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 オネ達一向は現在、あたり一面草原となっている街道を進んでいます。
 黒と茶色の羽毛で全身を包む、丸い体に長い首を持った駝鳥のような鳥に、荷車を紐でくくりつけています。馬車ならぬ鳥車とでも言うのでしょうか?
 御者となるのかは分かりませんが、ディゼルが鳥の背に乗っていますね。手綱のようなものは見当たりませんが。

「だからごめんてば! 忘れてたわけじゃないんだよ? 本当に!」

 オネを乗せるジンが鳥車と並走していますが、若干落ち込んでいるように見えますね?

「あなたは忘れっぽいところがあるから、もう少し物事を覚えるようにした方がいいんじゃないかしら?」
「お母さんまで! 本当に忘れてた訳じゃないんだよ!」

 どうやら、ジンはオネ達に置いていかれたと思っていたようですね。それで落ち込んでいるみたいです。
 そんな様子を荷台の中から聞いていたハンナが、突然顔を出しました。
 
「蛇さん落ち込まないでね。おねえさんはこんなだから、おねえさんなんだよ」
「ハンナまでなの?」

 オネまで落ち込んでしまいます。……これだけ信用がないと落ち込みたくもなりますよね。
 まあ、大体彼女が悪いんだと思います。

「……お前たち、何故そんな平然と受けいれることができるんだ? 驀進鳥ばくしんちょうは確かに力は弱いが、荷を引いていても馬車より少し遅い程度なんだぞ?」

 何かに納得が言ってない様子のお父さん。ハンナと同じく荷台に乗っているようですが、何が不満なのでしょうか?
 女性陣は一様にして、彼の言葉を理解していない様子です。

「私がおかしいのか? 蛇というのはこれほど速く移動できる生物だったか……?」

 普通についてきているので、大して気にもしていなかったですね。確かに驚くべき速さですが、なんだか今更な気もします。

「お父さん、ジンは普通の蛇じゃないんだよ? 実際、余裕そうについてきてるんだから気にすることじゃないでしょ?」

 オネの言葉に他二名も頷いていますね。父親としての威厳と言うものは、彼に期待することは出来そうにありません。

「そうか……いやいいんだ。私が間違っていたんだろう。……ああ、気にしないでくれ」

 相変わらず、豆腐のような精神ですね。涙はないものの、誰よりも落ち込んでしまいました。

「そういえば、今はどこにむかってるの?」

 父親のことは誰も気にした風はなく、ハンナが話を変えるようにディゼルへと尋ねます。

「それなんだけどね、まずは魔女と黒龍について調べようと思うの」
「私と蛇さんのこと?」

 トログたちの言っていた蔑称ですね。
 雰囲気はなんとなく分かりましたが、確かに不明瞭なままなのはもやもやします。

「どうやって調べるの?」
「少し離れてはいるけれど、世界図書館と呼ばれる場所があってね。その名前の通り、世界の全ての書物があると言われるほど大きな図書館がある場所なのだけど……」

 ハンナは若干落ち込み、オネはとても嫌そうにしていますね。

「オネ、そんな露骨に嫌そうにしてはだめ。あなたももう少し学をつけるべきだと思います」
「いーやーだー。勉強は嫌!」

 なるほど、確かに彼女らしいですね。別に勉強しに行くわけではないと思うのですが。
 ディゼルはハンナの様子にも気付いているみたいですが、話しかけることなく正面に向き直り、続けるようです。

「まあ、その話はまた今度にしましょうか。今回はお勉強ではなく、調べ物。魔女の伝承は多くの本で語られていますし、伝説と謳《うた》われているのですから、黒龍についても分かるでしょう」
「ハンナは白亜の魔女と言われていたんだったな?」

 突然に父親も話に参加してきました。もう立ち直ったのでしょうか?
 ハンナが頷くと、彼女の頭を撫でてあげています。

「すまないな。……魔女の伝承は数えきれないが、白亜の魔女という言葉はあまり聞いた覚えがない。そちらについて見つけられればいいのだが……」
「そうですね。白亜の魔女、伝説の黒龍……本当に、お伽話のようね。あなたたちが本物の魔女と黒龍なのだとしたら、オネは勇者になるのかしら?」

 小さく笑うディゼルの言葉に、オネはきょとんとしていますね。予想外の発言なのでしょう。
 まあ、彼女が勇者だとしたら、世界のことがとても不安になりますが。

「私が勇者……?」
「おねえちゃんが勇者さま? ……だったらうれしいな」

 嬉しそうに笑うハンナにつられて、オネの表情も緩んでいますね。
 そんな二人の様子に、彼女の下で蛇行するジンが不思議そうに首を傾げました。

「ちょっとジン! 首傾げないでって言ったでしょ! ──てなに? 私が勇者じゃ不満なの……?」

 さらに首を傾げるジン。オネは落とされないようにしがみついて「もー!」と怒っています。

「あなたが勇者なら、調べ物の一つや二つ、簡単よね」

 ディゼルの追い討ちにオネは絶望し、本当にジンから落ちるかと思いましたが、なんとか耐えていますね。

「おねえちゃん」

 ハンナの救いの笑顔に、落下しないように耐えながら嬉しそうにしています。

「がんばってね!」

 そのまま落下して行きました。

 まあ、ジンがすかさず砂を作ってくれたおかげで、地面に激突することはなかったのですが、砂の上のオネはそのまま天を仰いでいます。

「読書は……いーやぁー!」

 彼女の絶叫を背景に鳥車と蛇は図書館へと向かっています。
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