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出発
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悲しげに俯くオネとハンナ。
二人の目の前には、二つのお墓とお墓を模した小さな石がありました。
それぞれの墓前には赤い花が添えられています。
「マシュー……ごめんね」
「おねえちゃんは何も悪くないよ」
オネが自分の不甲斐なさに落ち込んでいるようですね。彼女は頑張ったと思うのですが、やはり後悔というものはあるでしょう。
ハンナも慰めるように掠れた声で否定しています。
「私が何もできないから、お兄ちゃんは私をかばって……」
「ハンナ……」
ハンナもまた、同じように涙を見せています。……この二人は、どこか似ているようですね。
そんな様子から首を振ると、涙を拭って小さく微笑みました。
「ごめんね、こんな暗くなっちゃだめだよね。お兄ちゃんに怒られちゃう」
「──そだね!」
ハンナの強い言葉に、オネも同調しました。本当に、どちらがお姉さんなのでしょうか。
彼女も大きく息を吐いて見せると、目の前に作られた小さな石を強く見つめました。
「マシュー、ハンナのことは任せて。絶対に守り抜いて見せるから」
自分の胸の上に手を置き誓うように黙祷を捧げています。
「お兄ちゃん……私は大丈夫だから、心配しないでね」
ハンナもオネに倣い、マシューへの言葉と共に黙祷を捧げました。
二人はしばらくして、顔を上げます。
「それじゃ行こ! おねえちゃん」
「……うん。行こうか」
微笑み合い手を繋ぐと、墓前を後にしました。
「……ねぇハンナ。今更だけど、本当によかったの?」
一番の大通り、オネが大量の冒険者に追われていた道。
手を繋ぎ歩くハンナに、唐突にオネが尋ねました。ハンナの方も驚き、首を傾げています。
「その……私たちと一緒にでることになっちゃって」
どうやら、話がついていたようですね。ハンナは彼女たちの旅に同行するみたいです。
しかし、オネが申し訳なさそうにするのはどう言ったことでしょう?
ハンナは首を振り、優しく微笑み返します。
「大丈夫だよ。それに、私一人じゃ生きていけないから……お兄ちゃんはそんなことのぞんでないよね」
「……そだね」
確かに、目の見えない幼気《いたいけ》な少女一人では、生きていくのは難しいでしょう。……まして、居住にしていた貧民街はあの有様です。
「多分、お父さんもお母さんも、ゆるしてくれると思う。……ううん。ここに残った方がゆるしてくれないと思う」
ハンナの両親……先ほどのお墓がマシューのものだとすればその両隣のお墓はおそらく……あるいは、彼女たちがこの国を出れないと言っていた理由は、そのご両親のためだったのかもしれませんね。
「それよりも、おねえちゃんたちは本当に大丈夫? 私は多分何もできない……きっと、めいわくになっちゃうよ?」
おそらく、視覚障害の少女を連れての旅ともなると、それなりに試練が待っていることでしょう。
だからといって、このオネが、その両親が彼女を見捨てるなど、考えられるはずもありません。
「そんなことは誰も気にしないよ。ハンナを置いていった方が、きっと後悔する」
やはりオネもそのつもりのようですね。彼女に迷いなど感じられません。
困っている人間がいれば、身を呈してでも助ける。それがオネという少女なのです。
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
ハンナの勇気を振り絞った謝辞も、オネは素直に受け入れ返しています。
おそらく、ハンナに気を使わせないためでしょう。そういった気遣いは彼女の美点ですね。
国の入り口となる大門。その様子が見えてくると、オネの両親の姿が見られました。
「二人ともお帰りなさい。マシュー君たちには挨拶できたかしら?」
「はい。ありがとうございます」
深く頭を下げるハンナに、ディゼルは微笑み、彼女の視線に合わせるように屈みました。
「ハンナ。私たちはこれから、家族も同然となるの。家族がお互いを助け合うのは当たり前。……だから、そんなに感謝する必要はないのよ」
頭を下げていたハンナの赤い瞳には涙が溜まっていました。
兄を失った悲しみからか、この家族への感謝の気持ちからなのか……。
しかし、強く閉めたその口元からはどこか、喜んでいる様子が窺えます。
ディゼルの言葉に顔を上げようとしたハンナの頭に、独特な柄でありながら、どこか興味を引かれる模様の布が被さりました。
「ディゼルの言う通りだ。……そして、家族なら尚更、見逃せることじゃない」
父親の言葉にハンナは驚き、それでも笑顔を返します。
「ありがとう」
そんな彼女に、父親も満足げに頷いているのですが、オネとディゼルは腫れたものを見るような目で彼を見つめていました。
「お父さん……もう少し優しく掛けてあげようよ」
「あなた……ハンナは私で面倒みますので、大丈夫です」
二人の視線なら耐えきれず、せっかくの顔も相変わらず歪んでいきますね。
「私が何をしたと言うんだ! 私はただ──」
「冗談だから、泣かないでよ、ね?」
もう既になんの涙かわかりませんが、いつもの彼のようで安心ですね。オネが笑顔になるのもわかる気がします。
ハンナの涙もいつのまにか乾いており、可愛らしい笑顔がもどっていました。
「……それじゃ、出発しましょうか」
ディゼルの言葉に全員が顔を見合わせ、頷きます。
「はーい!」
オネとハンナの元気な声を合図に、四人の新たな旅が始まるのです。
──何か忘れているような?
