切り、彼の持ち手を蹴り上げます。

「なっ──」
「返すよ」

 予想外の反撃に剣を落とし、驚愕きょうがくするウィリアムの鳩尾みぞおちに、左手による掌底を打ち込みました。
 その勢い凄まじく、なんとかの貴公子様が吹き飛び付き人の衛兵へとぶつかります。
 衛兵たちも驚き戸惑っていると、ウィリアムの首を僅かに掠める位置に、彼の持っていた鉄剣が突き刺さりました。

「失せろっ」

 その怒声はあまりにもオネを感じさせないものでしたが、間違いなく彼女から発せられたもののようですね。
 当然、そんな言葉を聞いた衛兵たちは、気絶してしまったウィリアムを担いで、逃げるように退散していきました。

「むかつく男だったなぁ」

 独り言ちたオネに、マシューの驚嘆の視線が突き刺さっています。
 ハンナは現状を理解できていないように呆然とし、そんな二人にオネが恥ずかしそうに苦笑いを返しました。

「やっちゃった」

 おどけてみせるオネの言葉にハンナが笑い、つられるようにオネが笑っています。複雑な表情を見せるマシューも苦笑いですが、笑みを浮かべました。

「でも、お姉さん本当に強いんだね。ウィリアムはあんな性格だけど、実力は本物だって言われてるんだよ?」

 安堵したように微笑むマシューの言葉に、オネは首を傾げつつも微笑んで見せます。

「確かに少しは早かったけど……力はそんなでもないし、ただの嫌なやつでしょ?」
「……そうだね」

 オネの基準に驚きつつも、マシューは納得したように笑い、小さくため息を漏らしました。

「……聞いていいことかは分からないけど、さっきの変な男の言ってた言葉のこと……」

 オネが言葉を濁しながら、気まずそうに尋ねます。

「それは──」
「マシューおにいちゃん、いいよ」

 基本的に大人しかったハンナが、マシューの言葉を遮りました。
 マシューも驚いたのか、その目を大きく見開いています。

「ハンナ……」
「オネおねえちゃんはいい人だから。大丈夫」

 ハンナの言葉に、マシューも考えるように俯いてしまいました。虚に彼の事を見つめているハンナの意思は、とても強く感じます。
 兄妹のやりとりに置いてけぼり状態なオネは、呆然とただ、次の言葉を待っているようです。
 少しの間沈黙が過ぎると、マシューのため息が家の中に響きます。

「分かった。ハンナがそこまで信じるなら、僕もそうしよう。……このお姉さんが悪い人とは思えないしね」

 観念したように小さく微笑むマシューの言葉に、オネはどこか恥ずかしげに微笑み返しました。

「私って、そんないい人かなぁー?」

 頭を掻き、とてもだらしない様子ですね。そんな彼女に兄妹も声を出して笑います。

「うん。いい人だと思う」
「オネおねえちゃん、悪いこと考えれなさそうだからね!」

 ハンナの褒めているのか貶しているのか分からない言葉を聞いても、オネはただ笑っています。彼女が悪どい事を考えれる頭を持っているとは思えませんね。
 三人が一頻ひとしきり笑い、落ち着いた頃合いでマシューが口を開きます。

「ハンナはある病気を患っているのです」

 その眼差しはとても真剣なものでした。
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