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第6話 不思議な光
「……だめだ、文字が躍って見える」
午後のお茶の時間。
ジークハルト様はペンを置き、眉間を押さえて深い溜息をついた。書類仕事は順調に進んでいたはずだが、ここ数分、ペンの動きが止まっている。
「体調が悪いのですか?」
「いや、逆だ。……体が温かすぎて眠気が襲ってきている」
彼は少し気まずそうに視線を逸らした。
長年の極度の不眠と緊張状態から解放され、体が急速に休息を求めているらしい。いわゆる「リバウンド」というやつかな。
「少し仮眠を取られたらどうですか? ソファも空いていますし」
「そうだな。……だが、君が離れると眠れない」
「では、私がソファの端に座って本を読んでいますから、反対側で横になってください」
私が提案すると、彼は一瞬考え込んで真剣な顔して言った。
「エルナ、膝を貸してくれ」
「……はい?」
「膝枕だ。それが一番効率よく魔力を抑制できる気がする」
公爵様が膝枕をおねだり!?
使用人が見たら卒倒しそうな光景だが、彼の目は真剣そのものだ。断ればまた「不眠の魔王」に逆戻りしてしまうかもしれない。
私は観念してソファに座り、膝をポンポンと叩いた。
「……どうぞ。私の膝でよろしければ」
ジークハルト様は、少し照れたように頬を染めながらゆっくりと私の膝に頭を預けた。
サラサラとした黒髪が私の太ももに散らばる。至近距離で見上げる彼の瞳がとろりと甘く揺れていた。
「……柔らかいな」
「太っていると言いたいのですか」
「違う、心地いいと言っているんだ。……ああ、本当に落ち着く」
彼は私の腰に手を回し、安心しきった顔で目を閉じた。すぐにスースーという規則正しい寝息が聞こえてくる。
(本当に、子供みたい)
普段の冷徹な表情からは想像もできない、無防備な寝顔。
私はなんとなく、彼のおでこにかかった前髪を指先で払った。
その時だった。
「……ん?」
彼の髪に触れた指先がほんのりと熱を持った。
驚いて見てみると、私の指先と彼の髪の間から淡い金色の光の粒子のようなものが溢れ出している。
その光は優しく、ジークハルト様の体に纏わりついていた「冷たくて重い何か」を溶かしていくように見える。
(これ……私がやってるの?)
私は無意識に、彼の中に渦巻く「冷気」をイメージし、それを外へ吸い出すような感覚で頭を撫でてみた。すると光は強まり、彼の方から流れ込んでくる冷気が、私の手の中で温かな熱に変換されていくのが分かる。
「う……ん……エルナ……」
夢心地の彼が、私の名を呼んで、猫のように頭を擦り付けてきた。苦しそうな顔ではない。今まで見た中で一番、幸せそうな顔だ。
(そっか。私はただの「魔力なし」じゃなくて……彼の余分な力を吸い取ってあげられるんだ)
実家では「無能」と言われたこの体質が、ここでは彼を救う「癒やしの力」になる。
その事実がたまらなく嬉しかった。
「おやすみなさい、ジークハルト様」
私は光を帯びた手で優しく彼の頭を撫で続けた。
この人が安心して眠れるなら、足が痺れるくらいどうってことはない。
窓の外には北国の雪景色が広がっているけれど、この部屋の中だけは、春のような温もりに満ちていた。
午後のお茶の時間。
ジークハルト様はペンを置き、眉間を押さえて深い溜息をついた。書類仕事は順調に進んでいたはずだが、ここ数分、ペンの動きが止まっている。
「体調が悪いのですか?」
「いや、逆だ。……体が温かすぎて眠気が襲ってきている」
彼は少し気まずそうに視線を逸らした。
長年の極度の不眠と緊張状態から解放され、体が急速に休息を求めているらしい。いわゆる「リバウンド」というやつかな。
「少し仮眠を取られたらどうですか? ソファも空いていますし」
「そうだな。……だが、君が離れると眠れない」
「では、私がソファの端に座って本を読んでいますから、反対側で横になってください」
私が提案すると、彼は一瞬考え込んで真剣な顔して言った。
「エルナ、膝を貸してくれ」
「……はい?」
「膝枕だ。それが一番効率よく魔力を抑制できる気がする」
公爵様が膝枕をおねだり!?
使用人が見たら卒倒しそうな光景だが、彼の目は真剣そのものだ。断ればまた「不眠の魔王」に逆戻りしてしまうかもしれない。
私は観念してソファに座り、膝をポンポンと叩いた。
「……どうぞ。私の膝でよろしければ」
ジークハルト様は、少し照れたように頬を染めながらゆっくりと私の膝に頭を預けた。
サラサラとした黒髪が私の太ももに散らばる。至近距離で見上げる彼の瞳がとろりと甘く揺れていた。
「……柔らかいな」
「太っていると言いたいのですか」
「違う、心地いいと言っているんだ。……ああ、本当に落ち着く」
彼は私の腰に手を回し、安心しきった顔で目を閉じた。すぐにスースーという規則正しい寝息が聞こえてくる。
(本当に、子供みたい)
普段の冷徹な表情からは想像もできない、無防備な寝顔。
私はなんとなく、彼のおでこにかかった前髪を指先で払った。
その時だった。
「……ん?」
彼の髪に触れた指先がほんのりと熱を持った。
驚いて見てみると、私の指先と彼の髪の間から淡い金色の光の粒子のようなものが溢れ出している。
その光は優しく、ジークハルト様の体に纏わりついていた「冷たくて重い何か」を溶かしていくように見える。
(これ……私がやってるの?)
私は無意識に、彼の中に渦巻く「冷気」をイメージし、それを外へ吸い出すような感覚で頭を撫でてみた。すると光は強まり、彼の方から流れ込んでくる冷気が、私の手の中で温かな熱に変換されていくのが分かる。
「う……ん……エルナ……」
夢心地の彼が、私の名を呼んで、猫のように頭を擦り付けてきた。苦しそうな顔ではない。今まで見た中で一番、幸せそうな顔だ。
(そっか。私はただの「魔力なし」じゃなくて……彼の余分な力を吸い取ってあげられるんだ)
実家では「無能」と言われたこの体質が、ここでは彼を救う「癒やしの力」になる。
その事実がたまらなく嬉しかった。
「おやすみなさい、ジークハルト様」
私は光を帯びた手で優しく彼の頭を撫で続けた。
この人が安心して眠れるなら、足が痺れるくらいどうってことはない。
窓の外には北国の雪景色が広がっているけれど、この部屋の中だけは、春のような温もりに満ちていた。
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