二人の目の前には、二つのお墓とお墓を模した小さな石がありました。
それぞれの墓前には赤い花が添えられています。
「マシュー……ごめんね」
「おねえちゃんは何も悪くないよ」
オネが自分の不甲斐なさに落ち込んでいるようですね。彼女は頑張ったと思うのですが、やはり後悔というものはあるでしょう。
ハンナも慰めるように掠れた声で否定しています。
「私が何もできないから、お兄ちゃんは私をかばって……」
「ハンナ……」
ハンナもまた、同じように涙を見せています。……この二人は、どこか似ているようですね。
そんな様子から首を振ると、涙を拭って小さく微笑みました。
「ごめんね、こんな暗くなっちゃだめだよね。お兄ちゃんに怒られちゃう」
「──そだね!」
ハンナの強い言葉に、オネも同調しました。本当に、どちらがお姉さんなのでしょうか。
彼女も大きく息を吐いて見せると、目の前に作られた小さな石を強く見つめました。
「マシュー、ハンナのことは任せて。絶対に守り抜いて見せるから」
自分の胸の上に手を置き誓うように黙祷を捧げています。
「お兄ちゃん……私は大丈夫だから、心配しないでね」
ハンナもオネに倣い、マシューへの言葉と共に黙祷を捧げました。
二人はしばらくして、顔を上げます。
「それじゃ行こ! おねえちゃん」
「……うん。行こうか」
微笑み合い手を繋ぐと、墓前を後にしました。
「……ねぇハンナ。今更だけど、本当によかったの?」
一番の大通り、オネが大量の冒険者に追われていた道。
手を繋ぎ歩くハンナに、唐突にオネが尋ねました。ハンナの方も驚き、首を傾げています。
「その……私たちと一緒にでることになっちゃって」
どうやら、話がついていたようですね。ハンナは彼女たちの旅に同行するみたいです。
しかし、オネが申し訳なさそうにするのはどう言ったことでしょう?
ハンナは首を振り、優しく微笑み返します。
「大丈夫だよ。それに、私一人じゃ生きていけないから……お兄ちゃんはそんなことのぞんでないよね」
「……そだね」
確かに、目の見えない幼気《いたいけ》な少女一人では、生きていくのは難しいでしょう。……まして、居住にしていた貧民街はあの有様です。
「多分、お父さんもお母さんも、ゆるしてくれると思う。……ううん。ここに残った方がゆるしてくれないと思う」
ハンナの両親……先ほどのお墓がマシューのものだとすればその両隣のお墓はおそらく……あるいは、彼女たちがこの国を出れないと言っていた理由は、そのご両親のためだったのかもしれませんね。
「それよりも、おねえちゃんたちは本当に大丈夫? 私は多分何もできない……きっと、めいわくになっちゃうよ?」
おそらく、視覚障害の少女を連れての旅ともなると、それなりに試練が待っていることでしょう。
だからといって、このオネが、その両親が彼女を見捨てるなど、考えられるはずもありません。
「そんなことは誰も気にしないよ。ハンナを置いていった方が、きっと後悔する」
やはりオネもそのつもりのようですね。彼女に迷いなど感じられません。
困っている人間がいれば、身を呈してでも助ける。それがオネという少女なのです。
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
ハンナの勇気を振り絞った謝辞も、オネは素直に受け入れ返しています。
おそらく、ハンナに気を使わせないためでしょう。そういった気遣いは彼女の美点ですね。
国の入り口となる大門。その様子が見えてくると、オネの両親の姿が見られました。
「二人ともお帰りなさい。マシュー君たちには挨拶できたかしら?」
「はい。ありがとうございます」
深く頭を下げるハンナに、ディゼルは微笑み、彼女の視線に合わせるように屈みました。
「ハンナ。私たちはこれから、家族も同然となるの。家族がお互いを助け合うのは当たり前。……だから、そんなに感謝する必要はないのよ」
頭を下げていたハンナの赤い瞳には涙が溜まっていました。
兄を失った悲しみからか、この家族への感謝の気持ちからなのか……。
しかし、強く閉めたその口元からはどこか、喜んでいる様子が窺えます。
ディゼルの言葉に顔を上げようとしたハンナの頭に、独特な柄でありながら、どこか興味を引かれる模様の布が被さりました。
「ディゼルの言う通りだ。……そして、家族なら尚更、見逃せることじゃない」
父親の言葉にハンナは驚き、それでも笑顔を返します。
「ありがとう」
そんな彼女に、父親も満足げに頷いているのですが、オネとディゼルは腫れたものを見るような目で彼を見つめていました。
「お父さん……もう少し優しく掛けてあげようよ」
「あなた……ハンナは私で面倒みますので、大丈夫です」
二人の視線なら耐えきれず、せっかくの顔も相変わらず歪んでいきますね。
「私が何をしたと言うんだ! 私はただ──」
「冗談だから、泣かないでよ、ね?」
もう既になんの涙かわかりませんが、いつもの彼のようで安心ですね。オネが笑顔になるのもわかる気がします。
ハンナの涙もいつのまにか乾いており、可愛らしい笑顔がもどっていました。
「……それじゃ、出発しましょうか」
ディゼルの言葉に全員が顔を見合わせ、頷きます。
「はーい!」
オネとハンナの元気な声を合図に、四人の新たな旅が始まるのです。
──何か忘れているような?
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